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お菓子職人の成り上がり~天才パティシエの領地経営~  作者: 月夜 涙(るい)
第三章:誇りと漆黒のインペリアル・トルテ
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第八話:エクラバの食材

今日から連載再開! 遅くなってごめんなさい。四回分はストックが出来たのでそこまでは安定供給ができます! その先も頑張って執筆していますよ!

 昨日、レナリール公爵に試練を出された。

 それは、彼女のお抱えの料理人が提供した料理の問題の指摘と、それを超えるものを出すというものだった。

 無事、その試練をクリアし、ここに滞在している間、名誉料理長という肩書きを得ることでき、四大公爵が集まる食事会に向けて、莫大な予算と屋敷の設備を全て自由に使える許可を得た。

 

 だが、喜んでばかりも居られない。俺は残り六日で最高の献立を作らないといけない。

 時間があまりにない。

 今日は早朝から自室で献立を考えていた。

 今回のコースは、最後のお菓子に奉仕するためのコースだ。一切の妥協は許されない。


「クルト様、献立を考えられているんですよね。ここに来る前に考えていたメニューではダメですか?」


 ティナが心配そうに問いかけてくる。

 実を言うと、一度メニューの仮決めはしており、仕込みもある程度済ませている。

 具体的には、メインディッシュに使う、俺のオリジナル発酵調味料は、壺に詰めて、いまでも発酵中だ。

 コースを振る舞う日にちょうど食べごろになる。


 そして、鹿節なんて数週間かかるものもある。

 ほかにも熟成期間が必要なチョコレートなども準備してあるし、フェルナンデ辺境伯の領地であるエクラバからかなりの食材を持ち込んでいる。


「それでいいかと思ったんだけどね、昨日食べたマグロを見て考えが変わった。ああいった素材は、エクラバですら見ない食材だったが、素晴らしいものだった」


 あそこまで上質なマグロが食べられるとは夢にも思っていなかった。

 マグロ料理は前菜に組み込むつもりだ。そして……


「少し街に出ただけで、もっと素晴らしい食材が見つかるかもしれない。だから、今日は市場を見て回るつもりだ。そこで、元から用意していたレシピよりも良さそうなら、どんどん変えていくつもりだ」


 最上のコースを目指すならそうするべきだ。


「クルト様、さすがです。でも、今まで考えていたコースとのバランスを崩す危険があるんじゃ」

「難しいね。試作する時間もあまりないし。ただ、だから妥協するなんてことはありえないよ。そうならないように全力で努力するだけだ」


 それは料理をするものとしての意地だ。

 そんなことをティナと話していると扉がノックされた。

 レナリール公爵にお願いしていた街への案内人が到着したようだ。

 扉を開ける。


「あなたは」

「ふん、わしが一番、この街の市場には詳しい。重要な食事会では、仕入れはわし自身が行ってきた」


 目の前に居たのは、壮年の恰幅がいい男性……レナリール公爵おかかえの料理長、ベナリッタだ。


「あなたの知識と経験は非常にありがたい。ですがいいのですか?」


 俺は結果的に、この男のプライドはずたずたにしてしまった。

 ベナリッタ調理長は、主の前で料理人として俺以下だと自らの口から言わされた。


「小僧が、いっちょまえに気を使うな。面白くはないがな。わしは坊主の腕を認めている。なら、敬意は払う。それに、今回のコースは我が主の命運がかかっている。少しでもいいものができるなら協力はおしまんよ」


 少し驚いた。なんて器の大きい男だ。

 自分が劣っていることを認められる人間は少ない。ましてや協力なんて。


「まあ、坊主には恩もあるしな」

「恩ですか?」

「暴走して、坊主の妨害をした弟子たちのことを黙っていてくれた。申し訳ない。わしも後から聞いた。あいつらはわしのことを思って、あのような料理人にあるまじきことをした。もし、坊主がそのことをレナリール公爵に話せば、全員解雇だけではすまなかっただろう。普段は料理にも真摯な連中だ。たった一度の過ちで失うのは惜しい」


 そのことか。

 俺が黙っていたのはただの打算だ。あまりもめ事を起こしたくなかっただけに過ぎない。


「いえ、気にしてませんよ。いい料理ができましたから。それに、あなたが力を貸してくれるなら、その程度の妨害ちゃらにしてもお釣りがきます」

「重ね重ね感謝する。全力でわしも弟子たちも協力しよう。そして、坊主からたくさんのことを学ばせてもらう。坊主は停滞しつつあったら、この街の料理にあたらしい風を吹き込んでくれる」

「こちらこそ。ここでは俺の知らないことをたくさん学べそうだ」


 俺とベナリッタ料理長は固く握手する。

 彼の協力は非常に助かる。この地の実力者しかしらない穴場や特別な仕入れのルートは無数にあるだろう。

 料理人はそれぞれ独自のコネをもっている。それは新参者には手が届かないものだ。

 こうして俺たちはレナリール公爵の用意した馬車で市場に出た。


 ◇


 市場に向かう馬車に揺られていた。

 この馬車に居るのは、ベナリッタ料理長と、俺の使用人である銀髪のキツネ耳美少女ティナと金髪のエルフ美少女のクロエ、そして護衛兼手伝い役の男数人だ。


「で、坊主は何が欲しいんだ。ここの市場は広い。全部は回ってはいられないぞ」


 時間はないのは間違いない。

 絶対に動かないのは、デザートのチョコレートケーキ。これは俺のスペシャリテ。ここを曲げるわけにはいかない。


 メインの肉料理も、そのためだけの調味料を一週間以上かけて仕込んでいるし、食事会のタイミングでちょうど食べごろになる鴨肉をもってきている。これも変えられない。


 それなら……。


「ハーブ類と香辛料。ここでしか買えないようなものは全部手に入れて試したいです。今より料理の深みを増せるかもしれない。あとは魚だ。ちょっと今のままだと魚料理が弱い。淡泊で、肉厚な魚が欲しい。白身系かつ旨みが強いものがいい」


 そんなことを話すとベナリッタ料理長はなんどか頷く。

 そして口を開いた。


「ハーブと香辛料なら、いい問屋がある。そこなら大抵のものはあるし、秘蔵のものも全部出させる。そこに向かおう」


 問屋か。

 なるほど、そこなら多数の店を回る必要はないだろう。


「あとは魚だな。目利きして、最高の魚を届けてくれる卸業者が居る。いつもわしは、そいつの選んだ魚をさらに厳選しとる。そいつのところに行けば問題ないだろう」


 レナリールのお抱えらしい選び方だ。非常に効率がいい。

 小さな店を一つ一つ回っていればそれだけで日が暮れる。

 ベナリッタ料理長のすすめた問屋と卸業者のところに行くことに決めた。

 そのときだった。


「ちょっと、馬車を止めてくれ」


 俺は慌てて声をかけ、馬車から飛び降りる。

 ちょうど、猟師とすれちがった。

 屈強な男たちだ。

 彼らは、血と内臓を抜いた鹿を担いでいた。

 俺は彼らに声をかける。


「君たち、待ってくれ。その鹿を売りにきたのか」

「なんだ、おまえ。えらく高そうな馬車から降りて来たな」

「それはいい。鹿を売りにきたのかと聞いている」

「そら、その通りだ。俺たちは近くの村の猟師だ。村で食いきれない分を売りに来てる」


 やはりか、それなら頼みたいことがある。


「そうか、今日の肉はいいが六日後の早朝、鹿がとれたら俺が指定する住所に鹿を届けてくれないか? その日とれたばかりの鹿が欲しい。値段は、相場の五倍出す」


 今回のコース料理には、おそろしいまでの予算がある。

 だから、こんな無茶もできる。


「五倍、信じられねえ」

「俺はレナリール公爵家の料理人で、六日後特別料理を作る。そのために必要なんだ。レナリール公爵の看板を背負って嘘はつかない。後ろの馬車を見てくれ」


 そういうと、猟師たちは俺の後ろの馬車をよく見た。レナリール家の家紋を見つけて、そしてぎょっと目を見開く。

 彼女はこの街の支配者だ。レナリールの家紋を知らない者はこの街にいない。


「あんた、そんなすっげえお方だったんだ。わかった。猟師仲間にも協力してもらって、なんとしても獲れたての鹿を届けて見せるぜ。五倍の値段、しっかり払ってもらうからな」

「ああ、喜んで」


 俺はにっこりと微笑む。

 本来、肉は死後熟成させないと旨みをあまり感じられない。

 だが、俺が作ろうとしている料理は例外的に、新鮮な鹿が必要になる。


 だからこそ、候補に考えていたが諦めていた。もし、新鮮な鹿があれば、最高の前菜が作れる。

 この猟師たちは、鹿をあまり傷つけずに狩っているし、狩ったあとのあと処理もうまい。

 最高の鹿を届けてくれるだろう。


 そのあと、少し話して、手付金と、届先を伝えて別れた。

 鹿が獲れないことも、手付金だけもって逃げられるることも考えらえるので一応手に入らないときのことも考えて置こう。


 ◇


 そのあと、ハーブも香辛料もいいものが揃っていたのでかなり買い込んだ。これで料理に奥行きが生まれる。

 そして、魚もこの世界では初めてみた魚……ウナギが居た。

 ウナギ料理は意外だが、フレンチでも活躍する機会が多い。それに俺が得意とする食材の一つでもある。

 今回の魚料理はウナギを使うことに決め、買い込んだ。

 それで買い物は終わり。

 これで魚料理のクオリティがぐっとあがる。

 今日、手に入った食材たちでコース料理の内容が確定した。

 さあ、どんどん準備を進めていこう。

 とりあえずは……


「白砂糖づくりだな。うまくいけばいいが」


 俺のチョコレートケーキとハチミツの相性はあまりよくない。

 砂糖を使う必要があるが、今手元にあるのは、黒砂糖だけ。

 黒砂糖は味に濁りがある。その野趣な味を生かす方向でお菓子を作ることはできるが、繊細で高貴なお菓子を作るのは難しい。

 だからこそ、自分の手で黒砂糖から白砂糖を作る。

 正直、知識があるだけで実践したことはない。

 それができるかどうかで、デザートの質が一ランク変わる。

 不安もあるが、まずは試してみよう。

 ここが一つの山場だ。俺は気合を入れていた。

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