1人じゃない
友達も自分の自由も奪われた遥。誰も信じてくれない現実。学校へ行くのが憂鬱だ。
「寂しいよ・・・」
ポツリ呟く。でも誰も聞いてくれない。
あれは本当なんだ。私と圭は一緒に図書委員に入ったんだ。あの日一緒に仕事をしたのは鮮明に覚えている。この本運んでてねって圭が言って運んでいる途中で柚希とあったんだ。彼女も確かに聞いてくれた。「また今度」って・・・。
なのに昨日、酷い言葉を投げられた。
「誰がお前の友達だ!」
最後まで違うと言う事を繋ぐ事が出来なかった。自分って弱い。弱くて弱くて意見をすぐ言えなくて。何でここまで弱いのだろう。
憎い―
アイツが憎い。柚希が憎い。
人を傷つけてなにがたにしいのだろうか。
でも・・・どうでもいい。
悔し過ぎて涙も出ない。
今度はお前から奪ってやる。全部全部!
「絶対負けないから」
「はい。これもってくれる?あと教科書理科室に運んどいて、みんなの分もね。それと買いだし行ってきて。サボったらただじゃ済まないから。」
「う・・うん」
前が見えない。山積みになった教科書を落とさないように持っているが落ちそうになってしまう。
そのとき何かの感触を感じた。
ドンッ
「あっ」
前が見えないため何かに当たった。
ドサッバサバサー
教科書が散乱する。
前に人が倒れている。
「あっごめん!怪我ない?大丈夫?」
「いったーい!うん。怪我はしてないよ。」
散らばった教科書に気づき、彼女は教科書を拾っている。
「あ・・・いいよ拾わなくて。私が拾うから。」
彼女は教科書を拾いながら
「いいんだよぶつかってきたほうが悪いから。はい全部拾ったよ。持ってくの手伝おうか?」
「ありがとう。でもいいよ。」
「いいの?」
「うん。」
手伝ってくれる事だけが嬉しくて嬉し涙を流しているのを見られたくないから断った。今日はじめて笑顔になれた瞬間。嬉しくて嬉しくて。嬉しいしか言葉が出ないよ。
全校生徒は遥が苛められている件について知られていない様子でみんないつもどおり遥に接している。
これ以上広まって欲しくないな。
そう思っていた。しかし広まるかもしれない。
アイツのせいで。
自分から言うのが苦手な遥は広まらない事を祈るしか出来ない。こんな自分が嫌いだ。嫌だ。もっと強くなりたいのに。逆らう事が出来ないといけないのに。
苛められると急に心細くなって、急に萎れてしまって急に折れてしまって弱くなるんだ。
もっともっと強くなりたいのに
それが出来ないんだ。
「はぁ・・・」
ため息をついてふと外を見る。
雲がゆっくりと流れ暢気下を眺めている。
どうしてお前はそんなに陽気なんだ?
ゆっくりとゆっくりと進み下を見てなにを思っているのだろうか。
「・・・雲も何を考えてるの・・・?私も何考えてるのかな。」
いいんだよね。何も考えなくて空を見上げても。いいよね。
暫く空を見た。何も考えずにただボーっと。
「私も・・・そっちにいっていいかな・・・」
フラッと立つ。そしてベランダのドアを開ける。
空を見上げながらベランダの棒に手を置く。
優しい風がふぅっと髪を撫でるように吹く。
「私も雲みたいになりたいんだ。だからそっちにいかせて・・・」
手すりを乗り越え、雲に手を伸ばす。
「私を・・・連れてって・・・」
一瞬体が浮いた。え・・・?
「危ない!」
ガシッ
誰かに手を掴まれた。
誰?
「あぶなかったぁってあれ?梅宮じゃん。どうしたんだよお前〜あぶねぇぞ?」
「あ・・・え・・」
吃驚して言葉が出ない。
なんで?どうして私を助けたの?
「あれ・・・愁くん。」
「ん。何だ?お前・・・まさか!」
まさか
そうだよ・・・・私は空へ行きたかったんだよ。
そういったら絶対嫌に思われる。
「空飛ぼうとしてたな?いっつも空飛びたいっていってたもんな。」
「え・・・いや・・・・その」
「でもあぶねぇから止めた方がいいんじゃね?その夢は取り合えず諦めろよ!」
相変わらず天然だなぁ。
でも天然でよかったのかもしれないよね。まさか自殺したいなんて死んでも言えないから。
「そろそろ授業始まるぞ。急げー!」
「あ・・・うん!」
また笑えた。今日は二回も笑う事が出来た。
いつまでも笑っていたい。
笑っていることが一番いいのかもしれない。
雲に隠れていた太陽が暖かな日差しで遥を照らした。
1人だと思っていても1人ではありません。
君を見てくれてる人がたくさんいるよ。