春物
目に硬い痛みがある。鉱物の結晶でも出来たかのような。夕日が黄色く霞んでいた。大陸から海を越え、黄砂がやってきているのだ。本当に?何だか騙されている気がする。私はコンビニにネットショッピングの支払いのため、ギフトカードを買いに来たところだ。
コンビニの自動ドアに「桜まつり」のポスターが貼ってある。昨日は県南へドライブに出かけた。高速道路に乗って、サービスエリアに降りて、トイレに行くとやはり「桜まつり」のポスターがあった。驚くべきことだ。どこの町でも「桜まつり」をやっている。職場のある町でも「桜まつり」があり、いつも葉桜になってから開催される。満開になる時期がズレてきていると思われる。
ネットショッピングをして決済画面にいったら、一つ買おうと思っていたものが数量2になっていた。ひとつ前に戻ってやり直す。今度は数量3になってしまった。これは一体どういうことか。数量1では売ってくれないのか。11000円の商品が22000円になり、33000円に膨れ上がる。ともかくも、ギフトカードは要る・・・
ギフトカードを買ってきた。35000円分。これだけあれば文句はあるまい。決済を最初からやり直す。数量1、11000円で決済出来た。さっきの現象は何だったのか、本当に決済は出来たのか、購入履歴を何度も見直す。ちゃんと出来ていた。やはり、騙されている気がする。
ドライブの行き先は県内最大級のショッピングモールだ。何でも売っている。
よくショッピングモールの夢をみる。シャツが欲しい私はモール内を歩き回る。いいシャツを2、3見つけ、どれにするか決めかねる。アレか、ソレか、コレか、迷っているうちにいつも目が覚めてしまう。
ショッピングモールで最も目を引いたのはペットショップだった。これほど多くのイヌやネコの子を見たことが無い。どれもこれも可愛らしいではないか。一通り目を通す。ある客が最も高額なネコの子を購入した。ネコの子はカゴ型の段ボール箱に入れられ、バーコードを読んで決済する。空になったショーケースには即座に別なネコの子が入れられた。ペットを非難するつもりはない。個人的な感情として、気分が悪くなった。ズラリ並んだショーケース。ここに入っているのがヒトの子だとしたら?凄まじい眺めである。
昼時だというのに何も口にせず、何も買わず、ショッピングモールを出た。確かに何でも売ってはいたのだが。
夜。酒を飲んでパソコンの前で時間を過ごす。何気なく覗いたショッピングサイトでいいシャツをみつけた。11000円だ。給料日が来たら決済のボタンを押そう。
社屋の前にサクラの木がある。「桜まつり」の次の日、出勤すると、青々とした葉が目に飛び込んできた。光沢さえ帯びている。季節は変わったのだ!チチチチ、囀りとともに、頭上をかすめていったツバメが電線に止まった。確かに季節は変わった。無数に湧く虫たちを糧に、巣を作り、卵を産み、子を育てるだろう。社屋の玄関をフンだらけにするもまた彼らなのだ。
仕事を終えると無性に腹が空いた。帰宅していつもより多めに食べる。耐え難い眠気に襲われる。この体もまた季節の移り変わりに支配されている。まどろみの中、奥歯にギリギリと鈍い痛みを覚える。親知らずだ。いつも春の終わりに疼く。ハザクラ、ツバメ、オヤシラズ、が、過行く春を告げるのである。
数日後。11000円のシャツが届いた。すごくいいデザインだ。鏡の前で着てみる。幾分サイズが大きい。それほどサイズが合わないわけではない、そう納得するのに30分かかった。あれから一月。11000円のシャツは未だ日の目をみていない。




