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第三話:ヴォルグの思惑と蜂蜜酒

※ヴォルグの口調とキャラを変更しております

「塩辛いベーコンと、蜂蜜酒ミードがこんなに合うとは思ってませんでしたね」


 俺の出したベーコンをつまんで、蜂蜜酒を飲んだヴォルグが感心した声をあげる。


「俺も好きな組み合わせだ。是非、楽しんでくれ」


 甘い酒と塩辛いつまみはよく合う。

 俺が試作品として作ったミードは徹底的に糖を分解させてアルコール度数をあげてから、ハチミツと果汁を加えて味を整えた特別品。

 なので、強い酒だが口当たりは柔らかくはするすると飲める。


「ヴォルグ、一つ聞かせてくれ。魔力を使えるあなたがわざわざ、こんな辺境に来た理由はなんだ? 普通なら領地に置いておきたいと思うだろう」


 それが、この世界の常識だ。

 魔力持ちというのはそれだけの価値があり重宝される。

 アルノルトはそういう意味では異常だった。


「お嬢様をお守りするためですよ。あなたが相手なら、私でもないと守れない。……まあ、それは口実なんですけどね」


 ヴォルグは、挑戦的な目で俺を見る。


「あなたは、酒で口を軽くさせて情報を聞き出そうとしていますね」

「よくわかったな。そのつもりでこの酒を勧めた」


 俺はあっさりと認める。

 その程度の下心はあって当然だ。ばれても痛くも痒くもない。


「そんなことはしなくても大丈夫ですよ。もとより、何一つ隠すつもりはありません。フェルナンデ辺境伯は、私にあなたを鍛えて欲しいと依頼しています」


 その言葉に俺は首を傾げる。


「あなたはアルノルトの次代当主として認められたということは槍の達人でしょう。立ち振舞いを見ても、武術において私が教えることなんてないということは見て取れます。ですが、それだけです。この世界では、ある特定の武器を持てば、圧倒的な力を持つ人々がいます」


 技能という存在は知らなくても、事実としてそういう人間が居ることはある種の常識だ。

 例を出すなら、槍をもった瞬間、動きが見違え人を超えた武力を発揮する、アルノルト家の当主。

 他にもそう言った存在は多々存在する。


「そして、魔力持ちもまた、圧倒的な身体能力を持ち、人を超えた動きをします」


 それもまた真実。魔力をもった兵士と普通の兵士の戦力差は30:1と言われている。

 おおよそ、一般的な魔力持ちの身体能力は、技能Ⅱをもったものと互角。

 逆に言えば、技能Ⅲがあれば大抵の魔力持ちには勝てる。


「あなたは、そういう意味では、特定の武器を持てば強い程度の動きしかできていない。魔力を使えるにもかかわらず」

「よく、わかったな……まあ、まだ若輩の身ゆえ、それすらもおぼつかないのだが」


 俺は急激に技能をあげたせいで、急に上昇した身体能力を使いこなせていない。だからこそ、練習ですら全力を出さずに加減している。


「全力を出さなくても、その強さというのは恐れいります。さすがはお嬢さまが見込んだ男です。ですが、槍をもって全力を出すのはもちろん、さらに魔力での強化も併用しなければなりません。魔力と、武器を持った力を併せ持てば、一騎当千の兵になる。あなたにはその才能があります」


 それは俺も考えた。

 技能の力と魔力の力の二つを同時に使えればどれだけの力を振るえるのだろう。

 お菓子作りに強さは必要ないとはいえ、強さがなければ守れないものはある。強さというのは、存在するだけで意味があるのだ。

 俺は、俺の力で全てを守りたい。


「俺もそうなりたいと思っているよ」

「だからこそ、私が来ました。ちなみに、私は両方を使えます。つまり、あなたに教えることができる。あなたを魔力と、武器を持ったときに得る力の両方を全力で使えるように鍛え上げましょう」

「それをしてなんの得があなたにある?」

「フェルナンデ辺境伯は、有事の際にあなたの力を頼りにしています。究極的には、優れた魔力持ちの数が戦場の優位性を決定する。あなたは千人の兵士の価値がある。期待して当然ではありませんか?」

「戦いが起きれば恩を返せということか」

「もとより、准男爵の立場は、辺境伯の出兵の依頼を断れませんよ。少しでも生き残る確率をあげられる、この提案はあなたにとっても大きな得がある。そして、私の個人的な思惑も当然あります。……私はね、全力を出したい」


 凄絶な笑みをヴォルグは浮かべた。


「三年前の戦争でも、私は戦いました。当然、魔力持ちとも、武器を持って強くなる人間とも。だが、あまりにもつまらなかった。弱すぎる」


 それは圧倒的強者の笑み、見え隠れする傲慢。


「私はね、本気で戦える相手が欲しい、全力を出しても壊れない玩具がほしい。現段階では、クルト様。あなたの力では足りません。ですが、私が鍛えれば本気を出すに値する男になる。いや、私を簡単にねじ伏せられるようになる可能性すらある。そのことは一目見た瞬間確信しました」


 俺は苦笑する。

 なんという、真っ直ぐな理由。

 逆に心地よい。


「わかった。ヴォルグ、俺を鍛えてくれ」

「ええ、徹底的に鍛えてあげますよ」


 俺にとってメリットしかない話だ。

 当然受けるしかない。

 魔力と技能の併用。この男との特訓で見事可能にしてみせる。


 ◇


 あのあと、しばらくしてヴォルグは帰っていった。

 ティナは怖い人とヴォルグを認識したようで、彼に教えを乞うと決めた俺を心底心配していた。

 頭をぽんぽん撫でると不安そうな顔をやめてくれた。心配はない。あの男に害意はない。


 安心したティナは、今度はお酒に興味をもったようだ。

 残ったお酒を彼女は見つめている。


「ティナ、お酒を飲んでみたいのかな?」

「そっ、それはその、ほんの少しだけ」


年齢は低いが、ティナの成長は早い。別にお酒を飲んでも構わないだろう。


「ちょっとだけなら飲んでいいよ。俺が丹精込めて作った酒だ、感想をきかせてくれると嬉しいかな。蜂の増産が成功したら大々的に作るし」

「はい、クルト様、頂きます! お酒って、みんな美味しそうで楽しそうで、憧れていたんです」


 俺はティナのコップに蜂蜜酒ミードを注ぐ。

 ティナは、期待に目を輝かせた。


「うわぁ、金色で綺麗、それにいい匂いです」


 そして、両手でうやうやしくコップを包み、一にを傾ける。

 こくこくこくと喉がなる。

 甘くて口当たりがいい酒だから、するする入っていくのだろう。た

 駄目だ、そんなに一気に呑んだら……。


「くるとしゃまぁ」


 嫌な予感があたった、完全に目が据わっている。

 どうやら、ティナはお酒に弱いようだ。

 完全に酔っ払っている。


「なにかな、ティナ?」

「くるとしゃまはどうして、私だけを見てくれないんですか? たくさん、おんなの人に囲まれて、寂しいです。くるとしゃまは、わたしのくるとしゃまなのに、ずっと一緒に居たのに」


 そう言うなり、俺の膝にのって体重を預けてくる。

 いつも俺に甘える時のティナの仕草だ。


「その、ティナのことは大事に思ってるよ」

「それは知ってます。くるとしゃま、やさしいし、たくさんいっぱい甘やかしてくれるし、れも、私だけを見てほしいんです。私だけのくるとしゃまで居て欲しいんれすぅ」


 ティナは背中を預ける状態から振り向く。足を広げてコアラのように俺の腰に足を回してくっつく。

 そして頬を俺の胸板にすりすりした。


「クルトしゃまぁ、くるとしゃまにとって私はなんなんれすか、どうして手を出してくれないんですか、貴族の人ってもっと、そういうことするって、みんな言ってて、くるとしゃまなら、いいのに、なんで、クルト様、そんなに優しいんですか、優しすぎますよ」


 ティナの目が妙に色っぽくて、心臓がどきどきする。


「ねえ、クルト様」


 ティナが上目遣いになる。


「私と」


 熱い吐息だ。

 いつもの俺の知っているティナじゃない。

 ティナとの距離が近くなる。

 そして……


「ぐうぅ」

「へっ?」


 俺は思わずマヌケな声をあげた。

 ティナは言いたいことを言い終わるとすやすやと寝息を立て始める。

 まったく、自分勝手なお姫様だ。


 そして、二度とティナに酒を飲ませないことを決めた。

 俺は苦笑して、寝室にティナを運ぶ。

 もし、起きてから、今日のことを覚えていれば思い切りからかってあげよう。

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