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フェバル保管庫2  作者: レスト
人工生命の星『エルンティア』
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5「ナトゥラの首都 ディースナトゥラ 2」

 中央区から第四街区に戻って歩き回った末に、ようやく駅っぽい場所を見つけた。のはいいものの……

 これ、駅って呼んでいいの?

 図書館に引き続き、目の前には、またもや意外なものが映っていた。

 いかなる車両もレールらしきものもどこにもない。代わりに、多くの人や大きな物が一度に易々と通れるような、赤と青の巨大なアーチ状のゲートが、いくつも設置されている。

 地上だけではなく、空中にも車両用のゲートがあった。どのゲートも、中の空間は渦を巻くように歪んでいて、先が見通せなかった。


「第四街区一番地トライヴ」。標識には、そう記されていた。


 やっぱり駅じゃなかったか。だけど、どうやらここが、私の感覚でいう駅と同じ役割を果たしているようだった。

 そこでは、思わず目を丸くしてしまうような光景が、繰り広げられていたのである。

 複数の赤いゲートには、それぞれ違う行き先が記されていた。地上の赤いゲートの中へ人々が、空中の赤いゲートへ車が次々と入っていく。すると彼らは、完全にそこへ入ったところで、忽然と姿を消してしまった。

 一方で、青いゲートからは、歪んだ空間から続々と人々や車が出てくる。

 彼らは当たり前のように赤いゲートに消えていき、青いゲートから現れる。まるで、手品か何かでも見ているかのようだった。

 これって、もしかして……

 確信が持てないまま、だが何となくそんな予感がしつつ、私は好奇心から、ふらふらと赤いゲートのうちの一つへと歩み寄っていた。

「第五街区一番地行き」。ゲートの上にはそう記されている。

 私は勇気を出して、ゲートの中へ飛び込んでみることにした。


 一瞬、目の回るような浮遊感があったかと思うと、次の瞬間には、何事もなかったかのようにゲートの外へ抜け出ていた。

 少し前に歩いてから改めて振り返ると、やはり青いゲートから出てきたのだとわかった。

 ゲートの上には、「第五街区一番地」と書いてある。

 どうやら私は、一瞬で移動したみたいだ。辺りを見回すと、確かに先程までいた場所とは、すっかり様子が違っていた。もう間違いなかった。

 やっぱり。ワープゲートだ!

 信じられないことに、どうやらこの世界には、離れた二地点同士を繋いでしまう技術があるらしい。

 これまでも転移魔法という便利なものは知っていたけど、それと同じような効果を、技術により、ゲートという安定していて、かつ誰にでも利用出来る形で実現するなんて。恐ろしい科学力だ。

 と、そうだった。感心している場合じゃなかった。この辺りに地図はないのかな。

 探してみたらあった。ありました。

 また指を差し込む穴があって、地図や周辺の情報等をインストール出来ますとの案内が書かれた機械が、壁に設置されていたのをね……

 もう! これだから機械社会は!

 目の前に欲しいものがあるのに、手が届かないもどかしさにいらいらしながらも、もう仕方ないと腹を括ることにした。

 こうなったら、時間はかかるけど、片っ端からこのトライヴとかいうワープゲート施設を利用しよう。

 これで移動を繰り返し、全てのゲート間の繋がりと、トライヴ周辺の様子だけでも把握しておくのだ。全てのトライヴという点を結んでいけば、都市の全体像もおぼろげながら浮かび上がってくるはず。


 そう決意して、執念で実行に移すこと数時間。日も落ちかけてきたところで、ようやく私は、ディースナトゥラのごく大雑把な地図(脳内自主作成)を手に入れることに成功した。

 どうやらディースナトゥラは、中央区を中心に綺麗な円状に広がっており、第一街区から第十二街区まで、北から時計回りに区切られているようだ。さらに、それぞれの街区は、内側の一番地から外側の十五番地まで、順にほぼ等間隔で分かれている。

 トライヴは各街区の各番地にそれぞれ一つずつ存在し、隣同士の街区、あるいは隣同士の番地を繋いでいる。

 面積が広くなる外側の番地では、トライヴだけでは間隔が広過ぎて数が足りないので、ビクトライヴというより小型のワープゲートがその間を補っている。

 こうして全体を結んでみることで、浮かび上がってきたのは、高い対称性と統一感を持つ、美しく煌びやかな未来都市の姿だった。相当にコンセプトの明確な都市計画に則って、入念に開発されたのであろうことを十二分に窺わせるものである。

 ちなみに、中央区に繋がるトライヴやビクトライヴはなぜか一つも存在しなかったのだが、これはセキュリティ上の観点からだろうか。簡単に移動が出来ないようになっているみたいだ。



 さて。私は今、町をぐるっと一周して第五街区の第十五番地、つまり最も外側にいる。

 私がこんな町外れにいる理由は明白。いい加減お腹空いた。

 どうやら私の懸念は、当たってしまったみたいだ。どこ探しても食料なんか一つも置いてなかった。

 こうなったら町の外に繰り出して、自力で食べ物を探すしかないと、そう考えてここまでやって来たのだ。

 そして、まさか町の端っこが、こんなとんでもないことになってるなんて思わなかったよ……

 私は、ぽかんとしたままそれを見上げていた。

 なんと、都市の端は全て、高さが優に五十メートルはあるであろう分厚い白銀色の壁によって、取り囲むように覆われていたのだ。

 外部とは完全に仕切られていて、蟻一匹通れそうな隙間もなかった。壁はつるつるで、手を引っ掛けるような場所も一切なく、おまけに叩いてみたところ、とにかく硬いときたものだ。

 どう考えても、今の私には、破壊することも登ることも出来そうになかった。

 だが、全く出口がないのかというと、そんなことはなかった。

 いくつか門があって、その前には簡易な造りの関所があり、人や車がチェックを受けて通行しているのが見えた。彼らが通る少しの間だけ門は開き、それ以外のときはぴたりと閉じている。

 私もそこへ行ってみることにした。


「こんにちは」


 無愛想でいかつい顔をした男の検査官に愛想良く話しかけると、彼はぶっきらぼうに返事をした。


「用件はなんだ」

「町の外へ出たいのですが」


 すると、彼はとんでもないことを要求してきた。私は外れ者だと、再び思い知らされた瞬間だった。


「外出か。では、製造番号がわかるものを提示しろ」


 なっ!? 製造番号だって!?

 そんなものあるわけないでしょ! 私、製造されてないし!

 内心そう叫びたい衝動に駆られながら、私はどうにか笑顔を貼り付けて答えた。


「すみません。ちょっと今、持ち合わせがなくて……」


 検査官の男は、素っ気ない口調で言った。


「ならば、ここを通すわけにはいかんな」

「少しの間だけでいいんです。何とかなりませんか?」


 上目遣いで、精一杯甘えた声で必死に頼んでみる。もしかしたら多めに見てくれないかと期待して、女としての魅力を最大限活用してみた。

 だが、やはり無駄だったようだ。


「無理だ。そういう決まりになっているのだ」


 ダメだ。通じない。役所仕事め。

 もう諦めるしかなかった。別に彼は本来の職務を忠実にこなしているだけで、全く非はないのだが、死活がかかってる私が多少毒吐いてしまうのは仕方ないだろう。

 

「そうですか……わかりました……」



 図書館に引き続き、肩をがっくりと落として関所を後にした私は、かなり激しい焦りを感じていた。

 まずい。本当にまずいことになった。完全にこの町に閉じ込められた!

 まだまだ何も食べられないとわかると、お腹は正直にきゅるきゅると鳴った。こうなると知っていたら、直前に何か食べてからこの世界に来れば良かったな。

 空も暗くなってきた。ほんとどうしよう。どうにかして食べ物を確保しないと。

 だが、すっかり行く当てもなくなってしまった。とりあえず何かないかと探しながら、ふらふらとその辺を歩く。辺りには、仕事帰りと思われる人たちもちらほら現れ始めた。

 やがてビジネス街に差し掛かったとき、近くのビルにかかっていた大きなモニターで、ニュースをやっているのが見えた。

 へえ。この世界も、テレビは普通なのか。

 そんなことを思いながら、何となくモニターを眺めたとき、まるで図ったようなタイミングでそれは流れた。


「続いてのニュースです。本日十二時頃、第三街区五番地に、ヒュミテの男が突然現れるという事件がありました」


 ――画面には、顔写真付きで手配された「俺」の姿があった。

 生死問わず。懸賞金十万ガル。そこにはそう映し出されていた。


「嘘でしょ……?」


 思わず、小さく声が漏れた。もちろんこっちの事情など知る由もないテレビの女性アナウンサーは、淡々とした口調で続けた。


「男は、現場に駆けつけたディークラン隊員十数名に暴行を加えた上で逃走。男は十代後半と見られ、中肉中背で、犯行時は青いジーンズと緑のジャケットを着用していました。男が不法侵入したルート及び動機は、未だ不明です。ディークランでは、総力をもって捜査に当たるとともに、この男に懸賞金十万ガルを懸けて市民からも情報を募っています。一刻も早く男を処刑出来るよう、全力を尽くすとのことです。では、次のニュースです――」


 もう何も耳に入らなかった。頭がくらくらしてきた。

 まさか、ここまで本気で命を狙ってくるなんて。

 初日から、波乱万丈の幕開けにもほどがあった。機械人だらけの大都市で、たった一人。果たして私は、この世界で無事に過ごせるのだろうか。

 彼方にそびえ立つ、大都市の外壁を睨みつけた。今やディースナトゥラという町は、私を徐々に追い詰める巨大な檻にしか思えなかった。

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