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フェバル保管庫2  作者: レスト
剣と魔法の町『サークリス』 後編
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間話8「マスター・メギル、首都に手を下す」

 エデル王宮殿。トール・ギエフは一人、無人の王の間にて立派な玉座に座り、ほくそ笑んでいた。

 ようやく、彼の半生をかけた念願が叶ったのである。圧倒的な力を世界に誇示し、自らが世界の支配者となるときがついにやって来たのだ。

 そんな彼にとって、余計な部下はもはや邪魔であった。偉大なる叡智を冠するのは、自分一人だけで良いと彼は思っていた。だからこそ、彼は容赦なく部下を始末したのである。

 ただ一人、例外はクラム・セレンバーグという男であった。

 自分が非力であることは、彼自身が一番良くわかっていた。バリアも張られ、守りも万全なこの国に、まさか侵入出来る者はいないだろうが、万が一の事態のためにと、自分一人だけで良いという信念を多少曲げてまで、切り札だけは手元に残しておいたのだった。

 その彼はつい先ほど、王立図書館に向かって行った。さらなる力を求めて。

 結構なことだ、とトールは思った。彼がより完璧な強さを手に入れてくれるなら、これほど心強いことはない。

 いずれ落ち着いたら、自分もさらなる叡智を求めてそこへ通うことにしようと、読む本が尽きない楽しい将来を思い描いて、トールは満足気に頷いた。


 だが、まず今はやるべきことがあった。目と鼻の先にある目障りな町は、数々の魔導兵器を試運用しつつ、直接兵力で叩き潰し、その様を眺めて楽しむとして。

 これまでずっと様子を伺いながらこそこそするしかなかったが、そんな日々もついに終わりだ。エデルの力をもってすれば、彼にとって最も厄介な勢力であった首都ですら、簡単に滅することが出来る。


 エデルが復活してから、丸一日が過ぎようとしていた。トール・ギエフは、サークリスを攻める兵力の準備を行いつつ、ある兵器の使用準備を進めていた。

 チャージには一日もの時間を要するが、何度でも使用可能な超魔導兵器。その威力は、町一つでさえ跡形もなく消し飛ばす。


 魔導砲《ヴァナトール》。


 偶然にも自分の名前を冠するこの兵器を、彼は非常に気に入っていた。

 とうとう自らの権限でこいつを自由に使えるときがやってきたことに、至上の喜びを感じながら、彼は発射準備が整ったことを知らせる独特なブザー音を聞き取った。

 発射スイッチは、玉座の右側の肘掛けにある蓋を外すと、誤って簡単に押さないように、透明な材質で出来た硬いカバーに覆われた状態で付いている。

 あとは撃つだけなのだが、その前に。

 彼は玉座の左側の肘掛けに付いている蓋を外し、水晶モニターのスイッチを入れた。玉座の間上部にある巨大な水晶球が光る。それは彼の望むままの景色を映し出してくれた。

 今、水晶球は、浮島の下部に備え付けられた主砲の姿を、闇夜の中でも鮮明に描いていた。

 白銀の滑らかなメタリックフォルムの先端に、大きく開いた砲口。芸術的美と実用的美を兼ね備えたデザインを目の当たりにし、彼は人前では決して見せることのない、うっとりとした表情を浮かべた。

 いよいよこいつを使うときが来た。

 彼は子供のように心を躍らせながら、右側の蓋を外して拳を振り下ろす。その勢いでカバーを割り、そのまま叩きつけるようにスイッチを押した。


 砲口に、濃厚なエメラルドグリーンの光が急速に集まっていく。

 高度に凝縮された純粋な魔素は、空の色と同じ輝きを示す。かつて彼が読んだ文献に記されていた、まさにそのままの事実が、今眼前のモニターにありありと映っていた。

 標的は首都ダンダーマ。住人共は苦しむことなく、一瞬で息絶えるだろう。その分、もがき苦しんで死ぬサークリスの連中よりは幸せかもしれないな。そんなことを思いながら、彼は邪悪に口元を歪めた。

 間もなく、それは放たれた。

 空駆ける眩い光が、闇夜を貫く。光線は遥か遠く、首都ダンダーマの方角へ真っ直ぐに飛んでいき、そして――地平線の彼方に、濃緑色のキノコ雲を作った。

 それは夜の闇を一瞬で塗りつぶし、昼に変えてしまうかと思われるような強烈な光を伴っていた。地の果てまで届く轟音が、その威力の凄まじさを克明に物語っていた。

 やがて静寂が戻り、キノコ雲も掻き消える。後には何も残らなかった。

 まるで地図からマークを消すかのようにあっけなく、それは達成された。

 首都ダンダーマは、滅びた。

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