04.シスター・マグノリアは空を舞う
※嘔吐表現があります
「え、翼、ナルさん、翼、生えた」
突然の出来事に、シスター・マグノリアの処理能力は著しく低下していた。
そんな様子を見て、ナルキソスは堪えきれず笑った。
真っ白な翼でも所々抜け落ちていて、大分見窄らしい。
シスター・マグノリアは、教会前に雪のように舞っていた白い羽根はナルキソスの物と分かり、クロッカスとの戦闘が如何に激しかったかを窺わせた。
「これはルピナス帝国の皇帝の加護で授けられた力で一過性のものだ」
ルピナス帝国は魔術が発達しており、皇帝は膨大な魔力を有する人間が即位する。
そして、その魔力によって特殊能力を有する人間を生み出していると噂で聞いていた。
ルピナス帝国は、魔術が発達し豊富な資源を有する国としか公開されず、いろんな話が噂、都市伝説となってハルス・ビンドウィード大陸に広まっていた。
シスター・マグノリアは、マグオート共和国の大聖堂でシスターとしての教養と退魔師として訓練を受けていた。
その時に、大聖堂を守護する騎士団がルピナス帝国から派遣されていた兵であり、その人たちが酔うと仕切りに言っていた「皇帝の加護が~」と言っていたのはこの事か…。
「では、夜が明ける前に結界を修繕するか」
ナルキソスはシスター・マグノリアをひょいと持ち上げると、そのまま肩に抱き抱えると、呆然としているシスター・マグノリアに「舌を噛むから騒ぐな」と、言うと白い翼を羽ばたかせて、宙を舞った。
ぐらりと、浮遊感にシスター・マグノリアは叫びそうになるがナルキソスの首に必死にしがみついた。
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砕かれたステンドグラスの天井から上空へ羽ばたくと、シスター・マグノリアは持っていたランプを翳すと、虹色に輝く結界に所々穴が開いており、濃紺の星空がはっきり見えていた。
クロッカスの破壊力に溜息しかでず、やはり撃った時に心臓を一撃で狙い、消滅させておけば良かったと後悔した。
穴が開いていた箇所に聖水をかけるとみるみる虹色の輝きが広がっていった。
おおよその修繕が完了すると、ナルキソスは天井に触れると強固な結界に唇から知らず知らずに軽い口笛が漏れる。
「シスターはお若いのに随分強い魔力をお持ちで」
「私は処女で純潔なので高い防御力の結界が生成できるのです」
シスター・マグノリアの大胆発言に、ナルキソスは驚愕で肩に抱えた彼女を落としかけた。
落ちるものかと、シスター・マグノリアはナルキソスの首にしがみついた。
「そそ、そうですよね。シスターはそうですよね」
赤面したナルキソスを横目に見て、シスター・マグノリアは不思議そうな表情を浮かべた。
ナルキソスは、ふと先程のクロッカスとの遭遇時にシスター・マグノリアに背を蹴られ、差し出されたことを思い出して、上空で急旋回し、急降下した。
シスター・マグノリアは、舌を噛まないように叫び声を上げないように努力していたが突然の出来事に年相応の叫び声上げてしまった。
「な、ナルさん!これは……」
「先程、背を蹴られクロッカスに差し出されそうになったことを思い出したので……仕返し」
急降下中にまた、急旋回しシスター・マグノリアは、吐きそうだった。
「ナルさん……」
「どうだ!参ったか!」
真っ青で必死に抱きついていたシスター・マグノリアは、ナルキソスの顔を見上げると逆流してきた胃の内容物をブチ撒けた。
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ナルキソスは、シスター・マグノリアに仕返ししたつもりが返り討ちにあい凹んでいた。
シスター・マグノリアは、地上へ降りると同時に残りを地面に吐き出し、ナルキソスに対して「バカ!」とシスターらしからぬ罵声を上げて、教会内の自室に駆け込んだ。
顔から胸元までシスター・マグノリアの吐瀉物がかかったナルキソスは、井戸で清め服がボロボロのローブしかないことに気が付き、シスター・マグノリアの部屋の前で呼びかけるが「うるさい!」と言われ、会話にならなかった。
仕方が無く、着替えがないか探すがめぼしい物がないため、リネン室にあったシーツと毛布に包まり、リネン室で寝ることにした。
そして、早朝に礼拝の準備のために教会にやって来たアンジュが上半身裸のナルキソスを見つけてしまい、村中に悲鳴が響きわった。