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フェバル保管庫2  作者: レスト
二つの世界と二つの身体
271/279

103「The Days Before Mitterflation 1」

 ユウとシズハが、工業要塞都市ダイクロップスへ潜入するより少し前。


 ラナソールで、異変が起こっていた。


 未開区ミッドオールの奥地。未だ人の足の達していない荒野の一点。


 世界に、穴が開いた。


 それはまだ、ほんの小さな綻びであるが――。


 しかし、決して閉じることはなく――。


 徐々に面積を増して、やがて等身大ほどで均衡を保った。


 開いた場所も、大きさも、世界と比べれば、見過ごされそうなほどに小さなものであるが。


 だが、気付いた者がいる。


「ほう。思った以上に早かったな」


 無限迷宮の地下深く。静かに機を伺い、神経を研ぎ澄ませていたヴィッターヴァイツにとって、感知できない異変ではなかった。


「さては――外れ者が増え過ぎたか。抑え込み切れなくなったと見たぞ」


 何者が絵を描いているのかはわからないが。

 フェバルの絶大な力を抑え込むために必要な代償は、かなりのものだろう。いつどこにガタが来てもおかしくはない。

 彼自身のみならず、先日存在を確認した二人、まだ他にもいるかもしれないと彼は見ていた。

 とうとう限界が来た。パワーバランスが崩れた。

 彼はそう判断した。


「反撃の一手を打てるかもしれんな」


 今すぐにでも現場に向かいたいところだが、彼は焦らなかった。

 下手に存在が知られては、自由に動けなくなる。

 まず他の外れ者たちが、異変に気付いていないことを確かめる。

 数時間ほど、彼は待った。

 そして、おそらく誰も気付いていないことを確認して。

 移動のやり方にも注意を払う。少しでも力を高めれば、本物の気力と魔力を持つ彼の存在はたちまち他の外れ者にも知られるところとなる。

 幸いにも、夢想の世界には、いかなる感知方法にもかからない理想的な移動手段がある。

 ワープクリスタル。

 予め世界各地を登録してあり、いつでも任意の場所へ数時間程度で行ける状態にしてあった。ボスフロアに居を構えたのも、この場所がボス討伐後は『休息部屋』と同じ扱いになるためだ。


 ヴィッターヴァイツは、異変を感じた場所へ向かった。

 そして予想通りの穴を見つけて、口元が緩む。


「開いたままとはな」


 突発的に世界に穴が開く現象は、何度も確認していた。しかし、フェバルである彼が近寄れば、たちまち穴は消えてしまう。

 これまではそうだった。だが今回は。

 試しに手を伸ばしてみる。全てを無差別に吸い込みそうなほど、深い闇が奥を満たしているが。

 彼の手が触れた途端、明確に異物として認識された。電流に似た衝撃が走り、彼は手を引いた。


「……弾かれてしまうか。簡単には通してくれんな」


 痛む手を押さえながら、苦々しく顔をしかめる。

 だが、最後の一線を守ってくることは想定の範囲内である。さほど気落ちせず、今の接触で新たに見えたことを冷静に咀嚼する。


「やはり、どこかに繋がっているな。おそらく向こうが本源だろう」


 ラナソールではない、自然な世界がある。

 穴に直接触れたことで、彼の予想は確信に変わった。

 あとは何ができるか。

 ラナソールの内側では、残念ながら抑え込まれてしまっているが。向こうではどうか。

 直接は触れず、穴の向こうに様々なアクションを試みて。気付く。


「ほう。能力は使えるのか」


 能力が使えないのは、あくまでラナソールのルール。向こう側の世界では適用されないというわけか。

 まだ、万全には行使できないようではあるが……。

 重要な事実を知り、顔には邪悪な笑みが戻っていた。


「ならばオレ自身が行けずとも、かき回す程度のことはできそうだな」


 面白くない展開が続いていたが、ようやく愉しみが出てきた。


「さあ【支配】よ。一働きしてもらうぞ」


 世界に開いた穴を通じて、ヴィッターヴァイツはもう一つの世界へ働きかける。

 今、彼に【支配】できるのはたった一人だけだった。しかも対象を選ぶことさえできない。

 本来の彼の力からすれば、笑えるほどに不自由な状態。

 しかし、時間の問題だ。いずれ綻びが広がれば、打てる手はどんどん広がっていく。


 終わりが、始まろうとしていた。

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