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フェバル保管庫2  作者: レスト
人工生命の星『エルンティア』
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74「別れは愛とともに」

 朝日が昇る時間。心地良い風に包まれて。なだらかな丘の上から、ディースナトゥラを一望する。

 数か月が経ち。少しずつヒュミテも移住し始めた首都は、新しい活気に満ち溢れていた。


 懐から、レンクスにもらった世界計を取り出す。針は、もうとっくに時間を示していた。

 いつ消えてしまってもおかしくないということだ。

 しばらく首都を眺めた後、感傷のようなものが胸に込み上げてきて、何もない方へ振り返る。

 一つの旅は終わり。また次の旅が始まる。


「よし。次の世界へ行こうか」


『みんなに最後のお別れ、言わなくていいの?』

『何だかんだで、結局フェバルだって言うタイミング逃しちゃったからね。今さら異世界から来ましたって言ってもさ』


 みんなあまり実感が湧かないだろう。それに。


『そのうち旅に出るとは言ってあるし、挨拶回りならもう済ませておいたから』


 この日に備えて、別れの挨拶みたいなものはもう親しい人たち全員に済ませておいた。

 いつかもし本当のことに気付いたとしても、きっとわかってくれるだろう。何となく察している人もいるようだったし。


 この世界でやるべきことは、もうほとんど全て済ませた。

 あと一つ、心残りがあるとすれば。


「やり逃げは許さんぞ」


《パストライヴ》で、ぱっと彼女が現れた。急いで追いかけてきたのか、綺麗な水色の髪は乱れている。


「ごめん。人目につく場所だと、恥ずかしくてさ。それに、外で風を感じておきたかったんだ」

「まったく。急にいなくなったから焦ったぞ。仕方のない奴だ」


 じっと、見つめ合う。言葉がなくても、通じ合っていた。

 もうわかっている。この日が必ずやってくることは、最初からわかっていた。

 お互いに、覚悟も決めていた。それまで、精一杯愛し合って。思い出もたくさん作った。

 だから、涙は見せない。そう決めたのだ。


「たとえどんなに離れても。ユウ。わたしはずっとお前を愛している」

「俺もだよ。リルナ。君をずっと愛している」


 固く抱き合って。

 最後にもう一度。深くキスを交わした。


 徐々に、身体の感覚が薄れていく。彼女の感触が薄れていく。

 彼女の手は、もう掴めない。彼女の身体には、もう触れない。

 肌のぬくもりも。絡め合う舌の蕩けるような感覚も。触れ合う唇の温かさも失われて。

 消えていく。


 だけど心は。いつまでも繋がっているから。ずっと想いは繋がっているから。

 最後の瞬間まで、ただ目の前の彼女だけを心に焼き付けた。


 さようなら。エルンティア。

 母さんの過ごした世界。

 ヒュミテとナトゥラ。二つの種族が破滅の運命を乗り越えて、共に暮らしてゆく世界。


 そして、さようなら。リルナ。

 俺に愛することを教えてくれた、誰よりも大切な人。

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