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フェバル保管庫2  作者: レスト
剣と魔法の町『サークリス』 後編
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48「仮面の女の目的」

 カルラさんは、自らが仮面の女となった動機と過去を話し始めた。


「わたしは死ぬつもりだった」


 ショッキングな語り出しだった。けどケティさんによれば、カルラさんは以前自殺未遂をしたことがあるって話だったわ。だからあまり動揺はしなかった。


「最愛の彼を失ったあの日、わたしの人生は終わったの。もうこの世には何の希望もない。死ねば一緒になれる。そう思った」


 そこまで深刻に思い詰めていたなんて。よほど彼のことを愛していたのね。

 

「全てに絶望していたそんなとき、救いの手を差し伸べてくれたのがマスターよ。彼は言ってくれたわ。失われし魔法大国エデルには、死者と対話が出来る魔法があると。エデル復活に協力したならば、わたしにそれを与えようと」

「そんなものが……」


 驚きだったわ。エデルにはそんなものまであるというの!?

 そしてとうとう仮面の集団の目的がわかった。

 エデルの復活。それこそが、彼らの真の狙いだったのね!


「亡くなった彼にもう一度会いたい。その日から、ただそれだけを求めて生きてきた。わたしは仮面を被り、エデル復活のために心血を注いだ。そのためなら、どんな犠牲をも厭わなかった」


 悲しげな目を浮かべるカルラさんに、あたしは何も言うことが出来なかった。


「後輩の勧誘と素性調査。それだけのためにあなたたちには近づいたわ。親しみやすい先輩というキャラを演じてね」


 あたしは微笑んだ。


「それはさすがに嘘ですよ。ほんとはあっちの方が素ですよね」


 カルラさんは自嘲気味に口の端を歪めた。


「あのわたしは三年前に死んだのよ。もうどこにも居はしないわ」

「そんなことないですよ。ちゃんとここにいます」


 カルラさんの目をしっかり見てそう言うと、彼女はもう否定しなかった。


「そうね……」


 そこで言葉が少し途切れた。あたしを見つめていたカルラさんは、少しの間目を瞑った。そして再び目を開けたとき、そこからキラキラと涙が零れ落ち始めた。


「楽しそうなあなたたちを見ているうちにね。わからなくなった。わたしのやっていることは、本当にこれでいいのか。あのとき空っぽだったわたしは今、あなたたち後輩と触れ合うことにも新しい生きがいを感じ始めてるのかもしれないって。そのことを自覚してしまったとき、手を血に染めてまで亡き彼を求めるのは間違いではないかと思い始めちゃったの。それまで何とも思えなかったのにね……」

「カルラさん……」


 なんて声をかけたらいいのかわからなくて。あたしはただカルラさんの言葉を真摯に受け止めた。

 カルラさんは、袖で涙を拭うと続けた。


「でもね。もう後戻りは出来なかった。わたしは何としてもまた彼に会いたかった。その気持ちは嘘偽りのない真実よ。それにここでやめてしまえば、今までしてきたことも数多くの犠牲も全て無駄になる」


 そう言ったカルラさんは、暗く苦い表情をしていた。

 既に殺めてしまった命が自らを縛り、さらに罪へと走ってしまう悪循環。間違ってはいるけれど、それが彼女なりの責任の果たし方だったのかもしれない。

 そんなカルラさんの気持ちもわからなくはなかった。もちろん、だからと言って悪事を許すことは出来ないわ。けれど、彼女に自然と憐れみの目が向いていた。


「けど、一度狂った歯車は元に戻らなかったようね。あなたたちはわたしをすっかり狂わせてしまった。あなたたちさえいなければ。そう思って手を下そうと決意したのに、結局殺すことは出来なかった。気付けば、わたしはこんなにも弱くなってしまったのね……」


 力なく項垂れるカルラさんに、あたしは努めて優しく言った。


「カルラさんが元に戻っただけですよ。そもそも始めから、こんなことには向いてなかったんです。無理だったんですよ」


 カルラさんは、はっとしたように目を見開いた。それから小さく肩を震わせて、ぽつりぽつりと、抑えていた感情を絞り出すように呟いた。


「ええ。そうね。バカみたい。そんなこと、最初からわかってたはずなのに……!」


 カルラさんは、再び大粒の涙を流した。今度こそ、心の全てを洗い流すように。


「ごめんなさい。エイク。ごめんなさい。みんな……!」


 彼女が仮面の女であることをやめ、あたしたちの先輩に戻った瞬間だった。



 いくら手を尽くしても解けなかったミリアの石化は、魔法をかけた本人の自主的な協力によってあっさりと解除された。


「石化解除っと。ミリアなら、これで元に戻ったはずよ」


 あたしが与えたダメージが大きくてまだ動けないことを除けば、もうすっかり先輩の調子に戻っていたカルラさんが、事もなげにそう言った。


「本当ですか!?」

「ええ。あの子には悪いことしたわね」

「きっと謝ったら許してくれますよ。彼女が一番事情わかってたと思いますから」


 カルラさんは、参ったように苦笑いした。


「あの子にはびびったわ。全部ズバズバ言い当てるんだもの」

「あはは。ユウもそれでかなり正体追い詰められてましたからね」


 ユウの名前を聞いたカルラさんは、途端にばつの悪そうな顔をした。


「あー……あっちはあっちで、悪いことしたわね」

「何したんですか?」

「何って……まあナニよ。さすがに見かねたから、途中で止めたんだけどね」


 気になったあたしは追及したけど、そこははぐらかされてしまった。なんかまずいことでもしたのかしら。


 不意に、聞き慣れた高めの男の声が、遠くから聞こえてきた。


「アリスーー! 無事かーーー!」


 あたしたちは、天地がひっくり返りそうな勢いで驚いた。だって、救出しようとしていたはずの当の本人が、こっちに走って向かってくるんだもの。


「え、ユウ!?」

「まさか!? あれから一体どうやって抜け出したの!?」

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