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後編その3

『不審人物』というのに、これ以上無い程ぴったりの黒ずくめの人物が、へろへろと怪しい足取りで出てきた。


どう考えても捕らえるのが正解だとは思うが、その人物は自分達を助けてくれたという事実に戸惑うが、戸惑いの理由は他にもある。


白い、半透明な4枚の翼。伝説の神のようなその翼が、戸惑いに拍車を掛けて混乱へと誘う。


そして立ち上る力の波動。


まともではない程の力の波動は、ナビツ達が近寄るのを許さないとさえ思える。


…ゴクリ、と誰かの咽が鳴った。それは自分だったかも知れない。


「コーホー…コーホー…」


不審人物の出す、不思議な呼吸音も不気味に聞こえる。


"動けばやられる"そうと思える力の波動に気圧されて一歩下がった所で、不意に不審人物の歩みが止まった。


それは倒れている兄妹のすぐ近く。


手に何やら青い石を持っているが、いつの間に出したのか?それさえ確認出来なかった。


不審人物が手に持つ青い石を掲げる。


光が広がりそこから現れた女神にナビツは────目を、奪われた。


後ろ姿しか見えなかったが、白く半透明な4枚の翼と細身な体に纏う白い法衣。そして何よりもその身から放たれる輝きが、只者ではない事を如実に物語る。


黒髪が後ろで一つに纏められ、馬の尻尾のようにサラリと揺れた間から見えるのは、陶器のような白い肌。


彼女の視線がうつ伏せに倒れている少年を見ていた。


その彼女が、ふわりと後ろを振り返る。


ドキリと、胸が高鳴った。


猫を思わせる大きな黒い瞳が刹那の時間ナビツを捕らえ、また少年へとそそがれる。


美しい、とナビツはそれだけを考えた。


思考の全てがその一言に集約される。


その彼女が、倒れている少年に向かって祈るように手を合わせた。


組まれた手の指の隙間から光が溢れ、溢れた光は意志を持っているかのように少年の体に纏わりついて少年の体が光に包まれる。


「────コホッ、」


少年が、咳をした。


「ま、まさか……」


「え、え、え、ま、ま、ま、まちがい、な、な、な、なく、ししし、しんでたよねよねよね…!」


「あわあわあわあわあわ……」


うろたえる他の隊員の中も、ナビツの目は彼女から離れない────離せ、無い。


小さく少年が呻き、僅かに顔を上げたのを確認した彼女が微かに微笑み、光となって消えてゆく。


待ってくれ、君は────!


発した筈の言葉で出ない。言葉が、続かない。無意識に伸ばした手は彼女に触れる事無く空を切る。


コボッゴホッと激しく咳き込む少年を見て、慌ててフィーメルが駆け寄り抱きかかえて素早く状態を確認した。


「信じられません…信じられませんが、間違いなく生きています…」


フィーメルの言葉が最初は耳に入らなかった。


「隊長…?」


訝しげに首を傾げたフィーメルの言葉でハッとする。


「あ、ああ……他に問題は無いか?」


「主な傷は跡形も無くなっていますが、衰弱はしています。恐らく血が足りないと思われますので、急いで治癒魔法を使います」


「そうしてくれ」


直ちにフィーメルが少年に治癒魔法を掛け始めた。


これで少年は間違いなく助かる筈。


ホッとしたのも束の間、魔族の事をすっかり忘れていたのを思い出して慌ててそちらを見れば、全身にヒビが入って色素の粗方を失った、今にも崩れそうな魔族の姿が。


魔族が、熱病にうなされた様に呻く。


「バカナ……なンだ……ソの…ちカらは………おマえの…ちカらは、なんだ…!魔力でハ…ない!神力デも精霊力デもナイ…!なンだそれハ!?何だそれは!?」


ポロリと魔族の右腕が落ちて砂になる。


「りフじんなそのチからはナんだ……!!」


サラサラと魔族が砂に変わっていく。


魔族の死。


このまま放っておいても、やがてこの魔族は朽ち果てるしかない。


それでも────魔族の目の前に瘴気が集まる。


「こコで殺さナければ!ココで…ここで…!!ここデえぇぇぇぇ!!」


最後の最後まで力を振り絞るかのように瘴気が急速に収縮していき、握りこぶし程の大きさとなった。


狙うは、不審人物。


「させるかよ…!」


声が聞こえた。と、同時に視線の直ぐ下がキラリと輝く。


だが、魔族にはもう下を向く余力も無い。


「……化け物め……!」


それが、魔族の最後の言葉。


懐にもぐりこんだナビツの『祝福』を受けた一撃が魔族を打ち抜き、ザァッ────と、魔族の体が砂になって消えていった。


完全に砂になったその場所に、小指の先程の大きさのヒビ割れた灰色の玉と、白く光る光の玉が残される。


灰色の玉は魔族の核だ。


だがもう一つは────?


ヒビ割れた灰色の玉が地面に落ちると、完全に砕けて砂になって消えた。


白く光る玉はふわふわ、ふわふわと頼りなげな飛び方で少年の側に倒れている少女へと向かっていく。


そして────少女が、ピクリと体を動かした。







アルフィースは夢を見ていた。


父と母の夢。


懐かしい、まだ4人で暮らしていた頃の夢。


色は無い。


モノクロ映画のように白い世界でアルフィースは夢を見続けていた。


長かったような、短かったような不思議な夢を見ていたアルフィースの体が、不意に誰かに後ろから抱きつかれた。


驚く筈の場面なのにアルフィースの意識は淀んだように曖昧で、後ろを振り返る事もできない。


だが、その"誰か"の柔らかく、温かい感触が自分を助けようとしてくれているというのがわかった。


そのまま引っ張られていくのを、両親が見守る。


もうあまり顔も覚えていない両親だったが、その時は何故かハッキリと見えた。


二人は、笑顔だったから────


「────コホッ、」


随分久しぶりに呼吸をしたかのように、肺がうまく動かずに咳き込んだ衝撃で急速に周囲の色が戻ってきた。


「う……」


様々なものが戻っていく感覚の中で、誰かの気配を感じる。


この気配は、森の中の────


ぼんやりと目をあけたアルフィースが見たのは、4枚の羽を持つ黒髪の女神。


黒い瞳の中に"悲しげな"色を浮かべたまま微笑みを湛える女神が、見えた。


……どうして、そんな悲しい顔をして……。


まだ声は出ない。ただ口を少し動かしただけで相手に聞こえる筈も無いその問いに答える事無く、女神がふわりと消えて行く。


その消えて行く姿を目に焼き付けるようにしながら、アルフィースの意識は再び落ちた。


だが、呼吸は続く。


アルフィースは間違いなく還って来たのだから。







魔族の襲撃から一夜が明けた。不審人物は魔族が消えたと同時に霞のように消えてしまい、行方はわからない。


村自体は何とか犠牲者を出さずに済んだ事もあって、一応は平和を取り戻していた。


さすがに破壊された家屋や門の修繕に時間と金は掛かるだろうが、失われたかもしれない命に比べれば微々たるものだろう。


生き返ったアルフィースとアリエは、フィーメルの徹底的な精密検査に多少辟易していたが、結果わかったのはアルフィースは衰弱意外は問題無し。


アリエも体自体に異常は無いが、精霊依存症が治ったわけではないという事。


さらには、二人がナビツの甥と姪だということが判明した。


小さな診療所の一室に寝かされたアルフィースの側にナビツが腰掛ける。


「まさか、二人がこの村にいるとはな…」


「はい、僕もおじさんがいるとは知りませんでした」


「おじ…まあ、そうだな…」


ベットに横たわったまま笑顔を浮かべるアルフィースにナビツが苦笑を浮かべる。


ナビツの兄は誰にも反対されていないのに結婚を反対されていると勘違いして家を飛び出し、行方知れずになった。


アルフィースの母からは時々手紙が届いており、その手紙の中でアルフィースとアリエの事も知っていていたのだが、ある時を境にプツリと連絡が途絶えて心配していたのだった。


その後、行方を探していたのだが、灯台下暗し。二人だけはこの村に戻っていたのである。


二人だけというのと、裏通りの家というのが見つけにくくした原因で、裏通りに住む人々はどこか共存意識があり、他からの詮索を無意識に嫌うのだ。


ナビツの精霊騎士団就任と共に王都に実家が移り、益々捜索は困難なものになっていた。


「それはそうと…アリエの精霊依存症の事だが、どうにかなるかもしれん」


「…え…!?」


突然のナビツの言葉にアルフィースは思わず起き上がろうとして、腕に力が入らずに体勢を崩す。


「落ち着いて聞くんだ」


体勢を崩したアルフィースを抑えてやりながら、ナビツは一段声を低くした。


「王都では今ある"公然の噂"が騒がれている」


真剣極まりないその様子に、アルフィースも身構える。


「『精霊の巫女』様が戻られたというものだ」


あまりにも急な、ありえない話にアルフィースがポカンとした。


当然だろう。


ナビツが話したのを他の者が聞いたのならば、まずナビツの頭を疑う。「おとぎ話の主人公が絵本の中から出てきた」というのと、なんら変わりは無いのだ。


現代風に言うなれば、「かぐや姫が現れた」と同義である。それを真面目に言われても、他の者は精々苦笑するか、馬鹿にするなと怒り出すだろう。


「王都に出現した魔神との戦いの後に精霊の巫女様が現れて、王都にすむほぼ全ての人々を癒したそうだ…怪我はもちろん、不治の病までも"全て"…な」


「そ…それは…!」


信じられない奇跡のような出来事。だが、事実、奇跡は既に起きている。


「"伝説とまったく同じ現象"を実際に体験した人々の口に門戸は建てられん。それ故に"公然の噂"なのだがな────」


アルフィースの咽がゴクリと鳴った。ナビツの話には明らかに続きがある。それが、アルフィースの動悸を高めた。


「────全ては、真実…そして、我々の本来の任務は『不治の病、そして精霊依存症などの一刻を争う病の者達を早急に王都に集めろ』というものだ」


ニッと笑うナビツには、今は亡き父の面影があった。


「あ……」


アルフィースの頬を涙が伝う。


これでアリエは助かるかもしれない。


そう思うと、感謝しても仕切れなかった。


森でも助けてくれて、そして自分の命だけではなく、アリエの命も助けてくれた────"あの、女神様に"────


アルフィースは、あの不審人物の姿を見ていないのだった。


どこか遠くを見ながら、少し赤い顔をしている甥の様子には触れず、ナビツはやや聞きずらそうに口を開く。


「…ところで、兄はどういう最後を遂げたんだ…?」


「あ、はい…父は何でも、アリエの病を治せるかもしれない薬草を取りに荒れ狂う海を泳いで渡って、火山に住む竜と戦っている時に火口に落ちてしまったと、仲間の人が教えてくれました」


「そうか…兄らしいと言えば、兄らしいな…」


「父の事…もっと聞きたいです。あんまり父の顔を覚えていないんですよ。まともに形見として残ったのは覆面と斧くらいですし」


「ん…?そうか、そうだな…例えば子供の頃なんかは────」


穏やかな空気が流れる。


まったく無かった希望が、今目の前にあるのだから。







おい。おいおい。おいおいおい。夢も希望も無いではないか!


何だあのエフェクト!何で『蘇生』のスキルで出てくる女神様のエフェクトが私なんだよ!


そんであの意味ありげな表情は何?!何でちょっと悲しそうな表情!?


ああああああああああああああ…。


思わぬ所で正体を現してしまった私は大慌てで逃げた。何か変則あし○ら男爵が喚いていたがまったくわからない。


ををををを…お前を呪ってやるとかだったらどうしよう…。


スキルで『解呪』が出来るから今のうちに賭けて置いた方がいいかな!?


ガタガタと震えながらナンマンダブナンマンダブと唱える。


今私がいるのは、男の子の運ばれた小さな病院…というか診療所の病室のすぐ真下。


ここなら万が一男の子に何かあってもすぐ駆けつけられるしね。


果たして本当に『蘇生』が効いたのか、このまま効き続けるのかわからないからちょっと怖いなー。とその場でガクガクブルブルしていると、隣の部屋の窓が小さく開いた。


おや?と思って見ていると、男の子の側にいた女の子が顔を出して何かを探すような仕草をしているではないか。


顔立ちは男の子と似てたと思うから、妹さんかな……というか、このダース○イダーのマスクの目の所って私の息で曇ってるんだよね。おかげでよく見えん。


なので実は他の人の顔ってほとんど見えてないのだ。


「す、すみません!私はアリエと申します!あなた様は、もしかして、女神様ですか……?」


不意に聞こえた、恐る恐るといった声にギョッとする。


声、いや違う。頭の中に聞こえたイメージだ。耳から聞こえる言葉は相変わらず、"音"にしか聞こえない。そもそもにして日本語ですらないから、理解できない筈。でも、その中にある意味がイメージとなって私の頭に浮かんだ。


まさか私の姿が見えている?と思い、キョロキョロとその声の主を探すけど私の周りには誰もいない。いるのは女の子だけ……まさかこの子が私にメッセージを?と思うが、女の子がこちらを見ている様子は無い。


「不躾で申し訳ありません、お姿は見えないのですが、あなた様が近くにいらっしゃるというのだけは何となくですが、分かるのです」


こちらを見ないまま女の子が独り言のように話し始めた。


げげげ!?おい!隠密のスキル!どうなってんだ?!バレテるじゃねーか!あれか、課金をケチってスキルレベルの半分しか取ってないからか!?


じっとりと私の背中に汗が流れる。


何で女の子のイメージだけ受け取れるのかはわからない。


な、何かの罠か…?ほ、本当に話をしても大丈夫だろうか…?


「あの…兄さんと私を助けてくれて、ありがとうございました」


動揺する私に構わず、女の子が深々と頭を下げた。


え、えーと…な、何かを言わなきゃならないよね…お粗末さまでした?いや、違う!なんのなんの…はどうだ…?あああああああああ、人と話すのが久しぶりすぎて何て言ったらいいか分からないよ!


「騎士団の方達にお聞きしました…女神様が兄さんの命と私の命を助けてくれたと…本当に、本当にありがとうございました」


涙ぐみながらもキチンとお礼をする女の子に対して、あうあうとうろたえる私。何だこの対比。どう見ても私の半分くらいの年しかないのに何という素晴らしい娘さんだ…。


自分のヘタレ具合にほとほと落ち込んだ所で、少し落ち着いた。と同時に物凄く気恥ずかしい。自分の顔が赤くなるのがわかる。


んー…他の人にまともにありがとうって言われたのって、いつぶりだろう。


MMOのゲームをやってて、最初の頃に初心者らしき人にヒールをした時だったかな。


MMOのゲームだから当然声とか出るわけじゃないし、テキストの文章で『ありがとう』って出るだけなんだけど、嬉しくてしばらくその文字を眺めてたなー…。


次にヒールした後は何か恥ずかしくてすぐに逃げたっけ。


あれから…誰かを助けることができた事が嬉しくて、色んなダンジョンに単身で行って通りがかる人にヒールや祝福かけたり、初心者の人に指導みたいな事をしたっけ…。


お礼言われる前に逃げろーとかやってた。他の人たちも結構こういうことやってたみたいだった。みんな、同じ気持ちだったのかな。



ああ、なんだろう。



すごく、懐かしい。



ほんのちょっと前の事なのに、随分前の事のように思える。



視界が歪む。



ポロポロと涙が零れる。



「ありがとう」────












────そう言ってくれて、ありがとう。











「あれ?こいつなんでこんとこで寝てんだ?」


「お。たしか警備隊のやつじゃね?」


「あー。たしかにそうだ。見たことあるわ」


「気絶してるみたいだな。どれ、詰め所に連れてってやるか。手ーかしてくれ」


「あいよ」





二日後、アルフィースとアリエはナビツ達騎士団の馬車に乗せられていた。


二人はナビツの家で引き取る事となり、王都に向けて出発するのだ。


復興に大忙しで見送れる者達はそれほどいないが、エバが涙ぐみながらアルフィースに声をかける。


「…そうかい、もう行っちまうんだね」


「すみません、エバおばさん…復興の手伝いとかあんまりできなくて」


アルフィースも目尻に涙を浮かべながら、頭を下げた。


「なぁーに。あれを売って村の復興に使って貰うことになったから、そこんとこはかまわないよ」


アッハッハと笑うエバの店は道具屋をやっていて、避難から帰ってきたら生理用品がいくつか無くなっているかわりに純金で出来た剣がカウンターの上においてあったのである。


びっくり仰天して大慌てだったが、アリエの女神様からの御代だそうです。という説明を受けて、よくわからないが妙に自信ありげなアリエの言葉に従うことにしたのだった。


何しろアルフィースとアリエは、直接女神様から祝福を頂いた身である。その言葉は信じるに足るものだった。


純金で出来た剣は武器としての価値は低いが、美術品としての価値は超一級品。かなりの復興の助けになるだろう。


「アリエちゃんも、治るといいね…いや、きっと治るさ!何たって女神様がついているんだからね!」


「おばさま、色々、ありが…とう、ございます…」


馬車から顔を覗かせるアリエに向かってニカッと笑いかけるエバの姿に、アリエの涙腺が緩んで声にならない。


「うう…泣ける」


「アキリナちゃんはもらい泣きしすぎよ」


三人のやりとりに涙もろいアキリナが号泣したのをフィーメルが宥める横で、ナイーレは早々に馬車の奥でこっくりこっくりと船を漕いでいた。


そんな様子を見ながら、ゼンがナビツと小さく会話を交わす。


「"あれ"の件はどうするんだ?多分だが、着いて行くんじゃないかと思うんだがな…」


「ええ、分かっています。しかし、現状我々を助けてくれたという事実は変わりません。そして、女神様のあの姿…精霊の巫女様と無関係、というわけにはいかないでしょう」


「あえて、王都まで連れ出すということか…」


「こういっては何ですが、あそこには"最強"がいますから。何があったとしてもどうにかなるというのもありますが」


「ふーむ…しかし、まさか本物が降臨なさるとはな…長生きはしてみるもんだ。あの暴れん坊のクソガキが精霊騎士団の小隊長様になって帰ってくることもあるしな」


カカッと笑うゼンにナビツも苦笑を返す。


「そろそろ出発しますよー」


馬車の御者台に座るケイサムが声を掛けたところで、別れの挨拶を済ませる。


これから約一週間の旅路だ。


ゆっくり進む馬車に向けてエバとゼンが手を振り、段々小さくなる二人を見ながらアリエが小さく手を振る。


「行ってきます」という声は風の流れの中に溶けていった。






ふんふんふ~ん♪ほっほほほ~ん♪


暢気に鼻歌を歌いながら、街道を歩く。


砂利道ではあるけれど、開けた道は歩きやすく一本道なので迷う事も無い。


目的のブツも手に入ったし、これでしばらくは大丈夫だろう。


それにしても…狼さんはファミリーだったんだねぇ。村を出るときに、小さい方の狼の足元に黒い毛玉があったから何かと思ってよく見たら、ちっっちゃい狼だった。


どこかで見たような気もするけど、あれはどこだったか…まあ、何はともあれ家族無事でよかったよかった。


お。木陰発見。少し休憩だー。


よいしょと街道脇にある木陰に腰を下ろしてマスクを取ると、爽やかな風が通り過ぎる。


はー…景色がハッキリ見える…。


今まではマスク越しだったので、赤暗かったのだ。


街道の向こうに広がる草原のさらに向こうに丘が見え、さらにさらに向こうは光を反射してキラキラと輝いているのが見える。海でもあるのだろうか。雲がそんな形だしね。


一息ついた所で、これからの事を考える。


とりあえず女の子…えっと、える…あん…あー、発音が難しい!いもうとちゃんでいいや!


せっかくいもうとちゃんが名乗ってくれたのだけれど、そこの部分は元の聞き辛い言葉だったのでよくわからなかったのだ。


とにかくいもうとちゃん達はどうやらここよりずっと大きい街に行くらしい。最初は着いて行こうか迷ったけれど、いもうとちゃんの容態や、男の子の状態が心配だというのもあって結局着いて行く事にした。


それ以外に特に目的も無いというのもあるけれど、折角異世界に来たから他の街を見てみたいというのもあるしね。


それと…一つ気になることがある。


いもうとちゃんの話してくれた精霊の巫女という存在。これから行く大きな街に現れたというその人は、もしかして私と同じように異世界に来た人ではないだろうか。


ただの勘と言ってしまえばそれまでだけれど、すごく気になるのだ。


だからね。


うん。そう言う事だからね。


え。いや、決して、男の子ちょっといいな、とか思ってませんよ。


年下だしねー。む。そう言えばしるばーせいんとの隊長さんみたいな人もいけてたかも…なーんて…。


ショタ×おじさんなんてのもまた垂涎も…ゲフンゲフン。


と、兎に角!そういうわけだから、男の子の後をちょこちょこ着いて行っても仕方ないと思うんだよね。


…ん?馬車が見えてきた。


さーて。また歩きますか。『速度増加』使ってるから走るより早いんだけどね。


よっしゃー!がんばっていきましょー!


ヒールヒール!





ストーカー?いえ、違います。辻ヒールです。了

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