2 烏
ガン ガン ガン
再び意識を取り戻したのは何かがぶつかるような音が連続して聞こえたからだった。
その音が聞こえると体が浮き上がるような感覚に襲われる。そのまま目を開けてみるものの世界は真っ暗に閉ざされていた。
あぁ、そうか。夢から覚めたのか。どうやら遂に目まで見えなくなったらしい。
だが一拍おいて違和感を感じる。あれ、身体動くぞ?まるで何か固いものに覆われているように感じるだけで身体自体は動くことが出来るのだ。だがその代わりものすごい窮屈で少ししか動けない。
夢の中ぐらい自由に体動かせてくれよ。そう思った瞬間世界は再び回転し、その衝撃で暗闇の一部分にひびが入り世界に光が差した。
「うぎゃ」
だがおれは天と地が逆転すると同時に頭に強い衝撃が伝わり変な声を出していた。だから光に気付いたのは強烈な痛みに涙目になった後。
その光はまるで亀裂の様に暗闇を切り裂いていた。今わかる事はギリギリ体が入るぐらいの大きさのナニカに閉じ込められているという事。そして先ほどまで見ていた爺さんとの夢の内容を思い出す。俺があの爺さんに願った事を。そして俺は一つの仮定へとたどり着いた。
「まさか……俺卵の中にいるのか?」
そんなあまりにも馬鹿げた予想であったがそれ以上に胸騒ぎがどんどんと強まっていく。このままここにいたらいけないと。
「ちくしょう、一体何だってんだ!!」
そう悪態をつきながらも本能に従うまま亀裂が入った所を手でこじ開けようとするが手は思うように動かない。唯一動きそうなのは……
「あぁもうどうにでもなれ!!」
そう叫びながらまだ自由が利く頭を目の前の見えない壁にぶつける。頭突きをするごとに亀裂は大きくなるがその間にも世界は回転し続け胸騒ぎは大きくなる。
そして何回か繰り返すうちに自身の顔の変化にようやく気付いた。
「なんか、顔長くね?」
それは亀裂から差し込んだ光にようやく少しだけ視力を取り戻したから気付けたことだった。なにか自分の顔の先に黒い尖ったなにかが見える。というかこれは……
「嘴?」
それは多くの鳥を見てきて何度も目にした物だった。だが自身にそれが生えていたことはないのだけども。
「まさか……あの爺が言ってたことは本当なのか?」
そしてもしそれが事実なのだとしたら、卵が動いていることが示すことは……
「やべえ、落ちて死ぬ!!!」
卵が巣から落ちるという事はそのまま死を示すことは明らか。だからこそ死に物狂いで殻をくちばしで叩き付けた。そして
「おらぁ!!!」
渾身の力で殻をつつき、遂に闇を切り裂き卵から這い出た。転がり落ちるように殻を破り孵化した勢いは巣の先端に作られていた柔らかい枝の段差によってなんとか止まった。
「痛てて、頭ガンガンするし……でも俺、まだ生きてるのか?」
そうつぶやくと同時に自分の視界の違和感に気付く。なんかほぼ360度全部見ることが出来るんですけど……
見えないのは真正面と真後ろの一部のみ、それ以外は全部見渡せる。なんだこれ今までの感覚と違い過ぎて気持ち悪い。やべぇちょっと吐きそう。
そう思って手を上げたつもりだったのだが手は口元まで届かない。というか明らかに手ではない黒い小さな翼の様な物が視界に入ってきた気がするんだが……
黒い嘴に黒い羽、そんな鳥で真っ先に思い浮かぶのはあの鳥しかいない。
「俺、まさか、烏になってる!?」
それが俺がこの世界に生まれ出て初めて叫んだ言葉だった。