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五話 奮い立つ〜傘は遊び招かれ雨を忘れ踊り明かす〜

 (視点:傘)


 役所に帰っていく間に、美浦から経緯を説明してもらうと⋯、

 隆真ちゃんの友人が北東の街にあり、もしかしたら巻き込まれたんじゃないかと思い駆けつけたが、友人の家には既に蛻の殻で、机の上に置いてあったのは偽りの送り主からの怪しい手紙。

 内容は「外出の誘い」という主題に綴られた誘い文句で、集合場所はアビス川。

 そこに来てみると、現れたのは黒い装いの覆面の男。

 男はスキル魔法という特殊スキルを使って隆真を翻弄し、友人を彼の前で細切れにし、逃げ腰で帰っていった。

 そう説明してもらった。

 なんて悪辣な奴なのかしら。

 隆真ちゃんの心を弄んでズタズタに引き裂いて、自分の技に過信しすぎてる気もするし、人の心なんて全く持ってないみたい。

 どうせ、人生生きてて楽しくないんでしょうね⋯。

 罪を犯すことでしか自分の存在意義を表せないなんて、可哀想な人ね⋯⋯。

 歩くたびに皮肉って、私の中の不満を吐き出そうとしたけれど、それでもイライラは止まらなかった。

 そう考えると、あの時戦った強大な魔物は、その人に仕えていたってわけね。

 気味悪くて腹が立つって面で、とてもお似合いだわ⋯。


 「ごめんなさい。私が⋯、私があの時反撃できていれば⋯⋯。」

 「良いのよ美浦。私達も私達で、隆真ちゃんの気持ちをわかってあげられなかったから⋯。」

 「そ、そんな⋯!謝ることなんて⋯⋯。」

 「場所がわかるアイテム、相手に付けたんでしょ?だから、いつでも仇討ちは取れるわ。よくやったわね!美浦!」


 テキトーなことをつい口走っちゃったけど、美浦の顔見たら、どうやら本当みたい。

 もしかして私、こういうのを見抜く天才だったりして⋯!?なぁ〜んて、ちょっと高揚感に浸ってみる。

 さっきまで曇天のように静まり返ってたのに、今となってみれば革命が起きたみたいに一瞬で晴れやかになったわね。

 約一名を除いて⋯、やっぱり気は変えられないわよね。

 私だって今こうやって変えようとしているけど、心の中は怒りばかりだもの。

 思い出しただけで、拳に力が入っちゃうわ。


 「傘さん⋯、わかってたんですね!」

 「も、勿論!わかってたわ。」

 「うそつけ。戦いに夢中だったくせに〜、」

 「あ、バレちゃった♪」

 「素直か!」

 「傘さ〜ん?適当なこと言って当てるのはすごいことですけど、嘘はいけませんよ〜??」

 「ごめんって!許して〜!」

 「ふふふっ、仲が良いですね。」

 

 そんな現実逃避紛いの話をしていると、遊雅くんが鬼の血相で割って入ってきた。


 「いい加減、変に場を変えようとすんのやめましょう⋯?傘さん⋯。

 俺達にはたったの数時間で失ったものがある、隆真の自我だ。

 敵に翻弄され、友人を殺され、ついでに自我を奪われちまったんだ。その状況を見て見ぬふりして⋯!

 傘さんたちは、国の連中とやってること変わんねぇってぐらいのことをしてるんすからね!流石にそのことに、気づいてないわけ無いっすよね⋯?傘さん⋯⋯。」

 

 何も言い返せず、私は唇をぐっと噛み締めた。

 血が喉に入ってくるほどに⋯。

 でも私は、どうしようもなくなって開きたくない口が勝手に開いた。


 「そんなこと、わかってるわよ⋯。わかってるけど、雰囲気を変えないと動けないことも動けないままなのよ⋯!!

 解除方法は今すぐにでも見つけたい、けど見つけるには強固な決意と多大な時間が必要不可欠なのよ!

 だから、いつだって前を向かなくちゃ、何事も前向きに考えなくちゃいけないの⋯⋯!

 それにしばらくは、隆真ちゃんには申し訳ない言い方だけど、思い出したくなかったのよ⋯。

 彼の苦痛、憤怒、悲哀、重圧を受け止めすぎて、私まで苦しくなっちゃって⋯⋯。

 すぐにでも彼を救ってあげたいけど、私にはもう、心の余裕がないの⋯!」


 我慢していた感情が一気に漏れ出て、獅子のように激昂した。

 乾いていたはずの涙も再び流れ、どっと気分が落ち込んだ。

 でもこれは、遊雅くんのせいじゃない⋯、私のせいだ。


 って、また自分のせいにして⋯、そういうのがいけないんだってば。

 でも、だったら誰が悪いの?

 露ちゃん達⋯?いや、違う!

 んじゃあ遊雅くん⋯?絶対違う!

 美浦⋯?違う!隆真ちゃんを守ってくれたんだもの!

 それじゃあ、隆真ちゃん⋯⋯?そ、そんなの有り得ない!!

 なにを想像してるの私!考えるべきはそこじゃないでしょ!?

 あぁもうなんなの⋯?ずっと私の心にへばり付いている、変なヘドロは⋯!!

 取りたいのに手が届かないし、心を動かそうにも自分では動かせない⋯!

 誰も、悪くないのに⋯、なんで⋯⋯?


 ――なんで私は、いっつもこうなの⋯?


 「傘さん、それで良いんすか?何もできないまま、そうやって心の中で嘆いて、絶望して。

 それじゃあ相手の思う壺っすよ⋯!そういう時こそ、俺達に頼るべきっす!ちゃんと向き合って自分なりに考えて行動できる、大人顔負けの俺達を!

 傘さん一人で抱え込むことなんてないんすよ、逆に一人で抱え込まれたら困ります。傘さんが落ち込んだら、皆も落ち込んじゃいます。

 俺がもっと強ければ、もっと先に行って隆真も隆真の友人も救えたのに、そんなことを考えるだけでも、胸が苦しくなる。

 誰でもそんな自責は殴りかかってくるもんっす。弱音吐いて余裕がなくなるのも、泣きたくなるのも一緒っす。

 でもそんな時こそ、挫けず立ち上がろうとする気持ちを身に付ける、それが大事だと俺は思うんす。そして、傘さんにもっと深く遠い前という場所を向いてほしいんす!

 それができるように俺達は俺達なりに傘さんを支えますし、できたら俺達は俺達なりに援護しますし動きます!

 さぁ、一緒にちょっとずつ前を向いて、隆真を救いましょう!」


 そう、そうだけど⋯、そうなんだけど⋯⋯!

 ダメだ。我慢したいのに、言い返そうと、私の口が動く⋯。


 「でも、誰が、誰が悪いのか⋯、それがわかんなくて藻掻き苦しんでるの⋯!!

 わけわかんなくて、今にも叫びだしそうなほど⋯、私は抱え込んだ。

 なにに自分のすべてを吐き出せば良いのか、自分をどうやって変えれば良いのか、そんな難しいことが頭の上に降り掛かって刺さって、死ぬほど痛いのに笑顔。気持ち悪すぎて馬鹿みたいよ。

 自分を責めることも止まることはない、どうせ。私が止められないんだから、あなた達にも無理よ。

 落ち込むことが引っ込み思案な私を⋯、そんな私を、あなた達が救えるはずがない⋯⋯。もう、放っておいてよ⋯⋯!!」

 「やっと吐き出してくれましたね。そう、その本音が聞きたかったんす。いつも忙しそうなのに笑っているから、気になってたんす。

 安心して下さい!俺なんかの言葉で安心できるかなんてわかんないんすけど。

 誰かのせいにするなんて、俺はしょっちゅうありますよ。露のせいにしたり、夏恋のせいにしたり、たまに網津さんや美浦さんのせいにしたりもしますね。

 でもぶっちゃけ、笑い話なんすよ。誰のせいだろうが、笑って済めば気楽なんす。

 変に笑って済ますのは、俺は嫌いなんすが、誰のせいかっていうのは、もうどうでもいいんす。向き合うべきなのは目の前に広がる障壁のみ!隆真を救うにはどうすればいいという課題だけっす!

 自分のすべてを吐き出すことは、俺達にしてくれりゃいいし、自分を変えることも俺達に相談してくれりゃ、俺達なりにアドバイスします。

 さっきいったことはそういうことなんすよ。だから、俺達に支えさせて下さい。」


 嘘じゃない、その言葉に嘘偽りはない。

 真剣な眼差しで優しく、私に寄り添ってくれた。

 そうだ、私には仲間がいる。

 網津、美浦、露、遊雅、夏恋⋯、そして隆真。

 この六人がいる。だから、困った時はみんなに話せばいい。

 心の中の私を曝け出せばいい。

 そして今は、自分のことや他人のことでどうこう言っている問題じゃない。

 隆真がすっごくピンチだから、それをなんとかするのが最優先。

 悩み込み泣くのはその後、皆が揃ったときにすれば良い。


 「ふふっ、ありがとう遊雅くん。貴方のお陰で、頭の中にあったぎちぎちが一気に軽くなった気がするわ。

 もうなんだか、この一瞬でずんと悩んでた私が、馬鹿らしく見えてきちゃった。

 不思議ね。」

 「良かった。奮い立ってくれたようで。んじゃこれからは、隆真を苦しさから解き放つ準備会議をしていこう!みんな、協力してくれるか?」

 「勿論です!」

 「仕方ないな。さっきのに心動かされた気がしなくもなくもなくもないから、協力してあげなくもない!」

 「勿論ですよ。」

 「私も、頑張っちゃうわっ!」

 「よし、じゃあ役所まで走ろう!」

 「「「「それは嫌だ!!」」」」

 「良いから走るぞ!!」

 「「「「えぇ〜!?」」」」

 「遊雅、あとで刺し殺す」

 「ふふっ、いつも通りですね。」


 海の傍ら、私は過去と決別した。

 ねぇ、母様⋯、見てますか。

 今私は、トラウマみたいなのを、遊雅の力を借りつつだけど、克服したんですよ。

 すごいでしょう?どうか上で、喜んでくれると嬉しいな。

 そんな伝言を空に放って、私は見えないゴールに向かって走り出した。

 無邪気に、元気に、大好きがいっぱいな気持ちで!


 つづく

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