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フェバル保管庫2  作者: レスト
二つの世界と二つの身体
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106「新たなる力 魔法気剣」

 ダイクロップスに入り込んだ俺とシズハは、そのまま『世界の道』の続くにしたがって、中心街へ向けてバイクを走らせた。

 いざ要塞都市の内側に入ってみると、前後方のバリアゲート、側面のグレートバリアウォールが四方をがっちりと固めていて、箱庭の中に収まったような気分になった。

 壁は、外から見たよりも頼もしく思われた。人によっては安心を感じるだろうし、窮屈にも感じるだろう。

 俺は後者だった。

 ぱっと見、あまり好きな街じゃないな。どうも俺は、もっと開放感のあるところの方が好きみたいだ。

 しかしシズハの方は違うみたいで。

 車の流れに合わせてゆっくりバイクを走らせながら、心なしか楽しげに周囲を観察している。あまり表情は変わっていないけれど、最近シズマイスターになりつつある俺にはまあ何となくわかった。

 確かに、好きな人は好きだし、わくわくするのかもしれないな。

 鉄と錆とオイルの匂いのはっきりと感じられる街並みだ。

 やはりかつて訪れたディースナトゥラとの比較になってしまうが、あそこは極めて緻密な都市計画の下に成り立っていて、美しいほど完璧に均整の取れた街並みだった。(地球から見て)未来のテクノロジーが生み出した、決して錆びない金属が多くの建物の材料となっていて、常に目に悪いほどの輝きを放ち、人間である俺には馴染み辛く感じられたものだ。

 ディースナトゥラはまさに白銀の都市だったが、こちらで支配的なものは、くすんだ金属の鈍色である。 同じ鋼の街ではあるが、まったく様相は異なっている。世界が違うと、こうも違う例があるのだと、感心させられた。

 所狭しと、不均整で薄汚れた武骨な建物が競うように立ち並ぶ様は、かえってそれらが人の手によって成ったものであると思わせる。

 トリグラーブと比べて、明らかに工場の割合が高く、配管の類が剥き出しで、空中の目立つところにも網目のように張り巡らされている。配管迷路の頂は、大抵の場合、煙突で終結していて、そこからはもうもうと白煙が上がっているのが見て取れる。

 そのせいで、空気はお世辞にも綺麗とは言えない。喘息持ちには辛そうだ。IT分野とか、空気の綺麗な場所じゃないと大変なんじゃないかなと思ったけど、それはどうも地球の常識に過ぎないらしい。

 配管だけじゃなくて、たまに大きな歯車なんかも剥き出しになっていて。何を動かしているのかは知らないけど、くるくると忙しなく回っている様は、まるで生き物のようだ。

 冷たい色に見えて、中々どうして、躍動感に溢れているじゃないか。

 前言撤回。よく見てみたら、俺もちょっとわくわくしてきたぞ。


「楽しそう」

「いやあ。こうやって街並みを見て楽しむのも、旅の醍醐味の一つだなと」

「観光に来たわけじゃない」

「わかってるって」


 さりげなくダイクロップス限定スイーツまでご所望された君が言うことじゃないと思うけどね。


 スイーツを買ってあげてから、ミッション終了までの一時的な滞在場所として、エインアークスの息がかかったホテルの一つを選んだ。

 地下は『アセッド』ダイクロップス店になっていて、と言っても実際店じゃなくて隠れ基地みたいなものなんだけど、三千人のメンバーのうち五十八名が、ここを運営してくれている。

 もしトレインソフトウェアで何かしらディスク等入手できた場合は、解析ができる人員と機材も揃っている。

 彼らの協力がなければ、身一つで全てをこなさなければならないところだったので、とてもありがたい話だ。

 夕食を済ませて、シズハと二人で作戦を練る。

 役割分担は、俺が周囲の警戒と対処、シズハが部屋の調査・機密書類の入手担当だ。裏仕事にはあまり明るくないので、スパイっぽいことは彼女に任せようと思う。

 そう言えば前にユイから聞いたけど、レンクスは裏仕事が得意らしい。昔何かやってたのかな。まあいいや。

 最悪の事態も想定しておく。戦闘になる可能性があるけど、《マインドリンカー》を駆使すれば、ある程度仲良くなった(と思う)シズハなら、俺の力のいくらかを共有して、戦闘力の底上げが期待できるはずだ。最低でも、彼女自身が数段上と言っていたルドラに負けないくらいにはなるだろう。

 試しに軽く説明してから、トレーニングをやってみた。

 見違えるほど動きが良くなった。まさかここまで効果があるとは思わなかったので、自分でも驚いたよ。ろくに使いこなせていないのにこれって、フェバルの能力ってやっぱりチートだな。

 シズ本人も、目を丸くしていた。


「すごい。身体が、軽い」

「だいぶ動きやすくなったはずだ。でもだからってあまり無茶しないようにね」

「お前……魔法使いか、何か? ラナクリムの、バフみたい、だ」

「実際そんなものかもね」

「ずるい」

「はは。まあ色々試してみてくれ」

「ん……わかった」


 君には軽くなった体に存分に慣れてもらって、快適さを楽しんでもらうとして。

 さて、俺の方もトレーニングだ。


『ユイ』

『あっ、ちょっと待って。今ミティにお店任せてくるから』

『あ、うん』


 そうか。今の時間は繁盛中だったね。

 数分ほど待っていると、ユイから返事がきた。


『お待たせ』

『悪いな。仕事があるのに』

『いいよ。こっちも大事だから。で、何をやるの?』

『前から考えていた構想があったよね。あれをやってみようと思うんだ』

『あれね。上手くいくといいね』

『そうだね』


 軽くストレッチをしてから、深呼吸をして、精神を整える。

 左手に気剣を作り出すと、隣で身体を動かしていたシズハから溜息が漏れた。


「それ……リアルでも出せるのか……」

「まあね」


 とりあえず気剣を出して。やりたいのはここからだ。

 トレヴァークは許容性の低い世界だ。気剣は出せるけれど、威力不足は否めない。そこを補うための方策はないかと考えていた。

 普通は、普段使いできる手段がない。

《マインドバースト》はあまり長く使えないし、《マインドリンカー》も、いつも恩恵を受けているユイやリルナは別として、常時使用だと精神的な負担が大きくて難しい。

 でも、せっかく二人なんだから、ユイと協力すればいいじゃないかと気付いた。

 これまで、気と魔法をそれぞれ使えても、同時に扱うことはできなかった。

 男のときは魔力を、女のときは気力を扱う機構そのものを持たないからだ。

『心の世界』のストレージ機能を使って、技や魔法を溜めておくことはできる。ただ、現実世界に出そうとした途端に、性別が逆のものはそもそも出ないか、まったく操ることができなくなってしまう。

 しかし、二人に分かれてしまった今の特殊な条件下では、息をぴったり合わせることで、『心の世界』を介して気と魔法の同時使用ができるはずだ。

 もちろん許容性が低いので、魔法のままで使うことはできない。

 しかし、気剣に上乗せして使うことならできるはずだ。


 すなわち、魔法気剣。


『いくぞ』

『うん』


 ユイが、魔力を火の形に変換する。そのまま魔法にして放つ代わりに、『心の世界』にエネルギーを流し込んでもらう。

 出力先をこちらの世界の気剣に指定して、そこへ導くまでのコントロールもお願いする。

 俺がすべきことは、受け取った力をしっかりと形にすることだ。

 元は白い気剣の刀身が、みるみるうちに赤みと熱を帯びていく。


 そして、刀身は真っ赤に燃え上がった。

 火の性質を持ち、先端が常に揺らめいている。


 目覚ましい変化に、シズハもまたこちらに目が留まっていた。


 火の気剣。どうやら成功みたいだ。


『やった。作れたぞ!』

『やったね。おめでとう』

『君の協力があればこそだよ』

『まあちょっとコントロールが大変かも。確かに』


 刀身に漲る力に、頼もしさを覚える。

 単純に考えて、威力は倍だ。素晴らしい。

 よし。この二つの世界にいる間しか使えないかもしれないけれど、強力な武器を手に入れたぞ。


 一度コツを掴めば、あとはそんなに難しくなかった。

 次々と属性を切り替えていく。

 雷、水、風、土、氷、闇。

 変換した魔力要素の性質を反映して、七色に気剣は姿を変える。

 そして、光の気剣までを創り出した。

 光の気剣を出したのは、あのとき以来かな。ユイとも完全に融合した変な状態だったので、ほとんど覚えてないけど。

 やればできるもんだな。ちゃんと理性を保った状態でこれが作れたことに感動するよ。


「お前、本当に……ゲームの住民じゃない、よな?」

「あはは。違うってば」


 終始驚きっぱなしのシズハからの突っ込みを受けつつ、とても実りあるトレーニングを過ごしたのだった。

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