"相信"
夕暮れ
日は落ち、街道の煉瓦は茜色に染められていく
僕の相棒は、いま少年に馬乗りになって、刃物を顔に何度も突き立てて居る最中だ
少年は結構服のセンスとか髪型とか、色々なところが僕に少しだけ似ていて………あと、顔がぐちゃぐちゃになってる
助けを求めるように、彼の手は空を虚しくまさぐって居て……これ以上はあまり書きたくない
でも相棒が「こういう男の子が好みだったんだな」というのは伝わってきたし、それが僕と同じ系統な事はちょっと嬉しかった
「本当に殺す必要があったの?」
いつもなら、こういう時絶対に相棒に絡めていた腕を、僕は今日だけは彼の躰に触れさせる事が出来なかった
聞いたあと「マズかったかな」と思ったが、言ってしまったものは仕方が無い
「殺されませんように」と思いながら、僕は恐る恐る相棒を視詰めた
「…………」
相棒は何も答えない
駄目かも知れない
僕は無意識に、もう動かなくなった少年の亡骸を視た
あんな風にされるのだろうか
もちろん、僕だって好きな男に沢山ひどい事をされたいと思わないでもない
でも、あれはひどい
そもそも死んでいる
もっと言うなら、最後に立ち上がりざまに顔を踏み砕かれて居たのが本当に嫌で、可能なら殺されるにしても別の方法をお願いしたいと僕は思っていた
「───俺の、背に在る火傷は知って居るだろう」
予想して居なかった返事なため、僕は「へっ?」と間抜けな言葉しか返す事が出来なかった
相棒はそれを気にする事もなく、話を続ける
「かつて、友に裏切られた事が有ってな」
「一度はその者を見逃した」
「情けからだ」
「そのお礼にあいつは俺の仲間を皆殺しにし、俺自身にもこの傷を負わせた」
『何か有ったら、僕の事も殺すの?』と聞くつもりだったが、到底聞ける雰囲気では無かった
───今夜の焚火の番は、僕だ
相棒は、壁に背を預けて眠りについて居る
多分深い眠りでは無い
有事の際には、彼はこの状態から飛び起き、おおよその行動をする事が出来る
『おおよその行動』には、当然『殺人』も含まれて居る
しかし、僕は彼に触れたくなるような用事が出来てしまって居た
相棒が眠りながら一雫だけ、涙を流して居たのだ
意を決して右手の人差し指を、彼の眼元に近付けていく
ただ一つ、彼の涙を拭う為に
案の定、僕の指が涙に触れるより早く僕は殴り飛ばされ、焚火に背中から落下した
殴られた痛み、
灼かれる痛み、
薪が背中に当たって裂ける痛み………
焚火はその衝撃で儚くも消えてしまったが、辺りが暗くなる一瞬ほど前
僕には相棒が泣きそうな顔で、僕を怯えながら視て居るのが視えた
起き上がる
なんだか全身がだるい
この感覚は知っている
殴られて、結構深いダメージを受けたときのやつだ
そのせいで足は覚束なかったが、僕は真っ直ぐと歩くと、まだ立ち上がれずに居る相棒の頭に、両の腕を回して抱き締めた
「…………大丈夫だよ」
相棒の指は僕を掴むと、一瞬だけ自分から離すように押しやろうとしたが、最後には諦めたのか、震えながら僕を抱き締め返してきた




