表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

6 ダイブ!!

 スカイダイビングというのは案外安全で飛ぶ前にレクチャーを数分聞けば素人でも簡単に空の旅を体験できる物らしい。


 ただそれには経験を積んだプロのダイバーと万全に万全を期した安全装備があってこそだ。


 今の俺?ええ上空遥か彼方から自由落下中ですとも。そこにはプロのダイバーどころかパラシュート一つないけどな!!!


「お、落ちる―!!!」


 俺達巣に残っていた鳥たちは今まさに神様のスパルタ指導の真っ最中だ。ただし失敗したら即死ぬけどね!!ちくしょうふざけるな!!


 第一野生の鳥だって最初から飛べる訳ではないのだ。落ちても大丈夫な所で何度も試行錯誤をしたうえでようやく飛び立てるようになり狩りを出来るようになるには更に時間がかかる。


 それを荒れ狂う風が吹く上空でいきなり飛べなんて無茶にもほどがある。いやそれでもほとんど鳥はほぼ落下に近い状態ながらも空を滑空しようと躍起になっていた。


 だがそもそも飛べない鳥も世の中に入る訳で。


「助けてくれー れー れ……」


 そう断末魔の叫び声を上げながら地面に真っ逆さまに落ちていったのはヒクイドリの姿だった。哀れ密林の中で外敵もなく飛ぶことも無くなった鳥に雲の上で対処なども出来る訳もなくその巨体はすぐに雲の下へと見えなくなっていった。


 それに比べれば状態はマシではある。のだが、それでも横殴りの強烈な気流は容赦なく吹き、安定した態勢をとることが出来ない。


 落ち着け、カラスならかなりの高さまで飛ぶことは可能なんだ。翼を広げ、風を掴み気流に乗る。それこそ何度も見てきた光景じゃないか。


 がその時一層強い風が吹き、体が一気に吹き飛ばされる。その先にあったのは巨大な壁だった。それは恐らく先ほどまで自分達がいた巣を支えていた大木なのだろう。だがその木肌には棘が無数に生えていた。やばいこのままだと串刺しになる!!


【吹き飛ばし】


 無我夢中で放ったのは先程の進化の際に覚えた魔法だった。その風により何とか幹への直撃を免れたが次も上手くいくとは限らない。


 だが今の俺にはパラシュート以上に現状を打破できる武器を持っている。風を掴み大空を飛ぶことが出来る両翼が。


 だいぶ感覚はつかめてきていた。大事なことは風を掴もうとすることではないイメージとしては風を切り前に進む感覚。それにより翼は揚力を得る。


 その風に負けないようにしっかりと体勢を維持し、やがて雲海を抜ける。嵐のような雲の中を抜けた先には穏やかなる空が広がっていた。


「俺、飛んでるのか……」


 それが唯一出た言葉だった。雲を抜けた先は穏やかな風が吹き苦も無く飛ぶことが出来た。それが余りにも拍子抜けで、だけどだんだんと実感を得る。


 今俺はあの絶望の下で憧れた鳥となって大空を飛んでいるのだ。そこに遮るものは何もない。夢にまで見たまでの自由がそこにはあった。眼下にはどこまでも広がっていく大地、その多くは深緑の森であった。終わりの見えないほどに続いて行くその光景はそれはまさに樹海と呼ぶにふさわしい規模だった。


 そして俺の後を追うように続々と鳥たちが雲を抜けてくる。見上げると数十羽の色鮮やかな鳥たちが同じように優雅に飛んでいた。


 真っ先に目に入ったのは全長で3メートルはあろうかという巨大な翼を広げるカンムリワシ、その近くにはハヤブサやイヌワシ、ハクトウワシと猛禽類が勢ぞろいして優雅に穏やかな空を楽しんでいるようだった。


それに比べて飛ぶのに苦戦しているのは小鳥たちだ。それも当然だろう。元々地球ではこんな上空を飛ぶ事のないのだからそれに適した体格をしていない。それに比べ小型の鳥でありながらも渡りをするツバメやガチョウ等は安定した飛行を見せていた。


 だがそこにケツァ―ルの姿はなかった。


  あ、そういえばケツァ―ルって確かそんなに移動範囲広くないはず。ということは……

 

 そして辺りを見渡すと案の定美しい碧色の羽を無様に羽ばたきながらも何一つ抵抗できずに風に吹かれるがまま風に流されているケツァ―ルの姿があった。


「なんで鳥なのに飛べないのよ!!」


 必死に風に乗ろうとしながらも全く上手くいかない不満を垂れ流しながらケツァ―ルは魔力を無理矢理に推進剤としながら飛んでいた。


 ホント、手のかかる奴だなぁ。あのままじゃ周りにも迷惑がかかるぞ、そう思いながらなんとなく見ていたその先に小さな黒点を見つける。


 あれはなんだ?それにその黒点はだんだんと大きくなっているような……


 そう思い至った瞬間予感があった。あれは何かまずいと。


「ハルナ、逃げろ!!」


 そう大声で叫ぶがこの上空では言葉は上手く伝わらなかった。なら手荒だが仕方ない!!


「後で文句言うなよ、


【吹き飛ばし】


「なに!?きゃあ!!」


 その風はケツァ―ルを吹き飛ばす。その風に抗う事などできず飛ばされるがそれでもすぐに抗議はしてきた。


「なにするよ!!」


 ハルナがその言葉を言った瞬間、なにかが彼女のすぐそばを通り過ぎた。それは俺でも知らない鳥の姿。


 それも当然だ、頭に二本の牛のような角を生やした10メートル近い巨鳥など地球にいるはずがないのだから。


 そしてその巨鳥はケツァ―ルの側を通り過ぎた後速度を緩める事なく次の目標に狙いを定める。


「え?」


 その先にいたのは異変に何の反応も出来ずに飛んでいたカモだった。その姿は一瞬でその場から見えなくなる。ただ痛みを叫ぶ声だけがその場に残された。


 だがその声すらもほんの少しだけ聞こえただけでその巨鳥の姿が遠くへと消えていくのと同時に掻き消えた。


「な、なんだよ今のは」


 あれだけの巨体でありながら、その体を見えたのは一瞬だけ。それは異様なまでの速さだった。あんな物どうやっても対抗できるわけがない。


「お、おい。下を見ろ!!」


 誰がその言葉を発したのはわからないが鳥たちは一斉に視線を下へと向ける。そこにあったのは明らかにこちらに向かってきている鳥の群れの姿だった。


「ふ、ふざけるな。こんなのどうやって逃げろっていうんだ」


 まだやっとこさ飛べるようになったランクも低い俺達は美味しそうな獲物にしか見えないだろう。だがそれにしてもあの数は異常だ。まるで黒い塊となってこちらに向かっている鳥たちは百やそこらではないだろう。


その全てが一目散にこちらに向かってきている。それはまるで俺達を世界が拒んでいるかのようだった。


とにかくここにいてはさっきのカモと同じ運命をたどる事になるだろう。この空に遮るものはなにもないのだから。空において逃げる手段など限られている。


「このままじゃ全滅だ。全員で一気に急降下して森に逃げよう!!」


 それが今とることの出来る最善策であるはずだ。少なくとも森に入れば他の鳥とて自由に動くことは出来なくなる。やり過ごすことだって可能だろう。


「あの鳥の群れを突っ切るのですか?」


 そう聞いてきたのはイヌワシだった。その声は理性的に思えた。


「位置はこちらの方が有利だ。今ならまだ間に合う!!」


「無用だ。あのような悪魔相手にそんな事は必要ない」


 そう告げたのは白いハトだった。え、ちょっと待てよ。物騒な事をいうもんだからタカとかワシと思ったが平和の象徴たるハトかい。いやそのどう見ても美味しそうにしか見えない体でどう戦うと?


「なら、どうやってあの数から逃げる気だよ」


「必要ない。悪魔は倒さねばならない。それだけだ」


 その瞬間ハトの周りに白い光が無数に浮かび上がる。それはやがて矢の形をとりその矢先を鳥の群れへと向けた。


【ホーリー・アロー】

 

 その言葉と共に無数の矢が一斉に放たれる。その光り輝く矢の数々は鳥の群れへと放たれ、何羽かの鳥は射抜かれ地面へと落ちていった。


「マジか……」


「なにを驚くことがある。これだけの魔力があれば当然の事だろう。あぁ主よ。これこそが私に与えたもうた試練なのですね。ならば私は全力を以て乗り越えて見せましょう!!」


 そしてハトは颯爽と群れへと向かっていった。しかも来る敵全てを眩しい光を放ちながら撃退している……ハトさん武闘派過ぎだわ。うん近づきたくない。


「これは負けてられねぇな!!だいぶ体に馴染んできた所だ。思いっきり暴れてやるか!!


【エア・ブースト!!】」


 そう荒っぽく声を上げると風を纏い一気に速度を上げてハトに続いたのはハリスホークだった。うわぁ……何倍もデカい鳥を投げ飛ばしてるよ。


 もしかしてこれは進化の影響でめっちゃ強くなってるのか?いやでも俺そんなにスキル増えてないんだけど……というかこれスキルなのか?なんか大道芸みたいな能力しかないぞ。


 だが二羽の姿を見た他の鳥たちも続々と参戦していく。そして穏やかな青空は一瞬にして様々な魔法が飛び交う戦場へと様変わりした。


 ツバメが巨大な氷の柱を作り出し、ハヤブサは砂塵で切り裂く。オウギワシが巨大な竜巻を生み出せば、ハクトウワシはそのかぎ爪のみで屍を築く。


その他の鳥たちもハトと同じようにまるで元々その体であったかのように自在に飛び回り、様々な魔法を生み出していた。


 それでもなお鳥の群れの勢いは衰えることはない。なにかにせかされているかのようにその波は押し寄せ続け何羽かの転生者もその波に飲み込まれていく。


「助け」


 そう最後の言葉を残しながら消えいったのはハクチョウだった。鳥の群れを圧倒しているのはわずか数羽で殆どの転生した鳥たちはただ翻弄されていた。


「ど、どうなってんだよ……」


『解 強大な個体はサポートを利用して魔力を利用した飛行が可能です』


 なんじゃそりゃ?じゃああいつらほとんど魔力で飛んでるのか?それにしたって適応力高すぎだろ?


だが裏を返せば俺にだって可能ってことだ!!


『解 個体ダーククロウは他の転生者と比べ魔力が著しく低下する為あのような飛行は不可能です』


 はい?なんですと?


『解 現状の様に自然飛行を行いながら攻撃のみに魔力を行使することをおススメします』


 ふざけんな!!あの爺、やっぱ差別してんじゃねえか!!


『解 もう一つおススメしますと戦闘態勢をとるべきかと。前方より敵対モンスターが迫っています』


 ああそうかい!!ご忠告ありがとよ!!本当に有能なサポートだな。俺以外には!!


 迫りくる鳥たちに俺が使える魔法は少ない。


 影掴み?地面がないのにどこに影があると?


 吹き飛ばし?相手に傷一つつける事が出来ない魔法がなんの役に立つ?


 それなら残された手段は?なんとも頼りない名前のスキルだがそれに頼るしかない!!


「どうにでもなりやがれ!!」


【鳴きまね ver 鳳凰】


キシャァァァァ!!!


そして俺の喉からカラスの鳴き声とは思えない威圧感を帯びた声が放たれる。その瞬間その場にいた鳥たちは二つの反応を示した。一つはその声に怯え一斉に体が硬直した鳥たち。もう一つはその声に驚きはしたもののすぐさま臨戦態勢に戻った者達。


 前者は襲い掛かって来た鳥たちであり、後者は転生者達だった。全ての鳥の始祖たる鳳凰の鳴き声はその場にいた鳥を怯ませるに十分な威力を持っていたが一度本物の鳴き声を聞いている転生者にはその耐性があり他の鳥にはなかった。


 その差は大きく多くの鳥たちは一斉にその場から逃げ出しその隙を逃さず地球の転生者達が追撃し、その場の戦力の均衡は転生者達の方へと一気に傾いた。


 だがそれ俺が出せた最後の力だった。全身の力が一気に抜けた様に感じる。これはなんだ?


『解 MPを使いきった反動により意識レベルが低下しています。直ちに回復を行って……』


 頭の中に響き渡る声は最後まで聞こえず俺は意識を失い樹海へと落ちていった……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ