1話 日常の終わり
―――最後かもしれないだろ?だから、全部話しておきたいんだ…。
「いやいやいや。こういうパクりは良くないわ」
手に持っていたスマホを机の上にポイっと放り投げながら俺はそう呟いた。
俺は藤川勇気。都内の私立高校に通っている17歳の高校二年生だ。因みに帰宅部。現在俺は授業が終わって誰もいない教室で一人自分の机に座っていた。
何をしていたかというと俺の趣味の一つであるネット小説を書こうとしていた。
俺は世間一般で言う《オタク》と呼ばれるタイプの人間だ。ゲーム、漫画、アニメ等が大好きだ。そこでこの際いっちょ自分の手で作品を生み出してやろうかなどと思い至ってスマホで文章を書こうとしたんだがその結果がさっきの一文だ。
思いっきりゲームのセリフをパクってしまった。なんのゲームかは言わない。ググれば出ると思う。はぁ、せっかく銃と剣が一体の武器とかそう言う設定も考えてあったのにこれじゃあなぁ…。
ふと視線を外に向けてみると、グラウンドではサッカー部や陸上部といった運動部に所属する生徒達が練習に励んでいる。
サッカー部はゲーム中らしいのだが……おっ!一人の男子生徒がゴールを決めた。
確かアイツは隣のクラスの一ノ瀬だったか。勉強も運動も出来て更にイケメンときた。リア充ってやつだな。
そんな事を考えながら外を眺めていると、ガラガラと教室の扉が開く音がした。
「あれ、藤川……くん?」
聞き覚えのある声が聞こえたので教室の入口に視線を送ると、そこには一人の少女が立っていた。
「姫宮?」
教室の入口の方で俺に声をかけてきたのはこのクラスの人気者である姫宮紗由理だ。
成績優秀、文武両道、品行方正、容姿端麗と高スペックの持ち主だ。因みに彼女とは一応小学校の頃からの知り合いである。と言ってもあまり接点があったわけでもないので幼馴染と言う訳ではない。
「どうしたんだ?この時間なら部活のはずじゃないのか?」
「あっ……いや、その、ね。部活は休みなの…それで、ちょっと忘れ物しちゃって」
俺が質問をすると姫宮は少し言いにくそうに答えた。彼女は柔道部に所属している。何でも母方の実家が古武道の道場をやっているらしく、彼女もその縁で古武術と薙刀術を嗜んでいるとか。そんなこともあって柔道部に入部し、大会でもかなりの成績を収めているとか。
まあ、そんなことは些細なことだ。それよりも俺には彼女の態度に気になるものを感じた。と言ってもいつもの事だし、何故かとかその原因は何となく理解している。この際だからハッキリと言っておこう。
「えっと……邪魔してごめんね。それじゃ」
「まあ待てよ。そこまで急いでいる様でもないし、少し話さないか?」
「えっ…?あ、うん…いいよ」
姫宮はそう言うと俺のいる席から一つ机をはさんだ席に座った。……まあ、教室の端に座られるよりはマシか。
「前から思っていたんだけどよ。お前、俺と話す時だけ他のやつより少し遠慮した感じになるよな」
「……そう、だね」
「……去年のアレの事はもう気にするな」
「……っ!」
俺の言葉を聞いて姫宮が息を飲む。やはりか……これはあの時にフォローしておくべきだったな。
「部活をやめたのは俺の意志だ。姫宮のせいじゃない……だから気にしないでくれ」
「藤川くん…。で、でも…!」
俺は現在帰宅部だ。だが、元々帰宅部だった訳じゃない。俺は一年の頃、新体操部に所属していた。別に大会で好成績を残していたとかそんなことは無く、部の中では真ん中くらいの実力だった。
特に向上心があった訳でもなく、ただ新体操という競技を楽しんで居られればよかった。まぁ…ちょっとぐらい女子にモテるかなという下心も無い訳では無かったが。
そんな中、去年の冬頃。部活も終わって帰ろうとしていた所で部活の先輩達が一人の女子を連れて校舎の裏の方に行くのが見えた。まずいかな、と思いつつも好奇心が湧いた俺はそのあとをつけて様子を見ることにした。
その先で見たのは、三人の先輩に言い寄られる姫宮の姿だった。先輩たちに何かを誘われている様子だったがそれを拒否しているようだった。そこで先輩の一人が彼女の腕を掴み、彼女の顔が苦痛に歪むのが見えた。
その日、彼女は部活でミスをして腕を少し痛めていたらしい。もしそうでなければ彼女は得意の武術で彼らを撃退していた事だろう。
それを見た俺は彼らの間にに入って止めさせようとした。隙をついて姫宮が解放されたのを見て彼女を逃がし、そのまま先輩たちとの殴り合いの喧嘩に発展した。
最終的には姫宮が呼んできた教師のおかげでその場を執り成す事に成功する。問題の大元である先輩たちは一週間の停学処分を受け、俺も事情を聞かれるなどあったが処分的なものはなかった。
しかし、その後その先輩たちの事もあって新体操部には居づらくなり部活に行くことすら憂鬱になり始めたので退部する事にした。顧問の先生が大変残念そうにしていて気が向いたら戻ってこいとも言ってくれた。だが、まだその気にはなれていない。
まあそんなこともあって俺は帰宅部になった。その頃からだな、姫宮の態度が変わって話す時も少し距離を置くようになったのは。
「だから気にすんなって。それに、遠慮されたままってのも嫌なんだよな。こちらとしても話しづらいし…」
「……分かった。今までごめんね」
俺がそう言うと、少し間をあけてから姫宮はそう返事してくれた。
「分かってくれたならいいよ。あぁでも、もし俺のことが嫌いで話したくないって言うんだったらそれはそれで構わないからな?」
「いや嫌いだなんて事は無いよ!?そんな事は全然……その、むしろ……」
ん?なんか腕をブンブン振って大げさに否定したと思ったら段々言葉が尻すぼみになっていったぞ?今は顔を俯けて高二にしては豊かな胸の前で指をツンツンしている。むしろ…なんだ?
俺がその言葉の先を聞こうとした時、俺と姫宮の間に変化が起こった。
ピカッ!と俺と姫宮の足元が輝き、そこに幾何学模様の円陣が現れる。そしていきなりの浮遊感。見ると足が地面を離れている……浮いているだと!?
「えっ!?な、なにコレ?!」
姫宮も突然の不可思議現象に驚きを隠せないようだ。
「分からない。少なくともタダ事じゃあ無いな!」
この時俺は頼むから何かのドッキリであってくれと願った。しかし、体が宙に浮いている時点でドッキリなんぞで用意できる仕掛けでは無い事も理解していた。これは一種の現実逃避でもあったんだろうな。
「ふ、藤川くん!」
姫宮が俺に向かって手を伸ばしてくる。しかし、離れて座ってしまっていたせいで手が届かない。
「クッ…!姫宮ッ!」
「藤川くんッ!」
俺と姫宮がお互いの名前を叫んだ瞬間に教室にまばゆい光が満ち、俺の意識はそこで途絶えてしまった……。
初めまして、クロネコと申します。この小説をお読みいただき、ありがとうございます。この小説は勢いで始めたようなものなので正直言ってどこまで続くかわからないものですが失踪はしないように頑張りますので、どうかよろしくお願いしますm(__)m