61「シズハレポート」
個人的興味。ここ一カ月と……少し。殺しの合間、男、監視していた。
ホシミ ユウ。
まるで彗星。突如現れた。この男……このところリクとつるんで……何か調べてる。
不思議。あんなに生き生きしているリク……見たことない。少し……羨ましい。私……ただ……遠くから見ているだけ……なのに。
……いけない。嫉妬。プロ失格。脱線。
とにかく。ユウという男……調べるほど、謎だらけ。
最初は……ほんの少しの興味。リクに寄り付く虫がどんなものか……それだけ、だった。
驚いた。あの男……身元を示す情報……一切ない。生まれの場所……居住地……生活の記録。何も、ない。
私の組織――エインアークス……優れたデータベース……それでも……何も得られない。あり得ない想定……思う……彼、突然現れた……?
だから興味、わいた。
観察対象……指定。
初めて。神隠れと言われた……プロ。その私の監視……一瞬で見破る奴……いたなんて。
最低……2キロ離れていた、はず……。私、ミスしない。絶対、しない。完璧……の、はず。
なのに。あいつ――私見た。
透き通る……綺麗な瞳……強い。私、睨まれた。……射抜かれた。
震えた。逃げた。初めてのこと。
あの男……あれほど……甘い顔してるのに……普段気、抜いてるのに……取るに足らない……そう思ってた。
実際、隙が無い。
やるときはやる、意志。覚悟。それ……見えた。私たちと……同じ。実力者……それ以上かも、しれない……?
油断ならない相手。最大限。気、引き締める。
振り返る。ユウは、何をした。
ダイヤモンド……売った。何のため。金。本屋、寄った。何のため。情報。
ユウは、何も知らない。何も、持たない。そう見える。でも奴……実力者。振りをしている、だけ……かも。
まさか、別の組織――リクが、危ない……?
決意した。リクは……私が守る。
毎日、張り付いた。仕事以外……ずっと張り付いた。張り付いた。眠くても。
ユウは、ずっと知ってた。たまに……こっち見てた。バレバレ。悔しい。すごく……悔しい。いつか出し抜いてやる。
ずっと見てた……何もしてこない。リク、何もされない。
だが……ラナクリム。シグナル……行為。圧倒的課金。
疑心暗鬼。わからない。何が目的? 本当に、知らない? 知ること、それだけ……? それとも……。
我慢、出来ない。はっきりさせてやる。ラナクリム、接触……試みる。
……わかった。あいつ、バカ。あいつ、間抜け。わかってない。色々。お人好し。底なし。バカ。悩んだ私、バカ。
しね。死ななくても……そのうち、殺してやる。……目にもの、見せてやる。バカ。
もっと、しつこく……監視して……やった。でも影、掴ませて……やらない。ちょっと嫌がらせ、気分いい。
そして……今日。問題は……今。
「何……した……?」
飛び込んできた……目を疑う、光景。
夢想病から……目覚めた……!? あり得ない。奇跡でも……見ている、のか……?
頭、回転しろ。今後の動きは……? どうなる。
マスコミ、動く。金、動く。組織は……夢想病、治療薬開発……病院運営……社会保障……あらゆる分野、関わっている。
組織も――当然、動く。
ユウ……あの男が、台風の目。
上へ報告しないわけ……いかない、か……。
リクは……関係ない。ユウのこと。それだけで、いい……だろう。
監視は――私が続ける。元々していた。それが、妥当。それが……安全。
『………………
ホシミ ユウ、今後も要注意観察対象とすべし。監視は引き続き、私が適任と存ずる。本件について、判断を仰ぎたし。
以上をもって、今回の報告内容とする。
No.9 血斬り女』
「シズハレポート、確かに承りましたよ」
目の前……嫌いな男。いつも……軽薄。何考えてる……わからない。神出鬼没。
「名前。馴れ馴れしい口……聞くな。私とお前……ただの、仕事仲間……それ以上でも……それ以下でも……ない……」
「おーおー、怖いねえ。そうも不愛想だと、せっかくの美貌が台無しだなあ。血斬り女さんよ」
「…………」
美雲刀――私の魂……名前、そのもの。こいつ、じろじろ見る。うざい。
「減らず口……それだけか? 用……済んだはず。奇術師……消えろ」
「フフッ。つれないな。オレはあんたのこと、それなりに買ってるんだがね?」
「私、お前……嫌い」
「これは手厳しい。仕事仲間とは、嫌でも仲良くしておくものだよ。どうだい。今度、食事とベッドでも」
「プライベート……間に合っている」
「ラナクリムのことかい?」
「……関係、ない」
「関係あるのさ。例えば、君の大切なご友人とかね?」
「……っ……!」
……どこまで。知っている!?
嫌みな顔……詰め寄ってくる。
逃げられない。足、竦んで……動かない。
顎に手……添えられた。赤い瞳、見つめてくる。
おぞましい。やめろ。気持ち悪い……。
「いいかい。報告は過不足なく、適切に行うことだ。今回だけは不問としよう。仕事仲間だからね」
それで。あいつ……忽然、消えた。いつもと同じ。
『奇術師』ルドラ・アーサム。
「……ちっ」
……あいつ。苦手。嫌い。ベンディップにむしられて、しまえ。




