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フェバル保管庫2  作者: レスト
剣と魔法の町『サークリス』 後編
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51「二つのロスト・マジック 時空魔法と光魔法」

 まずは男になって、全員の怪我の治療に当たることにした。先生は自分の怪我を治すので手一杯だったので、俺がほぼ全部やることになった。先生に比べるとまだ随分と下手で時間がかかったけど、どうにか目立った傷跡を残さないように治療することが出来た。


 カルラ先輩は、自らが仮面の女として活動していた理由を全員に話し、深く詫びると共に自首することを誓った。

 ミリアはやっぱりかなり事情がわかっていたようで、自分にしたことに対してはあっさりと許していた。

 アーガスはずっと険しい顔をして彼女の話を聞いていたが、最後に「全く理解出来ないというわけではない。ただ絶対に許されることではないし、オレは一生許す気はない」とだけ言った。

 彼女はそれを慎んで受け止めていた。まあ俺やアリスやミリアが甘いだけというのはわかっている。彼女のやってしまったことは、世間的には決して許されることではないのだから、こういう厳しい言葉もあってしかるべきだろう。


 仮面の集団の生き残りは、カルラ先輩に身元の裏を取ってもらった後、一旦拘束することになった。彼らは命が助かっただけでもありがたいと思っているようで、抵抗せず大人しく従ってくれた。

 カルラ先輩自身については、彼女の良心を信じ、あえて拘束はしなかった。代わりに、サークリスを間もなく襲うであろう未曾有の危機に対して、ひとまず力を合わせてもらうことになった。

 彼女は女子寮で取りまとめ役を務めているだけあって、学校ではかなり顔が効いた。そのコネを使って、学校の後輩たちに協力を呼びかけてくれることになった。

 さらには、仮面の集団筆頭幹部としての裏の顔も使って、他に残っている集団の構成員たちに話を付けて味方に引き入れることも約束してくれた。

 敵のときは恐ろしかったけど、味方に付けばこれほど頼もしい人も中々いない。


 それから、六人で情報交換及び作戦会議を行った。

 まず俺から、トール・ギエフが自身がべらべら語ってくれた奴の野望について話した。

 空中都市エデルの復活と世界支配。サークリスを滅ぼそうとしていること。反応は様々だったが、総じて奴は許せない、この町は守るという点で一致した。

 アーガスからは、仮面の集団についての詳しい話が聞けた。クラム・セレンバーグとトール・ギエフの詳細な経歴などがわかった。

 あまりの詳しさに、カルラ先輩も「よくそこまで調べたわね」と舌を巻いていた。「だから消されたんだがな」と彼は怒りを滲ませながら、自嘲気味に締めくくった。

 そして今回、まさに命を張って値千金の重要な情報を得たのが、他ならぬイネア先生だった。


「クラム・セレンバーグ。奴の持っている能力の正体がわかった」

「本当ですか!?」

「なに!? ぜひ教えてくれ!」


 身をもって彼の恐ろしさを体験していた俺とアーガスは、思わず身を乗り出していた。


「まあ落ち着け」


 先生は俺たちを制してから、言った。


「時間操作魔法だ。奴は時間停止と時間消去が出来る」

「時間停止と、時間消去だって!?」

「なんだと!? そんなことが出来るのか!?」


 ゲームや漫画で一応見たことはあるけど、まさか本当にそんな真似が出来る奴がいるなんて……!

 だけど、それなら辻褄が合う。全く認識出来ない一瞬で動いたことも、ナイフがすり抜けるように彼を通過していったのも!

 時間停止にしろ時間消去にしろ、使う瞬間は一切認識出来ないはずだ。それを見抜いた先生は、やっぱり凄いと思った。と同時に、自分たちが戦おうとしている敵の強大さを改めて思い知る。

 そんなの、一体どうやって勝てばいいんだ?

 驚愕する俺たちをよそに、先生は続けた。それは先生の恐るべき観察眼を示す内容だった。


「効果時間は約2.1秒。これは時間停止でも消去でも一緒だ。時間停止の場合、停止中に奴が動ける射程は約十一メートルだ。時間停止中に有利なはずの飛び攻撃を一切しなかったところから判断するに、停止中には奴自身と奴が所持しているものしか動けないと見て良いだろう」


 鳥肌が立った。たった一度の戦いでそこまで読み取るなんて。俺じゃ絶対にここまではわからなかった。


「一度使用した後には、数秒のインターバルが要るらしい。ただし、日に一度だけだが、間を置かず二回連続で使用出来るそうだ。私はそれで虚を突かれ、やられてしまった。まあその場合の二度目は、効果時間がより短いようだがな。現に、最接近していた私に奴の攻撃が届く直前に、時間停止の効果が切れてしまった。それで咄嗟に身を引いたから、致命傷にはならなかったのだ」


 俺は感心のあまり、目を丸くしていた。ほぼ能力が丸裸じゃないか。一体どれだけの経験を積めば、ここまでのレベルに達することが出来るのだろうか。

 とそこで、アーガスが舌打ちした。


「道理で手も足も出なかったわけだ。時を止められちゃ、どっちも出しようがないんだからな。だがタネがわかってしまえば、対抗策は練れる。恩に着るぜ」

「ああ。言った通り、奴は時間を操る。奴を中心にして、半径約十一メートルもの即死領域が存在するのだ。接近しなければ威力が発揮出来ない気剣術が主体の私では、絶望的に相性が悪かった。残念ながら、私では奴に勝てない」


 それは、「超人」である先生が、俺の目の前で初めて自らの限界を明確に認めた瞬間だった。

 つまり、それほどの相手だったのだ。能力を丸裸にしてしまうほど、おそらく良い勝負をしておきながら、相性の悪さゆえに勝てなかった無念はどれほどだろうか。


「だから、魔法が使えるお前たちの力で、どうにか奴を倒して欲しいのだ。どんな困難を前にしても挫けなかったお前たちなら、きっとやれると信じている」


 その想いと奴を倒すという課題は今、先生の期待と共に俺たちに託された。

 クラム・セレンバーグ。奴は強大だけれども、俺たちで勝たなくてはいけない。どうにかして攻略法を見つけるんだ。

 俺は力強く返事をした。


「はい! やってみせます!」


 イネア先生は、満足気に頷いた。


「うむ。その意気だ」


 横をちらりと見ると、アーガスが難しい顔をして首を捻っていた。


「しっかし。聞いたこともないぞ。時間を操る魔法なんてよ。そんなものあったか?」

「へえ。アーガスでも知らない魔法があるんだね」

「オレだって何でも知ってるわけじゃねえよ」


 そこに、意外なようで意外でない人物が名乗りを上げた。実はロスト・マジックに造詣が深いミリアだった。


「たった一つだけ。今の説明に該当する魔法がありました」

「ほんと?」

「マジか」


 彼女はしっかりと頷いて、続けた。


「時空の超上位魔法《クロルウィルム》。時を支配すると言われる、あらゆる時空魔法の中でも最強と謳われていたロスト・マジックの一つです」

「何かわかることはある?」


 俺の問いかけに対し、彼女はまたも頼もしく頷いた。


「はい。時間消去についてはどうしようもありませんが、時間停止に対しては完全ではありませんが、一応の対処法があります。皆さんも良く知ってる魔法ですよ」


 彼女はお得意のいたずらっぽい笑みを浮かべた。


「えー? なんだろ」

「わかんないなあ」


 本当に思い浮かばなかった。アリスも俺と一緒になって首を傾げている。


「おい。勿体ぶらずに教えてくれよ」


 アーガスが急かすと、ミリアはちょっぴり得意な顔で答えを言ってくれた。


「光魔法《アールカンバー》です」

「え? あれって視界が悪いときに見通しを良くする魔法じゃないの?」


 アリスの疑問ももっともだった。俺だってそんな魔法だという認識だ。

 とは言え、ミリアの家には代々光魔法が伝わっているから、それについての詳しさで右に出る者はこの場にいない。彼女は丁寧な口ぶりで説明してくれた。


「前に話したことありませんでしたか? 一般に、光魔法の対とされているのは闇魔法ですが、実は闇魔法というのは光魔法の亜種であって、本当に対となっているのは時空魔法だって。どちらもどういうわけか、ロスト・マジックとして対照的な複雑さを持っているのです。ゆえに、ロスト・マジックの二大系統とされてきたんですよ」

「いや、そこまでは聞いたことなかったな。闇が光の亜種に過ぎないってのは聞いたけど」


 こっちの世界で言えば驚くべきことなのかもしれないけど、地球人なら常識だ。闇とは光がない状態に過ぎないのだから。

 そうか。光魔法の対は時空魔法なのか。

 そう言えば最初の授業のとき、なんで時空魔法に比べたら簡単そうな光魔法がロスト・マジックなんだろうとか思ったことがあったっけ。

 へえ。似ているのか。だから難しいと。

 ん!? 似てる?

 そこで引っかかることがあった。

 待てよ。そんな話、どっかで聞いたことがあるぞ。

 ああ! 光の対が時空だって!? まさか!


「《アールカンバー》を使えば、たとえ時間停止中に動くことは出来ずとも、使用者の動きは見えるはずです。それだけでも結構違うんじゃないでしょうか」

「違うどころの問題じゃない! 大違いだぜ!」


 アーガスが目を輝かせた。俺も思う。認識すら出来ないのと、認識だけでも出来るのでは大違いだ。

 だが、それも重大なことには違いないんだけど、それよりも気付いたことがあって、言わずにはいられなかった。


「わかった気がする。どうして光魔法の対が時空魔法なのか」

「本当ですか?」


 興味ありげに尋ねてきたミリアに対し、俺は頭の中でアイデアを整理しながら答えた。

 

「相対性理論だ」

「ソウタイセイ理論?」


 間違いない。これしか理由は考えられなかった。もしこの世界でもこの法則が成り立つとするなら、ここにこそ時空魔法を打ち破るヒントがあるはずだ。


「地球の偉い学者が言ってることなんだけどね。光と時空には、切っても切り離せない密接な関係があるんだ。光の速さというものを絶対基準に、時間という概念は観測者によって相対的に決まるものだという理論のことを相対性理論と言うんだよ」

「ユウって時々、ほんとわからないことを言うよね」

「はあ。それはまた初耳ですね」


 こういう地球産の小難しいことを話すと、アリスはさっぱりといった様子で早々に降参し、ミリアはやや疑いながらも興味を示すのが定番の反応だった。


「興味深いな! 後で聞かs」

「オッケーわかった」


 そしていつものように興味津々の様子で、後で詳しく聞かせろとのたまうアーガスの口を途中で封じると、俺は今回の話で大事そうなところだけを切り取って説明した。


「まあ難しい理屈を抜きにして言うと、ある物体が光速に近づいていくと、その物体に流れる時間は周りに比べて次第に遅くなっていくんだ。そして、ついに物体が光速に達したとき、理論上時間は停止する」

「時間停止! それって!」


 理想的な反応を示したアリスに、俺は力強く頷いた。


「そう。時間操作魔法の効果の一つだ。光速すなわち時間停止。つまり、時間に唯一対抗出来るものがあるとするなら、それは光だ」


 そして、ここからは地球の物理理論を超えた魔法の世界の話。この世界の魔法でも、光と時空に一定の相関があるとするなら。理屈じゃないけど、何となくとある予感があった。


「それで、これは単なる予想なんだけど。もしかして、強力な光攻撃魔法なら、停止した時間や消し飛ばされた時間の中でも届くんじゃないか?」


 他の人は何も答えられず押し黙っていたが、ミリアだけははっきりと同意してくれた。


「確かに、一部の光魔法には、時空魔法に対して特効があると言われています」

「ほら、やっぱり!」


 だが、彼女の表情は浮かないものだった。


「ですが、それも時間遅延までです。時間停止や消去にまで対抗出来る魔法となると……」


 そうか……。まいったな。

 光弾の中位魔法《アールリット》や上位魔法《アールリオン》では、おそらくダメなんだろう。ただ、それのさらに上となると、さすがに聞いたことがないけど。


「あ!」


 ミリアが、突然思い付いたように声を上げた。


「どうした?」

「そう言えば、家に一つだけありました。時を貫くと伝説に記された魔法です。確か恐ろしく発動が難しくて、我が家の歴史上誰一人習得出来なかったものですが――ユウ。あなたなら、もしかしたら覚えられるかもしれません」

「それはどういうものなんだ?」


 ミリアはごくりと唾を飲むと、その魔法の名を告げた。


「時を貫く光の矢。光矢の超上位魔法《アールリバイン》」

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