八話 準備会議
(視点:傘)
どうしてこんな事になってしまったのか、私にはわからない。
同じ夢を見ただけで、こんな変わってしまうなんて思ってなかったから。
彼を痛めつけた過去があったかどうか、そんなことだってわからない⋯。
だから私はまた、絶望へ堕ちた。
朝食の支度をするときでさえも、手足がぶるぶる震えて止まらない。
黒胡椒の入ったスクランブルエッグ、にんにくが効いたパキパキジューシーなウインナー、サクフワで耳まで美味しいバタートースト。
それらの色が全部モノクロに変わるほど、ひたすらに困惑した。
食も進まず、四十分ぐらいしてやっと食べ切れたほど。
網津はイキったりはっちゃけたりすることなく、黙々と食べ進めていた。
露ちゃんは私の方をチラチラ見ながら食べ進めていた。
美浦は悲しそうな顔を浮かべて、布団が片付けられてない隆真ちゃんの布団の方に視線を向けて食べていた。
遊雅くんと夏恋ちゃんは何事も知らないかのように、普通に食べていた。
状況は最悪⋯、そんな中で準備会議をするなんて、心臓に悪い。
そう思いながら、会議室で色々準備していた。
やっぱり手が震える。
動揺が未だ隠しきれていないのかもしれない。
露ちゃんが私のことを心配して会議室に来てくれた。
まだ誰も来てないのに⋯、ほんと露ちゃんって甘えん坊ね。
親みたいな気持ちで露を出迎えた。
「傘、大丈夫⋯?リーダーに色々言われたみたいだけど⋯。」
「ちょっと、心に来たわね⋯。でも、私も成長しないとなって気になれたのは、良かったかも。」
「そっか、他に困ったことがあったら言ってね。」
「わかったわ。ありがとう。」
露ちゃんはいっつも私に甘えてくる。
まだ幼いからっていうのもあるけど、私のことをお母さんだと認識してるのか、偶に抱きつかれに来ることがある。
その時の幼気な顔が、もちっとしたほっぺが、また可愛いのよね〜♪
愛らしく素敵っていうか、宝石のようっていうか、どこか儚げな感じがするっていうか。
それがたまらなく好き!他の皆には冷たくて、私には甘えてくるから、特別感や優越感を感じられるの。
まるで主人にべったり甘えている猫みたい!すっごく愛おしい⋯。
だから困った時にはすっごい癒やされる存在なの。
正直網津があんな風に言ったときは、一発ぶん殴ってやろうかなって思ったけど、一応仲間だし、今の状況で殴ったら殴り返されそうで怖いからやめとく。
そもそも殴るほど仲良くないしね。
暫くすると、露ちゃん以外のメンバーが集まって席についた。
最後に来たのは網津、今のところ悔しい思いしかしてないから、ここらへんで挽回したいわね⋯。
全員が静まったところで、役所では多分一度もやらないようなイベント、「準備会議」を始めた。
「まず、昨日起こったことを簡潔に説明していくわね。私と露、遊雅、夏恋は隆真が来る前、北東の街の魔力量調査をしていた。
そこでわかったのは、魔力封じがされていることと、何者かがここに立ち寄り魔力による悪戯をしたということ、この二つ。
そして、調査を終了し、役所に帰ったあと、美浦が隆真を連れてきたことを確認。役所加入を受け入れた。
その時に巨大な爆発音がした。美浦によるとこれは、相手の挑発で、「攻撃してこい」という合図だったという。
それは罠みたいなもので、まんまと引っかかるように急いで駆けつけた隆真と私達。だけど、隆真と美浦が早すぎて見失って、その直後に現れたのが、腕や足が何本も生えている気色の悪い魔物。
その魔物は誰かに仕えていたのか、魔物スキル拳術という特殊なスキルを使っていた。それに翻弄され足止めを食らった中、隆真と美浦は友人の家に上がり込み調査を開始。
入ると中には誰も居なくて、机の上に置いてあったのは王宛と名前を偽った手紙の封筒。魔力が練られてある印章で真ん中が留めてあったと。
中を見てみると、「外出の誘い」という主題と共に綴られた誘い文句、そして集合場所。
そこに行ってみると、覆面の男が居て、そいつと交戦するも大敗。隆真は友人を目の前で細切れにされ、精神的なダメージを与える術によってあの状態に⋯。
解決方法に関する調査、聞き込みについてはあとで話すとして。
隆真達が戦っていた間に、私達は魔物の腕一本を切り落としたが、トドメはさせず、無惨に何処かへ消えていった。
こういう流れね。」
「改めて聞いても、重いねぇ⋯。家族に関しても色々あったんでしょ?隆真。」
「そうですね⋯、自殺しようとしたぐらいですから、相当思い詰めてたでしょう。」
「なんとかしてそいつをボッコボコにしてぇなァ⋯!!」
「遊雅、そんなキャラだったっけ?」
「そ、そういうキャラで悪かったな!」
「⋯なるほどな。」
他の人は良いリアクションをしてくれるのに、網津だけ堅い。
いつもの調子と全然違うから、ギャップで気が狂うわ。
「恐らく、街に悪戯を仕掛けたのは、覆面の男で間違いないわね。」
「なんで悪戯なんてしたんだろうね。それも魔力封じ。」
「もう一度来たときには気迫となって襲ってきたんですから、余計に意図がわからないですね。」
「どうせ面白がってやったんだろうぜ、悪人の気持ちなんざ知りたかないが⋯。」
「魔力封じがされていることと魔物になにか関係があると思ったのですが、その線も薄いみたいですしね。」
「で?その覆面の男と魔物と、関係はあるのか?」
堂々と話を振ってきたわね⋯。
もう今は震えとかより怒りのほうが勝ってきちゃったわ。
「⋯勿論関係はあると考えられるわね。
さっき言ったスキルに関しては、魔物の契約人がなんらかの干渉をしない限りはそんな、スキルを増やすなんてことは出来ないから、覆面の男は特殊スキルを何個か覚えさせてたんだと思うわ。
それ以上に強いオーラを、感じた節もあるんだけどね。」
「それ以上のスキルがあるっての!?こ、怖ぇ⋯!刺してぇ⋯!!」
「俺を刺すな俺を!」
「あら、遊雅には実にお似合いだよ。」
「お似合いの使い方ちげぇだろ!」
「⋯なるほどな。」
自分から話を振ってきたくせに、興味ない素振り見せるのムカつく⋯!
身体に毒だわ、頭の中がチクチクして気持ち悪いわよ!
「それで、あの魔物は、私と網津の夢で見た不確かな情報なんだけど、「マモン」というらしいわ。」
「マモン⋯?何だそりゃ」
「聞いたことがあります!別世界の悪魔の名前だそうで⋯。」
「「「「悪魔の名前!?」」」」
「まぁ、知らないのも無理はないな。美浦は別世界の物語や言い伝えに詳しいんだ。俺も少し世界史を齧ったことがあるからある程度は分かる。」
「んじゃあさっきのマモン以外で悪魔の名前答えてみてよ。」
「命令される筋合いはないが、答えておこう。」
「気に障る言い方しないでほしいなまったく⋯。」
「傲慢のルシファー、憤怒のサタン、嫉妬のレヴィアタン、怠惰のベルフェゴール、暴食のベルゼブブ、色欲のアスモデウス。」
「あ、合ってるかわかんないけどすげぇ⋯、悔しい⋯!」
「全部合ってますね、悔しい⋯。」
「因みに夢で出てきたマモンは、狐のような姿をしていたな。まるで、化け物であることを、悪魔であることを隠すように。」
言いたかったことを先に言われた⋯!!あぁ、悔しい⋯!!
しかもそこはかとなく笑ってる気がするし⋯、余計ムカつく〜!!
「そして、隆真にかかっている術のこと。このことに関しては情報が一切わからないから、貴方達に調べてきてもらう。網津は役所に居て。私もいるから。」
「あぁ、そうか。」
「聞き込みは俺と夏恋でいいか?」
「そうして欲しいわ。」
「了解!」「了解しました。」
「本や資料の調査は、僕と美浦⋯。傘は行かないの?」
「そうね、この人のことがだいぶ気になってきたし。」
「そう、なるほど。」
露ちゃんは「覚えてろよ」と訴えかけるように、網津に睨みを効かせた。
これが歪んだ愛ってやつなのかしらね⋯。
「最後に、敵と鉢合わせたときはくれぐれも注意してね。あと、出来るだけ有力な情報を得て帰るように。まぁなんにもなかったら何にもなかったでいいんだけど。」
「わかりました!」「わかりました。「了解!」「おっけー」
「そんじゃ、頑張って!解散!!」
私は露ちゃん達を見送りつつ、網津の様子を見ることに専念した。
露ちゃんには悪いけど、良い情報を期待して、コーヒーでも飲んで待っていようかしら。
―一方、海辺にて―(視点:三人称)
「隆真の家族はもう全滅、家も燃えてて、悲惨な状態。傍にはナイフもおいてあって、多分死のうとしてた⋯、と。
僕も彼も危うく殺されかけそうになって⋯。散々な目にあったでゅふね。
犯人の情報は取り敢えず、僕の魔法ハッカー技術って荒業で入手できたんでゅふが、肝心なのは場所でゅふ。
何処にいるのがわからないというのが非常に厄介でゅふ。特定出来る魔法ハッカー技術は持ってないでゅふから、動きにくくて実に嫌。今度習得しに行こうかな〜。
あと一応、隆真復活用治療法を教えに行く為に海辺に来てるわけででゅふけど、本当にこんなところに役所なんてあるんでゅふかね⋯?
と思ったら当然のようにあったでゅふ、どうなってるんでゅふかこれ⋯。プールでバシャバシャ泳いで遊ぶために建てられてるようなもんでしょ⋯⋯。
ま、そんなことは置いといて。急いで役所に向かうでゅふ〜!あ、一応口調も変えとこ。
⋯ん゛、ん゛っゔん゛!!よし、これでイケるだろ。
声のトーンをいつもより高く上げ、ショタっぽく見せました〜!的な?なんかテンション上がる〜!!気を取り直して⋯、隆真を復活させに、いざ役所へレッツゴー!」
死んだはずの男が一人、海辺にやってきた。
丁度露たちと鉢合わせになるから、なにかしらの絡みがあるかも?
それは次回のお楽しみ。
つづく




