センターは誰だ
そう言われて、まだセンターについて決めていなかったことに気付く紗夜香。アイドルに詳しくない美空が佑香に対し素朴な疑問を口にする。
「センターって真ん中に立つ人のこと?」
「うん。アイドルグループってセンターがだいたいイコールリーダーなんだ。振り付けもセンターだけ違うことが多いし」
「そういえば、キャンストのダンスも、アタシも佑香も美空もみんなセンターの人の振り付けだけ見て練習してた」
「そう、だから本当はそれぞれのポジションで練習しないといけないと思うんだ」
玲の言葉に答えた佑香が、紗夜香の方を見る。意見を求められたと受け止めた紗夜香が口を開く。
「先輩達のときは、三浦先輩が他の二人を誘ったのがアイドル同好会ができたきっかけだったから。自然とセンターは三浦先輩になったわ」
「うーん、ウチらは最初にさやさや先輩に声掛けたんがウチだからなぁ。ウチがセンターやるわけにもいかんし」
そう話して悩む亜紀と紗夜香と佑香。しかし、美空と玲の心は決まっていた。
「私達のセンターは、佑香ちゃんで決まりだと思うよ」
「うん、アタシもセンターは佑香だと思う」
その二人の意見にびっくりする佑香。あわてて否定の意思を伝えようとする。
「ええ? わたしはないよ! わたしはみそらちゃんみたいにダンス上手じゃないし、れいちゃんみたいに歌うまくないし」
「佑香ちゃんさっき言ってたよね、センターはリーダーでもあるって。私達三人でいつも最初の一歩を踏み出してくれるのは佑香ちゃんなんだ。佑香ちゃんが初日に仮入部するって言わなかったら私は別の部活に入ってたかもしれない」
「アタシを誘ってくれたときも、最初に声を掛けてくれたのは佑香だった」
二人にそう言われて、黙り込んでしまう佑香。紗夜香が促すように話す。
「多数決なら二票で佑香ちゃんに決まりね。もちろん拒否する権利はあるけど、佑香ちゃん自身の気持ちはどうなの?」
「えっと……」
佑香はまだ少し困惑しながらも話す。
「わたしは、みそらちゃんやれいちゃんの方が特技も長所もあるししっかりしてると思います。ただ、二人がわたしでいいって言ってくれるのなら、頑張ってみようかなと思います」
「うん、佑香ちゃんお願い」
「佑香がセンターなら、きっとうまくいく」
そう言って頷く美空と玲。照れる佑香が、気恥ずかしさからとりあえず何か話そうと口を開く。
「じゃ、しばらく家に帰ってからユメノツバサの振り付けを考えてくるね。あきちゃん、音源と歌詞カードのデータ貸してもらえる?」
「おう、まかしとき。今日中に作って明日には持ってくるわ。あ、そうだ」
何かを思い出した亜紀。
「ゆかっち、振り付けだけど、一箇所だけウチに口出しさせてえな。ここはこういう振り付けで、ってイメージしながら作った箇所があるさかい」
「うん、わかったよあきちゃん!」
「じゃ、佑香ちゃんが新曲の振り付けを決めるまでの間に、美空ちゃんと玲ちゃんはキャンストをマスターしちゃいましょう」
「はい!」
その後まもなくして、世間はゴールデンウィークに入った。北海道のゴールデンウィークは、本州から遅れること約一ヶ月、桜の花見のシーズンとなる。ソメイヨシノの他に赤みの強いエゾヤマザクラという固有種も咲き、家族や友人同士で短い花見の期間を楽しむ。
そのため、アイドル同好会も、練習は強制ではなく家族旅行などがある場合はそちらを優先、という話にしていたが、結局三人とも毎日練習に参加していた。
「うちはお店やってるんでゴールデンウィークはかき入れ時だし」
「昔から休みの日は練習してたから特に家での予定は無いです」
「ゴールデンウィーク関係なく両親とも仕事だろうから……」
と言う佑香、美空、玲だった。紗夜香と亜紀は家族のために休みをそれぞれ一日ずつ取ったが、ずらして取ったため、常にどちらかは三人の練習に付き添える形になっていた。
★
「♪届けみんなへ 魔法のストーリー」
キャンストを歌い終わった三人が、最後のポーズを決める。ラジカセを止めた紗夜香が拍手で三人を迎える。
「お疲れ様。もう三人ともキャンストは歌も踊りも覚えたみたいね。あとは本番へ向けて『魅せる』歌い方や踊り方を研究していきましょう」
「ありがとうございます」
亜紀が持ってきたタオルで汗をふきながら美空が答える。玲はまだ一曲を通して踊るのが辛そうで、スポーツドリンクをごくごくと飲んでいる。
佑香が、やって来た紗夜香と亜紀に話し掛ける。
「あ、さやか先輩、あきちゃん。このあといいですか? ヒカリノツバサのダンス案ができたんですけど」
「おお、早いなゆかっち!」
「私は構わないけど、これからビデオカメラを取りに学校まで戻ってからもう一度だと、陽が暮れちゃうわね。明日の休み、全体練習は予定通り午後からで、午前中に私と佑香ちゃんと亜紀ちゃんで集まってダンス撮影をする形でどうかしら?」
「ウチは大丈夫でっせ」
「はい、わたしも大丈夫ですっ」
その話を聞いていた美空が玲に話し掛ける。
「佑香ちゃんさすが仕事が早いね。オリジナルダンスってどんなのだろう」
「あまり動きが激しくない方がいいけど、アタシの体力よりも見栄え優先だよ、ね」
★
そして翌日。佑香は約束通り午前中に学校に来て、紗夜香と亜紀と一緒にダンスの撮影を行った。昼過ぎになって美空と玲がやって来る。
「みそらちゃん、れいちゃん、おはよう!」
「おはよう、佑香ちゃん」
「ダンス、できたの?」
「うん、バッチリ! かどうかはわからないけど、今亜紀ちゃんに編集してもらったところだよ」
部室のPCの前では亜紀が動画の編集を行っていた。横で紗夜香がその様子を見ている。
「亜紀ちゃん音楽だけじゃなくて動画編集も詳しいのね。助かったわ」
「そんな難しいことしてはりませんから。ただ、このPCじゃ動画編集するとすぐメモリ不足になってしまいますねん。きちんとした編集やるときは家でやった方がいいですわ」
モニターに集中していた亜紀が、一息ついたタイミングで美空と玲が来たことに気付く。
「お、おはようさん二人とも。バッチリできたで、ゆかっちのキューティーダンス講座」
「亜紀ちゃんお疲れ様。早く見たいな」
「うん」
「よし、じゃみんなモニタ見える位置に座ってえな」
動画の準備をする亜紀の横で、佑香が説明をする。
「えっとね、最初の位置で向かって左がれいちゃん、右がみそらちゃんだよ。途中で左右入れ替わったりするから、ジャージそのまま着ているのがれいちゃん、袖をまくっているのがわたし、ジャージの上を着ていないのがみそらちゃん、って覚えて」
「うん」
「わかった」
亜紀の方の準備ができたようで、PCのモニタに動画が映し出される。河川敷の芝生に、佑香が三人並んでいる。突貫工事で作ったらしく、三人の境目は芝生がずれていたりしたが、ダンスを確認する分には問題ない。説明があったように、それぞれジャージの着方が異なっている。
「わあ、自分が三人並んでるってヘンな気持ち」
「三つ子のアイドルみたい……」
玲が何気なく言った一言がツボにはまったらしく、佑香が腹に手を当てて笑い出す。急に笑い出す佑香に困惑する玲。
「え、アタシ、そんなに変なこと言った?」
「いや、自分がもし三つ子だったらと想像したらなんだか可笑しくなっちゃって……」
笑いすぎて涙目になる佑香。このままじゃ話が終わらないと思った亜紀が会話に割って入る。
「ええか? それじゃ始めるで」
そう言って亜紀が再生ボタンをクリックした。




