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お菓子職人の成り上がり~天才パティシエの領地経営~  作者: 月夜 涙(るい)
第四章:感謝と友情のクラウン・チョコレート
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プロローグ:ただいまアルノルト

2016/10/28 Mノベルスさんから、一巻が発売されました!

 空の旅を終えて俺たちは竜車から降りる。


「ついに帰ってきたんだな」

「はい、いつもの森です。懐かしい匂いがします」


 銀髪のキツネ耳少女のティナが鼻をすんすんと鳴らして、嬉しそうに呟く。


 竜車の空の旅を終え、四大公爵の一人であるレナリール領から、無事アルノルト領にある俺の村に戻ってきた。

 一週間ほど留守にしただけだが随分と感慨深いものがある。


 着陸したのは、開拓のために木を切り倒して作っておいた開けた土地だ。


 竜の御者の男によると、竜は勝手に自分の巣を作るらしいので、ここで自由にさせておけば生活環境が整うとのこと。

 十分に調教されている竜は逃げることもないらしい。


「クルト、荷物が重いよ」

「すまないが、頑張って運んでくれ。そんなに村までの距離はないから安心してくれ。第一、クロエならそれぐらい大丈夫なはずだ」


 金髪のエルフであるクロエが愚痴をこぼしていた。


 竜を着陸させた場所から歩いて村を目指す。

 可能な限り、レナリール公爵がもたせてくれたお土産を運ぶことにした。

 もちろん、三人では到底運びきれないので、あとから人を呼ぶが、二度手間を減らすためにそうしている。


 クロエはしょうがないなと言いながら、歩き出す。


「悪いな」

「今日の夕ご飯、ちょっと贅沢にしてくれると嬉しいかも」

「ああ、いいよ。とは言っても作るのはティナだけどね。ティナの料理を食べないと帰ってきた気がしない。ティナ、頼めるか? 疲れているなら俺が作るが」

「ぜんぜん大丈夫です! クルト様が食べてくれるなら、三日三晩作り続けても構いません! 今日は奮発します!」


 ティナが尻尾を振りながら、気合を入れる。そんな仕草がおかしくて、くすりとしてしまう。


 一五分ほど歩くとようやく、村にたどり着いた。

 領民たちはみんな、外にでて騒いでいた。

 何かあったのかと不安になる。


「クルトの兄貴! 大変だ、大変なんだ!」


 やんちゃそうな十代前半の少年が息を切らしてこちらに向かって走ってくる。


「どうしたんだ、ヨハン?」


 彼はヨハン。

 フェルナンデ辺境伯の治める街エクラバの孤児たちをまとめていた少年だ。


 ひょんなことから、彼を含めた孤児たちを、まとめてアルノルト領に引き取っていた。


 彼は頭がよく、孤児たちに慕われていて統率力があり非常に頼りになる存在だ。


「竜が、竜が出たんだ! こんな村、あっという間に焼きつくされちまう、早く逃げないと」


 俺は苦笑する。

 驚くのも無理はないか。竜は災害の一種として恐れられている。


 彼らは、食事を必要としないが、非常になわばり意識が強い。巣を作る際にうるさい、わずらわしい、といった理由だけで、人間の村を滅ぼしたりする。


 大人になり、巣立ちした若竜による被害は各地で発生していた。


「大丈夫だよ。あの竜はちゃんと調教された竜だ」

「竜が人に懐くってのか? 信じらんねえ」

「本当だよ。実際に俺はあの竜に運んでもらって帰ってきたんだ」

「すげえ、都会は竜を乗り物にするのか。いいなぁ、乗ってみたいなぁ」


 もう、竜に対する恐怖心は消えて好奇心が顔を出し始めたようだ。


「その機会はあると思うよ。なにせ、あの竜は俺のものだからね。エクラバに行く機会があれば使うつもりだ」

「えっ、ここまで送り届けてもらったんじゃなくて、クルトの兄貴、竜をもらったんだ! すげえ! 竜か、そんなの、大貴族様だってもってないぜ! ちょっと、みんなに教えてくる」


 そういうなり、ヨハンは走り出す。

 そして不安そうにしている村人たち一人ひとりに説明を始めた。


 さきほどまで恐怖で騒いでいた村人たちが、期待と興奮で騒ぎ始める。


 竜を下賜されるほどの功績を領主があげた。アルノルトの今後の発展を予想させるには十分だ。


 どんどん、話が広がっていく。

 開拓に出ていた連中まで何事かと戻ってきていた。

 ちょうどいい。軽く帰還の挨拶と報告をしよう。


「みんな、注目!」


 声を張り上げ、手をパンとならす。

 すると、村人たちが一斉に俺のほうを見てきた。


「まずは、ただいま。しばらくの間留守にして悪かった。みんな元気そうで安心したよ」


 ノリのいい村人たちが、おかえりなさいと声を合わせて言ってくれる。

 俺の無事を喜んでくれる人がたくさんいる。そのことが嬉しかった。


「俺は、公爵……王様の次の次ぐらいに偉い人に頼まれた仕事を果たすために留守をしていた。そして、その仕事を無事こなした。褒美として、竜車をもらった。竜車は、馬よりもずっと速く、たくさんの荷物を運べる。しかも安全だ。空には山賊も魔物も居ない」


 俺のジョークに、何人かがくすりと笑う。


「今までは、行商人の言い値で高いものを買うしかなかったが自分たちで買いに行くという選択肢ができた。今までより、ずっと安く必要なものが買えるようになったんだ」


 そう、アルノルト領で作れるものだけでは、生活は成り立たない。

 塩を筆頭とした生活必需品を月に一回来る行商人から購入する必要があった。


 行商人はこんな辺鄙で危険な場所に時間をかけて来るわけだから、その苦労を値段に上乗せしてくるし、さらに競争相手がいないので足元を見てくる。はっきり言ってぼったくりのような値付けをする。


 かといって、自分たちで街まで商品を買いに行くのはかなりリスクが高く、今まで躊躇していた。

 だが、これからは竜車でひとっ飛びだ。安全に大量の荷物を、圧倒的な速さで購入できるようになる。

 俺の領地にとって非常にありがたいことだ。


 村人たちは、難しいことはよくわかっていないが、最後の、安い値段で品物を買えるようになるというところはきっちりと理解して、歓喜に湧いていた。


「それだけじゃない。数年先まで国に治める税金が免除される。俺たちが育てた小麦をそのまま俺たちのものにできるようになった。本家に送る分は今までと変わらないが、だいぶ楽になるだろう」


 税がなくなるというのはそういうことだ。

 アルノルトでは硬貨の流通量が少ないので、現物で税を納めている。

 小麦の徴収がなくなる。それは目に見えていい生活ができることに繋がるのだ。

 村人たちは目を輝かす。……だが、俺はそこに今から水を差さないといけない。


「お願いがあるんだ。税として納めるはずだった、小麦を俺に預けてくれないか」


 そう、俺は浮いた分の小麦を村人に還元せずに、他の用途に使いたいと思っていた。

 村人たちがいぶかし気な顔をする。


「もちろん、この村のために使う。エクラバでお菓子を売る店を開くんだ。そこで俺たちの小麦を使ったお菓子を売りたい。損はさせない。使った小麦の何倍もの小麦を買えるだけの金を稼いでみせるし、その金を使ってこの村の生活を豊かにする。だから、俺が開く店の成功に、みんなの小麦を賭けてほしい」


 今のこの村には税として納める予定だった小麦の他には、自分たちで食べる分の小麦しかない。


 今のままでは、店を開いたとしても食材は、他の村で作ったものを買わないといけない。


 それは本当の意味でのアルノルトのお菓子ではない。

 俺は、どうしてもアルノルトの材料に拘りたかった。

 アルノルトの大地が育んだ美味だと胸を張って、特産品として売るために。

 そうでなければ意味がないのだ。


 このことを命令することはできたし、そもそも税を納めないでよくなったことを言わないという選択肢もあった。

 だが、それはしない。俺を信じて今まで歯を食いしばって不毛な大地を切り拓いてくれた彼らを裏切りたくなかった。


 村人たちは、押し黙り考える。

 小麦は彼らの命も同然。それを賭けのチップにしろと言っているようなものだ。抵抗はあって当然だ。


 村人たちは、仲間たちと顔を見合わせ、そして微笑んだ。

 そして、一人の男が前に出てくる。

 ソルトだ。

 俺の不在時に、この村の代表となる頼りになる俺の右腕。


「でっ、坊ちゃん。俺たちは何をすればいいんですかい? 店を開くんだ。坊ちゃんとティナの嬢ちゃんだけじゃ、人手が足りねえだろ。なんでも言ってくれよ。おまえたちもいいな!」

「「「おう!」」」

 

 俺は息をのむ。

 小麦を使うことを許してくれると予測していた。

 だけど、こうして進んで力を貸してくれるとは思っていなかったのだ。

 胸の中に熱い感情が溢れてくる。


「ありがとう」

「礼を言う必要はありませんぜ。坊ちゃんがこの村を豊かにするために頑張ってるんだ。協力するのは当然だ。俺たちも、もっといい暮らしがしたいしな。俺たちは坊ちゃんを信じてる。坊ちゃんの今までの行動が信じさせてくれたんだ。だから、坊ちゃんが選んだ道なら、全力でお供しますよ」


 ほかの村人たちも次々にそうだそうだと声をあげる。

 俺はぎゅっとこぶしを握り、嬉し泣きしそうになるのを堪え、精一杯の笑顔で口を開く。


「それでも、ありがとう。俺はいい領民を持ったよ。ここで宣言しよう。この村は、来月から、この村でとれた作物で最高のお菓子を作り上げ、エクラバで売り出す! 人選はこれからだが、何人かは専任で店の仕事を任せる。みんな、アルノルトを今よりずっと豊かにするために一緒に頑張ろう!」


 もう、力を貸してくれとは言わない。

 ただ、頑張ろうと告げた。

 歓声があがる。


 やる気は十分、この村でとれた自慢の材料がある。商売の邪魔になる関税は撤廃されている、宣伝に必要なレナリール公爵公認という看板がある。

 なにより、最高の村人たちがいる。

 怖いものは何もなかった。

 失敗なんてするはずがないのだ。


「明日、この場所で店で売り出すお菓子の試食会を行う! うまいお菓子を作るから、みんな来てくれよ」


 さきほどとは違う歓声があがった。

 みんな、俺のお菓子を楽しみにしてくれているようだ。

 明日振る舞うのは、ずっと温めてきた主力商品だ。安価に大量生産が可能で、日持ちすることを最低条件にしつつ、美味しさを兼ね備えたお菓子だ。


 気合を入れて、この村の全員分作ろう。

 こいつらを満足させられないのであれば、店の成功などありえない。

 それに、俺自身が彼らを喜ばせたいという強い思いがあった。

いよいよ、明日の10/28。お菓子職人の成り上がり一巻が発売です! もうアマゾンや、一部の店舗では前売りが始まっているみたいです! 三弥先生の描く可愛いティナや、加筆修正に書き下ろし。是非楽しんでください! 表紙は↓にありますよ!


そして、今回から第四章。お店の運営がメインになる章です! そして裏では……というわけで、これからも全力で頑張るので応援お願いします!

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