二十九話 奴隷魔物の前に現れた救世主
―王都「パルテール」―(視点:三人称)
燃え盛る炎。その元は七大悪魔の内の一人である、「マモン」の仕業だ。
彼は人を殺すことでしか自分の私欲というものを満たせない。
なんとも哀れな化け物だ。
彼が街中に現れ暴れることを、人は皆「浮遊破壊襲撃」と呼ぶ。
フロートは浮くことを意味する言葉であり、そこにダンサーという踊るという意味の言葉を掛け合わせた変な名前なのだが⋯。
漢字で表すと浮遊破壊襲撃、浮遊破壊というのは辺りを浮遊するように跳ね飛ばして破壊するという意味が成されており、化け物にお似合いな言葉となっている。
襲撃はそのまま、街を襲って攻撃することを表す。
つまりこの漢字の意味と、カタカナの意味を合わせると、「汎ゆる物を浮かせ飛ばしながら踊るように襲う。」という解釈になる。
それほどに驚異的で恐ろしい、人々に恐れられている存在。
と、言われているが、本人は全くその気はない。
寧ろ人を殺すことを酷く嫌う悪魔だ。
なら何故街を焼いたり人を殺したりするのか?
それは現国王の覆面の男による操りのスキルでそうせざるを得なくなったからだ。
彼は元々弱者に興味はなく、強者のみに自身の圧倒的な実力を見せつける魔物だった。
だが、覆面の男はその悪魔を自分の目的、目標の為だけに使った。
例えば国王になるために悪魔を見せつける道具として使ったり、しつこい弱者を一発で始末することに使ったり、脅しの道具としても使ったりと本当にやりたい放題だった。
街を燃やすことも本意ではない。その行動は自分に利がなく、覆面の男にとって利がある。
なのでする必要はないと逃れようとするも、スキルの影響で奥から火を絞り出され、気付いたら街は火の海に―。
その悪魔を自由にさせてくれる者は、きっと彼奴等しか居ない。
マモンは一心にそう考えていた。
「また会ったわね、悪魔「マモン」。」
「出会いの縁ってのはホント恐ろしいよね⋯、また気色悪い奴と出くわすことになるんだもん。」
「仕方ねぇよ⋯。俺達が最近やってるのは、そういう仕事ばっかだからよ。」
「逆に身体が動かせて、自分の実力もわかって、実に良いものとは思いますけどね。」
「相変わらずだな夏恋⋯。」
「私とは初めましてですね、マモンさん。」
「えっ!?こ、こんな気味悪いのと戦うの〜!?嫌だっ!折角整えてきた可愛い服が汚れるっ!!」
「悠七殿、その辺は事前から把握しておかないとダメでございますよ。」
「わっ、嵐魔君厳しっ!初めて叱られちゃった〜!」
「真面目にやってっ!」
「⋯こいつが、俺の旧友を殺した⋯!!悪魔か⋯⋯!!」
そして遂に、待ちに待った救世主と呼ぶべき者達が目の前に現れた。(嵐魔の特殊スキルによって美浦達は浮いている)
心置きなくこの者達と戦えば、唯一の願いが叶う。心を踊らせつつ、マモン自身も堂々としている。(マモンも羽はないけどスキルで飛べる)
「ふっふっふ、良くぞ我が前に現れたな勇者共よ!あの時は名乗れていなかったから、貴様らのために名乗って進ぜよう。我の名は七大悪魔の一人、「マモン」!貴様らを倒すゲテモノなり!!」
「な、なんか威勢がいいなぁ⋯、流石に怖いから刺そ」
「一人称「私」から「我」に変わってるし、ちょっとした変化かしらね?」
「俺達はこの街を救うために来た、戦いたくてここに来たわけじゃねぇ。そこん所勘違いすんなよ!」
「拳術の技がどれほど上がったのか、この目で見ておくのは私の使命―!」
「夏恋、お前何言ってんだ⋯。」
「気持ち悪いのは嫌だけど、それと平和を脅かされること。どっちが一番嫌かって言われると、やっぱり平和を脅かされることっしょ!」
「悠七さん!その意気ですよ!では私も⋯、平和を守るための盾になるとしましょう⋯!」
「旧友を死なせた罪は重いぞ悪魔⋯、八つ裂きにしてくれる!!」
「網津さんちょっと前出過ぎです⋯。どんな相手かは今の段階ではわかりませんが、貴方の力⋯、見させてもらいます!」
前よりもバラエティー豊かな会話、ワクワクさせてくる一言一言が、マモンには癖になる他ない。
どんなに痛めつけられようと、自身が本気を出せたらそれが本望である。
そして、その本気のまま最強の相手とぶつかっていく⋯、それがマモンの唯一の願いだ。
「我を尽くワクワクさせてくれるな勇者共よ!では行くぞ!!」
そういうとマモンは、悪魔というより悪竜のような翼をニョキッと出してバッと広げ、その状態のまま風を纏って美浦達に突進する。
美浦達はすぐに避けの構えをとり、サラッと避け、それと同時にそれぞれ攻撃の準備を始めた。
「行くわよ〜ッ!副長特権魔法、傘の毒時雨!!」
マモンの羽に鋭い痛みが降って落ちてくる。
だがそれすらもマモンには恍惚の要素となるのみで効果はまったくない。
「気迫押しッ!」
重い風圧が顔の皮を剥がそうと牙を向いて襲ってくる。
マモンはにやりと余裕の表情を見せ、傷なく受け切った。
「剣突きッ!喰らえぇ!!」
念力による棘よりも鋭い剣先が、正面にある顔を綺麗に真っ二つにしてこようとする。
だがそれも、鋼より堅いと言われるマモンの顔面には効きやしない。
「霧拡散ッ!夏恋、頼む!!」
「まったく、少しぐらいは自分の技を覚えたらどう?」
「うっせ!これでも覚えようとしてるところなんだよッ!」
目の前に曇りがかかって見えなくなった。
さっきの攻撃までは霧などかからなかったのだが、やはり一筋縄ではいかないようだ⋯!
マモンは度を超えた興奮で一気に全身が熱くなった。
「スキル拳術、霧変化の矢!」
目の前の水状の曇りがやっと晴れたと思ったら、曇りはすぐに空を埋める程の無数の鋭利な矢へと変わり、マモンを刺そうと襲ってくる。
だが、風で振り払えるほどの軽さで、少しマモンは拍子抜けした。
「な〜んてな!蛇光の、槍ッ!!」
矢が無くなってから落ちてきたのは、蛇が巻いてあるような曲がった形に身体を完全に麻痺させるほどの電流を纏っている超巨大な槍だった。
超高速で落ちてくるのも相まって避けきれず、電流と重い毒が全身に走り流れた。
少しペースを乱されるも、好奇心には勝てず再び上空に舞い戻った。
「やるじゃん、なんで隠してたのかは気になるけど。」
「まぐれだよ⋯、調子に乗って出してみたら、意外と迫力ある槍が出たってだけだ。」
「素直じゃないね、遊雅くん。」
「うっせ!!」
次はどんな攻撃が来るか楽しみにしているマモン。
目につけたのは狐の耳の嵐魔、魔力量が多く武力による闘気と思われるオーラもぐんと伝わってくる。
こいつもなかなかの強者だと瞬時に認識した。
「狐の魔法、七宝乱華!!」
マモンの周囲を聖霊の玉のように小さい火種が囲む。
その火種はグルグルと周りだし、次期に目が眩むほど速く回転。
頭上を細い火の線が囲み、境目から熱線が現れ、光の速さの如く羽や身体、顔、足、手などに当たっていく。
当たって熱い、貫通して痛い、そんな感覚を覚えたのは初めてだ。
興奮しながらも回復していく傷跡。またもや期待を裏切らないでいてくれた役人たちにマモンは尊敬の念さえ抱いた。
「オペスキル、攻撃特化!短刃用意!!」
空中を勢いよく龍のように進んでいく女を横目に、マモンは攻撃の強さがどんなものか確かめようと、一切動かないことにした。
「たあああああ!!!!!」
合わせた掌がナイフの刃先に見え、その瞬間に顔が抉れた。
先程のちっこい者の攻撃と違い、死に至らしめるほど刃先が鋭かった。
まるで体内の奥から奥まで入ってくる、魚の小骨のようだ。
「よし、だいぶ削れた!前打ったときは失敗しちゃったけど、やっぱりうちってやればできんじゃん!」
だが、悠七の歓喜も回復ですぐに歪んでしまった。
絶望して何もかもが嫌になるような顔になった。
「なんだ、回復するんだ。ふ〜ん。」
「こ、怖いよ悠七⋯!!」
次は恐らく役人の長か、と長を探していたら、何故か見当たらない。
すると、急に目の前に現れた。
「やっと俺の番か。リーダー特権魔法、打ち崩しの金槌。」
何もかもを憎悪で染めた第二の悪魔と呼ぶに相応しい声で、天に浮いている雲をも貫く程の巨大な金槌を魔法で生成し、火を纏いながら落下してくる様はまるで隕石。
マモンは超巨大な金槌により地面へ叩き落された。
「や、やった⋯!?」
「いや、まだだ。こんなことで悪魔はくたばらん。」
数日前の黒ずんだ口調を掘り返したような網津の様子に、全員困惑してソワソワしている。
そしてマモンはゾンビの如く起き上がり、下から高速で直進してきた。
いきなり直進してきたせいか、防ぐのが遅れた美浦達。
拳より痛い風圧で一瞬にして深い痛手を負った。
「そんなものか?貴様ら。一発一発に全力を込めすぎて疲れてないか?貴様ら。
もっと我を楽しませて欲しいものだ。一発の攻撃力は虎や他の魔物を上回るほど凄まじいものなのだから!
もっといける、もっと我を痛振れる。待ち望んでいた勇者共なんだから、きっと貴様らなら先程の攻めを超える攻めを見せてくれるはず!
ドン底からまた立ち上がってみせろ!新技を出してみせろ!覚醒してみせろ!
さぁ、さぁ⋯!我の欲を力で埋めろ!さぁ!さぁ!!さぁ!!!」
既に満身創痍の美浦達、ろくに動くこともできず次の一手も出せない。
だが一人の男は違った。痛みは感じながらもよろけながら立ち上がり、マモンの下へ近づいた。
「俺はお前を、お前らを許さん―。死んでも後悔させる―。それまでこの身体は、草臥れることなし!」
威勢のある逞しい声に、マモンは圧倒された。
これだ、これだ⋯、これだ⋯!
我の望んでいた恐ろしさ、オーラ、魔力、闘気⋯!!極限までそれが高まっている!!
マモンの心臓は興奮の鼓動をやめない、マモンの顔は歓喜マックスの気色の悪い顔になっている。
「こいつなら我を、我をきっと殺してくれる―!」
つづく




