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フェバル保管庫2  作者: レスト
剣と魔法の町『サークリス』 後編
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エピローグ「アリスの手紙」

『月日が流れるのは早いもので、あなたがいなくなってからもう六年が過ぎました。

 あたしは今、故郷のナボックで夢だった魔法教室の先生をしています。魔法が大好きな子供たちに囲まれて、幸せな毎日を送っています。

 ミリアはね、なんと外交官になりました。得意の話術を駆使して、諸外国とバチバチやり合っているみたい。あんなに人見知りだったミリアが外交官って、ほんと凄いよね。

 アーガスはオズバイン家の次期当主として、家の建て直しと、一連の事件で混乱したサークリスの再建に取り組んでいます。彼ならきっとまた、素晴らしい剣と魔法の町にしてくれると思うわ。

 イネアさんは相変わらず、気剣術科の講師をやっています。でも、少し変わったところもあるのよ。あれからイネアさんの戦いぶりに見惚れて、気剣術を習いたいという申し出が増えたんですって。さすがイネアさんだよね。

 カルラさんは、罪を償うために刑務所で服役しています。最初は死刑も取り沙汰されたんだけど、サークリスを守るために戦ったことが評価されて、懲役十五年で済みました。

 なんとね、あの犬猿の仲だったアーガスが、カルラさんのために必死になって動いてくれたんだよ。大貴族の立場を使って、死刑だけは止めてやってくれって、裁判官に頭まで下げて。それが決め手になったの。今じゃあの二人、昔では考えられないくらいすっかり仲良くなっちゃってて。信じられないでしょ?

 ケティさんは、サークリスの魔法道具屋で働いています。時々カルラさんのところへ面会しに行って、相変わらず仲良くやっているみたいです。

 ところで、今度の星屑祭に、久しぶりにみんなで会うことになりました。今から楽しみで仕方ないの。

 ただ、あなたがいないことだけが、やっぱり少し寂しいです。

 ねえ、ユウ。あなたは今どこで、何をしているのかな。また無理をしていなければいいけど。きっと元気でやっているよね。

 書きたいことはまだまだたくさんあるけど、とりとめがなくなりそうだから止めておきます。でも、これだけは言わせて下さい。

 あたしたちは、どんなに離れたって、ずっとずっと親友だからね!

 大好きなユウへ アリスより』



「これでよし、と」


 あたしはそっと筆を置き、書き上げた手紙を丁寧に折って、一つの形にしていく。

 出来上がったのは、紙飛行機。あたしはそれを、空へ向けて飛ばすつもりだった。

 外へ出て、右手にそれを大事に持って構える。


 どうか、あの空の向こうまで届きますように。せめて手紙に込めた想いだけでも、届きますように。


 あなたの大好きな、風魔法に乗せて。


「いっけーーーーーー!」


 思い切り投げた紙飛行機は、風に乗って勢いよく上昇していく。やがて遥か空の彼方へと、吸い込まれるようにして消えていった。


「――うん。よく飛んだわ」


 あたしはそれを見届けると、そのまましばらくぼんやりと空を眺めた。どこまでも続くエメラルドグリーンの空は、雲一つなく晴れ渡っていた。


「アリスせんせい。なにしてたの?」


 声に振り返ると、幼い女子生徒のエイミーが、きょとんとした顔で立っていた。あたしはしゃがみ込んで、彼女の目線に合わせて言った。


「大切な人にね。想いを送ったのよ」


 すると、彼女は途端に目をキラキラと輝かせ始めた。


「いいなー。わたしもやる! おかあさんにおくるのー!」

「素敵なことね。いいわよ。一緒にお手紙作りましょう」

「うん!」


 彼女はとたとたと、頼りない足取りで教室へ走っていく。あたしはその様子を、微笑ましい気分で見つめた。


「よーし! ぼちぼち張り切っていこっか!」


 ふとまた見上げると、空の向こうで、誰かが微笑んでくれたような気がした。

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