エピローグ「アリスの手紙」
『月日が流れるのは早いもので、あなたがいなくなってからもう六年が過ぎました。
あたしは今、故郷のナボックで夢だった魔法教室の先生をしています。魔法が大好きな子供たちに囲まれて、幸せな毎日を送っています。
ミリアはね、なんと外交官になりました。得意の話術を駆使して、諸外国とバチバチやり合っているみたい。あんなに人見知りだったミリアが外交官って、ほんと凄いよね。
アーガスはオズバイン家の次期当主として、家の建て直しと、一連の事件で混乱したサークリスの再建に取り組んでいます。彼ならきっとまた、素晴らしい剣と魔法の町にしてくれると思うわ。
イネアさんは相変わらず、気剣術科の講師をやっています。でも、少し変わったところもあるのよ。あれからイネアさんの戦いぶりに見惚れて、気剣術を習いたいという申し出が増えたんですって。さすがイネアさんだよね。
カルラさんは、罪を償うために刑務所で服役しています。最初は死刑も取り沙汰されたんだけど、サークリスを守るために戦ったことが評価されて、懲役十五年で済みました。
なんとね、あの犬猿の仲だったアーガスが、カルラさんのために必死になって動いてくれたんだよ。大貴族の立場を使って、死刑だけは止めてやってくれって、裁判官に頭まで下げて。それが決め手になったの。今じゃあの二人、昔では考えられないくらいすっかり仲良くなっちゃってて。信じられないでしょ?
ケティさんは、サークリスの魔法道具屋で働いています。時々カルラさんのところへ面会しに行って、相変わらず仲良くやっているみたいです。
ところで、今度の星屑祭に、久しぶりにみんなで会うことになりました。今から楽しみで仕方ないの。
ただ、あなたがいないことだけが、やっぱり少し寂しいです。
ねえ、ユウ。あなたは今どこで、何をしているのかな。また無理をしていなければいいけど。きっと元気でやっているよね。
書きたいことはまだまだたくさんあるけど、とりとめがなくなりそうだから止めておきます。でも、これだけは言わせて下さい。
あたしたちは、どんなに離れたって、ずっとずっと親友だからね!
大好きなユウへ アリスより』
「これでよし、と」
あたしはそっと筆を置き、書き上げた手紙を丁寧に折って、一つの形にしていく。
出来上がったのは、紙飛行機。あたしはそれを、空へ向けて飛ばすつもりだった。
外へ出て、右手にそれを大事に持って構える。
どうか、あの空の向こうまで届きますように。せめて手紙に込めた想いだけでも、届きますように。
あなたの大好きな、風魔法に乗せて。
「いっけーーーーーー!」
思い切り投げた紙飛行機は、風に乗って勢いよく上昇していく。やがて遥か空の彼方へと、吸い込まれるようにして消えていった。
「――うん。よく飛んだわ」
あたしはそれを見届けると、そのまましばらくぼんやりと空を眺めた。どこまでも続くエメラルドグリーンの空は、雲一つなく晴れ渡っていた。
「アリスせんせい。なにしてたの?」
声に振り返ると、幼い女子生徒のエイミーが、きょとんとした顔で立っていた。あたしはしゃがみ込んで、彼女の目線に合わせて言った。
「大切な人にね。想いを送ったのよ」
すると、彼女は途端に目をキラキラと輝かせ始めた。
「いいなー。わたしもやる! おかあさんにおくるのー!」
「素敵なことね。いいわよ。一緒にお手紙作りましょう」
「うん!」
彼女はとたとたと、頼りない足取りで教室へ走っていく。あたしはその様子を、微笑ましい気分で見つめた。
「よーし! ぼちぼち張り切っていこっか!」
ふとまた見上げると、空の向こうで、誰かが微笑んでくれたような気がした。




