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お菓子職人の成り上がり~天才パティシエの領地経営~  作者: 月夜 涙(るい)
第一章:誓いと黄金のマドレーヌ・アルノルト
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第十三話:庶民のおやつ

 剣の修業を初めて、3日たった。

 俺の既に剣技能Ⅱに至っていた。


 通常なら、才あるものが数十年の鍛錬を経て初めて至る域。

 技能はⅠからⅡ、ⅡからⅢと数字を上げるごとに指数関数的に必要な熟練度が増えるのだ。


 だが、圧倒的な才能と、十年の槍の鍛錬で得た愚者の一念というスキル。そこに料理の腕を活かした秘策、さらにティナへの愛によって、それが可能なった。


 ……ただ、心を病んで、奇行に走ったと思い込んだティナを説得するのはそれなりに大変だった。


「クルト様、このキャベツの山、どうしましょうか」


 ティナが今日の昼食のために、鍋に水を張り、干し肉を作ったときの切れ端を鍋に入れながら問いかけてくる。干し肉の切れ端は良い出汁が出るのだ。


「ちゃんと考えてるよ」


 キャベツを節約するために、ティナに一枚一枚葉をはがしてもらって、しかも極細に切っている。だが、それでもキャベツが山のように積まれている。

 俺たちで食べてはいるものの、消費が追いつかない。


 ちなみにこれだけのキャベツが確保できたのには理由がある。

 となり村でキャベツを育てているのだが、今年は異常なまでの大豊作だった。もはや腐らせて肥料にするしかないほどだ。

 おかげで例年よりだいぶ小麦との交換レートが低かった。俺は大量に手に入れており、領民たちにキャベツを配る予定だった。


「キャベツを使ったおやつを開拓地のみんなに振る舞う。この3日の特訓でヨルグには勝てる見通しがたって余裕が出来たし、顔を出して差し出しをするぐらいは出来るよ」


 キャベツを配るだけでは意味が無いので、美味しい食べ方を教えようと思いレシピを用意していた。

 そのレシピを今日実践する。


「良かったです。みんなも久しぶりにクルト様に会えて喜ぶと思います」


 ティナが微笑んでかまどに薪を足す。

 すると、火が一気に燃え上がった。

 ティナのもふもふの尻尾の毛が逆立つ。


「きゃっ、なにこれ、いきなりすごく燃えて」


 ティナのほうを見ると、魔力がティナからかまどの中に注がれているのが確認できた。


「ティナ、落ち着いて深呼吸。このまえ、魔力の使い方を教えたよね。しっかり火を見て、ティナと魔力で繋がってるから」

「あっ、わかります。あっ、そうか私が燃えてほしいって思ったから」

「普通はそうはならないけどね。ティナの属性は火だ。魔力をもっていると、自分が適性のある属性に触れた時、属性魔術に目覚めることがある。ティナは今目覚めたんだ。おめでとう」

「そうなんですか! 火が使えると便利そうです!」


 そう言いながらティナは、魔力を使ってかまどの火を付けたり、消したりしている。なかなか便利な力だ。


「結構、力が強いね。薪なんて使わずに料理ができるんじゃないか」

「やってみますね……あっ、できます。クルト様、これで薪割りしなくても温かい料理を作れますよ!」


 ティナが嬉しそうに尻尾を振って、目を輝かせる。

 薪割りは重労働だし、石かまどの掃除はめんどくさい。魔力でかたがつくのは楽でいいだろう。


「うん、素敵だね。でも、嫉妬するな」

「嫉妬ですか?」

「うん、俺は土属性だけど、まだ属性魔術には目覚めてないからね」


 全てを見通す目で俺が土属性だということはわかった。

 だが、全然、属性魔術に目覚める気配がない。畑仕事で毎日のように土に触れているのに。……すこし、複雑な気分だ。どこかで、もっと土との一体感を高めたほうがいいかもしれない。


「クルト様なら大丈夫です! いつかきっと目覚めますよ」

「そうだといいね。いずれ必要になったら考えよう。ティナ、その昼食に用意してるスープ。差し入れように使わせてくれないか? 俺達も向こうで食べよう」

「もちろん構いません。クルト様のお料理、楽しみにしています」


 そうして俺達は、俺が刻んだ大量のキャベツをもって開拓地に向かった。


 ◇。


 俺は巨大な石の板を背負って、たっぷりとスープが入った鍋をもち、ティナは大量のキャベツが入った籠を持って開拓地に辿り着いた。

 キャベツを使った料理は考えている。それはごく少量の小麦とキャベツと出汁だけでできるお手軽な料理だ。

 しかし、その旨さは特筆するものがある。


「みんな、元気か!」


 作業をしている連中に声をかける。

 開拓村に居る領民たちのリーダー格であるソルトが口を開いた。


「おう、坊っちゃん、来てくださったんですか」

「ああ、特訓が一段落したから、問題が起こってないのか聞くのと差し入れのためにな」

「問題は今のことろないですな。おっ、差し入れっていうのは嬉しいや」

「そうか、それは良かった。俺はここで準備をするから、区切りがよくなったら、みんなを呼んでもらっていいか?」

「はいよ。わかったぜ」


 そして、ソルトが仲間たちのほうに戻っていく。

 俺は、みんなの差し入れの準備を始めた。

 石を積み重ねて、台を作り、その上に石の板を置く。


 水平になるように、慎重に調整する。とは言っても、ちょうどいいサイズの石なんてないので、石包丁で綺麗に切る。剣技能Ⅱがあれば、その程度のことは容易い。


「ティナ、この石の板を熱くしてくれ」

「はい、クルト様」


 ティナが火の属性魔術で石をカンカンに熱する。

 俺が作るのは、お菓子。とは言っても駄菓子に分類されるもんじゃ焼きだ。


「坊っちゃん、みんなを連れてきたぜ」

「おう、ならはじめよう」


 俺はまず、木で出来たボウルに、ティナのスープ……干肉を使ったときの切り捨てるクズ肉で出汁をとり、塩で味を整えたものを入れ、次に小麦粉、キャベツ入れる。

 さらにソースを加えた。

 ソースは、キャベツのみじん切りを通り越してペーストにまでしてしまったものに肉汁と適当な野菜くずの擦りおろし、酢と蜂蜜と塩をいれて煮詰めたものだ。


 もんじゃ焼きなので、生地はゆるゆるだ。

 その生地を、まず少量、熱された石の板にぶちまける。

 ジュウウと、いい音がなり、肉の旨味がたっぷりのスープとソースが蒸発し、食欲を誘う匂いがする。


 領民たちがごくりと生唾を飲んだ。

 ある程度火が通ると、木ベラで円を作るようによせ、土手を作る。

 空いた中央にさきほどよりも多めの生地を入れた。そうなれば水でゆるゆるの生地は外に流れようとするが、土手のおかげで堰き止められる。

 生地が半透明になった。

 人数が多いので、大きな石板にいっぱいいっぱいのサイズにしてある

 お好み焼きと違ってひっくり返す必要がないので、一度に大量に作れる。


「これで、完了。もんじゃ焼きって料理だ。水とキャベツたっぷりだから、小麦粉がケチれる」


 俺がそう言うと周りが笑った。

 一人ひとりに木のスプーンを渡す。


「行儀がわるいが、石の板から直接スプーンで掬って手皿で食う。まず俺が見本を見せよう」


 俺は見本を見せるように、スプーンでもんじゃを救い、左手で手皿をつくり、口に運ぶ。

 口の中で肉の旨味たっぷり滲みでたスープとキャベツの甘み、そしてソースの酸味が交じり合った。

 しんなりしたキャベツの独特の食感が心地よい。


「はふっ、はふっ、うん、いい出来だ。見てくれは悪いがうまい。さあ、食ってくれ」


 最初は恐る恐るといった様子で、領民たちは口にしたが、一口食べると目の色を変えて、次々に口に運ぶ。

 一人が食べ始めると、次々にみんなが手をだし、はふっ、はふっと口を火傷しそうな勢いでもんじゃをかきこむ。


「こいつはいけるぜ!」

「ああ、なんか後を引くよな」

「見た目はゲロだけどな」

「おい、それを言っちゃおしまいよ」


 領民たちが笑いあう。

 喜んでもらえてよかった。

 石の板、限界までのおばけサイズのもんじゃだったが、みんなが勢い良くがっつくのであっという間に消えていく。

 石の板のサイズは限界があって、一度にみんなは食べられないので、順番に並んでもらいながら、俺はおかわりのもんじゃ焼きを焼き続けた。


 やたら、手の動きがいい気がする。

 火入れのタイミング等の勘が妙にするどいし、粉の配分も混ぜている段階で、どんなものが出来上がるか、簡単かつ、正確に想像できる。


「あっ、そうか、そうだよな」


 その理由はわかった。

 俺の料理技能があがっていた。剣の特訓だったが、あれは料理でもある。あふれるほどの愛情で、感情値がマックスな状態で、昼夜を問わずにやっていたせいで、料理技能も、しっかりと料理Ⅲに昇華していたのだ。

 嬉しい誤算だ。Ⅲというのは技能がB以上のものが生涯かけてたどり着く境地だ。


「さあ、みんなどんどん食べてくれ。キャベツを使い尽くす!」


 俺がそう言うと、男たちは木のスープーンを掲げて……。


「おう!」


 と、頼もしい返事をした。


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