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第十七話:不思議な来客

 ファルノが来てから三ヶ月ほどたった、もう季節は秋だ。

 蜂の増産は極めて順調で、新しい巣箱に次々と新たな女王蜂が定着して新たな蜂が生まれている。


 冬の寒さと餌不足で蜂がダメにならなければ、今までとは比べ物にならない量のハチミツがとれるだろう。


 ラズベリー園も子どもたちの働きでずっと広くなった。他に、ラズベリーの花が咲かない時期に花が咲きハチたちの餌となるブルーベリーも導入できた。


 そしてニワトリもきっちり増えている。

 そろそろ成長したヒナたちが卵を産み始めるころだ。春になれば本格的に卵を楽しめるようになる。

 日持ちがよく、美味しいとあるお菓子をこの村の特産品として売り出す予定なのでそこに間に合うかが心配だった。


 自室で帳簿の作成をしていた。

 例年より楽しい。なにせ、黒字の帳簿をつけるのはこの村に来てから初めてだ。心が湧く。


「ティナ、そこは違うよ」

「うう、難しいです。クルト様」


 今回は一人で淡々と帳簿をつけるわけではなく、ティナにやり方を教えていた。

 彼女には、一通り文字の読み書きや、計算を既に教えており、今度は帳簿の付け方を教えていた。

 ティナがこれをできるようになれば、だいぶ楽になる。できれば事務処理は誰かに任せて、新しいことに取り組みたいというのは本音だ。


「クルト様、おじゃましますわ」


 そうしていると、ファルノが現れた。はじめは俺の家に入るたびにびくびくしていた彼女も、今では勝手知ったるといった様子だ。

 ドレスではなく、仕立てがいいが、動きやすい格好をしている。

 彼女もだいぶ、この村に慣れてきている。


 彼女は主に、俺の村で取り入れている先進的な農業について調べて、フェルナンデ辺境伯に情報を送るという仕事を行っている。

 そのために、村人たちに混じって野良仕事をすることも厭わない。

 もちろん、ただというわけではない。

 俺は対価としてそれなりのものを要求している。そろそろファルノのところに返事がくるころだ。

 

「ああ、よく来たね。ファルノ。ちょっと、今は忙しいから少し待ってもらっていいか?」

「ええ、構いませんわ。帳簿をつけていますのね。……これなら力になれるかも。ちょっと貸してくださいな」


 さらさら、とファルノはペンを走らせる。

 横に並んでいる資料を読み取り、帳簿を書いているのだ。

 俺が見るかぎりはかなり正確。


「へえ、ファルノはこういうこともできるんだ」

「私はフェルナンデ辺境伯領の経営に関わっていましたわ。この程度はこなせます」


 それは頼もしい。

 フェルナンデの領地は、俺の村とは規模のケタが違う。

 それにともない、帳簿の煩雑さも増しているはず。能力的には申し分ない。


「よろしければ、こういった仕事は私が手伝いますわよ。クルト様はお金のことを気にせずにどんどん、新しいことを始めてくださいな。そちらのほうがもっと素敵になると想いますの」

「その必要はありません。私がやります!」


 ティナがファルノに噛みつく。


「ティナさん、あなたは頭がいいし、実際できるようになるのでしょうけど、使用人の仕事に加えて、養蜂の指導までやっているではないですか。それにこんなことまですると手が回らなくなりますわ。クルト様もティナさんも、人に任せられる仕事は任せるべきだと思いますの」


 確かにファルノの言うとおりだ。

 いつの間にか、俺はティナに無理をさせるのが当たり前になっていたように思える。

 今でもかなりいっぱいいっぱいのはずだ。

 少し反省しないと。


「ファルノ、任せていいか」

「ええ、もちろん」


 外部の人間に財布の中身を見せるのはまずいという認識があるが、そもそも相手は雲の上の人間だ。

 知られても、知られなくても、相手に害意があればそれで終わりだ。

 それに、俺はファルノという人間を信頼している。


「それと、ファルノ、頼んでいた件、なんとかなりそうか」

「ええ、今までクルト様から得られたものの大きさ、そして先日の非礼のこともあり、父が快く承諾してくれましたわ」

「それは良かった」


 俺はにやりとする。

 これで大きく夢が前進する。


「クルト様、いったい何をお願いしたのですか?」


 ティナが問いかけてくる。


「俺が頼んだのは、お菓子を売り出すために必要ないくつかのお願いだよ。フェルナンデ辺境伯からずっとお詫びがしたいと手紙が来ていたから、交易都市エクラバに店舗と、他のフェルナンデ辺境伯領以外に売るための販路を準備してもらった。そして俺のお菓子に関税をかけないこと。どれも本当なら、どれだけのお金を用意しても難しいことなんだ」

「そうなんですか……すごい」


 春になれば、ハチミツの収穫量は跳ね上がる。

 そして、卵も安定した量が手に入る。

 小麦も村で食べる以上のものが育てられた。

 つまり、売るだけのものがこの領地に出来たということだ。なら、それを売りだしてお金にしたい。


 だが、ものを売る、それも個人ではなく、一つの領地としてという規模であればハードルはかなり高い。

 その高いハードルのほとんどを、フェルナンデ辺境伯のおかげでパスできてしまう。

 そのために、俺の持っている技術を曝け出すのはやぶさかではない。


「ティナさんの言うとおり、すごいことなんです。でも、ティナさん、勘違いしてはいけません。これはフェルナンデからの施しではありません。クルト様の働きに対する正当な対価ですわ。その対価を差し出させるクルト様がすごいのです。お父様も笑顔で十分元がとれると言ってましたもの」


 それを聞いたティナのきらきらと尊敬する目が眩しい。

 何はともかく、あと一歩で村を一気に豊かにできるところまで来たのだ。


 ◇


「クルトの兄貴!」


 一人の少年が勢い良く扉を開け放って現れる。

 かつて、街で拾った子どもたちのリーダーであるヨハンだ。

 他の子供達によく慕われ、見事にみんなをまとめあげている。


「どうしたヨハン」

「大変なんだ。その、俺たちのラズベリー園で、知らない女の人が倒れてる!」

「それは大変だ。行こうか」


 ヨハンのあとを追って、俺はかけ出した。


 ◇


 ヨハンの先導に従い、ラズベリー園にいくと子どもたちで人だかりができていた。

 その中心には一人の女性が倒れている。


「ううう、ううう」


 青い顔をして、唸っていた。


「まさか、エルフ?」


 金髪の美しい女性だ。人間よりも耳が長い。服もこのあたりでは見慣れないものだ。

 エルフが居るということは知識はあったが、こうして見るのは初めてだ。


「大丈夫か」


 問いかけるが応えない。

 検診する。

 きっちりと意識はある。普通に起き上がれそうに思えるが………


「お腹がすいてうごけないぃ」


 疑問に思っていると、本人が自分が動けない理由をこれ以上なく端的に教えてくれた。

 それを聞いた俺たちは、がくっと力が抜けた。

エルフ登場!

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