表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェバル保管庫2  作者: レスト
人工生命の星『エルンティア』
107/279

3「世界の様子を探る旅」

 私は今、第四街区の大通を歩いている。

 大通に出るとお店が増え、建物もさらに立派なものが増えた。頭上ではたくさんの車が忙しなく飛び交っており、車の走る高さに合わせて、信号らしきものも宙に浮いていた。

 その代わり、地上には信号や交通標識の類は一つもなく、全ては歩行者のために設計されていた。商店街でも祭の最中でもないのに、車が通れそうなほど広い道の真ん中を堂々と人々が歩いている。そんな光景が当たり前なのだ。駐車場は専ら屋上にあるようで、時々車が建物の上に下りているのが見えた。

 人々が歩きながら、あるいは立ち止まって話をしている姿は、実に感情豊かだった。不自然な点は一切感じられない。

 どのような人たちがいるのか、歩きながらざっくり眺めたところ、男の姿をした者と女の姿をした者が半々ずつという感じだった。顔、声や身体の大きさ、目や髪の色は様々だが、肌の色は総じて白く、体型も割合画一的である。少なくとも、極度の肥満体型や痩せ過ぎは見受けられない。

 年寄りのような姿をした者は一切見かけなかったが、子供の姿をして子供らしく振舞っている者がそれなりにいた。その近くには、親と思しき者がいることが多かった。親子で仲良く手を繋いでいる姿は見ていて微笑ましいものがあったが、彼らは果たして本当に親子なのだろうか。

 こうして外から見ると、ほんと人間と何も変わらないように見えるけど、この人たち、全員ナトゥラとかいう機械人なんだよね。信じられないことに。

 一体どんな技術力と、いかなる事情があれば、機械人だけで溢れた大都市が出来るのだろうか。あまりの光景に、感心を通り越して呆れてしまう。つい溜め息が漏れた。

 何だかとんでもない世界に来ちゃったな。ここにいる生身の人間は、どうやら私一人だけで。正体がばれたら命を狙われて、下手すれば殺される。いきなり大変なことになってしまった。

 ともあれ、女でいる限りは、目立つことをしなければ上手く周りに溶け込めそうだった。まさか私に気力が全くないことが、こんなに役に立つ日が来るとは思わなかった。

 けれどよく考えてみれば、私に気力がないこと、そして「俺」に魔力が全くないことが身を助けたのは、これが初めてではない。サークリスやイスキラでも、この一見すると欠点にしか見えない特性に、何度か窮地を救われている。単純に力はあればあるだけ良いというわけではないのが、面白いというか何というか。


 歩いている途中でベンチを見つけたので、座って休むことにした。さすがにベンチまで無駄にハイテクということはなかったが、素材は建物の一部に使われていたのと同じプラスチックのような見た目をした、軽くて丈夫そうなものが使われていた。

 さて、これからどうしようか。

 私は新しい世界に来たとき、そこで何をするかということを考えるようになった。ただ無難に日々を過ごすのもいいけど、どうせならその世界の旅をなるべく楽しみたいと思っている。出来るだけその世界の人々やものと関わっていきたいし、そこでやりたいことが見つかればやっておきたい。思い出を残していきたい。

 そして、サークリスのときみたいに、もしその世界で何か問題があって、自分にやれることがあるならしたいとも思う。たとえそれが、危険なことや命をかけるようなことであってもだ。だけどそうするのは、別に義務感や使命感からではなく、あくまで私自身の良心と生き方によってである。

 各世界における様々な問題の中には、デリケートなものもある。そこに部外者である私が、首を突っ込んでいいのか。それはわからない。

 もちろん自分のやることが絶対に正しいとは思わないし、いつも誰かを助けられるなんて傲慢な考えは持っていない。自分が介入したことで、かえって事態が悪化するかもしれないし、誰かに恨まれるかもしれない。

 大きな力を持つからには、それをもって正しいことを為す義務が生じるなんて正義漢ぶった考えもない。まああまり変なことをしないように気をつけようとは思うけど。

 私は世界の渡り人、フェバルだ。あまり実感したことはないが、この世の条理を覆す力を持っているらしい。

 でも、そうである以前に一人の人間だとも思う。そこが基本だし、そこを忘れないでいたい。

 だから私は、あくまでただ一人の人間として、手前勝手な価値観と意志をもってやることは決めるし、立つ位置も決める。自分のした選択が正しかったかどうかは、後になるまではわからないけど、全知全能の神じゃないんだ。人間ってそういうものだと思うし、それでいいと思う。

 まあ色々理屈をこねくり回したけど、要するに自分の良心に従ってやりたいようにやる。それが今の私のスタンスだ。

 それで、どうするかな。今までみたいに、大草原とか大荒野とか大海原の上に降り立ったとかなら、まずは無事に人里まで辿り着くことが目標になるんだけど(というか、毎回ろくな場所に降り立ってない気がする。運が悪いのかな)、今回はそこは自動的にクリアされた。


 となると、次の課題はどうやって生活していくかだ。今回はむしろこっちが問題な気がする。

 本当なら、この世界の人たちとも普通に知り合って、交流を作りながら生活の基盤を探すつもりだったけど、周りはナトゥラばかりだから、そう簡単にはいかないかもしれない。女として、生身の人間であることがばれないように慎重に接触を図る必要がある。上手くやれるかな。ちょっと心配だ。

 いや、別に無理にナトゥラと接触せずに、一人でサバイバルしながら生きていってもいいんだけどね。レンクスとかよくそうしてるみたいだし。でもなあ。

 あいつのホームレスみたいな生活の話を聞いていると、なんかなあって思うんだよね。変なもの平気で口にするし、薦めてくるし。

 うん。あいつを見習っちゃいけない。やっぱり文明人である以上、なるべく社会で生きていく努力をすべきだと思う。どうしても無理なら、仕方ないけど。

 というか、その気になれば絶対どうとでも出来るはずなのに、あえて何もしないあいつはどう考えてもダメ人間だ。

 ――ん、待ってよ。

 ここでかなりまずいかもしれない事実に、ふと気がついた。普通に働いて稼ぎつつ暮らすというまったりプランを、根底から揺るがす事実に。

 そもそも機械人たちは、まず食事を取るのだろうか。機械人だから動力となるエネルギーを補充するとかで、何となく食べ物は取らないような気もする。

 だとすると、最悪この町に一切の食糧が置いてないというケースも考えられる。そんなものなど必要ないからだ。その場合は、この町の外に出て食糧を自力で確保しなければならない。

 もしかして、ここでいくら稼いだところで、結局サバイバルになってしまうのか?

 そういえば、今まで見回したお店の中に、食料品スーパーのようなものが一つもなかった。これはもしかしてもしかするのだろうか。ちょっとやばいかもしれない。

 まだお腹は大丈夫だけど、空腹で動けなくなる前にこの町に食べ物があるのかきっちり調べて結論を出す必要があるかな。

 もし仮にサバイバルになるとしても、通常サバイバルで最大の問題となる飲み水だけは、《ティルタップ》で安全に確保出来るのが救いか。魔法を覚えていて本当に良かったよ。

 まあ生活のことは、またじっくりと街を見て回りながら考えることにしよう。

 それよりも、今気になっているのは機械人ナトゥラ、そしてヒュミテという別の存在についてだ。

 ヒュミテの方はまだ直接は見てないが、ナトゥラたちの言葉から、間接的に情報が得られている。ここまで、彼らに関して得られた情報をざっと整理してみよう。


1.私が彼らと勘違いされるほどよく似ている。

2.生命反応を持つ普通の生物らしい。

3.リルナによれば、ナトゥラはヒュミテに似せて作られた。

4.ナトゥラに激しく憎まれている。


 こんなところかな。これらのことから判断するに、ヒュミテとはおそらく、この世界の「普通の」人間のことで間違いないだろう。そのヒュミテというのは、なぜあんなにナトゥラに憎まれているのだろうか。こっちはそのせいで、いきなり殺されそうになったわけで。

 ナトゥラそのものが人類を脅かす凶悪な存在であるならば、話は簡単だ。だがどうもそうは思えない。むしろこうして見ている限り、彼らは善良な市民そのものだ。それがヒュミテを見た途端、あそこまで豹変するなんて。どうやらただ事ではない事情がありそう。

 機械人だらけの巨大都市。不法侵入しただけで、即死刑にされてしまうほど忌み嫌われる人間たち。どうにもきな臭い予感がする。

 ――よし。決めた。

 今回は生活をしながら、世界の様子を探ることから始めることにしよう。特に、ナトゥラとヒュミテの関係を中心に調べていく。まずはこの現状に至った背景を知りたい。知ってどうなるというものではないかもしれないけど、やっぱり気になるからね。そこから先は、またそのときに考えよう。


 ウェストポーチから、前にレンクスからもらった世界計を取り出して、この世界における残り滞在期間をチェックする。

 約半年か。これまでで一番期間は短いね。でもまあ、これだけ時間があれば、色々わかるだろう。

 方針を決めると、よし、とぐっと小さく拳を握り締めて、気合いを入れた。すぐに立ち上がって、また歩き始める。まずはこの未来都市を調べることからだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ