三十話 存在証明がしたかったピリオド
―城内―(視点:隆真)
城内を駆け回る緊張感、メイド二人もラベリアも勇者でさえも汗が体内を這いずり回る。
勿論、ここで戦う気は毛頭ない。
城が原型をなくして、何もかも崩れぶっ壊れる恐れがあるからだ。
戦う場所は王都から見て東に位置する、城が立派に見える広い空間にする。
覆面の男がそれを変えるかもしれないから、メイド二人には場所の優先順位を変更できない特殊な術式をかけさせた。
正直俺は、あの時から強くなった実感が湧いてない。
あれから一ヶ月も経ってないんだから、そんな短期間で強くなるなんて有り得ない事だ。
打てたのは気迫押しのみ、ラベリアに打ったら効かなかった。
物理攻撃の効かない魔物だったっていうのもあるけどね。
「なぁ、此処じゃちょっとあれだからよ⋯、場所変えねぇか?」
「そうだな。リエナ達は下がっていてくれ。これは俺とこいつとの一騎打ちだ。」
「誰が一騎打ちと言ったよ笑 スキル魔法、操理。兵士とヴィレス、ラベリアよ⋯。動けぇ!!」
遠くに居た兵士だけが動き、ヴェレスとラベリアは動かない。
目の前には兵士しか映っていない。
覆面の男は兵士しか動かないことに違和感を覚えている。
一体ヴェレスとラベリアはどうしたのかにゃ?
そう思いつつ俺は、
「やっぱり他人頼りか。」
と言って気を紛らわせた。
「ん?操理!⋯操理!⋯⋯操理!操理!!操理!!!操理!!!!な、なんでヴィレスとラベリアは動かないんだ!?契約をかけておいたはずだし、GPS的なのもつけておいたはず⋯!!何故、何故動かない!!」
覆面の男は気付いていない。
ダンジョンに潜っていた際、俺はヴィレスの首にかかっていたネックレス的なGPSというものを剣で取り除き、ラベリアをルジカの所持している僧梵剣という剣に憑依させて、変な動きをさせないようにした。
それが自分の目的の阻害になっていることに⋯、覆面男は全然気付かない。
まぁ俺達の行動がわかってないんだから、気付かないのも当然か。
俺は覆面男の前で堂々と、憎たらしそうにドヤった。
「お前ぇぇぇ⋯、小賢しい真似をしやがってぇぇぇ⋯!!な、なら、そうと分かったら移動だ移動!俺が転移用のスキルを用意してるから、それで戦える場所まで行こうじゃねぇか!!」
「あぁ、是非やってみてくれ。」
「転移スキル、転移の門!!(フッ、馬鹿め。俺がそんな簡単にテメェらを安全な場所で戦わせるわけねぇだろうが笑 無慈悲な場所の攻撃達にボッコボコにされて死ね!!)」
俺が転移を指定した場所は東の空間、手違いがなければそこに部外者以外が飛ばされるはず⋯。
円状の転移の魔法陣の上で一瞬身体が浮き、気付いた時には荒野のような開けた空間が、広がって〜?
いた!よし、上手くいった!!(他の勇者も居ます)
「上手くいった、良かった〜!」
「ヴィレスもリエナも有難う!マジでお疲れ様!!」
「えっへん!」
「どういたしまして。」
「ま、まぁ褒めてやっても良いんだけど〜、なんか恥ずかしいような〜そうでないような〜」
「素直になれよラベリア!」
「これで事が上手く回る、回るな。」
「だな!」
そうして覆面男の方を見ると、覆面男は案の定、膝も肩も身体もがくんと落ちていくように落ちこぼれて、顔が泥塗れで闇に包まれているほど落ち込んでいた。
自分の技が上手くいかないと、此処まで落ち込むんだな。
※長文出ます。集合体恐怖症の方注意。
「なんでだ⋯?なんでだ⋯?なんでだ⋯⋯?なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで???????
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで??????????????
なんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだ!!!!」
喉が詰まって枯れ果てるほど覆面男は「なんで」「なんでだ」を繰り返す。
それほど自分の技を過信し過ぎてたのかもしれないけど、それにしてはなんでって言いすぎじゃない?一分以上はノンストップで言ってる気がする。
正しい呼吸ができているのか、そもそも息をしているのかさえわからないほどなんでを繰り返してる。
なんか過去にあったのかな?そんなことを心配するほどなんでと言っている。
「どうした⋯?さっきの転移のやつは、やばいかもしれないと思って内緒で転移場所を変えたけど、そんなに自分の技を過信してるってことは、過去に何かあったのか?」
寄り添うように優しく声をかけた。
だが、覆面男は皺くちゃになったような怒り顔でこっちを睨みつけ、上空へと俺の身体を蹴り飛ばした。
そこはかとなく、泣いているような顔にも見える。
「お前に何が分かる。お前は知らなくていいことだ。どうせ知られても鼻で笑われるだけだ。お世辞で哀れに思われるだけだ。しょうもないことで悪を目指したなって思われるだけだ。お前らとは何もかもが違う。だから知らなくて良い。俺は何も言わない。教えない。」
そう言いながら、俺を殴り飛ばし蹴り飛ばし、ストレス発散のように嫐りまくった。
俺は覆面男のことを気にしているせいで、反撃も何もできず、殴られた跡が何個も何箇所もつけられている。
勿論痛みは感じる、だが、彼の謎の苦しみに比べれば軽いような気がする。
「なぁ、教えてくれよ。憐れんだりしないから。絶対にしないから!」
「嘘だ。そうやって言って裏切ってきたやつを何度も見てきた。お前もどうせ憐れむんだろう?「可哀想に⋯」って。「もっと頑張れば行けるよ」って。変に気取ったりして。そう言うんだろ?そうなんだろ?」
「違う!俺はお前の痛みを理解して、前向きに生きてけるよう自分でお前を引っ張っていきたいんだ!これが同情や憐れみってやつなのかもしれないがな、そういう事も耐えなきゃいけないんだよ!だから、耐えられるような心を持てるように俺が支えてみせるって、そういう事を言いたいんだよ!」
「なら、さっさと死ね!!」
下にデカい魔法陣が作られる。
俺を魔法陣で消そうとしている。
それでも俺はなんとか変えたい、倒す前に心を変えてやらなくちゃ、気兼ねなく戦えない。
人の気持ちばっかり考えてギクシャクしたまま戦うなんて、そんなの嫌だ。
心臓が痛くなって、精神的に死ぬかもしれない。
「お前は、普通になりたかったのか?」
「⋯!!」
覆面男の心が一瞬揺らめいた気がした。
「そ、それがどうした⋯!今から消えようとするやつが、そんなことを聞くな!」
「答えてくれ。お前は普通になりたかったのか?」
「だから、それを聞いてもお前に得なんて!!」
「ある!その後の戦いが楽しくなるし、お前の抱えた罪をちゃんと裁くことも可能かもしれない。お前の心だってきっと救われる。」
「⋯なんだよそれ、」
自分勝手な理由だ、我儘な理由だ。
それは致し方がない。
俺は今、非常に必死だ。
覆面男の心を変えるために必死なんだ。
変な理由しか挙げられない。
「辛いかもしれない、けど俺ならちゃんと受け止められる気がするんだ。だから、答えて欲しい。お前は、普通になりたかったのか?」
覆面男は暫く、頭をがくんと下げた状態になった。
魔法陣はもう解けている。答える気になったのか⋯?
「⋯、やっぱ嘘だ。どうせお前は俺を裏切る。」
「なっ⋯!なんでそんな結論になっちゃうんだよ!!」
「お前に危害を加えたのは俺だ!どうせお前は、そういう優しい言葉をかけつつも、心の中では「面倒くせぇな」とか「早く死んでくんねぇかな」とかって思ってんだろ!だから俺はお前の言葉を一切信じない!!」
俺は本気で、覆面男のことを考えているのに⋯、どうしてだ⋯?
この行為は覆面男にとって、ただのありがた迷惑だっていうのか⋯?
徐々に気持ちが沈んできたような気がしてきた。
まるで、初めて会った時の精神攻撃の時のように⋯。
「はっ、ざまあねぇな。俺が落ち込んだら、お前も一緒に落ち込むよう術を仕掛けておいたんだよ。さっき俺がお前に攻撃したときににな!」
「強がんなくてもいいよ、覆面男。」
「なんだとォ⋯!?つ、強がってなんか⋯!!」
「お前の気持ちはなんとなく、分かる気がするんだ。
普通じゃないから、誰かと比較して落ち込んで、誰も友達がいないからぐっと落ち込んで、自分の技に自身を持ち始めて。
これを全面に押し出したらなんとかなるかなって思ったけど、結局は自分の自我が抑えられなくなって力に溺れて。
強くなることは凄いことだけど、それが大切な人たちを失くすことに繋がっていく。それすらわからなくて、罪を犯して、自暴自棄になって。
でもそれはな、人が誰しも抱えるような心なんだよ。俺だってそう、多分お前を一人にさせたやつだってそう。そこを乗り越えられるか、誰しもそこで悩むんだよ。
お前はそこを悩んで悩んで悩み過ぎてたんだ。力があるからって力に頼って、人も本当は愛したいのに裏切ると思って縛り付けて殺したりして。
ずっと悩み続けたからこそ、それが爆発しちまって、さっき言った状況や今の状況を引き起こしてる。
それって、お前が本当に望んだことなのか?本当は平和を誰よりも望んでいた。自分の類稀なる才能で少しでも人を救いたかった。そうなんじゃないのか?」
俺は自分なりに、覆面男の気持ちを考えた。
どうしてそうなったのか、そうなった理由を深く考えた。
今言ったことが上手く伝えられているかすごく不安だ。
覆面男を傷つけてしまったかもしれない。
俺は覆面男の顔を、チラッと見た。
すると覆面男は、下を向きながら涙を浮かべていた。
「お前の言う通りだよ⋯、俺は普通になりたかった。
ここに来る前もここに来た後も、ずっと歪んだ才能しか持ってなくて、それで人を失うのが嫌だったんだ。
誰かに褒めてもらいたかったんだ、認めてもらいたかったんだ。必死にアピールしてアピールして、でも上手くいかなくて、実績だけ良くなって。
いっそのこともう死のうかなと思って、別世界の「トラック」って乗り物に撥ねられて、ここに転生してきた。
転生してからは能力や魔法の勉強をして強くなって、気がついたらスキルを自由自在に操れる類稀なる能力者になっちまってよ⋯。それで、その力に惑わされて俺は、自我が暴走したんだ。
もうそれも、今になってみれば、しょうもねぇ話だ。
望んじゃいねぇことを平気で続けてよ、どうせなら力を平和のために使いたいと思ったけど、「自分の為」の方が強くなって私欲のために使って、人のこともよく考えず行動してた。命とはなんたるかということも、知らないままでな。
人付き合いが苦しかったのかな、人が嫌いだったのかな、今じゃもうそれもわかんねぇ。
城内に居たあの二人の内の男の方を殺そうとした時、男の覚悟が感じられてよ。殺すのを躊躇したんだ。そこにお前らが来てくれて、本当はすっごく感謝してたんだ。
隆真を散々傷つけてきたことも、謝りたかった。
あの場で謝っておけば、苦しい思いもせずに済んだのに。あぁ、俺はほんと、馬鹿なことをしたな⋯。
国民にも国王にも、ヴィレスにもラベリアにも悪いことをした⋯、ヴィレスの両親は街じゃなく玉座に居る。後で来てくれ。
本当に申し訳御座いませんでした⋯!!悔やんでも悔やみきれません⋯。
様々な罪を犯して、沢山の人を困らせて犠牲にして⋯、本当は地獄に行きたいぐらい悔しいです。でも、そんなことをしたら男の恥⋯。やめておきます。」
そう言って、覆面男は深く深く土下座をした。
操られていた兵はやる気を無くしたかのように蛻の殻状態になった。
これだけでもう、覆面男に憎む気は無くなった。
だが、街の方は打撃音が止まない、もう少し時間がかかりそうだな。
「覆面男。お前の名前⋯、聞いておいていいか?」
「俺?良いのか?俺みたいな咎人の名前なんか知っちまって。」
「良いんだ。さぁ、聞かせてくれ。」
少し考えた様子でしばらくして、顔を上げた。
その顔は曇り一つもない、朗らかな笑顔だった。
「俺の名は永田利水、性別は男性。年齢19歳の、咎人だ。」
「利水か、よろしくな。」
「あぁ、よろしく。」
お互いにぎゅっと掌を合わせ、絆を確かめるかのように握手した。
顔が見えなかった時の意地汚さは、まるで別人かのように綺麗になくなっていた。
「もう何も隠してないよな?」
「隠すことなんかあるもんか。」
「まぁそうだよな。お前のその言葉、信じるぞ。」
「そうしてくれると助かるぜ!」
正直家族のことや友人のこと、国のことには思うことがあるにしろ⋯。
自分の犯した間違いと向き合おうとしている気持ちは伝わった。
「んじゃ、戦うか?」
「おう!望むところよッ!!」
気分を切り替え、体勢を整え、雰囲気を変える。
覆面男もとい利水と戦うのは、友人のとき以来だ。
どれだけ攻められるか⋯、俺の腕の見せ所だな!
「俺から行くぞ!!」
「来いよ、利水!!」
利水は大袈裟に声を張り上げ、闘気を身体に纏わせた。
そして、ぎゅっと握りしめた拳を俺にぶつけてきた。
「⋯!!」
利水の攻撃を正面で受け、攻撃された痕は円状にしっかりできている。
骨がバキッと割れそうで汗がドバッと出るも、気にせず俺も攻撃を繰り出す。
「はっ!」
龍拳のような拳を前に突き出し、その拳は利水の頬に当たり凹みを生む。
利水も痛そうな顔をしているが、顔は悔しさなどなく晴れ晴れとしている。
そして利水は、スキル魔法を繰り出そうと構えた。
「スキル魔法、水拳!!」
水を纏った拳、水拳―。
拳が光の速さの如く前に出て、俺も見切れなかった。
無様にも腹に攻撃が直撃してしまったせいで、俺は吐き気を催しつつ、遠くへ突き飛ばされた。
「隆真さん!」
「隆真―!」
メイド二人の名前を呼ぶ声が聞こえる。
心配している様子だが、「俺は大丈夫だ!」と言わんばかりの目線を向けた。
二人はその顔を見て、顔を落とすように呆れていた。
「んじゃ、俺も行くぞ―!」
「あぁ、かかってこい隆真!!」
全身に闘気を感じ、さっきより力を放出できる自信が湧いてきた。
両手の拳をギュッと握りしめ、深く深呼吸をする。
そして脚の筋肉をはち切れるまで使って、利水の方へ掌をグッと向ける。
凄まじい勢いの風を、掌を前に突き出す時の風圧に変えてゆき⋯。
そして、放つ!
「気迫押しぃ!!」
「ぐあ゙っ!!」
内蔵物が全部吐き出されるように、攻撃の勢いで喉が破壊されるような声を出し、顔の全部が歪んだような顔をして利水は吹き飛ばされた。
直進して一個二個三個と山々を貫通していくが、それでも利水は余裕のある様子で前まで近づいた。
「スキル魔法、火の球!!」
そして奥から見えたのは、隕石のように火を纏って高速で接近してくる利水だった。
名前の水とは裏腹に、そこらに溜まっている水溜りもすぐ蒸発するような容赦ない攻撃―。
利水らしいなおい⋯!そう心の中でツッコんで、鼓動の音はチーターの移動中の足程速く鳴っている。
「あっちぃぃぃ!!!!」
「大丈夫かよ隆真!」
「⋯人の心配なんて、お前らしくねぇなッ!」
隕石の焦げるような熱さに悶え苦しみながらも、俺は技を出せるようにしっかりと構える。
飛ばされた反動を利用し、全身を回転させ、前に直進できるように向きを調整する。
回転し終えて、熱さもなくなり、風圧も消えたタイミングでずっと溜め込んでた闘気を放出するチャンス!
一気に直進し、拳を前にグゥッと突き出し、爽やかで清々しい心地がする風を全身で感じ取る。
そして、鋭い風圧に瞬時に変え、放つ!!
「新技―、風棘拳!!」
「ぐあ゙ぁぁぁっ!?」
驚愕と苦痛で虫が悲鳴を上げたような歪んだ声を上げ、腹を抑え悶え苦しむ。
だがまだ挫けない、流石は利水だ⋯。
「こっからはもっと本気を出すからなァ⋯、気ぃ抜くなよ隆真!!」
「わかってるっての!!」
利水は初めて会ったときのような魔力を込め、技を放とうとしている。
俺も身構え、技を極力避けられるように頭の中で策を練る。
最初は確か⋯、地面を割る攻撃だったな。
下に居たら当然真っ逆さまに落ちるだけ、だったら風を利用して飛ぶか⋯!
俺は知らぬ間に、自分の持つ闘気から風のスキル魔法みたいなものを発動できるようになったみたいだ。
その奇跡に感謝を込めて、胸に手を当てゆっくり目を閉じ「ちゃんと使わせていただきます」と心に誓い、鋭い目線で利水を見た。
「覚悟はできたみてぇだな、じゃあ行くぞ!スキル魔法、地面割!!」
地面が割れたのをしっかり見て、上昇に使っていいかわからない新技を下に放つ。
「⋯!!新技―、嵐龍上昇!!」
よし、なんとか浮くことができた―!
そんな安堵もつかの間、俺は次の攻撃の策を考えた。
アクアネブラ、前が見えなくなる程の霧状の水を発生させる攻撃―。
これは俺にはどうすることも出来ない。
そういう技に関しては考えてない、凄く面倒くさいから。
少し考えた結果、さっきの技をまた使うことにした。
「スキル魔法、霧水!!」
「嵐龍上昇!!」
「またその技を⋯、体力の方は大丈夫か隆真。」
「どうってことねぇよ、逆に心配されたら気が狂うじゃねぇか⋯。利水!!」
前の時は霧で見えなくてダメだったけど、次は沢山攻撃が来るもの⋯。
沢山攻撃が来る、複数回斬撃が来るってわけじゃないし、他の奴と一緒に攻撃するって感じもない。
もしかしたらこれは、分身⋯?一人で雨のような斬撃を打てるわけないから、なにかしら増やしてると考えたらこの回答は妥当なはずだ。
としたらどうやってそれを防ぐ⋯?俺は数秒間の間、時の流れがゆっくりになる程高速で考えた。
らしくない、といえばそうなんだが⋯。
そして俺が考えついたのは、闘気で剣を作り出す露の攻撃の応用だ。
あれは一個しか反映できず、自分自身が突っ込むことで威力を増加させていたのだが、それじゃあダメだ。一個を防ぎ切ったところで残りの斬撃に身体を裂かれるだけ。
そこで俺は剣を二十個ほど生成し操り、分身に向けて突き刺すという手に出ることにした。
体力は消耗するが、本気の勝負というものはそういうものだ。
全身に力を与え、俺の腹辺りに360°に二十個程、剣が浮いていることをイメージする。
「スキル魔法、分身千撃!!」
相手が俺の周囲を囲むように分身し始めたら、一気に剣を出す!
「はぁぁぁっ!新技―、二十の直斬撃!!」
「千に二十で対抗⋯、なかなか踏み込んだな!」
「まぁな!」
俺を囲んでいた分身は瞬く間に消え、本体に傷は入らなかったが、俺の想像力で生み出した技を感慨深げに見ていたため、記憶に刻み込むことはできたのかも。
これも成長だな、俺は一気に心が踊った。
「次行くぞ、隆真!」
「おう!」
次は、ラーヴァと水が合わさって爆発する攻撃―。
ラベリアの時もやられて、若干トラウマになっている。
だがなにか策を練らなければ、爆発に飲み込まれて同じように死ぬだけ。
ラベリアの時の水蒸気爆発攻撃は、水の中で溶岩が流れて大きく破裂。
圧迫されて死ぬって感じだったけど、利水の攻撃の場合は小さな霧状の水に少量の溶岩がくっついて沢山爆発を起こす。
身体にはチクチクとした痛みを感じ、それが何百何千とあるから痛みが増すといったもの。となると、身体を保護する他ないな。
反撃しようとしたら水蒸気爆発に振られ、頭も手も足も何もかも穴だらけになるだろうから。
「スキル魔法、溶岩蒸苦」
「新技―、風抱擁!」
「なるほど、身体を守る技も身に着けたみたいだな。」
「あぁ、おかげさまでな。」
互いに成長を感じ合い、体力も消耗している中、両足でしっかりと地面に立ち、再び体勢を整える。
次の攻撃は、地面の割れ目から下から上へ上昇してくる濁流の水、謂わばスクリュー。
水が下から出るだけなら身体がスクリューで上がるだけだから良いものの、その後の変化攻撃がかなり厄介。
水が一気に針に変わり、凄まじい勢いで一気に身体を襲ってくる「変化スキル魔法」。
砂漠という別世界の暑さ地獄にサボテンというのが生えているそうなのだが、その表面に生えている刺々しい突起が全て身体に刺さって来る感覚に近い。
上昇気流に背中から押されている状態であれば、針に変わるときに背中に毒のような鋭い激痛が走るだろうということが分かる。
だからこそ、スクリューが来た後に身体の向きをどうするか、考える必要がある。
風が吹く勢い、向きを瞬時に変える⋯。よし、それで行こう!
「スキル魔法、厄災濁流!!」
下から目を潰す勢いで水が上昇してくるため、風で向きを少し変えて目を守る。
だけど針に変わるタイミングは恐らく不規則。ずっとこうしてるわけには行かない⋯!
すると、俺の耳にピンッという弓矢で矢を放つような高く短い音が聞こえた。
朧気だが、前の時にもこの音は鳴っていた。でもその時は来る攻撃来る攻撃に集中しすぎていたから、音なんて気にすることができなかった。
となると、これは好機だ⋯。タイミングが分かれば避けることなんて造作もない、そうだろう利水!!
「新技―、風舞!」
「風を使って身体の向きを変え、次に来る攻撃に備えたか⋯。面白い!」
次は棘⋯、今はスクリューと向き合っている状態。
その状態で針の攻撃を食らったら目や鼻、脳天に大量の針が刺さることになる。
だが、前に大きめの防御膜なるものを張ったら、針は一切刺さらない。
それは向き合っている状態でしか張れないもの、だから向きを変えた。
「さぁ来い!利水!!」
「変化スキル魔法、針地獄」
「新技―、守護!物理抵抗特化!!」
露に教えてもらった闘気だけで作る、物理抵抗特化の防御技、ここに来てやっと使えた。
針は俺に当たることなく、シールドに当たっては灰のように消えて散る。
その儚さも、俺にとっては成長の一つの証に見えた。
「守護に物理抵抗を付けて、大量の針を全部消した!?やるじゃねぇか!隆真!!」
「有難うよ!でも、攻撃技は他の仲間の応用技くらいしか持ってねぇ⋯。だから、もうちょっと鍛えねぇといけねぇみたいだ⋯。」
「もっと強くなるんだな⋯!そうなったらきっと、俺も打撲だけじゃ済まなさそうだなァ⋯、想像するだけでもワクワクするな〜!俺、まじで応援してるぜッ!!」
「まじであんがとッ!!」
楽しげな会話を交わし、綺麗に地面に着地した。
今思うとさっきの戦闘では、俺だけじゃなく利水までもが成長していた。
心身共に別人のようになっており、口調も次第に全力で戦いを楽しむような口調になっていて、攻撃を防がれても唸ったり叫んだり落ち込んだりしない。
寧ろ、俺の身の熟しを見て心が飛び跳ねるほど興奮している様子だ。
楽しんでもらってるようで、俺も嬉し楽しく利水を見ていた。
地面に立ち、俺も利水もすぐさま倒れたくなるほど疲弊した姿になっている。
利水は最後の攻撃を出そうとどっしりと構えている。
「次が最後だァ、最後まで気を抜くなよ!!」
「何を出すつもりなんだ?」
「よくぞ聞いてくれた!俺が今から出すのはな⋯?体内破壊の負荷、能力の魔法を剣に込めたスキル技ってやつだ!!」
「それはなんとも厄介な⋯!!だが、実にお前らしいやり方だ。その攻撃、受けてやろうじゃないか!!」
「大見得切りやがって〜!痛い目見ても知らねぇぞ〜?」
「望むところだ!利水!!」
正直あの体内破壊を使うとは思ってなくて、性格悪過ぎとは感じてしまったが⋯。
今の俺には美浦の親友である悠七のサポートも貰っている、だから死ぬことは多分ないはず!
勿論使うのは初めてだし、れっきとした技として成立するかもわからない。
だが悠七はオペスキルという、人類稀に見るスキルを所持してる。
だから、体内が壊れようがすぐさま治してくれるはず!!
「早速、使わせてもらうぜ⋯、悠七のオペスキル技!!」
といったものの、パクっちゃったらいけないから闘気はちゃんと使おう。
役人的にも闘気を使うのはモットーっぽいからな。
風を闘気に変え、体内を包む。
そしてもし身体に貫通した場合、気合で貫いた剣を抜いて、体内の痛みの侵食を闘気で抑える⋯。
その準備を終え、利水をしっかりと見る。
恐れもなく楽しむような、全てを楽観視するような目で。
「準備を終えたようだな!それじゃあ行くぞ!!スキル魔法、新技―。体内破壊、闘気刀突き!!」
「新技―。体内保護特化、観血的手術!!」
腹に剣がぐさっと刺さり、一時的な鋭い痛みを感じる。
何物にも代えがたい、腹を剣に貪られ、歪められるような痛みが全身にも伝わる。
いや、腹だけじゃない。足の全部にも胸部辺りにも痛みはある⋯。
特に胸部は心臓付近の部分なため、痛みが段違いだ―。
だが闘気のおかげか、その痛みは次期になくなり、心臓部分に痛みが来ることも無くなった。
そして後は、剣を気合で抜くだけ⋯!
―――――――――――――――
「⋯!!隆真さぁん!!」
「隆真!!」
「もう我慢できん、やつは⋯、やつは我が倒す!!」
「あっし、ここは見ておいた方が良いと思うな。隆真のやつ、相当鍛えてるみたいだからどうせ耐えれる。」
「それで⋯、それでもし殺されたらどうする!?どうするのだ!!全ての責任を貴様に押し付けるぞ―!!」
「そんなに隆真を信用してないわけ??あんた、相当なクズだね⋯!」
「なん、だとぉ!?」
「隆真はあっし達を思って一人で戦ってるわけ!そこにあっし達部外者が割って入ったら、あっし達が殺されちゃうかもしれないって少しは考えなかった!?もうッ、少しは頭を使えよ脳筋馬鹿!!」
「⋯!!す、すまん⋯、すまなかった。昔のことで衝動に駆られてしまった⋯。落ち着くことこそ力の根源なりと、師は教えて下さったのに⋯。」
「なるほど、師か。細かくは触れないでおくよ。」
「そうしてくれると、助かる⋯、助かるな⋯⋯。
「私も心配っちゃ心配だけど、隆真の一騎打ちに手助けなんてしたら、あの方に悪い。今は我慢⋯!」
―――――――――――――――
鋭い痛みでビクビク震えた手を剣に当て、しっかりと掴む。
腕にも崩壊していくような痛みが続いてゆくが、それを気合で耐えて剣を抜こうと粘る。
でも利水も、身体を貫こうと必死に剣を押し込んでいる。
互いの根気強さが試される、別世界の将棋というもので例えたら、一進一退絶体絶命の盤面だ。
だが俺は負けない⋯!
利水を超えて、皆を救うために必死に藻掻いて足掻いて戦う。
その未来を見るために俺は苦しむ。
何度も、何度も、何度も。
何度も何度も何度も何度も、何度も何度も何度も何度も。
何度でも苦しむ。
強くなって皆を守るために、そして罪を犯した醜悪な罪人を確実に捕まえるために⋯!
遂には魔法陣まで使って、威力を強めようとする利水。
せこいとは思うが俺もなかなかにせこい技を使っているから、人のことは言えない。
どんどん痛みは強まるが、剣はもうすぐで、あとちょっとで抜ける。
ならここで、風の力を使うのみ!
「気迫⋯、押しぃぃぃぃぃぃ!!」
「ぐ―、っ⋯!!ぐあっ!!」
俺の掠れた言葉と共に、剣と利水は遠くへ飛ばされた。
後は闘気で刺し傷を回復させるのみ⋯!!
「隆真ァ⋯!!」
そう言って、よろけながら走ってくる利水。
懲りないなと一瞬呆れたが、剣は持っていない。
何をする気だ⋯?
「回復してやるから、ちょっと待ってろよ⋯!」
「い、良いのか⋯?」
「あぁ。俺も体力を消耗しすぎたし、少しやり過ぎた。すまん!」
「謝ることないって⋯!」
「ふっははっ、お前は優しいな。回復スキル魔法、アキレア。」
俺の近くについて早々そっと俺の腹に手を当て、緑の暖かな光を放った水を腹の傷を塞ぐように流れていく感覚を覚えた。
グシャッと、身の毛がよだつ音が利水の方から聞こえた。
思わず顔を利水から反らした。
そして、もう一度顔を上げると、後で戦うはずだった利水が⋯、
友達になれそうだったはずの利水が⋯、首を切られた状態で死んだ。
「あぁ、あぁぁぁ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
今日は最高な日から、最低最悪な日へと一瞬にして変わってしまった。
血とともに流れ落ちる涙と叫び声、それを蔑むが如く聞こえる笑い声⋯。
俺も利水も、永遠に報われないのかもしれない。
つづく




