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シーズン2第1話「もうひとり」


小さく息を吐く音と共に幾度目かの剣戟の音が、もうじき日が暮れる寸前の森に響く。


その剣戟の音は三つ。


「どうしたケイサム!腰が引けているぞ!」


「はっ!ひっ!うおっ!?た、隊長!俺、魔導士ですよ!?」


ナビツの放った、大振りな傍から見ても手加減していると分かる剣の一撃を転がるようにして回避した金髪碧眼のケイサムが、焦った顔で声を上げた。


ややキツイツリ目で黙っていれば美男子で通りそうだが、妹の派手さに比べれば若干陰るという評価。


その顔が今は焦りで引きつり、手にした剣を持つ手が覚束無い。


「魔法が使えない状況というものもあるだろう!魔力による強化ばかりに頼っていては体が鈍るぞ!」


そんなケイサムの表情とはうって変わって笑顔を浮かべるナビツの剣は、遠慮なくケイサムの顔の真横を通った。


「うわっひゃあ!!」


「──── はぁっ!」


ケイサムのうろたえた声そっちのけでケイサムとは反対側からナビツに向かって横薙ぎに剣が迫る。


ナビツがその一撃を左手に持つ短剣で受け一瞬の膠着状態が生まれたが、ナビツの力には適わないと知る相手はすぐに剣を引いて構えなおす。


「やるじゃないか、アル!」


「はい!」


数日前の腕前からは考えられないような鋭さで剣を振るうアルフィースの様は、今まさに駆け出しの冒険者の殻を破ろうとしているようだった。


実際、ナビツという師を得たアルフィースは真綿が水を吸収するように技量を伸ばしている。


発端はナビツの「剣を練習してみないか」という一言からで、アルフィースは一も二も無く飛びついた。


ナビツとしても甥っ子との距離感を模索する目的もあったのだが、それは中々成功しているらしい。


「アルフィース君の成長速度は目を見張るものがあるわね」


銀髪をかき上げながら馬車の縁に腰掛けていたフィーメルが感心したように声を上げると、焚き火の前で鍋を掻き混ぜながら眠そうな目をしたナイーレが黙って頷く。


「ホントにそうですわね……最初は構えもしっかりとしていなかったのに、今ではもうアル以上ですもの。まぁ、アルが魔法に頼りすぎで鍛錬をサボる上に性格がヘタレという点もありますけれど」


溜息と共にズバリと言い放ったアキリナは「妹よ、意外と酷いぞ!」という声を無視して同じ馬車に座るアリエに微笑む。


そこには、兄を褒められた事を喜ぶ可憐な少女がいた。


手に持つ見慣れた普通の木製のコップでさえも、少女を引き立てるエッセンスのように思えてくる。


みるみると剣の腕を伸ばす兄と同じように、アリエもまた彼女の放つ気配が神秘性を持ち、ある種の静謐さを周囲にもたらしていた。


まるで神託を下す『巫女』のように……。



────『巫女』



過去、数人の者達が『巫女』と呼ばれた。その中でも『宵闇の巫女』『炎神の巫女』『氷雪の巫女』『深淵の巫女』……そして、『精霊の巫女』の5人はこの世界では知らない者がいないという程に有名であり、彼女達はいずれも常識ではありえない、魔法文明をもってしても説明が出来ない"奇跡"を起こした、神の化身ではないかとも言われている存在である。


だがそれは千年前の『精霊の巫女』消失を最後にそこまでの力を持った存在は現れていない。


しかし、最近になって神の祝福を受けた『奇跡の巫女』と呼ばれている者が確認されている。


『奇跡の巫女』の力によって、見えなかった目が見えるようになった。歩けなかった足が歩けるようになった。不治の病、あるいは治療法の無い奇病が治った……等の奇跡が起こったと言う。


神の祝福を受けて奇跡を実践できると"される"『奇跡の巫女』……まるで、『精霊の巫女』の再来かのような力……。


実際、『奇跡の巫女』を『精霊の巫女』の再来だとする声もある。


だが、"される"という言葉通り真実は分からない。なぜならば、それら奇跡は"ある特定の者達"の周囲に時折現れてはその者達"だけ"に奇跡を起こして見せていたからだ。


その者達とは、ルセラオン教会の者達。


教会の信者であれば奇跡を体験できる。だが信者にならなければ、奇跡は体験できない。というわけだ────随分、都合の良く。


『精霊の巫女』と同じ力を持つ『奇跡巫女』が、ルセラオン教会の者に奇跡を与える。という現象は、まるで『精霊の巫女』がルセラオン教会の使いのような印象を与える。


『精霊の巫女』を都合良く使おうとするルセラオン教会の意図が透けて見える事に、アキリナは嫌悪感すら持っていた。


アキリナはわずかに唇を噛む。


今回現れた、死者をも蘇らせる"女神"……その"女神"が新たなる『巫女』だとしたのならば、アルフィースとアリエはその最初の奇跡の体現者という事になる。


もしその事がルセラオン教会の者達に知れたなら……これから2人に起こる様々な苦難を思い浮かべ、アキリナは溜息を吐く。


気がかりはそれだけではない。


あの黒い不審人物。


女神と共に現れたあの不審人物が何者なのか。一切は謎のままだが、ナビツ小隊長には何らかの考えがあるようだ。


自分が悩んでも解決できる問題では無いと思いながらも、思考は止まらない。


今現在、どこにいるのか────その、黒い不審人物は……。






小さく甘い吐息と共に、何度目かの剣をぶつける音が夜になる前の森に響く。


その音は三つ。


「そらそらどうした!足元がお留守だぞ!」


「う、うわぁ!」


丘の上から見ても手加減していると分かる剣の一撃を、転がるようにして回避した金髪碧眼の兄弟子君が焦った顔で声を上げた。


ややキツイツリ目で黙っていればイケメンで通りそうだが、弟弟子君の可愛さに比べれば若干陰るという評価。


その顔が今は焦りで引きつり、手にした剣を持つ手が覚束無い。


「そんな足腰では夜の方もたかがしれているぞ!」


そんな兄弟子君の表情とはうって変わって笑顔を浮かべる師匠の剣は、遠慮なく兄弟子君の顔の真横を通った。


「それは師匠が昨日の夜も激しかったから────って、うわっ!」


「兄様!大丈夫ですか!?」


兄弟子君のうろたえた声そっちのけで兄弟子君とは反対側から師匠に向かって横薙ぎに剣が迫る。


師匠がその一撃を左手に持つ短剣で受け一瞬の膠着状態が生まれたが、師匠の力には適わないと知る相手はすぐに剣を引いて構えなおす。


「おいおい。お前らずいぶん仲がいいな」


「嫉妬なら、受付中ですよ!」


「お前らだけでジャレてないで俺も入れろよ」


「お師様、い、入れろよだなんてそんな……」


数日前の腕前からは考えられないような鋭さで剣を振るう弟弟子君の様は、今まさに駆け出しの愛の殻を破ろうとしているようだった……。


アフレコ in 私。


うひょー。


しるばーせいんとのおじさまと、少年二人のじゃれ合い。


うむ。素晴らしい師弟愛ではないか。


そう、愛なのである。愛。


師匠と、兄弟子君と弟弟子君。三角関係。なんと素晴らしき関係か……あっ!兄弟子君が弟弟子君にぶつかって倒れた!こ、こ、こ、このシチュエーションはおいしいゾ!


うおー!!デジカメがこの世界には無いのが悔やまれる……!


おのれ、せめて画像が保存できれば……。


プリントスクリーンキーはどこにあるのだ。しっかりしろよ!gunh ────!


などと考えながら見ていたからか、握り締めていた枝がポキリと折れた。


やばっ!?と思って慌てて身を竦める。


鍋をかき混ぜていた女の人が一瞬こちらを見た気がするが、本当に一瞬で再び鍋に視線を落とした。


……大丈夫大丈夫。バレてない。バレてない。


息を潜め、鍋の人を見てみるが変化はないようだ。


その様子にほーっ……と胸を撫で下ろして溜息をつきつつ、折れた枝の代わりに違う木の枝を持ってもう一度観察を続ける。


今、私は少年達の馬車から少し離れた丘の上で両手に木の枝を持ち、伏せながら見守っていた。


まるでストーカーのようだが、ストーカーではない。あくまで、見守っているだけですよ。


前回の村での戦いから数日。相変わらず私は彼らに話しかけれずにいた。


一度妹ちゃんといい感じになったのだが、私があれから動揺してしまって結局ほんの少しのコミュニケーションしかできなかった──── そう。妹ちゃんと直接話した訳ではないのだ。


声を出すのが怖くて、どうしようか迷っていた時にふと閃いたのは視線の左下にある会話ログ。


試しに会話ログのオプションであるスクリーンキーボードを起動して『douguya』と打ってみたら、妹ちゃんがしばしキョトンとした後「どうぐや……?道具屋なら……えっと、向こうの屋根が赤いお家です」という返事があり、つ、つ、つ、ついに見つけたーーーー!と大喜びした私は、ダッシュで道具屋に向かったのだった。


さすが異世界。豚さんみたいな顔のマークが道具屋だとは思いもしなかったよ。精肉店だと思ってた……何故に豚?


で。生理用品を手に入れたと。


どうして生理用品かと分かったかと言えば、なんとその表紙に使い方の絵が描いてあるではないか。


ほうほうふむふむ。と表紙を見ていた時に気が付いたのだ──── やべぇ!妹ちゃんそのままだ!……と。


それ以来、やはり話しかけづらい。


もんもんとするこちらとは対照的に、キャッキャウフフしている向こうを見ているとどんどん自分がダークサイドに落ちている気がする。


これはあれだ。MMOのゲームで、他のギルドの人達が楽しげに会話しているのをAFKを装いつつ座って眺めている感覚。


あれは……ツライ。


楽しげに会話しているのを見ていると、ついついギルドに入ってみようかな……などと思ってしまうものだけれど、いざギルド員募集の看板を前にすると人付き合いが怖くてクリックできなかった。


今は楽しく会話しているけれど、私が入ったら気まずくならないかな……などと考えてしまってはもう無理だ。


ゲーム上ですらそんな体たらくなのに、リアルのこの状況なら余計無理だろうなんて思ってしまう。


はぁー……どうにかならんものかな、この性格……と、溜息をついた時──── 視線右上にいきなり半透明のウィンドウで簡易MAPが表示された。


え?え?え?と混乱する私をよそに、簡易MAPの端に突然表示された赤い点。


この簡易マップは文字通り自分の周囲を簡単に表示するだけのもので、探査系のスキルを持っていない私では地形を表示することはおろか、敵の接近などを知ることも出来ない本当に近くを表示するだけの機能しかない筈のものだった。


今までもさっぱり役立たずで簡易MAPを開いたとしても、中心に青い点で私が表示されるだけでしるばーせいんとのおじさま達を含めて一切表示はされていない。


その程度のもので、いままでは誰も表示されずに私もすっかり忘れていたのだけれど、でもその簡易MAPにはある一つの重要な機能があった。


ゲームを始めるサーバーによってはこの機能が無かったりもしたけれど、私のやっていたサーバーではまったりしたものだったためこの機能が存在していたのだ。


それは、『PK(プレイヤーキラー)をしたことがある"他のキャラクター"を必ず表示して注意を促す』というもの。


PKをしたことがあるキャラクターを赤く表示する事で、いきなりPKされないように注意を促すのだ。


PKとはMMOのゲームなどで同じくゲームをやっている他の人を倒す事で、私のやっていたMMOではPKの出来るサーバーと出来ないサーバーで区別されていて、私はその出来ない方のサーバーにいた……筈なのだが。


まさか……?!と思って、よく見てみても状況に変化は無い。


私が見た簡易MAP────その青い点に向けて、赤い点が急速に接近しようとしていた。






<<────さんから、メッセージが届きました>>








『Hello ゲンキdesか ワタシ bot でありませn』

どうもお久しぶりでございます。北山です。

三部作のうちの第一部ですが、あんまり長いと携帯で読むときにリロード多くて大変という声をいただいたので二話に分けてみました。

これで10kb程です。

長い方がいいのか、短い方がいいのか、悩み所ですね。


さて。MMOと言えば。というか、Ragn──ゲフンゲフンと言えばという感じの、あの方の登場です。

アレがどう動くのか、イラスト付きの次回をお楽しみに~♪

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