三十一話 お別れの儀
―美浦達VSマモンの方―(視点:三人称)
今、戦局は波乱を迎えている。
王都の建物一つ一つをブレスや突進などで破壊していた、七大悪魔の一人「マモン」。
街の様子を見に来た美浦達はマモンと出くわし、交戦に―。
最初の怒涛の攻撃が龍となったマモンを襲うも、マモンは快感を覚えるばかりでびくともしない。
傷を与えられたとしても即座に回復し、また攻撃される。
マモンの攻撃を受け地面に叩き落される美浦達、既に満身創痍だった。
だが、網津は違った。
熱気を帯び、顔が酷く歪み、額に青筋を立てていて、怒りを顕にしているのがわかる。
彼の頭の中には過去の憎しみ、憤り、屈辱、未練などが折り重なり、満タンになっても尚自身の心を蝕み続けている。
そんな中一人、虫の息な筈の肺をひっくり返すように立ち上がり、傷をも気にせず巨体の龍のような悪魔に突っ込む。
「お前ぇ、俺のことを覚えているか⋯!!」
「貴様か?覚えておらん。会った記憶すらない。それがどうした玄人よ。」
マモンは網津の怒気の籠もった問いを、軽くいなすように返答を返した。
だが、網津にはその言葉が嘘としか思えなかった。
あの時自分の戦友たちを殺したのは、七大悪魔の一人である、「マモン」で間違いないと。
巨体で多足な悪辣で傲慢である、人殺しにしか興味がなく人のことなどゴミとも思ってないような極悪非道の悪魔。
自分がその魔物に会った時の印象、イメージ、外見が一緒なのだ、絶対に別人なんてことは有り得ないだろう!
網津はマモンが嘘を付いたことに苛立ちを覚え、拳を前に突き出した。
「んじゃあ、覚えていないことを天国か地獄かどっかで悔やむことだな!」
「―!!この拳は、我の欲をしっかりと満たしてくれるなぁ〜!何がなんだか知らないが、その調子で我を殺してみせてくれぇ!!」
「たわけ、気でも狂ったか!!」
お望み通り、というのが正しいか―、網津は腹を潰すが如くマモンを殴った。
だがまだマモンは、まだ余裕をかましている。
腹が捩れるほどの痛みを、人間であれば感じるのに⋯。
内蔵物がグチョグチョになった状態で口から吐くほどの痛みを、人間だったら感じるというのに⋯。
理不尽な壁というのは残念ながら、人間では超えられないということが、残酷すぎると網津は感じた。
「次は我から行くぞ―、魔物スキル拳術、八裂神風!」
「うぐ―、」
「これを耐えるか!なかなかに身体の頑丈な男だ!」
「褒めている場合か痴れ者―!自分の心配をしてはどうだ!」
網津は美浦や傘が加入する前、当時最強の魔物である「紅狼」や隠れた街の害魔、「呪教蛇」を無傷で討伐。
だが、呪教蛇に関してはサンドロープの教会の守り神であった為、一人の役人が殺したと散々咎められれ、役人すらも嫌うように―。
攻撃や呪い、毒、精神を蝕むものの耐性は人並みにあるのだが、それ故に持っている過去も悲惨なものだ。
バツ型に両腕を合せ、腕を裂くようなの暴風を防ぎ切り、怒りに任せすぐさま拳を突き出す。
「はぁっ!でやぁっ!とぁっ!おらあらあらあらあらあらあらあらァ!!おらぁっ!!」
「感情に身を任せた深みのない攻撃⋯、先程の攻撃と打って変わって痛みが少ないなぁ!」
「ほざけぇ゙!!」
一発一発に力は籠もっているが、マモンは一度受けた攻撃には耐性を付けるという特殊防御を持っている。
その為技を使わない限り、マモンに拳の攻撃は効かないのだ。
「技を使ってみせろ、その頑丈な身体なら何発でも打てるだろう。」
「今の俺を見てそう言ってるなら、お前はとんだ勘違いをしているな⋯。満身創痍の状態の俺に、技など打てるはずもない!使いたいのはやまやまだが、今俺に使えるのは拳のみ⋯。お前の期待など超えられん!」
「ふっ、所詮は貴様も拍子抜けか。自ら我に立ちはだかってきたというのに⋯。殺された仲間が貴様を見たら、見たらどう思うかな?」
「――!!!!!!」
マモンの挑発に頭が裂かれたような感覚が走った。
封じ込めていた奥の奥の奥の奥にある冷静が全て消え、網津は我を忘れ暴走する。
「うがあああああああああああああ!!!!!!!」
「狂人化か、まぁそれも面白い―!」
「がああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「(拳の攻撃の威力が上がっている。狂人化の影響とはいえ、凄まじいものを感じる⋯。)」
狂人化は組織のリーダー的立場の人間しか使えない、自分を強化するスキル。
怒りが極限に達することで自動的に発動するが、それさえも体力の消耗が激しい為、暴走から目覚めた際に使用人の命の保証ができるかと言われれば、微妙なところである。
網津は熱を帯びた悔しさを力に変え、自身を燃やし尽くす獅子の咆哮を上げる。
その迫力に、気絶していた美浦達は目が覚め、目が釘付けになる。
「あれが⋯、」
「リーダー⋯?」
――――――――――――――――――
「があああああああああああああっ⋯!うがああああああああああああ!!!!!!(狂人化スキル必殺魔法⋯、地獄炎!!)」
「⋯!?(身体に炎を纏っている⋯。これは当たったらまずい⋯⋯!)魔物スキル拳術、水流風!!」
「――」
「(消えない!?)ぐあっ―!!」
炎を纏った網津がマモンの身体を直撃し、マモンは炎に焼かれ悶えている。
「うがあっ!?ああああ!!熱い―、マグマに使ったようなこの熱さ⋯、こんなもの、耐えきれるわけがない⋯!」
そこにまた網津と拳が突っ込んでくる。
「うがああああああああああああああ!!!!!!」
高速で放たれる十、二十にも及ぶ打撃にマモンは尽く圧倒される。
まだ龍の状態で打った攻撃は4,5回ぐらいだというのに、既に翼がほぼ焼かれており、街と離れた場所で美浦達と同じように地面に叩きつけられる。
「くっ――、下手に出ていれば調子に乗りおって⋯!!魔物スキル拳術、双牙!!」
「⋯!!うがあああああああっ!!」
マモンによる噛みつき攻撃で網津の身体に無惨な穴ができ、マモンは網津の血によって翼を再生させた。
だが狂人化になった人間は、傷を受けてすぐ回復するという魔物のような効果を持っており、網津の無惨な穴もすぐに塞がっていく。
「ならば―、魔物スキル拳術、闇霧突進!!」
「うがああああああああっ!!!!」
鋭い毒に身体を蝕まれ、視界が紫色に染まりぼやける。
だがそれも怒りの前には敵わず、即座に毒による痛みを消し、闘気によって視界を元通りにした。
「魔物スキル拳術、鋼鉄の細糸!!」
「ぐああっ!!!(瞬時に回復)ぐうああああっ!!!!」
「魔物スキル拳術⋯、地獄闇針!!」
「うぐああああああっ!!!(瞬時に回復)ぐうあああああああっ!!!!」
「魔物スキル拳術⋯⋯、迅雷の雨!!」
「がああああああああああっ!!!(瞬時に回復)ぐうああああああああああああっ!!!!」
「魔物スキル拳術⋯⋯⋯、視界反転!!」
「ぐああああああああああああっ!!!(瞬時に回復)うがあああああああっ、ぐうああああああああああああっ!!!!」
幾度と拳術に関係のないような強力な技を繰り出すも、網津は回復し何度も拳をぶつけてくる。
時には特殊な技を打つこともある。
「があああああああああああああっ⋯!うがああああああああああああ!!!!!!(狂人化スキル必殺魔法、紅蓮炎震斬!!」
闘気によって生み出した剣に、身体を燃やし尽くすほどの炎をまとわせ、斬撃を放つという強力な技。
打たれた敵は必ず瞬時に震え上がることから、震斬という言葉がついているらしい。
「熱い熱い熱い熱い⋯!何なんだこの斬撃は⋯⋯!!身体が揺れて震えるぐらいに熱い⋯、回復しても熱さによる痛みが残る⋯⋯!そんなこと、今まで生きてきた中で一度もないぞ⋯!?」
――――――――――――――――――
「があああああああああああああっ⋯!うがああああああああああああ!!!!!!(狂人化スキル必殺魔法、電龍拘束!!)」
身体が電流で焼け死ぬ程の鋭い電流で身体を拘束し、永遠の地獄の苦しみを味あわせるというサイコな技。
龍が纏わりついてくるわけではなく、短縄のように長くて細い電流が龍のように身体に巻き付くので、それを比喩した形が「電龍」なのだ。
「熱い痛い苦しい⋯!!もう痛感を快感と思う暇もない⋯⋯!!痛みが強すぎて、欲を満たしすぎて、身体がこれ以上の痛みを拒絶している⋯⋯。何なんだこの男―!!何でこんなに多種多様で強力な技をぽんぽんと出せるんだ!!」
気付けばまた翼は消えており、もう既に彼を食らう気力も勇気も自信もない。
だが網津は若手の勇者のようにピンピンして立っている。
もう四十だというのに、実にタフだ。
「貴様は何故、我が過去に仲間を殺したと思っている―。」
「うぐあ、ん゛ん゛っ!!お前が仲間を殺したところを俺は見た。目の前で見た―!」
「それが、別のやつだって、思うことはあったか?」
「無いに決まっている。自覚がないのは、嘘だということが決してバレてはいけないと自分を押し殺している証拠。お前を疑わない理由など存在しない―!!」
「(他の悪魔がやったのか⋯、あの醜悪な悪魔共が―!!)なるほど、そういう事か。」
「なんだ?そういうことって。」
網津が首を傾げ、マモンに問う。
だがマモンは、先程とは打って変わって何も言わない。
表情は次第に悲観的になり、マモンの顔は額が寄り、泣きそうになっていく。
次第に網津は瞬時に抑えていた感情が我慢できなくなり、また暴走しようとする。
「答えろ―、俺が暴走する前に⋯!!」
「我はもうこの場に、生きる価値が無くなった。我自身のせいでな。」
「どういうことだ―?」
「本当に貴様の仲間を殺したのは、我ではない。だが、我がそれに気付いていれば、貴様の仲間が殺されることはなかったことを思うと、心に来るものがあるのだよ。」
「そ、それって⋯、どういう⋯!」
一瞬で言葉が詰まる。
今までの怒りの勢いは次第に、「何故?」「どうして?」という疑問へと変わった。
「信じてくれないかもしれないが、貴様の仲間を殺したのは恐らく、人型であり誰にでもなりすますことが出来るスキルを持つ悪魔、色欲の悪魔「アスモデウス」だ。」
なりすますことの出来る⋯?色欲⋯?アスモデウス⋯?
薄っすらと聞いたことがあるが、細かい能力までは知らない悪魔だ。
嘘だと一瞬思ったが、今までの正直な立ち振舞を見て、本当のことだと確信した。
俺は無実務痕である悪魔のマモンに、罪を償えと要求したのか?
次第に網津は、殺人識別課としての自分のプライドが折れ、絶望で膝から崩れ落ちた。
敵でありながら、マモンを何処かで戦友と思い込んでいたのだろうか。
それほどに傷付いて立ち上がれなくなった。
「すまなかった、強者。我のせいでお前を傷つけてしまった。もし助けられることができれば、貴様と我は案外いい関係になれたのかもな。」
「そ、そんなこと⋯、今更言っても遅い。それに、謝りたいのは俺の方だ。敵とはいえ、自分の思い違いで色々言って悪かった。本当にすまなかった。」
「貴様が謝ってどうする。」
もう戦う気が無くなった。
草臥れて心も削れて、死ぬことは殆どないと言えた狂人化スキルもいつの間にか解かれ、網津とマモンの中に虚無が生じた。
「戦うか?」
「戦ってどうする。」
「我の中の全ての悔いを残したまま、天国に昇るだけだ。お前に得はないが、それが俺なりの償いだ。沢山の人を傷つけ殺した罪も重いだろう。」
「賢明な判断だが、それで良いのか?」
「あぁ、それで良い。」
再び二人は、目と眼を合わせ構えた。
そしてこれが、最後の攻撃だということもお互い分かっている。
「なぁ、マモン。もう楽になりたいだろう?なら、一撃で終わらせよう。互いに。」
「あぁ、それが良い。」
翼のないマモン、狂人化スキルが切れた網津。
二人の最大限の攻撃を放つ―。
「魔物スキル拳術、鬼成門―、終幕短撃!!」
「リーダー特権魔法、電柱の籠―!!」
鬼成門は悪魔の生まれる瞬間のことを差し、「終幕」、「くびうち」とあるように、全てを終わらせる攻撃となっている。
この技は半径五メートルより近くに来ると即死する、接近攻撃は通用しないものである。
しかし、網津の電柱の籠は遠距離の集中電撃攻撃。
魔法によって作られた電柱は熱のような熱さを帯びていて、当たると一瞬で大火傷。
十本当たれば足が消え、五十本当たれば胴体が消え、六十本もしないうちに全部が消滅する。
その中に入ってしまったマモンは、死ぬのが確定している。
「あああああああああああああああ!!!!」
「どうせこの後、他の悪魔によって死ぬ。そういう運命だったんだろう。お前が死んでしまうのは実に居た堪れないが、悪魔によって突如死ぬより、死ぬと決まった攻撃で死んだほうが気が楽だろう。さようなら、マモンよ―。この仇は必ず討つ。」
マモンの悲鳴が辺りに響き渡る中、網津はただ一心に、追悼の意をマモンに向けていた。
―???―(視点:三人称)
一方、此処は悪魔の住処。
強欲以外の悪魔が居座る秘密基地。
ガラス玉状の水晶で、王都の様子を見ている。
まるでその場に悪魔全員が居るかのように。
「ふっ、実に馬鹿だったのだよ、マモンは―。あんな者の従者になって、無念の死を遂げて。俺は贅沢をさせてくれる人間共が、有意義な暮らしをさせてくれるという圧倒的幸福を噛み締めているというのに。」
元々あったかのように置いてあるソファーの真ん中に、両手を広げて堂々と座っている悪魔。
彼の名前はルシファー、傲慢の悪魔だ。
人間をゴミ同然にしか思っていなく、マモンより極悪非道である魔物。
ワイン片手に矮小なる水晶に映る王都を、眉をひくひくさせながら見ている。
「仕方ないわってのよ。マモン君はわっちらとは違うだけだったってのだから。考え方も行動もね?」
ルシファーの腕にそこはかとなく包まれるように座る悪魔。
彼女の名前はレヴィアタン、嫉妬の悪魔だ。
一人の人間にしか興味はなく、同性嫌悪で女はすぐさま殺すほどの性格を持つ魔物。
魚好きであるが故に、牛肉料理が目の前に出されていることに不満を持ちながらルシファーに身を寄せている。外の様子は一切見ていない。
「ふんっ、バカはバカらしく死に損ないのように死んだら良い。まぁ結果的に死んだが。あの醜いその容姿は見るに耐えん。あの者に興味が湧いていたわけでもあるまい。人殺しに欲が深かろうが戦いに欲が深かろうが、私達には関係のないことだからな。」
ルシファーから見て左の場所を陣取っている、足を組みながら偉そうにしている悪魔。
彼の名前はサタン、憤怒の悪魔だ。
人間をあくどいやり口で惑わせ、滅するほどの人間嫌い&悲鳴大好きな誰かの下に立つのを酷く嫌う魔物。
机の傍に置いてある人肉のローストビーフを堂々と喰らいつき、赤く染まったワインをグビッと飲んで御立腹になりながらも王都の様子を見ている。
「ヒッヒッヒ⋯、あの人らしい死に方だったでしょう実にそうでしょう!あの人の初心な経験など軽く見ておきたいと思うくらいにはあの人らしい!愛に包まれることは素晴らしいことなのだから、その愛を尊重しなければ⋯!まあ、女には興味はないのですがね。」
ルシファーから見て右側に座っていて、顔をクチャリと潰したような気色の悪い笑みを浮かべる悪魔。
彼の名前はベルフェゴール、怠惰の悪魔だ。
愛を探求し、愛を育むとはなにかということを常日頃から研究しているという積極的な魔物。ただし女性自体に直接的な好意はない。
ワインも食事も取らず、死んだマモンの結婚生活を妄想、想像し、ヒッヒッヒと笑みを零している。
「それくらいにしておいたら〜?彼も本気だったみたいだし。これ以上変なことで仲間内で貶しあったら、僕の趣味である人間鑑賞の味が落ちるよ。」
水晶の方を見ず、自分で用意した席にひっそりと座って、部屋の右隅っこで映画を鑑賞している悪魔。
彼の名前はベルゼブブ、暴食の悪魔だ。
人の血肉や筋、脳、内臓に至るまでの食べれる場所を、血を吸うように綺麗に食らう魔物。
食らう欲求を抑えようと、映画が映っているテレビを目が悪くなるぐらいの距離で見ている。
「やぁね、なにか言ってないとやってらんないんよ!恍惚っていうかなんというか!!あっはははは!!魅力のある人間や魔物にしか俺んは魅入らない⋯、その他のオモロいうつけ者は笑って見過ごす!それも癖になって仕方がないんだがね〜!はっはっはっは!!!!」
ルシファーから見て右側の、ベルフェゴールの隣に座っている、高らかな笑い声を部屋中に充満させる、牛の角が光って絶えない悪魔。
彼の名前はアスモデウス、色欲の悪魔だ。
人や魔物に憑依できたりその人になれたりできる、特殊な性質を持っている区別をしがちな魔物。
水晶を艶かしい目で見て、人の妖艶さに酔いしれながら興奮している様子。
「マモンが網津ってやつにより死に、残るは利水の命だけ。気に入らない行動があればすぐさま消せる。なんなら今から消してみせようか。俺達にとっては邪魔でしかないから。」
そういうとルシファーは水晶から手を取り出し、標準を利水に合わせて、殺す準備を始めた。
周りの悪魔はいつもと変わらないような表情をしていて、慈悲も情けもかけてはくれない。
ただ一人の人物が殺されるのを待っているだけだ。
「さぁ利水、お疲れ様。」
豪快な人の首を裂く音、その音に悪魔たちは少しニヤけた。
いずれ隆真達が立ち向かっていく悪魔⋯、どのような存在か、知る由もない。
つづく




