2「ユウ、アリスと友達になる」
再び目が覚めたとき、私は温かいベッドに横たわっていた。
私は、助かったのか。
女の子に水をもらった記憶がかすかにあった。
体を起こすと、服が変わっていることに気がついた。それまで着ていた男物のジーンズと破れたシャツではなく、上下とも女物の白い寝間着になっている。
誰かが着替えさせてくれたのだろうか。
それにしても、私が女物を着ることになるなんて。今は女なんだから、それを着させられるのは当然と言えば当然なんだけど、何だか変な気分だ。
起き上がろうとしたが、体がふらついて上手く立てない。ずっと何も食べていないのだから無理はないかと思い、大人しくベッドに座り直した。
ふかふかとした温かいベッド。この部屋。何より私を助けてくれた、あの茶色がかった赤髪の女の子の存在。そこから到達する自明の事実。
そいつを実感するにつれて、じわじわと喜びが込み上げてくる。
この星には、私と同じような人間がいるんだ!
私は、独りじゃなかった。
よかった……本当によかった……
心配だったんだ。誰もいなかったらどうしようって。いたとしても、自分と全然違っていたらどうしようって。
つい、じ~んときてしまい、ぎゅっと目を瞑りながら喜びをしばらく噛み締めていた。このところ、何かと感傷的になっているような気がするなと思いながら。
やがて少しは落ち着いてみると、気になる点があることに気付いた。
それは、あの女の子の言葉がなぜかわかったことだった。意識が朦朧とはしていたけど、彼女が話す言葉が勝手に翻訳されて日本語で聞こえてきたし、私が話した言葉も普通に通じていたらしいことは覚えている。
能力を授かったときにこんな便利能力に目覚めたということだろうか。一体、どうなってるんだろうな。
そのとき、奥のドアが開いた。
やってきたのは、私を助けてくれた彼女だった。彼女は意識を取り戻した私を見るなり、本当に嬉しそうな顔をしてすっ飛んできた。
「よかった! 気がついたのね!」
無事に目を覚ました私の顔を見つめ、それから全身をまじまじと見回してくる。何だか視線がくすぐったい。ひとしきり眺めると安心したのか、彼女はほっとしたように一つ大きな溜め息を吐いた。
「服はぼろぼろだったから替えておいたわ。前のは一応洗って置いてあるから安心して。それはあたしの寝間着だけど、もし嫌だったらごめんね」
「嫌だなんて、そんなことないよ。それより、助けてくれて本当にありがとう。正直、もうダメかと思ってたんだ」
「ううん。どういたしまして」
すると彼女は、右手の人差し指と中指、二本の指を合わせて伸ばし、差し出してきた。
「あたしはアリス。アリス・ラックインよ。よかったらあなたの名前も教えてくれない?」
名乗りを聞く限り、ここではどうやら名前はアメリカ式らしかった。
私も名乗ろうとしたところで、自分のユウという名前が、偶然にも男女どちらでも問題なく使用できるということに気付いて、内心苦笑いしてしまった。名前まで両方の性を兼ねられることに、何だか皮肉めいたものすら感じる。
「私はユウ。ユウ・ホシミ」
私も見よう見まねで、同じように右手の指を差し出した。これはもしかすると握手のような習慣なのかもしれない、となんとなく思ったからだ。
すると正解だったようで、彼女は二本の指を私の指にぎゅっと絡めた。握手ならぬ握指というやつだろうか。
「ところで、ユウ。あなたが起きたら、聞きたいことがあったの。死の平原の真ん中にたった一人でいるなんて無茶なこと、どうしてしていたの?」
「そ、それは……」
さて、なんて言おうか。私は困ってしまった。違う星からやって来て遭難してましたと言っても、絶対に頭がおかしいと思われるに違いない。
というか、死の平原なんて物騒な名前が付いているんだ、あそこ。道理で何もないと思ったよ。
何か上手い言い訳はないかと考えあぐねていると、彼女は顎に手を添えて私の顔をまじまじと見ながら続けた。
「その髪の色といい、あの変わった服といい。あなた、この辺の人じゃないでしょ」
「ま、まあ、そうだね……」
うん。確かにこの辺の人じゃない。私は日本人だからね。
「やっぱり! それで、あんな……酷い恰好でいたのはどうして? 服まで破られて……」
彼女が憐みの目を向けてくる。
「もしかして。ねえ、何か恐ろしいことでもあったの? 出来れば事情を聞かせてくれない? 力には、なれないかもしれないけれど」
恐ろしいこと。あったよ。それもとびきりのやつが。主にあいつとか、あいつとか、あいつとか……
あいつにされたことを思い出すだけで、身が震えるようだった。口にするのもおぞましくて、私はつい黙り込んでしまった。
彼女が想定していることと、私が体験した事実はまず違うだろう。それでもきっと苦虫を潰したような顔をしているに違いない私を見て、彼女は思うところがあったのか、これ以上の追及をやめてくれた。そして、優しくもこう言ってくれたのだった。
「そう……。どうしても思い出したくないことなのね。なら、今は無理には聞かないわ。話したくなったら話してくれたら、それでいいからね」
私は彼女の気遣いに感謝した。
「ありがとう。ごめん、何も話せなくて」
「いいのよ。あたしが悪かったわ」
気まずいと思ったのだろうか。彼女は話題を変えてきた。
「そうそう。ここは、サークリスのあたしの叔母の家よ。あたし、これから魔法学校に入学するんだけど、それまでの間お世話になっているの」
「そうなんだ」
どうやらここはサークリスという場所らしい。だがそれよりも、気になったのは魔法学校という言葉だ。
魔法。そんな言葉が当たり前に出てくる日が来るとは思わなかった。
ただ、その言葉をファンタジー以外で聞いたのはこれが初めてではないということに、私は思い当たっていた。
エーナだ。彼女が確か魔法がどうだとか言っていたような気がする。
魔法、ね。
そうか。わかったかもしれない。
彼女がいきなり杖を振ってきたり、何か仕掛けてきてはぶつぶつ言っていた意味がわからなかったけど、少しわかった気がする。
手前勝手なイメージだけど、魔法使いと言えば、やっぱり杖だ。
あのとき、彼女は私を始末しようとしていた。彼女はもしかしたら、魔法を使おうとしていたのかもしれない。それも私を攻撃するやつを。
ところが、何かの要因で魔法が発動しなかった。だから少し困惑した様子だったのだろう。
もし魔法が発動していたら、まず対処は出来なかったと思う。その時点で死んでいたかもしれない。
運が良かったのか、それとも。
『今ここで死ななければ、あなたはきっと生きてしまったことを後悔する』
運が悪かったのか。
今のところは、よくわからない。
知らない星を旅することは、確かに過酷なことかもしれない。だけど、普通なら誰しもが経験し得ないことを経験出来ることが、決して悪いことばかりだとは思えない。あそこまで言う理由が、まだよくわからないのだ。
あいつが言っていた、いずれわかることに、何か関係があるのだろうか?
「ねえ、ユウ」
アリスの言葉に思考を呼び戻される。
「きちんと治療してもらったから、もう危険な状態は脱したと思うけど、あなたはまだかなり弱ってるわ。よかったら、快復するまではここに泊っていかない? あたしもその方が話し相手が出来て嬉しいし、叔母もきっと快諾してくれるわ。あ、もちろん他に当てがないなら、だけど」
当然、他に当てなどない。右も左もわからず、身体までふらついているいま、この場でこの素敵な申し出を遠慮するという選択肢は、自殺行為に他ならないと思った。
もしこの家に留まれるなら、その間の生活の心配をしなくても良い。それに色々と話を聞くことで、安全にこの世界に関する情報を得られるだろう。その上彼女もそれを望んでいるというのだから、断る理由は何もなかった。
「じゃあ、お世話になるようでなんだか悪いけど、お願いしてもいいかな」
すると彼女は、心底嬉しそうな笑顔を見せた。眩しいくらいはつらつとした、素敵な笑顔だった。
「ほんと!? やった! これで退屈しないわ! しばらくの間よろしくね!」
「うん。こちらこそよろしく」
そうして私たちの間に温かい雰囲気が生まれた、そのとき。
ぐううううううううう、と特大の音が私のお腹から発生し、鳴り響いた。
あっ。
ずっと、物食べてなかったからだ……
私は羞恥心から顔を背け、俯いてしまった。数瞬の沈黙が部屋を包む。それを破ったのは、私の失態をフォローするかのように、大袈裟に明るく振舞ってくれたアリスだった。
「そうだった! ユウが起きたっていうのにすっかり忘れてたわ! ごめんね。お腹すいたでしょう。叔母が作ったスープが残ってるの。今すぐ持ってくるから、待っててね!」
「う、うん……ありがと……」
うわー、恥ずかしい。きっといま私の顔、真っ赤になってるんだろうな……
しばらくすると、アリスが大急ぎで温めたスープを持ってきてくれた。スープは赤色で、見たことのない野菜が入っていた。最初はもしかしたら、違う星の私には毒になるものが入っているんじゃないかと恐れて中々手を付けられなかったけど、立ち昇る湯気の良い匂いと、極限までの空腹には勝てなかった。恐る恐る一口飲んでみたら、カボチャのスープのような味がしてとても美味しかった。
五臓六腑に沁みわたるとは、まさにこのことだと思った。その後は、押し寄せる食欲に任せて一気に飲み切ってしまった。
それにしても美味しかった。本当に美味しかった。飢えていなければ、これほどまで食に感謝したこともなかったかもしれない。
食後も、アリスと色々な話をした。話してみると、どうも同い年らしいということがわかって大いに盛り上がった。彼女はとても快活で話が上手く、すぐに私と打ち解けた。身分も何もかも不明な私のことを、もう友達のように思って親しくしてくれた。異世界で初めて友達が出来たことが、私はとても嬉しかった。
ところが、ちょっと困ったこともあった。
彼女の前で変身するわけにはいかなかったので、私はずっと女のままだった。だから当然、彼女は私のことを完全に女だと思っていて、話題も女の子特有のそれが多くなった。
だけど私は、本当のところ半分は男で、女としては数日前に生まれたばかりのようなものだ。だから残念なことに、その辺の話がよくわからなかったのだ。
時々愛想笑いや相槌を打ってどうにかやり過ごしたが、ガールズトークをそつなくこなすのには、まだまだ経験値が足りないと痛感したのだった。
やがて、アリスの叔母さんが帰宅してきた。叔母さんは、とても穏やかな雰囲気を持った優しい人だった。治療師を呼んでくれたのも、治療費を持ってくれたのも彼女らしい。私はもう一人の命の恩人に対し、深く礼を述べた。私がしばらく泊まる旨をアリスが伝えると、叔母さんは彼女の予想通りに快諾してくれた。本当にありがたい話だと思った。
そして、夜も更けてきたころ。私にとってとんでもない事件が起きてしまった。
なんと私は、お風呂に入ることになりました。
うん。
私だけならまだいいんだ。
でも。
アリスと一緒なんだ。
ああ! ばかっ! 泊まるって言った時点で、こうなる可能性を予測しておくべきだった!
わかっていれば、断れない流れになる前に対処出来たかもしれないのに!
何となくだけど、この女の状態の私が女の裸を見たからって何とも思わないだろうって気はする。実際胸を見たって平気だったし。だから変なことになる心配はないと思うけど、でもなんか騙してるような気がして、申し訳なくて……
それで、さっきからあんまり目を合わせられないでいた。でも馴れ馴れしいアリスは、容赦なくスキンシップを図ってくるわけで。困った。ほんとどうしよう。
「スタイルいいのね、ユウは」
「そう、かな」
確かに、夢の中で見た女の子の姿はかなりスタイルが良かったかもしれない。まさに今の私は、その女の子の姿で彼女の前にいるのだから、そういった感想が出てきても不思議ではないのかも。
「それに、胸もあるしねえ~」
アリスはいたずらっぽい笑みを浮かべると、私の胸の先をつんつんと突いてきた。
「ひゃっ!」
くすぐったいような気持ち良いような初めての感覚に、自分でもあまりに情けない声が出てしまった。反射的に手でさっと胸を隠して、彼女からさらに顔を背けてしまう。
その我ながらあまりにも初々しい反応に、彼女は満足したようだった。
「へえ。ちょっと女らしくないと思ってたけど、あなたもそんなかわいい顔するのねえ」
「きゅ、急に触らないでくれよ! びっくりしたじゃないか!」
心臓がどきどきしてる。女の身体ってこんなに敏感なのか。
「そーんな真っ赤な顔でそっぽ向いて言っても、迫力ないわよ~。ユ・ウ・ちゃん♪」
「はあ……」
ダメだ。この人、私ですっかり楽しんでるよ。
すると彼女は、突然ちょっぴり悔しそうな顔をして言い出した。
「ねえねえ。ほら、見てよ! あたしなんてさ、このちっぱいよ!」
そう言われるとさすがに見ないわけにはいかなくて、私はごめんなさいと心の中で謝りながら、覚悟を決めて彼女と向き合った。やっぱり思った通り、女の裸を見ても、男のときなら当然起こりそうな邪な気持ちは、特に何も湧いてこなかった。罪悪感は半端じゃないにしても、性的な意味では平常心で彼女のことを見られた。
確かに小ぶりな胸だけど、そのはつらつとしたしなやかな体にはよく似合っていると思う。私は正直な感想を述べた。
「確かに小さめかもしれないけど、それはそれで素敵だと思うけどな」
「ふーん。余裕ある者の発言ね~。まったく、羨ましいわ」
いや。余裕なんてないよ。確かに胸の余裕はあるかもしれないけど、罪悪感とか恥ずかしさとかで、もう死にそうだよ……
浴槽に二人で浸かる。いつまでも避けていると変だし、私はもう色々と諦めてなるべく自然体でいるように心がけた。そんなことを考えて必死になっている時点で、平気じゃないことは明らかだけど。
もじもじしてしまっている私が、アリスにはよほど可愛く映ったらしい。面白がってどんどん体を絡めてきたので、私はますます心を乱してしまった。
ようやく彼女のいたずらも落ち着いてきた頃、話題は私の今後のことになった。
「ユウはさ、治ったらどうするの?」
「さあ、どうするのかな」
わからない。私はこれからどんな風に生きていけばいいのだろう。けど、とりあえず出来そうなことなら――
「どうするのかなって。あなた、自分のことでしょう」
呆れたような顔を向ける彼女に、私は尋ねてみた。
「アリス。魔法って、誰でも使えるのかな」
私は今回の遭難で、とにかく力を付けなければならないことを思い知った。とは言え、この常人の身をいくら普通の方法で鍛えたところで、限界はすぐにやって来るだろう。
だが、もしも色んな魔法が使えたなら。今回のようなピンチになったとき、きっと私が取れる選択肢は広がるはずだ。
それに、何の力もないままでいたら――またあいつに――
身震いがした。いやいや。考えるな。あいつのことなんて。
「あなた、魔法学を習ったことないの?」
「実は、魔法については全く知らないんだ」
ずっと科学の世界にいたからね。
私が魔法を全く知らないということに、彼女はかなり驚いたようだった。
「それは珍しいわね。魔法は、あたしみたいに魔力のある者にしか使えないわよ」
「その魔力というのは、私にもあるのか?」
彼女は少し得意な顔で、親切に教えてくれた。
「知りたいなら、役所にある測定機を使えば魔力がどのくらいあるのか測定出来るわよ。魔力というのは魔素を取り入れる能力のことだから、体質によって結構個人差があるの。もし魔力があまり少ないと、残念ながら魔法は使えないんだけど。ユウはどうでしょうね」
「そっか。なるほど。それで、魔素ってなに?」
「もちろん、空気中の七割を占めるあの魔素のことよ。って、さすがにこれは常識だと思うんだけど。ユウってほんとに何も知らないのねえ」
やや目を細めた彼女に、怪訝な視線を向けられる。あまりにものを知らないのが不思議に思われているのだろうか。私はとりあえず苦笑いして誤魔化した。
魔素。空気中の七割を占める、か。この星では、地球上の窒素の代わりを占める位置に魔素が存在しているらしい。とすると、あのエメラルドグリーンの空は、世界中に溢れる魔素によるものなのかもしれない。
「そう言えばアリスは、サークリス魔法学校というところに通うんだよね。どんな場所なんだ?」
「サークリス魔法学校はこの町で一番大きな魔法学校よ。剣術学校が隣にあるんだけど、そこと合同で町によって運営されているの。入学するとクラスに分かれて、四年間魔法について学ぶのよ。校風も良いらしいし、あたしは今から楽しみなんだ」
「へえ。いいなあ。私もちゃんと高校生活したかったな……」
なにせ、入学してから一年も経っていない内に異世界に飛ばされてしまったわけで。
「なに? コウコウって」
「いや、何でもないんだ。それにしても、学校か。ちゃんとした場所で魔法を学べるなら、それが一番いいんだけどなあ」
「もしかして、あなたも魔法使いになりたいの?」
「うん。もし私に魔力があったらだけどね。でもお金も家もないから、独学でやろうかなって思ってるけど」
それを聞いた彼女の顔が、ぱっと明るくなった。
「それなら大丈夫よ! サークリスは別名『剣と魔法の町』というくらい、剣術と魔法に力を入れているの」
「剣と魔法の町?」
「そう! 剣術と魔法の勉学に対する強い奨励政策をしていて、援助も厚いのよ。魔力さえあれば、魔法学校には望めば簡単に編入出来るし、お金のない人には利子の少ない良心的な奨学金制度があるわ。三食付きの寮だってあるから、住む場所の心配だってしなくてもいい。あたしも寮に入るつもりなの!」
興奮した顔でまくし立てた彼女は、少し息が上がっていた。私は彼女の話を聞いて、希望が込み上がるのを感じていた。
「編入が、簡単。それに、奨学金制度に、三食付きの寮だって!?」
渡りに船とはこのことだった。それならしばらくは生活の心配をする必要もないし、思う存分魔法の勉強が出来る。しかも、安全に。
殺人未遂、レイプ野郎、遭難。どん底の不幸続きだった私にも、ようやく運が向いてきたのかもしれない。
「アリス、決めたよ! 私も入ることにするよ。魔法学校に!」
「ほんと!? まさか、ユウが一緒に入ってくれるなんて! あたし、とても嬉しいわ!」
お湯が飛び跳ねるほどの勢いで、アリスにがばっと抱きつかれた。身体が密着して、ぎゅっと胸同士が押しつぶされる。驚いて離れようとしたが、彼女の私を締め付ける力の強さと、彼女が深刻な顔になっているのを見て、されるがまま身を任せることにした。
「実は心配だったのよ……。放っておいたら、あなたは今度こそどこかでのたれ死んでしまうんじゃないかって。この辺のこと、なんにも知らなさそうだし」
「アリス……そっか。心配してくれてたんだね……ありがとう」
すると彼女はようやく私の拘束を緩めて、それから笑顔で言った。
「でも安心したわ。もしあなたが入れたらだけど、そのときは女の子同士、一緒に頑張りましょ!」
「うん。そうだね――――ん?」
女の子同士……? 何かやらかしてしまったような……
あっ。ああっ!
そこで私は、物凄い下手を打ってしまったことに気付いた。
しまった! この話の流れだと、私はずっと女子として学校に通わないといけないんじゃ……!
どうしよう!? そんなに長い間女のままでいるなんて、考えてなかったよ!
くっ。やっぱりやめるって言って男子として魔法学校に入ることも出来るけど、アリスを悲しませてしまう。せっかくこんなに喜んでくれてるのに、それはしたくない。
しかも寮って、よく考えたら――
「あのさ。寮なんだけど……」
「安心して。もちろん女子寮だから!」
さくっと止めを刺された! やはり、やはり女子寮なのか……
ああ。罪が、重い。心が、重い。
「これからもよろしくね! ユウ」
「はは、は…………」
「どうしたの?」
「何でもない。何でもないんだ……」
もし学校に入れたら、そこではちゃんと女として過ごそう。それなら何も問題はない。ないはずだ。だって私は、この身体の私は、紛れもなく女なんだから!
そのか弱い女の身体を確かめるように、両手で自らをぎゅっと抱きしめながら、私はそう決意した。