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お菓子職人の成り上がり~天才パティシエの領地経営~  作者: 月夜 涙(るい)
第三章:誇りと漆黒のインペリアル・トルテ
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第九話:黒い砂糖と白い砂糖

 俺はレナリール公爵家の厨房に来ていた。

 それも個室だ。仮とはいえ、料理長扱いなのでこういった特別扱いがされている。

 ここには手伝いとして、キツネ耳美少女のティナと、美少女エルフのクロエが居た。

 ティナは繊細な熱操作ができ、クロエの生み出す水は料理に適している。


 今日の厨房に来たのは白砂糖づくりのためだ。

 もちろん、サトウキビから作るわけじゃない。手持ちの黒砂糖を精製することで白砂糖に変えてしまう。


「じゃあ、ティナ、クロエ。始めようか。この真っ黒な砂糖を白くしてみせよう」

「白いお砂糖ですか。そんなものがあるんですね」


 ティナが興味深そうに聞いてくる。


「うん、砂糖が黒いのは砂糖の中に黒い色の蜜が混ざって固まってるからなんだ。黒い蜜を取り除けば白くなる」


 そう、黒砂糖が何かというと、結局はさとうきびのジュースを煮詰めて冷却して固定化させただけのもの。

 白砂糖は黒い蜜を取り除き、ショ糖だけを残したものだ。


「黒砂糖と白砂糖の違いって味が違うんですか?」

「全然違うよ。黒砂糖は味に苦みとえぐみが若干混じる。でも白砂糖は、さらっとして上品な甘さになる」

「なんで、みんな黒砂糖しか作らないんでしょう」

「作ろうとすると、黒い蜜を取り除く手間がかかるし、その分量も減るからね。味が濁るってだけで黒い蜜には栄養がたっぷりだし、貴族の贅沢でもないとわざわざ白砂糖なんて作ろうとしない」


 そう、砂糖はただでさえ貴重品だ。

 サトウキビは温暖な気候でしか育てられず、俺たちの居る大陸では育たない。だから船を使って大陸をまたいで運んでくるしかない。そのせいで、おそろしく高価なのだ。

 そんな高価な砂糖をわざわざ量が半分になる精製なんて誰もしない。


「そんな貴重な白砂糖を使うなんて、すごく贅沢なお菓子になりそうですね」


 ティナの言うことはもっともだ。

 

「砂糖自体、うちの領地の収入だと買うのをためらうからね。それにもう一つのメイン食材のカカオもすごく高い。こんな機会でもないと扱えないお菓子だ。思う存分満喫させてもらおう」


 俺はにやりと笑い、黒砂糖に少しずつぬるま湯を染み込ませていった。

 すると、どろどろになっていき、粘土のようになる。

 それを石で出来た箱の上に木綿布を重ねたところに流し込む。


 そして木綿で粘土状になった黒砂糖を包み込み、石の蓋をした。石の箱の底は微妙に斜めになっており、右下には水を流すための小さな穴が無数に開いている。

 この箱は俺の土属性の魔術で作った手作りだ。

 うまくいってくれればいいが。


「さあ、蜜を絞っていこうか」


 俺は全身を魔力で強化する。

 本来なら、専用の梃の力を使う道具を使うが今回は力技で行く。

 全力で石の蓋を押す。すると木綿に包まれた粘土状の黒砂糖から黒い蜜が流れだし、石の箱の下部からとろとろと流れていった。

 こうすることで、黒砂糖から黒い蜜を抜いていく。


 これはなかなかの重労働だ。

 腕がだるい。だるくなった腕を【回復ヒール】で癒しながら作業を続けていく。


 一通り、蜜が出切ると、こんどは蓋をあけて木綿に包まれた黒砂糖を取り出した。

 真っ黒だったそれは、かなり色が抜けて白っぽくなってきた。


「うわあ、クルト様、本当に白くなってきました」

「まだまだこれからだよ」


 このまま、いくら圧力をかけてもこれ以上黒蜜が抜けることがない。

 だから、研ぎという工程を加える。

 手に水をつけて粘土状になった白っぽい塊を練り上げる。


 そうすることでまた水分を含み、圧力をかけることで黒蜜を抜けるようになる。

 本来なら、水の量、気温、湿度、研ぎ時間。どれも熟練の技が必要だ。だが、料理技能のおかげで、ある程度は勘で実行できる。


 いい感じに練りあがり再び粘土状になったので再び木綿に包み石の箱に入れ、石の蓋をして全力で蓋を押し黒蜜を抜く。


「クルト、うまく行きそう?」

 

 今度はエルフのクロエが心配そうに声をかけてくれた。

 今回の水はクロエが魔術で生み出した水だ。だからこそ、うまく行っている部分がある。


「なんとかうまくいきそうだ。今までの工程を繰り返せばどんどん白に近づく」


 息が荒い。魔力で体を強化してこんなに疲れるなんて驚きだ。

 できれば、この作業は二度とやりたくないぐらいだ。


 この砂糖の精製技法は、日本が誇る最高の砂糖、和三盆の手法をもとにしている。

 かつて俺は、和のエッセンスを取り入れた洋菓子を研究中に最高級の砂糖である和三盆を手にいれるために現地に向かい、一度見学をさせてもらって覚えていた。

 まさか、その経験がこんなところで役に立つとは思っていなかった。


「クルト様、これを何回繰り返せばいいんですか?」

「最低五回だね」

「白砂糖ってすっごく大変なんですね」

「ああ、でもその労力に見合うものだよ。菓子職人パティシエの命だ」


 黒砂糖の癖が強い独特の味も悪くないが、やはり繊細な甘みを演出できる白砂糖のほうが使い勝手がいい。


 今回、好き勝手黒砂糖を買えるだけの予算があるので、かなり多めに買い込んでいる。

 それをこの機会に白砂糖に可能な限り変えておき余った分は持ち帰るつもりだ。

 特別なお菓子が求められる際に必要になる。

 手元においておきたい。……これぐらいの役得はいいだろう。


「真っ白になるまで続けよう」


 そうして俺は渾身の力で白砂糖を作り続けた。


 ◇


 繰り返すこと五回。ようやく砂糖が完成した。

 完全な純白の砂糖。これが欲しかった。

 水分がほとんど抜けきった塊になった白い塊。

 本来なら干して水分を完璧に抜くが、そこはクロエの水魔術で水分を一瞬で分離させる。

 カチカチになった白い塊を砕いて、ふるいをかける。これで白砂糖が完成だ。

 ずいぶんと苦労させられたが、達成感が心地よい。


「クルト様、本当に真っ白になっちゃいました」

「驚きだね。量が半分以下になってもったいないよ」


 真っ白な砂糖に興味津々と言った様子でティナとクロエが白砂糖を覗き込む。


「その労力に見合う価値はあるよ。ティナ、クロエ、せっかくだし黒砂糖との違いを試してみようか」


 俺は二人の口にまず黒い砂糖の塊をいれる。


「甘くて美味しいです」

「砂糖なんてはじめてだけど、黒いのも十分美味しいよ」


 二人とも、黒い砂糖でも喜んでくれた。

 もともと、高級品だし甘いものに飢えている彼女たちが黒砂糖で喜ぶのも無理もない。だが、黒砂糖で驚いていたら、次の白砂糖ではどれほど驚くのだろう?


「でっ、こっちが白い砂糖だ」


 同じように口に白砂糖を入れる。二人が目を見開いた。


「さっきの砂糖も美味しかったけど、こっちはさらさらで、すって溶けて、素敵です」

「うん、これにくらべると黒いほうはべったりしてたし、変な味がしたね。こっちのほうが好き」


 そう、だからこそ人は苦労をして、量を減らしてでも砂糖を精製するのだ。


 黒砂糖しかしらない世界で白砂糖を使ったお菓子を出すのは反則に近い。

 それに加えてチョコレート。

 二つの飛び道具を使って、なおかつ最高の技法でお菓子を作るのだ

 誰も知らない、素晴らしいお菓子になる。

 それは、レナリール公爵の出した条件を軽々とクリアするだろう。


 一番の懸念となっていた白砂糖が出来た。

 さあ、残りのメニューを詰めていこう。

 

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