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第二話:日常のご馳走

ファルノの執事の我輩キャラが作品に似つかわしくないため、変更しました

ご迷惑をおかけします

 台所で夕飯を作ろうとしていた。

 フライパンを火にかける。


 フライパンが温まるまでの間に、一つのボールには小麦粉、山芋、塩、水、そしてクルミ油を入れて練り上げる。

 今回はアレンジとして、山菜狩りで手に入れたギョウジャニンニクの葉を刻んで加えた。ギョウジャニンニクは香味野菜でこうすると香りがよくなるし、味が引き締まるのだ。

 しばらく寝かせてから竈ではなくフライパンで焼けばピンになる。


 ピンは中華料理でよく使われる薄いパンの一種だ。有名な使い方としては北京ダックの皮などがある。

 ピンなら、短時間で作ることができる。

  

「さてと、生地を寝かせている間に、メインのほうを作らないと」


 特製のタレに漬け込み、楓のチップで燻製にした自慢のベーコンを贅沢に厚切りにする。ベーコンはある程度分厚く切ったほうがうまい。


 それを、油を引かずに熱したフライパンに置いた。


 ジュワァっと油が弾ける音と、甘い油の香り、そして燻製に使ったカエデの木の臭いが広がる。


 脂身たっぷりのベーコンなので、油をひかなくてもベーコンから出た油だけで十分なのだ。溢れでた油によってベーコンが揚げられていく。


 これがカリカリベーコンの正しい作り方だ。こうすると雑味がでない。

 ベーコンの脂身が透明になってきた。

 ここで、卵を割り、ベーコンの上に乗せる。


 俺が作っているのは、ベーコンエッグ。非常にシンプルな料理だが材料がいい、特製のベーコンに今朝産まれたばかりの新鮮な卵、うまくならないはずがない。


「蓋をしめてと」


 フライパンに蓋をする。するとフライパンの中で対流が起こって蒸し焼き状態になる。

 卵黄は温めたほうがうまい。ヒックリ返して焼きたいところだが、ベーコンを下敷きにしているのでひっくり返せば卵黄を潰してしまう。そこで蒸し焼きにする。


 頃合いを見計らって蓋をあけると、煙がふきでた。白身は硬く、黄身は半熟。理想の目玉焼きだ。


「よしよし、肉汁と油がたっぷりでたな」


 厚切りベーコンから大量の肉汁と油が出ていた。

 その油の半分ほどを別の容器に移す。少し舐めてみる。ベーコンを作るときに使ったタレと塩、そして肉汁と油の味が混ざりあってそれだけでも十分うまい。

 そこにハチミツと酢と塩、そしてコケモモの果汁をいれて甘酸っぱいソースにする。

 フライパンに残した油と肉汁はちゃんと使う。


「さっき練ったピンの生地も、いい感じに寝かせられたかな」


 俺は生地を薄く伸ばして円形にする。

 そして伸ばした生地をフライパンに置く、すると生地がイノシシの油で揚げられていく。

 こうすると、かりかりなピンができあがる。

 それだけじゃない、イノシシの肉汁と油をたっぷり吸ったピンは格段にうまくなる。それでいて、油が触れていない上の部分は、ふっくら柔らかにできあがる。

 あっという間にピンが焼き上がった。


「最後は仕上げだ」

 

 ベーコンエッグをピンの上に並べ、キャベツの千切りを乗せる。最後に肉汁と油を使った調味料をかけて、くるりと巻く。黄身とソースが溢れないように気をつける。


 これで完成。ベーコンエッグのピン包みだ。

 ここに香辛料があればもっとうまくできるのだが……

 付け合せのスープにティナが昼食用に作った干し肉のスープを温めた。

 たった二品だが、これで十分だろう。


 ◇


「お待たせしました。今日の夕食です」


 大皿に三つのベーコンエッグのピン包みを乗せて居間に移動する。


「クルト様、残りのものを持ってきます」

「任せるよ」


 ティナが慌てて台所に向かっていく。

 台所のほうを見ると、お盆に小皿と俺が温めておいたスープを並べていた。

 さすが、ティナだ。俺が何を用意しているのか予測して動いてくれている。


「ほう、それがクルト様の料理ですね。さきほどから肉の香ばしい匂いがして、腹が減ってしかたありませんでした」

「質素な料理で申し訳ない」

「私は使用人故、飾り立てた料理など望んではいません。味の期待はしておりますが」

「それなら、大丈夫だ。味は保証する」


 俺とヴォルグは顔を合わせて、にやりと笑う。

 ティナがお盆をもって戻ってきた。

 スープと小皿を机に並べる。


「では、料理が冷めないうちに食べましょう。これは作りたてが一番うまい料理です」

「それは、一刻も早く食べなければなりませんね。クルト様の料理を台無しにするわけにはいきません」


 俺達はそれぞれの席につく。

 ヴォルグはティナが同じ食卓についても気にしていない。

 最初に説明したそういう風習であることを理解してくれているようだ。


「「「今日の糧を得られたことを、森と神に感謝します」」」


 声を合わせて食前の祈りを済ませる。

 そして食事を開始した。


「クルト様。ナイフとフォークがありません。これはどうやって食せばいいのでしょうか?」


 ヴォルグは困惑した様子で問いかけてくる。

 平均出身と言っているがヴォルグは口調こそ雑だが、いちいち振る舞いに気品が感じられる。

 もしかすれば、貴族の生まれで爵位を継ぐことができずに平民になったのではないかと勘ぐってしまう。


「この村では、上品な食べ方はありましない、こうやってかぶりつくんだ」


 俺はベーコンエッグのピン包みを手で持ち上げかぶりつく。


「そうするのですね。ご指導を感謝します。このような食べ方をするのは戦場以来だ。だが不思議と心が踊ります。それでは」


 若干のためらいを見せながらもヴォルグは俺の料理にかぶりつく。


「これは!? なんと」


 そこからは一瞬だった、礼儀もなにもなくガツガツと平らげ、手についたソースを行儀悪く舐める。

 そして、食べ終わってから放心したように長い息を吐いた。


「これはすごい。凄まじい旨さだ。我を忘れてしまいました」

「そこまで喜んでもらえると、こちらとしても嬉しいよ」


 横目でティナのほうを見ると、彼女もベーコンエッグのピン包みを小さな口で必死にはむはむと食べていた。大変可愛らしい。


「ネギのような香りは食べる前からしていましたが、一口食べた瞬間に一気に肉と甘酢っぱいソースの香りが押し寄せてきて、畳み掛けるように口の中に肉汁と卵の黄身の味が広がって、それがまたソースとよく合う、食感も面白い、外がカリッとして、中がふわっとして、こんなもの止まるわけがない」


 ピンで包んだのは香りと肉汁を逃さないためだ。

 しっかりとベーコンエッグとソースを包んだおかげで、一口目でいっきに閉じ込めていた香りが広がる。いわゆる香りの爆弾だ。そこに畳み掛けるように、特製のイノシシベーコンと卵の甘みが襲いかかる。


 焼いたときに出たソースは、肉と玉子の旨味を何倍にも引き上げ、その旨味をピンが受け止める。


 ピンの役割はそれだけではない。油で上げた表面はさっくりとした心地良い歯ごたえを楽しませつつ内側のふんわりした生地は肉汁や卵黄とよく絡み合いしっとりとした部分と、ふんわりした部分で食感に変化をつける。

 ギョウジャニンニクもいい仕事をしている。くどさを洗い流す効果がある。


 単純な料理だからこそ、細かな気配りが大きな違いになって現れる。


「こんな、素朴な材料でこれほどのものを作れるとは驚きです」

「その割には、物足りない顔をしているな」


 料理を楽しんだというのは本心だろう。

 だが、彼は満足していない。


「バレてしまいましたか、正直、少し食べ足りないです。これだけうまいものを食べてしまうと、余計に腹が寂しくなる」

「そういうと思っていて、用意をしてあるんだ」


 俺は台所に一度戻る。

 そして、瓶を一つと、薄切りにしてさっと火を通したベーコンを乗せた皿をもってくる。


「それはなんでしょうか?」

「蜂蜜酒です。近いうちに私の領地でも酒を作りたいと思っていましてね。その試作品だ。ベーコンをつまみにこれをやりましょう」


 蜂蜜酒は人類最古の酒と言われるぐらいに非常に作りやすい酒だ。糖度の低いハチミツを放置しているだけで、条件が揃えば勝手に酒になるぐらいだ。

 俺の領地で作り始めるには向いているだろうな。


「いい趣向ですね。是非、ご相伴に預かりたい」


 その言葉に頷いて彼のコップにミードをたっぷりと注ぐ。

 これは俺の前世の知識を活かしてかなり度数を高めてある。うまいものを食っていい気になっている上に、これを飲めばかなり警戒心が緩むだろう。


 さあ、いろいろと情報を聞き出してみようか。

 ファルノが変な企みをしているとは思わないが、彼女の周りの人間が彼女を通してどんなことを考えていてもおかしくないのだ。

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【そのおっさん、異世界で二周目プレイを満喫中】
努力家だけど報われないおっさんが、一つの気づきと出会いで人生大逆転、知識と経験ですべてを掴む物語!
 自信作です!
― 新着の感想 ―
[一言] 読んでてお腹が空いてきますね! ギョウジャニンニクが大好きなので一層おいしそうです(^^)
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