六話 束の間の休憩
(視点:傘)
皆、ぜぇはぁと音を立てて役所に戻り、少ししんみりとした暗い空間を目の当たりにした。
そういえば変態野郎もとい網津は、ここに留まってサボってたんだっけか。
呼ぼうかと思ったけど、私のことだから少し声が大きくなってしまうに違いない。
何処かに隠れてるかもしれないから、目と耳と手と脚で探すことにした。
調査はその4つが重要ってところがあるからね。
「変態野郎〜?何処行ったの〜?」
「オレハイナイヨ⋯」
「声が聞こえるってことはいるわよねぇ〜?」
「イナイヨ⋯」
「何処かしら〜?出てきなさいよ〜!」
「イナイヨ⋯」
「冷蔵庫になにか入ってる〜!食べちゃおうかな〜?」
「あぁ!!それはやめてそれはやめてそれはやめ⋯」
「はい、捕まえた♪」
「あ。」
その後、無事赤子に逆戻り。
いい年したおっさんが何やってんだか⋯。
私より年上のくせに私にビビっちゃって、変なの。
まぁそんなくっだらない話は置いといて、会議の準備をしなくちゃいけないから、一回皆を休憩させてから会議をしますか。
散々体力を使ったからね、降ってた雨で髪も服も全部びしょ濡れだろうし⋯。
今は降ってなくて、夕日が見えるぐらいには晴れてるけどね。
取り敢えず一日休ませよう、私もそれぐらい休んどかないと過労死しちゃうから。
「皆!会議は明日にして、今日は全員が寝れる和室で寝ましょう!」
「珍しいね〜、傘が和室で寝るって言い出すなんて。」
「まぁね。気分次第ってやつかしらね!」
「良いですね〜!全員で寝るの!」
「遊雅、今夜は寝かせないよ?」
「な、なんだよ夏恋⋯、急にそんな事言い出して⋯。」
「冗談ですよ。」
「な、なんやねん⋯」
♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦
皆は暫く個室で休むって言ってたから、その間に私は手料理でも作っちゃおうかな!
冷蔵庫にある材料は、丁度いいものが入ってるし。
存分に余すことなく使っちゃいましょ♪
ルンルン気分で調理室に向かい、食材、包丁、まな板に米を炊く釜を用意!
玉葱、人参、じゃが芋を下洗いしたあと、一先ず人数分で食べやすいように切っていく。
その後はカレー粉とかスパイスとか、食材とかを鍋に入れ、煮込んでいく。
隠し味に、ここからだいぶ遠くの国でよく売れてる、「マミチ豆」を加工した飲み物、「渋星」と牛乳を混ぜた完成形、「渋星牛乳」を入れてと。
出来上がり!一回匂いを嗅げば、スパイスのチクチクした刺激で食欲倍増!私特製ビーフカレー!
「この香り、カレー?久しぶりだね、傘のカレー。ちょうど食べたかったところだし、気が利くじゃん。」
「えっ!?いつの間に⋯!?でもそう言ってくれて、私めっちゃ嬉しいわ〜っ!!」
「ちょ、急に抱きついてこないでよ〜!!」
「俺や網津さんだったら刺すとか言ってくるのにな。」
「物の世界で言う、ショタの立場を有効活用してんじゃねぇのか?」
「あ゛ん゛?」
「変態野郎は余計な口を挟んでこないでほしいわ。」
「はい、すみましぇん⋯。」
「良い香りですねっ!もしかしてカレーですか!?大好物ですっ!!」
「私も好きです。特に傘さんの作るカレーは深いコクがあって、なんとも言えない味わいが感じられますから。」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない♪」
「すごい大人チックな感想だな夏恋、裏の顔はドス黒いのに。」
「ん?なんか言った?遊雅さん。」
「な、なんでもないっす⋯。」
皆の会話をじっくり聞きつつ、出来上がったカレーを調理室の隣りにある、食事室の机に人数分ささっと置いた。
カレーを作るだけで数時間もかけちゃうとは⋯、自分でも驚いてる。
そして、食事室に皆を呼んで、皆が席についたことを確認して⋯。
「それじゃ、頂きます!」
「「「「「いただきます」」」」」
その言葉とともに、一斉に皆の匙は動いた。
食べ方も個性的で、ガツガツ食べているのは露ちゃん。
露を見て笑いながら、野菜を先に食べてるのは遊雅くん。
食べる速さは、露ちゃんよりかは遅いけど、パクパク食べているのが美浦。
一番落ち着いてるけど、味わってる時の顔はすごく朗らかで幸福そうな夏恋ちゃん。
黙々と食べ進めて、何故か私の顔色を伺っている視線を向ける変態野郎もとい網津。
そして、親のように微笑ましくなりながらも、自分から見た料理の感想にも優越感を覚えたままカレーを食す私。
もし隆真ちゃんが居たら、もっと和やかだったのかな。いや、いつもと変わらないんじゃないかな?
そんな妄想を浮かべている内に、皆完食していて、おかわりをするために皿を持って調理室を出る人が目に入るようになった。
ほんとに食べるの速いんだな、皆。
きっとそれは、成長してる証拠なのよ!そう決めつけて誇らしげに鼻を上げた。
私が育てた、みたいなものだしね⋯。
明日は頑張ろう⋯、隆真ちゃんを苦痛から救い出すために。
まだお風呂にも入ってないのに、目が霞んで細まっていく。
頑張りすぎたのかな、私⋯。
こんな事ずっと考えてても意味ないけど。
「傘さん!まだお風呂入ってないじゃないですか!一緒に入りますよっ!入ったら少しは、身体の疲れも心の疲れも軽くなりますよ!」
「あ、ありがとう。美浦。」
「んで、後ろの覗き魔さん⋯?貴方は入っちゃだめですからね。混浴風呂なんて昔にしか存在しないもんですし。」
「今どきこの世界でエッチな事する人なんて、避けられて当たり前なんだからな!わかったら部屋で寝てろリーダー!」
「あ〜もううっせぇなあ!美浦も露も傘も散々俺を勝手に変態呼ばわりしやがって〜、」
「「「だって当然のことだもん」」」
「グハッ!!」
「ってかさっきカレー食べたついでに酒も飲んでたでしょ!!」
「あ〜だからこんなに周りが酒臭いのか、あとで匂い消しの技使わなきゃ。」
「ですね。」
「女性陣から痛烈なツーヒットを食らった網津選手は、誰にも知られないまま、表舞台を去るのでした⋯⋯。トホホ」
「あ〜悲しいよぉ網津さん。」
「お世辞はやめろよ遊雅!俺の身体に害だぞ!」
「そ、そうすか⋯。」
その後、ざっぶんと気持ちいい湯加減のお風呂に浸かって、身体の隅から隅まで洗い流した。
心の中の闇も、何もかも。
「⋯ふぅ、あの二人は出たね。はい、息していいよ遊雅。」
「⋯ぶはぁっ!?し、死ぬかと思ったっ⋯⋯!!って、えぇぇぇっ!?」
「し〜!少し黙って。まだ二人は近くにいるから。」
「い、いやそういう話じゃなくてだな⋯!俺はなんでここにいる⋯!カレーを食べたあと個室に戻ったはずだ!どうせお前が呼び出したんだろうが⋯。いや、なんで俺をここに呼び出した!!しかもお前、裸だぞ!?風呂場だから当然だけど!」
「遊雅も裸でしょ?一緒だよ一緒。」
「こ、こいつ⋯、つくづく怖い⋯⋯!」
「なんか文句でも?」
「なっ、ないですないです⋯!!だがせめて、呼び込んだ理由ぐらいは聞かせて欲しいなぁ。」
「私の気に障るような言葉を何回も発した罰だよ。自分でもわかってるんでしょ?」
「そ、それだけ⋯!?」
「もっと重くして欲しいならあの二人を呼ぶけど。」
「重くしなくて良い!ってかお前も巻き添え食らうだろ!」
「それもそうだね、考えてなかった。」
「ば⋯、コホン!なんでもない。」
「今なにか?」
「だからなんでもないって⋯!!」
まぁ、そんな会話が聞こえてきたけど、それ以外は変な喧嘩は起こらず、今から寝る準備だ。
もう本当に疲れちゃったから、すぐ寝ちゃいたいんだけど⋯。
「えいっ!」
「うわっ!?やったな!遊雅!どりゃっ!」
「何処向いてるの遊雅、ほっ。」
「ぐわっ!?ふ、不意打ちはなしだろ!」
「見てないほうが悪いんだよ、ってうわっ!?」
「ふっふっふ⋯、私を忘れてもらっちゃ困りますよ!」
「ZZZZZ」
枕投げが始まってて鼾もうるさいような状態で⋯、寝てられるか〜!!
「こら!!いい加減寝なさぁぁぁいっ!!!!」
「「「「はっ、はいっ!!!!」」」」
「⋯ん?もっとって⋯?」
「言ってないわこの変態野郎っ!!」
「ふぇっ、酷いなあ」
これで良しと。
明日に備えて今日はしっかり寝ましょう。
きっと、そうするが吉よ。
神様と隆真ちゃんがそう言っているわ。
―隆真の頭の中―(視点:隆真)
死にたい死にたい死にたい、
消えたい消えたい消えたい、
しんどいしんどいしんどい、
うんざりだうんざりだうんざりだ、
俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ、
アイツのせいだこいつのせいだ誰のせいだ、
わからないわからないわからない、
寒い寒い寒い、
暑い暑い暑い、
痺れる痺れる痺れる、
暗い怖い嫌だ何もかも嫌だ、
何もかもが信用できない、
何もかもを信じたくない、
どうせ死ぬんだから、
どうせ俺を置いてゆくんだから、
俺はなんだ俺は誰だなんでここにいる、
何のために存在して生きている、
わかんないわかんない死ぬほどわかんない、
イヤダイヤダイヤダ、
イタイイタイイタイ、
ヤメテヤメテヤメテ、
キライイヤダミンナシネ、
信用したくないからミンナシネ、
どうしたら俺の過去を変えられた?
国を変えたら俺も変えられた?
あの役所を消せば変えられた?
あの役人たちを消せば変えられた?
あの悪人を消せば変えられた?
わからないわからないわからない、
どうすれば良いのか一切わからない、
俺はなんで生きていた、
何のために動いていた、
この言葉に表せない何かはなんだ、
誰か教えてくれ、
教えてくれよ、
なぁ、教えてくれよ⋯!
なにも知らなけりゃ、俺はただ後悔して死んでいくだけなんだ!
なぁ⋯!教えてくれよ!
代価となるものならいくらでも差し出してやる!
なぁ⋯!なぁ⋯!!なぁ⋯!!!!なぁ!!!!
教えてくれって言ってんだろ!!!!
もう、俺を⋯⋯、俺を⋯⋯、一人ぼっちにしないでおくれよ⋯⋯。
「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!!!!!!!!!」
―空虚で実態のないヒトが、虚空が広がる虚無空間で叫び続けている。
目隠しを一生させられているような、何も見えない不安と絶望を重ね、彼の精神はとっくのとうに死んでいる。
ただそれだけだ。誰もその事実を知っちゃいない。
可哀想だが、助けられるのをただ待つしかないんだ。
一人の時間を、無限がいつまでも続く限り我慢するしかないんだ。
これがこの世界の現実、「弱肉強食」だ。
つづく




