01.シスター・マグノリアは祈りを捧げた
初投稿です……よろしくお願いします。
────むかしむかし、神様はひとりでした。
神様はくらく、ふかい森の中にひとりでした。
さみしくて、かなしい神様には森の中で出会った白い小鳥と黒い大鳥の2羽が友達でした。
さみしい神様は、白い小鳥と黒い大鳥に願いをかけて人間にしました。
神様は2人にフリージアとハイアシンスと名を与え大切に育てましたが、神様の愛を独り占めをしたいハイアシンスは悪魔に唆され、フリージアを殺してしまいました。
神様はハイアシンスに一生鳥籠から出られない呪いをかけ、フリージアの亡骸から、種を作り地上へ落としました。
そして、神様は長い眠りにつきました。
神様は目覚めることはありませんでした。
めでたし、めでたし。
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ハルス・ビンドウィード大陸は、西側にルドベキア王国、東側にルピナス帝国、そして王国と帝国の間にマグオート共和国の3カ国で構成されている。
この3カ国には、大きな違いがあった。
西のルドベキア王国は、豊かな自然に溢れ農業畜産で栄えた国。
東のルピナス帝国は、貴重な鉱山、宝石で富で溢れた国。
お互いにない資源を奪い合うことなく共存をしているのは、中央のマグオート共和国にある大聖堂にて取り仕切る、ある教えが影響している。
──人類、皆は聖母様から生まれ
ハルス・ビンドウィードの民は、聖母様の子であり、兄弟である。
そのため、建国以降は聖母様の教えに則り、争いのない平和であった。
ここは、ルドベキア王国の北東にあるアリストロ村にある教会。
マグオート共和国の大聖堂から赴任して3年目になるシスター・マグノリアは小さく欠伸をした。
天井の聖母様のステンドグラスからは、色とりどりの光が溢れていた。
「聖母様、今日も村の民が幸せであることを」
ステンドグラスに描かれた聖母像に向かって、今日もシスター・マグノリアはお祈りを行う。
齢、18歳のシスター・マグノリアはこの村に唯一ある教会を1人で取り仕切っている。
「シスター!」
慌ただしく教会の戸が開き、元気な声が響く。
アリストロ村の羊飼いの少年グレースがやってきた。
シスター・マグノリアは、祈りをやめると今日も元気なグレースを微笑みながら迎えた。
アリストロ村のシスターとして今では村人に認められ、この教会に仕えているが、赴任したばかりの頃は前任のシスターが40年と長く務めていたため、当時15歳のシスター・マグノリアは村人から余所者扱いされ馴染めなかった。
グレースは当時駆け出しの羊飼いだったが、暇を見つけては教会に足繁く通ってくれた。
時には自宅の畑で採れた野菜を持ってきてくれる心優しい少年だった。
また、よそよそしかった村人と交流のきっかけも作ってくれ、シスター・マグノリアにとって恩人でもあった。
「シスター!今日もトマトが豊作!」
そう言って、真っ赤に熟れたトマトを両手に抱えていた。
シスター・マグノリアは強引に押し付けられたトマトを受け取ると、グレースに対して微笑んだ。
グレースは恥ずかしそうにはにかむと、聖母像に向かい豊作のお礼を捧げた。
「グレース!」
また慌ただしく教会の戸が開き、また元気な声が響く。
グレースの双子の妹であるアンジュは、兄であるグレースの元に駆け寄ると、愛らしい笑顔で「シスター・マグノリア、ごきげんよう」と、令嬢のようにドレスの裾を少し持ち上げて一礼した。
「グレース兄さん、昼休み終わったから羊を小屋に戻すよ!あー!またシスター・マグノリアに形の悪いトマトを大量に持ってきたの!?昨日のあげてたよね?シスターそんなに貰っての食べきれないよ?」
グレースは詰め寄るアンジュを苦笑いしながら宥めている姿が面白く、ついシスター・マグノリアは吹き出してしまった。
「アンジュ、トマトは好物なのでとても嬉しいですわ。グレースをそんなに責めないで」
「シスター・マグノリア!グレース兄さんを甘やかさないで!ダメダメ、調子に乗っちゃう」
ぷくーと頬を膨らませ、アンジュはグレースの手を取り「兄さん、戻るよ!」と言うと、グレースを引きずるように教会を出て行った。
静寂に包まれた教会内で、シスター・マグノリアは手を組むと聖母様に祈りを捧げた。
────今日もアリストロ村が平和でありますように……
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日が落ち、アリストロ村に夜がやって来た。
シスター・マグノリアは、小さなランプを手に教会の周辺を散策していた。
『結界が脆くなっている……』
シスターの仕事は、教会の仕事以外にも村を守るために張られた結界の管理も行っている。
結界は聖母様の加護であり村人達が平和でありますようの願掛け……としている。
シスターの持っているランプを何も無い空間にランプをかざすと薄らと虹色に光った。
このランプは特殊な加工がされており、目視では見えない結界の状態が確認できる。
シスター・マグノリアは、ポケットから小さな小瓶を取り出すと、結界が薄くなっている箇所にかけた。
薄らだった虹色が、より濃くなっていった。
村は静寂と暗闇に包まれていた。
シスター・マグノリアは、この時間が好きだった。
大聖堂でシスターの修業をしていた時は、警護をしていた騎士団のための花街があり、夜でも騒がしかった。
たまに、大聖堂の喧騒が懐かしくはなるが、風で木々の揺れる音が響くこの静寂な時間が心落ち着く。
そろそろ戻ろうと、教会へ向かうと空から白い雪のようなものが降ってきた。
アリストロ村は、温暖な気候のため雪は降らない。
ひらひらと降ってきたものを掴むと、小さな白い羽根だった。
白い羽根が舞う中、教会の前にボロボロの麻袋があった。