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フェバル保管庫2  作者: レスト
人工生命の星『エルンティア』
120/279

16「作戦までの一週間 2 ルナトープとの合同演習」

 翌日、俺を含む作戦実行部隊全員が集まって合同演習を行った。各員の動きや得意分野を把握しつつ、全員の呼吸を揃えるのが最初の目的であり、しばらくはそれに時間を費やした。元々ルナトープのメンバーの息はピッタリだったので、俺とアウサーチルオンたちが彼らに合わせるのが主な課題だった。

それから、作戦実行時の実際の動きを想定したシミュレーションを行った。予定通りに行った場合だけでなく、途中で失敗した場合や予想外のことが起きた場合の対処など、様々な状況に応じた訓練をやった。

 シミュレーションの内容は、ウィリアムとネルソンが中心となって立てたもので、限られた時間の訓練でどんな状況にも応用が効くように非常によく考えられたものだった。演習に臨んでいる間の面々は、冗談一つ言わぬ真剣そのもので、場にはピリピリとした空気が張り詰めていた。

 ウィリアムの指示は常に迅速かつ的確であり、指揮能力の高さを感じた。何度も死地を乗り越えたというのは伊達ではない、まさに名指揮官の貫録があった。ネルソンは寡黙ながらも要所要所で重要な立ち回りを演じ、参謀役としての実力を見せた。ラスラは全体を見る目こそウィリアムに劣るものの、こと戦闘を想定した模擬戦においては斬り込みに援護に撤退にと率先して声を上げ、先を率いる能力は誰よりもあった。

 なるほど、なぜ若輩である彼女が、ネルソンを押さえて副隊長を任されているのかと思ったけど、何となくわかった。彼女のような武官タイプは、信頼出来る上官がいた上で、前線を率いる副リーダーというポジションなら確かに似合っているかもしれない。


 やがて、模擬戦が一段落して、休憩時間に入った。

 俺はまだあまり話をしていない相手から順に話をして、親睦を深めておこうと思った。まあ昨日は疲れちゃってほとんど話をしなかったからな。

 デビッドとロレンツが楽しそうに談笑をしているのが目に付いたので、早速話しかけに行くことにした。近づくと、二人とも気付いてこちらに振り返った。


「ここまでお疲れ様」

「お互いにな」


 俺の挨拶に、デビッドは人当たりの良い態度で応じてくれた。

 

「おう。ユウ!」


 ロレンツは慣れ慣れしく近寄ってきた。昨日が昨日なので、俺は少し身構えた。彼は俺の真横まで来ると、腕を回して肩を引き寄せた。そしてひそひそ声で耳打ちしてくる。


「おいおい、男かよ。つれないな。そこは女になって、お疲れ様って可愛らしく声をかけるところだろうがよ~」

「ああそうかい」


 そりゃあお前は、それがいいだろうな。呆れていると、こいつは遊ぶような手つきでペタペタと俺の胸を触ってきた。


「ちっ。何もないぜ」


 膨らみがないことを心から残念がっているのは、明らかだった。女じゃないから触られても別にどうとも思わないが、単純に鬱陶しいからその手を払いのけて言った。


「当たり前だろ。今は男なんだから」

「はあ~。俺は女のお前の柔らかそうな胸が好みなんだよな。なあ、ちょっと変身して揉ませて――」

「断る」


 誰が好き好んで、好きでもない野郎に身体を触らせないといけないんだ。冷たい声でばっさりと切り捨てると、やっと肩を離してくれたこいつに「男の癖にガード硬いな~」とへらへらと笑われた。

 俺はイラっときた。ぶっちゃけそのうざいポジ、レンクスだけでたくさんなんだよ。セクハラ野郎め。


「それより、デビッドの双剣術は色々と勉強になったよ」


 これ以上変に絡まれたくないので、話題を変えた。

 隊員の中で、彼だけが二本のスレイスを両手に持って器用に使いこなす。剣士という括りでは多くの相手と対峙してきた俺だが、二刀流使いは珍しくあまり経験がない。なので、彼との模擬戦は、同じく二刀を操るリルナを意識した立ち周りの訓練としてかなり重宝した。


「こちらこそ。ユウの動きから多くのことを学ばせてもらったよ」


 先生にみっちり仕込まれ、今までの四年間でそれなりに自分のものにまで昇華させた剣術は、彼にとっても学ぶところがあったようだ。


「ならよかった」

「ラスラから聞いていたが、本当に強いんだな」

「別にそんなことないさ。ところでこの訓練、不測の事態への対策をこれでもかってくらい重点的に行っているけど、どういうわけなんだ」


 よく考えられてはいるが、何かに失敗したときのリカバリーが多過ぎると思った。厳しいのはわかっているが、ちょっと自信がなさ過ぎじゃないだろうか。


「ディーレバッツの奴らが持つ特殊機能を警戒してのことだ。絶対想定通りに行くわけねーからな」と、ロレンツが真面目な調子で答えた。


「ああ。確かディーレバッツの構成員は、全員が特殊機体だと言ってたな」

「おうよ。連中が何らかの特殊機能を持っていることまではわかってんだけどな。残念ながら、一体どんなのを持っているかまでは正確に把握出来てねえんだ。あいつらと直接戦り合って生き残った隊員なんて、ほとんどいねーから」

「そういうことか。それは厄介だな」


 初対面の相手ではそれが常ではあるが、相手の手の内がわからないというのは非常に恐ろしいことだ。


「俺がガキの頃はよ、もっと色んなレジスタンス隊がいたんだよ。けどほぼみんなやられた。生き残った奴も、怖気づいちまってな。気が付いたら、前線に残っているのは、俺たちルナトープだけになってた」


 ロレンツは、苦虫を噛み潰したような顔で拳を握りしめていた。デビッドが同調するように溜め息を吐いた。


「そのオレたちも、メンバーは一番多かった時期の半数さ。もうあまり戦力は残ってない。これに加えて、テオまで処刑されてしまったら――それこそ一巻の終わりってやつだ」

「つーわけで、今回ばっかりは俺もマジに命懸けよ。俺たちはたとえ何人命を投げ打っても、必ずこの作戦を成功させなくちゃなんねえ」

「オレたちは駒だ。王を生かして死地から抜け出させるためのな」

「駒だなんて、そんな悲しいこと言うなよ」


 俺は駒という使い捨てのような言葉の響きから、ついそのように言ってしまった。王だけでなく、誰にでも同じように尊厳があると思ったからだ。けれど、デビッドは心外だとでも言いたげな顔をした。


「悲しいだと? 誤解してもらっちゃ困るな。駒に喜んでなるのが、兵隊ってもんなんだ。役に立つ駒になれるなら、これ以上の誉れはないさ。それに、オレたち一人一人の血と汗が未来への懸け橋となるんだ。こんなに素晴らしいことはないぞ」


 そう言ったデビッドからは、ルナトープの一兵士であることに対する歓びと誇りが強く感じられた。彼の希望と情熱に燃えた目を見たとき、俺は余計なことを言ってしまったんだなと思った。


「変なこと言って悪かった。確かに素晴らしいことだと思うよ」

「ハハ。そうだろう。まあオレだって、もちろん命は惜しいとも」

「死んだら女抱けねえしな」

「またお前はそんな邪なことを。亡くなった先輩たちに謝れ」

「へっ。お前、性欲舐めんなよ。生き物なんて結局ヤるために生きてると言っても過言じゃねえ。またヤろうと思うから生きられるし、殺れんだよ」


 なんだ、その名言もどきの猿発言は。俺はつい額を押さえた。


「お前はその辺正直過ぎるんだよ。ほら、ユウも引いてるだろ」

「あんまりうるせえと、この前貸してやったグラビア今すぐ返してもらうぜ」

「まて。それとこれとは話が別だ」


 デビッド。貴様も男だったか。


「ってかよ、あの表紙のアイドル可愛いよな。ぷるんぷるんの巨乳が最高!」

「そこは同意せざるを得ない」


 さわやかな声で拳を付き合わせ、ロレンツと意気投合するデビッド。お前ら仲良いな、おい。


「ユウも今度貸してやるか」


 え、俺に振ってきた!?

 まさかの展開に動揺した。

 どうする。ぷるんぷるんの巨乳か。いやない。俺はこいつらと同類じゃないし。そんなもの別にいらないし。ここは毅然と断るべきだ。でも、ぷるんぷるんの巨乳か。ちょっと興味あるかも。

 いやいや。俺はなるべくいつも理性的で落ち着いた、しっかりした人間でいたいんだ。昔から何かにつけて弱くて頼りない一面があって、感情的で動揺しやすいところがある。でもそれが嫌で、いつだって目標とする自分を目指して、努めて振舞おうとしてきただろう。それでようやく少しは自然に出来るようになってきたじゃないか。なのに、こんな下らないことで醜態を晒すわけには。それに「私」も見てるし。ああでも、ぷるんぷるんの巨乳か。


「…………頼む」

「ハハ! 正直で結構!」


 大笑いしながら近づいてきたロレンツに、肩をバシバシと叩かれた。

 俺も男だったか。


「そうそう。確か真ん中辺りに、男が夢見る女の子の奉仕特集ってのがあるから、ぜひそいつを身に付けて、女として俺に試して――」

「それは絶対しない」



 そんな感じで楽しく二人と雑談した後、次はマイナとネルソンに話しかけに行った。近寄ると、マイナが静かに温かな微笑みを向けてくれた。


「あらユウ。こんにちは。さっきはロレンツとデビッドと楽しそうに、何を話してたのかしら」

「はは。下らないことですよ」


 猥談をしていた後ろめたさからか、彼女が醸す妖艶な大人の雰囲気からか、自然に丁寧語になってしまった。


「私には何の用かしら」

「少しお話をしようかと思って」

「ふふ。いいわよ。でもせっかくだから、若い子たちともっと仲良くしてあげなさいな。私みたいな年寄りには、あまり構わなくって結構よ」

「いや、もう彼らとはそれなりに話したので。それにマイナさんもお若いですよ。大人の女性というか、綺麗だ」


 すると彼女は、まんざらでもなさそうな顔をした。


「あらあら。可愛い顔して、結構はっきり言うのね」

「正直に言っただけだよ」


 意識してタメ語に戻す。既に隊長のウィリアムとも普通に話してるのに、一人だけ丁寧語で喋るのも変かなと思ったので。


「まあ一応二十代ですしね。そうだ。ユウも必要なものがあれば、私に遠慮なく言ってちょうだいね。用意出来るものならばっちり用意させてもらうわ」

「うん。ありがとう」


 それから、彼女の横に佇んでいたネルソンにも話しかける。


「ネルソン」

「……なんだ」


 ネルソンは、面倒臭そうな声を上げた。


「少し話をしたいんだけど、いいかな」


 すると彼は少々申し訳なさそうに言ってきた。


「悪いな。普段何でもないことを話すのは、あまり得意ではない……」

「そうか。なら仕方ないね」


 あまり話をしたがらない人というのはいるものだ。嫌がるのを、無理に話すこともないだろう。


「うむ。まあしっかりやってくれ。君のことは、本当に頼りにしている」

「ああ。出来る限り頑張るよ」


 こんな調子で、主にマイナと会話を弾ませた。ネルソンは、自分の興味ある話題のときだけ、時々ぼそっと独り言のように呟いてコメントを入れてきた。案外、思ったことは言わずにいられない性格なのかもしれない。二人と色々と話しているうちに、休憩時間が終わった。

 再び演習が再開され、夜まで続いた。くたくたになるまで動き回った。大変だったけど、おかげでルナトープのメンバーとの息も合わせられたし、かなり仲良くなれた気がする。

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