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お菓子職人の成り上がり~天才パティシエの領地経営~  作者: 月夜 涙(るい)
第一章:誓いと黄金のマドレーヌ・アルノルト
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第十四話:土属性魔術の開眼

 いよいよ決闘が二日後にせまってきた。

 剣の技能はⅢにまで至り、体調も万全。


 そんな中、一つだけ問題があった。


「クルト様、どうしたんですか? そんな難しい顔をして」

「それがだな。決闘に使う剣がないんだ」


 俺がもっている武器に使えそうなものは、槍と農具と石包丁ぐらいだ。

 このままでは石包丁で選定の儀に出るが、それだとあまりにも恰好がつかない。


「剣なんて、この村で誰も持ってないですからね」

「剣に回す鉄があるなら、農具に使うしな。材料さえあれば、本村に行けば鍛冶師が居るんだけど、そいつはヨルグの取り巻きだから協力を得ることが出来ないのも痛い」


 専門技術を持つものは本村にほとんど集まっている上に、将来の領主になる公算が高いヨルグに媚びているものが多い。

 ほとんどは俺の敵だ。


「それに、ずっと使ってきたこいつに愛着があって、新しい武器をとるのを躊躇う気持ちもある」


 手入れをしていた槍の柄を握る。やっぱりしっくりくる。こいつは完全に身体に馴染み俺の一部となっている。

 十年間ずっと、共にあった俺の相棒。

 できれば、これからもこいつと共に駆け抜けたい。

 ただ、どうしようもなく俺には槍の適性がない。さすがに包丁を剣と思い込んだようにして、槍を剣だと思い込むことはできない。

 最低限、斬撃を目的とした刃物である必要がある。


「難しいですね……いっそ、クルト様の槍が剣に変わればいいのに」

「それだ」


 俺の頭に一つの天啓が浮かんだ。槍を魔術で剣に作り変える。そうすれば、剣は手に入るし、一緒に戦い続けてきたこいつと、共に戦える。

 それに、一つ思いついたことがある。刀であると同時に槍である、”あの刀”なら、あるいは俺の今まで培った槍の技量を活かしたまま、剣技能の補正を受けられるのではないか。


「そんなことが出来るんですか?」

「出来るかもしれない。俺が土属性の魔術が開眼すれば」


 土属性の魔術は鉱石操作も可能なのだ。もしかしたら、槍の形状変化ができるかもしれない。


「それなら、あとはどうやってクルト様が属性魔術に目覚めるかですね」

「書物を呼んだ限り、土と一つになることが重要だってあったね」


 俺の全てを見通す目でも同じ回答が返ってきた。

 土と一体になったとき、土は俺に応えてくれると。

 なら、全身で土を感じるしかあるまい。


「ティナ、半日だけ土属性に目覚めるか試して見るよ。裏の畑で土と戯れてくる。今までよりずっと、土を感じる方法で」


 半日の遅れなら、失敗に終わっても取り戻せる。やるだけやって駄目なら諦めよう。


「なら、私はお弁当を作ってもっていきますね」

「それは嬉しい。ティナのお弁当を楽しみに頑張ってみるよ」


 そうして、俺は土属性の魔術を開眼するために外に出た。


 ◇


「一体感を高めるか」


 今までさんざん畑仕事をしてきて目覚めないということは手で触れただけでは駄目だろう。

 ティナは、薪に火をつけただけで目覚めたが、これには大きな個人差がある。


「土に飛び込んで見るか」


 俺は畑の横に積んである、森から運んできた栄養たっぷりの腐葉土を広げて平らにする。

 そこに飛び込む。全身土にまみれる。


「ふむ、この程度では駄目か」


 まったくピンと来ない。

 さらなる一体感が必要だ。

 俺は、水を汲んできて土を濡らす。土がドロになった。

 再びダイビング。土が泥になったことで、より身体が土と一つになった気がする。

 土の力をどことなく感じる。方向性は間違っていない。

 しばらく、こうしていよう。

 俺は全身で土を感じながら目を瞑る。


 ◇


 あれから一時間たった。

 少し、土の力を感じるようになったが、やはりこれでは足りない。これ以上は時間の無駄だろう。


 方向性が間違っていない以上、さらに土とのふれあいを深めればいい。

 あと、一歩だという確信はある。


「クルト様、お弁当を持ってきました!」


 ティナがやってきた。手にはバスケットと水筒、今日は満足の行く料理が出来たのかとてもいい笑顔だ。

 しかし、その笑顔が泥まみれを見て引きつる。


「ああ、ありがとう。もう少し試したいことがあるから、食事は少し待っていてもらえないか?」

「待つのはいいですが。その、何をされているんですか?」

「土との一体感を感じるために身で土を感じていたんだ。かつてないほどに土を感じているよ」

「なっ、なるほど」


 ティナは、驚きつつも一応の理解は示してくれたようだ。

 さて、どうしたものか。大の字になって泥に浸かっているのにまだ足りない。おそらくこれではまだ温いのだ。

 立ち上がり、泥の中から抜け出す。


「ティナ、お願いがあるんだ」

「なんですか、クルト様」

「泥につかるぐらいでは足りない。だから生き埋めにしてもらおうと思う」


 俺は身体能力を魔力で強化し、固い地面をがんがん掘り、その中に入る。

 穴の深さは、首から上だけが出るようにしている。


「ティナ、どんどん土をかけてくれ」

「はっ、はいクルト様」

 

 ティナにより、どんどん穴に土が敷き詰められる。

 俺は指一本動かせなくなった。

 土との一体感がさらに増す。


「クルト様、辛くないですか?」

「大丈夫、気持ちいいぐらいだよ」


 母なる大地に包まれることで妙な安心感がある。あと、もう少しだ。


「ティナ、仕上げだ。俺の首から上も埋めてくれ」

「そんなことをしたら、死んでしまいます!」

「土の魔術に目覚めたら、自分で吹き飛ばすよ」

「もし、力に目覚めなかったら」

「百数えて、動きがなければ掘り返してくれ。それぐらいなら息がもつ」

「……わかりました。では、いきます」


 ティナが俺の頭の上から土をかぶせる。

 どんどん視界が暗くなり息苦しくなっていく。

 完全に俺の頭が埋まった。


 静かだ。そして、なぜか温かい。

 音も光も消えて、土の鼓動が聞こえた。

 そうか、これが、土の力。

 新たな景色が広がる。世界が変わる。

 これが、土の精霊たちが見る世界。

 たしかに、俺は何かを掴んだ。


「クルト様、もう限界です。あと十秒待って駄目なら掘り返します!」


 ティナの慌てた、それでていて泣きそうな声が聞こえる。

 心配をかけて申し訳なく思う。

 ありがとう。もういいよ。大丈夫。

 目覚めた。これが土の属性魔術。


『これからよろしく』


 そう、土に語りかけると、俺を包んでいた土が動き出す。

 頭にかかる土の重みがなくなったのを感じて目を開ける。

 ティナの顔が近くにあった。

 しゃがみこんで、覗き込んでいたようだ。


「クルト様、土の属性魔術に目覚めたんですね」

「うん、やっと俺は土の属性魔術を手に入れた」


 身体を包んでいた土が一人でにどかされていき、足元が盛り上がって地上に出る。


「さて、ちょっと泥まみれになったし服を脱いで、水浴びして着替えるよ、目をそらしてもらっていいか?」

「はっ、はいクルト様」


 ティナが慌てて目をそらす。そして、両手で顔を覆っていた。ティナが相手とは言え、裸を見られるのは恥ずかしい。


 ティナが顔を逸らしたのを確認してから服を脱ぎ、水を浴びて泥を落とし、布で水を拭いてから服を着る。


「お待たせ、着替え終わったよ」


 ティナのほうを見ると、顔をそらしているようだが、しっかり横目で指の隙間からこちらを見ている。


「ティナ」


 俺はティナの前まで歩いて行き、デコピン。


「いっ、痛い。何をするんですかクルト様」

「見るなって言ってたのに、言いつけを破ったからだよ」

「うっ、その、ごめんなさい」


 ティナがおでこを押さえながら謝る。

 まあ、気持ちはわからなくはない。ティナも年頃だ。男の裸が気になるのかもしれない。


「ティナ、おまえだって嫌だろう。裸を覗かれるのは。」

「別にクルト様なら……いえ、なんでもないです。その、魔が差しました」

「なら、今度仕返しにティナの水浴びを魔が差して覗いてみようかな。俺の気持ちがわかるかもしれない」


 俺が冗談めかして言うと、ティナが顔を真っ赤にした。


「冗談だよ。そんなことはしないさ」

「あっ、クルト様、からかって!」


 俺は苦笑する。


「土魔術を手に入れたのは、ティナが手伝ってくれたおかげだから、今回は許すよ。さっそく槍を新しく生まれ変わらせようと思う」


 壁に立てかけていた槍を手に取りぎゅっと握る。しっかりと手に馴染む感触。やっぱり俺はこいつと戦いたい。


「はい、クルト様!」


 ティナが元気よく返事をした。

 しかし、きゅううと可愛い音がなる。

 ティナのお腹の音だ。

 よほど恥ずかしいのか、キツネ耳がぺたっと倒れ、さっきほどまでとは違う種類の顔の赤さになる。


「お腹が空いたし、先にお弁当にしようか。新しい姿に生まれ変わらせるのはそれからにしよう」

「ううう、クルト様ぁ」


 ティナが恥ずかしがりながらもしっかりと頷いた。

 よほどお腹が空いているのだろう。

 

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