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お菓子職人の成り上がり~天才パティシエの領地経営~  作者: 月夜 涙(るい)
第四章:感謝と友情のクラウン・チョコレート
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第一話:ピナルの蜂蜜ケーキ

「ティナ、クロエ、準備はいいな」

「任せてください、クルト様!」

「わたしもオッケーだよ。クルト」


 俺たち三人は、俺の家の厨房に集まっていた。

 目的は、お菓子作り。

 フェルナンデ辺境伯が統治しているエクラバの街に、店を出す。

 その主力商品を今から作るのだ。そして後日、村のみんなを相手に試食会を開く。


「ねえねえ、クルト、何を作るの」


 エルフのクロエが、興味津々といったようすで問いかけてくる。


「日持ちがするクッキーとドライフルーツケーキの二つだね、これが主力商品になる。ドライフルーツケーキから作ろうか」


 俺は、その二つをメインに考えていた。

 どちらも香ばしい焼き菓子だ。


「ええ、わたしはもっとふわふわで柔らかくてクリームたっぷりのがいいなー」

「そういうのは腐り易いからね」

「いいじゃん、全部作ったのをその日のうちに売っちゃえば」

「そういうわけにはいかないよ」


 俺は苦笑する。

 生菓子はすぐに駄目になる。

 ましてや、この時代はろくに冷蔵設備がない。

 買う側も、お土産などには使いにくいし、万が一腐らせて客がお腹を壊せばめんどくさいことになる。

 加えて売る側としても問題があるのだ。


「実際のところ、最初はどれだけ商品が売れるか予測がつかないんだ。出だしで品切れなんて悪印象を与えて最悪だから多めに用意しないといけない。そうなると、大量に生菓子を作るのはすごくリスクが高い。それにね、柔らかくてつぶれやすいから、スペースもとる」


 来週、一度店の視察に行く予定だ。

 そこで実物を見つつ、内装の工事を指示する。

 だから、積み重ねても大丈夫で少ないスペースに大量に保管できることが望ましい。


「残念、つまみ食いできると思ったのに」

「ちゃんと焼き菓子も美味しいのを作るからさ。そっちはちゃんと試食させてあげるよ」


 俺も焼き菓子は得意だ。

 そもそも、現実の洋菓子店などでも、利益のほとんどは生クリームたっぷりのケーキなどではなく、焼き菓子だ。


 さきほど説明したとおり、消費期限がながくロスが少なく、作り置きできる。さらに原価も低いというのが理由だ。

 だからこそ儲けがでる商品に力を入れる。焼き菓子が看板商品の店はまず潰れない。


 俺のレストランでも、特製のドライフルーツのケーキは人気商品でレストランで食事を楽しんだ客は、お土産に買って行ってくれた。


「さて、はじめようか。特製のドライフルーツケーキを」


 俺はにっこりと微笑む。

 俺のドライフルーツケーキは、ドライフルーツを使わない。

 何を言っているかわからないと思うかもしれない。

 ドライフルーツケーキというのは、保存が利くように加工した果実を使ったケーキだ。


 つまり、保存が利けば乾燥させる必要がない。

 四大公爵のレナリール家に行く前に用意していたものをとりだす。


「クルト様、それって」

「ああ、ピナルの蜂蜜漬けだよ。こいつは日持ちするんだ」


 そう、ドライフルーツの代わりに果実の蜂蜜漬けを使う。

 蜂蜜漬けは優れた保存食だ。

 瓶に密封している状態だと一年ほど持つし、瓶から出しても蜂蜜の優れた殺菌成分のおかげで一か月はもつ。


「ピナルを使うんだ。クルト、精霊の村の、ピナルを使ってまずいお菓子ができるわけないよね」

「クロエの言う通り、このピナルは本当にすごいよ。美味しいだけじゃなくて食べると元気になる」


 ピナルは桃に似た果実で、精霊の里でエルフたちの祝福を受けながら育っている。

 かつて、村を救ったお礼にと精霊の里でとれたピナルの何割かが毎年贈られてくる。

 これを使わないわけにはいかない。


 なにせ、原価がただかつ、素晴らしい食材。

 大量に蜂蜜漬けにすることで、一年中提供できるのもいい。

 俺はピナルの蜂蜜漬けを薄くスライスする。


「生地を作っていこうか」


 作り方はさほど難しくない。

 村で採れたての卵、それにクルミ油、それにピナルの蜂蜜漬けでピナルを漬けていた蜂蜜をたっぷり入れて混ぜ合わせる。


 砂糖ではなく、ピナルを漬けていた蜂蜜を使うとほんのりとピナルの香りが生地全体に行き渡るし生地がしっとりする。さらに酒を加えて香りづけ。

 そこに、小麦粉と山芋を投入し滑らかになるまでさらに混ぜ合わせる。


「よし、これで生地は完成だね」

「クルト様、すごく簡単ですね」

「じゃないと、大量生産できないだろう。ただ、材料の配分で、美味しくもまずくもなるから、そこは経験が必要だね」


 俺はにっこりと笑い、生地をオーブンに入れる。

 ティナに、火加減を指示して彼女に焼き上げてもらう。

 俺は逐次、指示をだす。


 将来的には、俺がその日ごとの材料の配分を決めて、あとは村人たちに生地を作ってもらい、ティナに焼きを任せるつもりだ。

 なるべく、はやくこの村の産業としたい。俺は領主としてたくさんの仕事があるので、かかりっきりになるわけにはいかないのだ。


「よし、焼き上がりだね」

「はい、すごくいい匂いが漂ってきます」


 型から取り出すとこんがり焼けた長方形のパウンドケーキが完成した。


「あっ、クルト、もしかしてピナルを入れ忘れた? クルトでも失敗するんだ」

「いや、失敗じゃないよ。せっかく蜂蜜漬けで瑞々しいまま、保存が利くようにしたんだ。焼いて水分をとばすのはもったいない」


 普通のドライフルーツケーキなら、生地に混ぜ込んで一緒に焼き上げていた。

 だが、せっかくのピナルだ。みずみずしさを楽しんでほしい。

 俺はパウンドケーキを横に切る。


 上下がわかれ、そこにピナルの蜂蜜漬けのスライスを並べ、上からジャムを塗る、前半分をピナルのジャム、そして後ろ半分をぶどうに似たパプルのジャムにして、飽きにくくする。


 そしてパウンドケーキを重ねる。ジャムの粘着力でぴったりとパウンドケーキがピナルを挟んでくっつく。

 最後に、ドライクライベリーの粉末を上からふり、赤い化粧をする。

 これは見た目だけではなく、味と香りのアクセントになる。


「これで完成だね。主力商品の一つ、特製ドライフルーツケーキ。名前をつけるなら、ピナルの蜂蜜ケーキかな?」

「クルト様、すごくわかりやすい名前です!」

「クルト、もっとひねろうよ」


 二人のまったく別の反応を聞いて俺は苦笑いをする。


「まあまあ、わかりやすさ優先だ。売り出すときは、これをまるまる一本と、カットしたものだね」


 俺は微笑みながら、長方形のピナルの蜂蜜ケーキを一人分ずつカットする。

 それぞれ皿に盛り、沸かしておいたお湯でお茶を淹れる。


「さて、試食を兼ねてティータイムにしよう」


 俺がそういうと、ティナはキツネ尻尾を揺らし、クロエは長い耳をぴくぴくさせた。

 これを、村人たちにも振る舞う。

 さて、二人の反応は……

 俺はじっくりと紅茶を啜りながら二人の様子を眺めていた。



 

お久しぶりです。あと八話分書き溜めができたので、一か月間は三日に一回更新ができますので安心してください!

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