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七話 絡まる思惑と険悪の気配

 ―ピラニアン研究室にて―


 「はぁ、あの役所のやつ⋯、ぜってえ一人で動いてねぇよな⋯⋯。付近に女の気配がしたし、その後ろにはマモンと交戦してた奴が数人居た。

 そうなると、かなり大きい組織が俺に近づいてるってことだよな?チッ、面倒なことになっちまった。最悪だ⋯。

 あいつと出くわすことがなければ全部平和だったんだ⋯!あぁもうムカつくァ゙!!

 こんなに俺の頭に深く残ったやつはお前だけだよ⋯、認めてやるぜ⋯⋯。あぁ認めてやるとも!!

 でもな、どうせあの術はどっかで切れる。そうしたらすぐにお前を殺しに行く!!お前の連れのせいでマモンの腕一本が無き者になっちまったからな⋯!!ぜってえ許さねぇぜ〜⋯?

 あちこちぶった斬って血祭り状態にしてやらァ!!」

 「⋯⋯あぁ、また戦いたい⋯。」

 「あァ゙?何いってんの従者のくせに!てめぇのせいでこうなったんじゃねぇかよ゛!ふざけんなまじで!隆真?の次に嫌いだわお前。

 本当は殺してやりたいがまぁ、てめぇはそこそこ使えるから、殺さずにしといてやるよ。命乞いしたな⋯笑

 次はやんなよ?次やったら、てめぇの胴体以外の部分をぜ〜んぶ切り落としてゴミ処理場で処理してやる。せいぜい片方の腕が存在した感覚を思い出し悔やんで泣き叫びながら、そこで俺の帰りを待っとくことだな。

 ぷっ、はっははははははははは!!!!!!!」

 「⋯⋯」


 殺伐とした空気の研究室には今日も、不気味で高らかな笑い声が漂っている。

 隆真の身にも他の役人の身にも危険が及んでいる。

 背筋がピリリと震えるような嫌な予感が、傘に刺さる。

 嫌な夢を見てしまったのだろうな。


 ♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦


 ―寝室(視点:傘)―


 背中が痛い、変な夢を見てしまったからなのかわからない。

 原因はわからない⋯、けど嫌な夢であったことに間違いはない。

 謎の人の気色の悪い口ぶりと口調⋯、「マモン」という、私達と交戦した魔物の扱い⋯。

 そして、その夢で出てきた名前、「隆真」⋯。

 昨日起こったこととなにか関係があるの⋯?

 わからない⋯。


 あぁ、頭が痛い。

 朝食でも作りますか。


 「おはよ〜傘、早いね。」

 「ちょっとね。」

 「何かあったの?落ち込んでるように見えるけど。」

 「いえ、なんでもないわ。」

 「⋯あぁ、二日酔いだぁ、キモチワリィ⋯⋯。」

 「変態野郎ね、おはよう。」

 「あぁ、傘か。なんだか浮かない顔をしているようだが?」

 「うるさいわね、気にしなくてもいいでしょう?」

 「変な夢でも、見たのか?」

 「み、見てないわよそんなの⋯。」

 「隠してても無駄だぞ?顔に出てるんだから。」

 「⋯⋯」


 今日の変態野郎もとい網津は、なんだかしつこい。

 しかも、口調も少し堅くて厳粛的⋯、私がこの役所に入った時みたい。

 いつもなら、ちょっと軽く押しのけたり貶したりすれば、諦めてどっか行ってくれるのに。

 二日酔いだっていうのに、それをも覆すように顔を近付け、追い詰める。

 まるで、昨日か一昨日に、知り合いが殺された時の態度みたいに⋯。


 「その夢なら、俺も見たさ。昨日お前らが出向いたやつだろ?

 内容は、謎の人の気色の悪い口ぶりと口調⋯、「マモン」という、お前らが交戦したと思われる魔物の扱い⋯。

 そして、その夢で出てきた名前、「隆真」⋯。その二つを、気にしてたんじゃないか?」


 な、なんで分かるの⋯?しかも何故私と同じ内容の夢を⋯?

 意味がわからない、なんで⋯?なんでなの⋯??

 私は思わず下唇を噛んだ。

 悔しさもあり、驚きもある⋯、そんな情緒不安定的な動揺を見せながら。


 「顔だよ、見りゃ分かるだろ。あと動きと他人に対する態度。

 抜かりないとは思っていたが、まさか俺がこんな簡単にその抜かりを見つけることが出来るとは⋯、お前も弱ったな。

 今日は準備会議なんだろ?このことを話に出して、これから何をすべきか、どう動くべきか、しっかり考えてみたらどうだ。

 お前の心の中の弱さと一緒にな。」


 観察眼もいつもより鋭くなっている、私の弱さも熟知している⋯。

 どういうこと⋯?昨日と今日、数時間の間で何が起きたっていうの⋯⋯?

 

 「ちょ、リーダー!何急に傘に棘向けてんのさ!いつもはヘビと犬みたいな関係だったのに!」

 「良いのよ露、良いの。私が悪いから。」

 「そ、そんな⋯、傘⋯⋯!」

 「お前も少しは傘から離れたらどうだ?子供みたいにギャンギャンギャンギャン泣かれると、こっちも迷惑なんだ。」


 露ちゃんにまで毒を吐く。

 いつもは仲良くしているのに、今日に限っては犬猿の仲ね。


 「はぁッ!?ふざけんな!お前にそんな事言われたくないっての!!」

 「だったら、いつまでも傘にくっついて、双方共々酷い姿になって死ぬ末路があったとしても、おんなじ事が言える筈だ。」

 「⋯っ!?わ、わかったよ、頑張ってみるよ⋯⋯。」

 「あ、そうだ。傘、最後に言いたいことがある。」

 「なによ」

 「今の俺は、いつかの隆真だ。覚えておけ。」


 真剣な眼差しで、林檎を軽く潰せるような声色で、網津はそう言った。

 今の網津が、いつかの隆真ちゃん⋯?有り得ない、そんな事有り得ない⋯!

 私達が術を解いたらきっと、あの子はまた頑張るはずよ⋯、立ち直るはずよ!

 なのに、今の網津みたいに⋯、冷酷そうに⋯⋯?

 なるはずがない⋯!なるもんか⋯!!なってたまるか!!

 絶対嘘よ、絶対嘘⋯!嘘、嘘、嘘に決まってるわ⋯!!

 何度も何度も嘘と言い聞かせては、わかり易く頭を抱えて。

 私はまた、絶望へ堕ちていった。


 ―寝室―


 「⋯本当に、お前が言ったようにすべて進んだな。」

 「そうでしょ。風呂の時にね」

 「あんま言うなよ、恥ずかしいだろ⋯?」

 「そう?嬉しそうにも見えたけど。」

 「う、うっせ!」


 ―というのも昨日―(視点:三人称)


 「なんか文句でも?」

 「なっ、ないですないです⋯!!だがせめて、呼び込んだ理由ぐらいは聞かせて欲しいなぁ。」

 「私の気に障るような言葉を何回も発した罰だよ。自分でもわかってるんでしょ?」

 「そ、それだけ⋯!?」

 「もっと重くして欲しいならあの二人を呼ぶけど。」

 「重くしなくて良い!ってかお前も巻き添え食らうだろ!」

 「それもそうだね、考えてなかった。」

 「ば⋯、コホン!なんでもない。」

 「今なにか?」

 「だからなんでもないって⋯!!」


 二人は風呂場で、極秘に会話をしていた。

 今起こったことを、内密に。


 「ごめん、さっきの嘘。」

 「へ⋯?」

 「嘘って言ってるでしょ?」

 「なんで嘘つく必要があるんだよ⋯、無意味じゃねぇか⋯。まぁ良いけどな。」

 「それで、本当に話したかったことは、網津さんの性格の変化よ。」

 「変化?今ド変態な性格してる網津さんの?性格が⋯?まっさかぁ笑」

 「ほんとよ。しかも、誰にも太刀打ちできないような、厳かな人格に変わるの。傘さんや露、美浦さん、私達でさえも軽くいなされるほど、冷酷な人間に。」

 「な、なるほど⋯。でも、何故なんだ?」

 「元から、そういう人だったからよ。詳しくはわからないけど。部屋を案内してもらった時に見せてくれたメモで大体はわかった。」

 「へ、へぇ〜。」

 「その人格に変わるきっかけは、今日寝て見る、夢にあると思う。夢で昔のことを想起させる人って多いでしょ?

 そんな夢を網津さんが見る。傘さんは今日出向いたことについての夢を見る。網津さんもその夢をついでに見るわね。」

 「ほぉ、夢⋯って、なんでそれだけで分かるんだよ!」

 「嫌な予感がするの、取り敢えず最後まで聞いて。」

 「わ、わかった。」

 「網津さんは傘さんに詰め寄る。そしていなす。それにキレた露もいなされる。そして、傘さんに最後、今の俺は、いつかの隆真だ。覚えておけ、という。それによって会議が険悪になる。と考えられるわ。」

 「考えられるんかい!まだ正確なことではないんだな?」

 「わかってるんだったら一々ツッコまないでくれる?嬉しくなっちゃうでしょ?」

 「ドMかよ!!」


 推測で話した内容が、すべて当たった。というわけだ。


 ♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦


 ―寝室―


 「んで⋯?これからどうすんの?それを放置したまま隆真の技を解かせて、冷酷な人間にさせるのか。どうにかして隆真の人格を変えられるよう俺等からアプローチしてみるか。」

 「そんな面倒くさいことしないよ、放置に限るわね。」

 「そうか、なんとなくそういうとは思ってたけど、かなり冷たい選択だな。」

 「まぁ、そうね。でも仕方ないと思うわ。どうせ変えられないんだから。」

 「そう、だなぁ⋯。」

 「遊雅が止めたいんだったら、変えたいんだったら私は止めないけど、でも手伝いはしないよ。自力で頑張ってもらう。」

 「面倒くさいからだろ?」

 「ピンポ~ン」

 「露に似てきてるぞお前。」

 「そう?嬉しい。」

 「褒めてねぇよ!」


 一方、寝室の隅で重要な会話を二つも聞いた美浦は⋯。

 

 「隆真さん⋯、私は一体、何をすれば良いんですか⋯?何をどうすれば良いんですか⋯?

 もうわかんないんですよ、なにも。

 網津さんは変な人格になるわ、傘さんと露さんはどっと落ち込むわ、遊雅さんと夏恋さんはヒソヒソと話し始めるわで、もうぐちゃぐちゃなんですよ⋯。

 助けてください⋯、帰ってきてください⋯。貴方が居ないと、滅茶苦茶になる気がします。何もかも。

 どんな性格になっても良い、帰ってきて皆をまとめてください⋯!御願いします⋯⋯!」


 隆真のしまわれていない布団にすぽっと潜り込み、頭をひょこっと出した状態で、何も感じない隆真の身体をぎゅっと抱きしめ、嘆き悲しんでいた。


 つづく

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