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フェバル保管庫2  作者: レスト
金髪の兄ちゃんともう一人の「私」
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6「レンクスとユウ」

 あれ? 急に眠くなったような気がしたんだけど。

 知らないうちに自分のいる所が変わっているのが不思議だった。

 俺、何してたんだろう。

 おかしいなと思った俺は、目の前でなぜか楽しそうにしている兄ちゃんにとりあえず聞いてみた。


「あのさ、レンクス」

「ん?」

「俺、さっきまで何してたの? レンクスに降ろされてから、ちょっと変だったような気がするんだけど」

「別におかしなことは何もなかったぞ。大丈夫だ」

「そうなの?」

「ああ。気にするなって」


 レンクスはほんとに何も心配なさそうな感じで言った。だったら、平気なのかなと思う。


「そっか」


 すると、兄ちゃんはにたにたし始めた。怪しい人みたいで、ちょっと気持ち悪い。


「なあ。もう少し抱っこさせてくれないか」

「いやだ」


 自分でもどうしてかはわからないけど、それがすぐ口に出てきた。兄ちゃんはわざとらしくがっくりした。しかも、なんかやたら面白がってる顔をしている。意味わかんないよ。


「なんでだよ」

「なんとなく」

「なんとなくならいいだろ?」

「うーん……」


 しつこいレンクスを見てると、どうしてかな。抱っこされるのはとても嫌な気持ちになってくる。でも、無理にダメだって言うような理由もないし。まあ、おっきい人の中には、俺みたいな子供を可愛がるのが好きな人もいるもんね。


「わかった。いいよ」


 そう言ったら、元々楽しそうだった兄ちゃんの顔がもっとぱっと明るくなった。


「こっちは結構素直なんだな」

「こっち?」

「何でもないぜ」


 兄ちゃんはまた近寄って来て、前と同じように俺のことを持ち上げて、顔を見つめてきた。今度は慣れた分だけ前よりは恥ずかしくなかった。

 顔が近付いたら、兄ちゃんの顔がどこかにぶつけたみたいに少し赤くなっているのに気が付いた。


「鼻のところとか赤いけど、どうしたの?」


 そしたら、兄ちゃんは何か誤魔化すような怪しい感じで笑った。


「いやー。ちょっと転んじゃってな!」


 なんか様子がちょっとおかしいなと思ったけど、兄ちゃんの顔が赤い本当の理由なんてさっぱりわからなかった俺は、兄ちゃんの言ったことをそのまま信じた。


「大丈夫?」

「大丈夫だ。むしろ良かったというか」


 ぶつけて痛いんだよね。一体どこが良いんだろう。

 変なのと思っていると、兄ちゃんが俺の顔をじろじろと見てきて。


「しかし、こうしてみると本当に女の子みたいだな」

「うるさいな。気にしてるのに」


 みんな、女の子みたいだって、そればっかりだ。そんなに男には見えないのかな。


「さすがユナのむすm……息子だ。いやー可愛いなあ」


 兄ちゃんが嬉しそうに顔をすりすりしてきた。お母さんとお父さん以外にこんなことをされたのは初めてだった。ほっぺたが潰れるくらいこすれて、ちょっとうっとうしい。

 それから、可愛い可愛いって言われながら、しばらく好きにされっぱなしだった。頭を撫でられたり、また顔をすりすりされたり。ほっぺたにチューされたり。

 かなりうざかったし、段々疲れてきたけど、兄ちゃんは中々放してくれなかった。でも、兄ちゃんが俺のことをとっても可愛がってくれてることはわかった。こんなにあったかいの、久しぶりだ。

 やっと満足したっぽい兄ちゃんは、俺を降ろして頭をなでなでしながら言った。


「愛してるぜ、ユウ」

「うん」


 あまり深く考えないでうんって言ったんだけど、そしたら兄ちゃんがまた急ににやにやし始めた。なんだろうって思ってたら、からかうように変なこと言ってきたんだ。


「お前が女の子だったら良かったのにな」

「なんだよ!」


 どういうつもりで言ったのかはわかんなかった。けど、気にしてるって言ったのに。そんなこと言うなんてひどいよ!

 怒った俺は、ぷいと顔を背けた。


「あー。怒っちゃったか。悪い悪い」

「ふーんだ。レンクスなんかもう知らない」


 このとき、俺は普通に怒ったつもりだった。

 なのに、なぜかこのむかつく奴はいきなり爆笑し始めたんだ。


「あっはっははははははは!」


 信じられなかった。わけわかんないよ。こっちは怒ってるのに、なんで急に笑ってんのさ!


「もう! 何がおかしいんだよ!」

「いや、あはははは! あんまり反応が同じなもんで。やっぱ一緒だな! くくくく!」

「何が一緒だって!?」

「こっちの話だ。あははははははは!」

「ちゃんと答えてよ!」


 結局、こいつはなんにも話さないでずっと面白がってた。おかげで、思いっきりへそを曲げた俺の機嫌が直るまでには、かなり時間がかかっちゃったよ。


 やっと俺と兄ちゃんは仲直りをして、それから二人で色んなことを話した。兄ちゃんの話は面白くて、時間が経つのも忘れてしまうくらいだった。気が付いたら、もう夕方になってた。

 帰る時間になっちゃったけど、どうせ帰っても辛いことばかりだ。兄ちゃんと離れるのが嫌だった。けど、帰らなかったら、どんなひどいことをされるかわからない。

 落ち込む俺に、兄ちゃんは最高のプレゼントをくれた。


「せっかく仲良くなれたわけだし、友達にならないか?」


 そう言ってくれたんだ。

 友達。

 ずっと欲しかったけど、俺にはぜったい出来ないって思ってた。年が離れてるのはちょっとだけ残念だけど、でもそんなの関係ないくらい嬉しかった。跳び上がりたくなっちゃうくらいに。


「ほんと!? いいの?」

「ああ。ほら、友達の握手だ」


 右手を出してきた兄ちゃんに対して、俺はついいつもの癖で左手を出しちゃった。それを見て、兄ちゃんがへえって感じで言った。


「左利きなのか」

「うん。こっちだったね」


 右手を出し直して、今度こそちゃんと握手する。兄ちゃんの手は、俺のに比べると、ずっと大きくていっぱい力を感じた。

 手の感触がじーんときて、それで友達が出来たんだって思って、俺は死ぬほど嬉しくてしょうがなかった。

 

「やった! すっごく嬉しいよ! よろしくね! レンクス兄ちゃん!」


 そのとき、兄ちゃんがくらっとしたように見えた。

 え? どうしたのかな。

 

「く~!」


 兄ちゃんが変な声を出したと思ったら、俺はまた眠くなってきた。



 私は、またまた現実世界に現れていた。もちろん目の前の人物の【反逆】とかいう能力のせいだ。


「こんなすぐにまた呼び出されるとは思わなかったよ。何の用?」


 レンクスは、なぜかまるで子供のようにはしゃいでいた。


「ちょっと今の聞いたか!?」


 私は頷いた。

 おそらくレンクスが今、あっちのユウにしてくれたことだよね。そう判断して、感謝の意を伝えようと思った。

 もちろん私もユウの味方だけど、彼は私のことは覚えていない。だから彼の認識では、初めての友達はこのレンクスということになる。これは彼にとって大きな一歩になったはず。私も自分のことのように嬉しかった。一応自分のことと言えば自分のことなんだけどね。


「聞いてたよ。あっちのユウと友達になってくれたんでしょ? ありがとう。ユウ、すごく喜んでる」


 ところが、そんなことなどどうでも良いとばかりに、レンクスはぶんぶんと大きく首を横に振った。


「いやいや。聞いただろ。レンクス兄ちゃんだってよ!」

「それがどうしたの?」


 私には彼が何を言いたいのか、さっぱりわからなかった。

 すると、彼は物凄い剣幕で私に迫ってきた。


「素敵な響きじゃないか! ぜひお前の方からも聞きたい! 出来ればレンクス『お』兄ちゃんで頼む!」


 その興奮し切った言葉によって、私は彼のこの上なく下らない目的をようやく理解した。と同時に、彼に対する評価はさらに失墜した。もう二度と浮上することはないようにさえ思える。


「正直に言ってもいいかな」

「いいぜ!」


 私は大きく溜息を吐くと、目の前でわくわくしている変態に対して、声のトーンを思いっ切り下げて冷たく言い放った。


「呆れたよ。こんな下らないことのために私を一々呼び出すな」

「あ、ああ」


 私の言葉でようやく我に帰ったのか、あるいは私にお兄ちゃんと呼んでもらえる希望を打ち砕かれたからなのか、彼のテンションは急激に下降していった。

 そこで再度冷めた声で告げる。


「もう帰るから」

「いや、せっかく呼んだんだし、もう少しくらいいてくれても……」


 あくまで縋る彼に、私は最大限の軽蔑を視線に込めて、吐き捨てるように言った。


「いいからさっさとあんたの能力で帰せ」

「お、おう……」



「あれ、また気が……」


 気が付くと、目の前でがっくりとうなだれているレンクスの姿があった。


「なんでそんなに凹んでるの?」

「良いんだ。うっかり舞い上がっちまった奴の末路なんて、こんなもんさ……」


 すっかり落ち込んでいた彼は、やっと顔を上げると俺に向かって確かめるように聞いてきた。


「お前は、俺の味方だよな?」


 もちろん、俺はうんと首を縦に振った。


「当たり前だよ。友達でしょ? レンクス」

「あれ、兄ちゃんじゃないのか?」


 首を傾げた彼に対して、俺はふと気が変わったことを教えた。


「うん。やっぱり兄ちゃんって呼ぶのは変かなって。なんか普通にレンクスとかこいつとかお前で良いような気がしてきた」

「なぜだ」

「なんとなく」

「なんとなくならいいだろ?」


 それに対する返事は、何も考えなくても、他の誰かが言ったみたいに口からさらっと出て来た。


「いや、ダメだ。少しは反省しろ」

「ああ……少しは落ち着くか。俺らしくもなかった」


 夕日が沈みかけてるくらいの時間に、俺たちはお互いに手を振りながらバイバイした。


「俺はしばらくこの町にいるつもりだから、会いたくなったらいつでもこの公園に来いよ」

「うん! またね、レンクス!」


 帰り道は、いつもよりずっと足が軽かった。

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