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二十八話 死へのカウントダウン

 ―城内―


 「殺す前に一応聞いといてやるよ、彼女に遺す遺言。」

 「わ、わかりました⋯。」

 「お願い、殺さないで⋯!!貴方も遺言なんて残さなくて良い⋯!!」

 「良いんだ、俺は君に想像を絶する悲しみを与えてしまったから⋯。」


 王都の街が炎に包まれ、城の扉の前でも、一人の前科者が国王に殺されそうになっていた。

 ヒシヒシと伝わる絶望感に、近くに居た何も知らぬ男は声も出せずにビクビクと怯えている。

 前科者は自分が殺されることを悟って、涙ぐみながらも国王に視線を向けた。

 その彼女は身体の震えも気にせずに、ただ一心に殺さないでと国王に縋っていた。


 「お前、こいつに一度殺されたっていうのに、なんでそんなにこいつのことで必死なんだよ。」

 「私は⋯、この人に惚れたのよ⋯。過去にこの国の兵士になって、数々の戦争を乗り越えてきた人⋯。人殺しだとしても私が一度殺されたとしても、この人を愛す気持ちに変わりはないわ⋯!」


 逞しくも涙が邪魔して、霞んだ声になって上手く喋れない。

 でも彼女の声や言葉一つ一つに、一切の偽造なし。


 王都「パルテール」では、別世界で使われた戦争に繰り出される少年兵を採用して、他国の成人兵だらけの戦場を戦い抜くことを強いられている。

 この前科者も昔の国王が今の国王に殺される前までは、国のために戦う兵士として他国の兵士たちと生死をかけた戦闘を繰り返していた。

 だが、人を殺すということに疑問を感じ、自ら失態を犯し、クビという形で兵士を辞めた。

 その姿を彼女は、最前線で見ていたのだ。

 何も声はかけないが、真剣な目で、誇らしく思いながら彼を見ていた。


 前科者は兵を辞めてからは、周りの罵倒に苛まれ続けた。

 「何故辞めた」、「お前は兵士になってこそ輝ける人間だ」、「国を捨てたクソ野郎」、「非国民」と散々というほど責められ貶され、前科者はもう我慢ができなくなり、狂ったように人を殺し始めた。

 その姿は正義でも悪でもなんでもない、何も持たない混沌の狂鬼のようだった。

 そして彼女はそのことを知ったとき、必死に心を変えようと彼の前に立ちはだかった。

 勿論彼は、彼女に殺意を向けた。鋭くも憎さも憤りもない、真っ黒い殺意を―。

 だが、彼女を刺し殺して気付いた。なんて醜きことをしたのだと―。

 自分を愛していた唯一の女性を、回復不可能の毒が塗ってあるナイフで殺すという暴挙に出るほど、自分は狂ってしまったのかと、今更悔やんだ。

 そして殺人識別を騙る役人たちによって捕まったが、自分を愛してくれた彼女のことを忘れられず、城の下にある無空空間に閉じ込められた。


 その後、彼女が外へ行かないかと言われ、最初は断ったが、彼女の思いを受け取って外に出ることになった。

 そんな最中、事件は起きた。二人の奔走と遮るように―。


 悪魔によって焦がされる自分たちの街、揺さぶられる二人の感情。

 折角外へ出れて、二人で街を歩こうとしたのに、外の景色は地獄のよう。

 強さと悲しさでその場から動けず、逃げ出してきたもう一人の男性と三人きりに―。


 「んで解放したと。なんとまあ泣ける話で―、人間ドラマ味を感じるねぇ〜!んで?お前、遺言は?」


 サラッと適当に、二人の思いを踏み躙るように受け流した国王。

 二人は苛立ちを覚え、頬が怒りで歪むも、それをそっと抑えた。

 前科者は胸を張り、後ろに彼女が居ることを確かめ、しっかり国王の目を見て口を開いた。

 国王はあまりの覚悟の決まった表情に、少し狼狽える。


 「セフィア、今まで君の愛に気付けなくてごめんなさい。俺は自分のことだけを優先した馬鹿な人でした。

 それでも俺を最期まで愛してくれて、有難う。今までのことを思うと、悔やんでも悔やみきれません。

 本音を言うなら、貴女を殺す前から、貴女を見ておきたかったです。愛していたかったです⋯。

 もし来世で会うことが許されたなら、どのような形でも良い、未来永劫、支え合って幸せに暮らしたいです―。」


 終わりのピリオドを打つと同時に、せっかちな国王は軽く握った剣を頭上に振るおうとする。

 無慈悲な国王を前に彼女は泣き叫んだ。どうして彼は報われないの―?どうして私だけに運が回ってくるの―?

 虚空に向かって問いを投げ続けた。だが、それは誰にも届かず、静寂が広がるのみ。

 身体が国王を止めようと前に出るも、前科者は彼女の方を向いて、「来るな」と訴え掛ける。


 「あぁもう動くなてめぇら!!非リアの俺にそんなベタベタしたもん見せやがってよ!!さっさと死ね!!」


 そう言いつつも国王は、なかなか剣を振り下ろせない。

 ―戸惑っている?躊躇している⋯?この俺が⋯??

 国王は一気に怒りを顕にした。

 「殺せ」「殺せ」「殺すんだ」とありとあらゆる人の声。

 今まで殺してきた人の声が、殺すことを催促してくることにも、徐々に怒りを覚えてくる。

 いっそのこと自分の頭からぶった斬って割ってやろうかと思う程、頭に残る煩さに苛まれている。


 「ぁ――、あ⋯、ぁ――、あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!!!」


 震えた腕を抑え、思いっきり後ろに剣を持ったまま、勢いで剣を前科者の頭上へ降ろす。

 前科者も彼女に朗らかな笑顔を向け、そっと目を瞑る。


 「ちょっと待ったあああああああ!!!!!」


 後ろから逞しい男の咆哮が聞こえた。

 それと共に、前科者と彼女の身体全体に爽やかな風を深く感じた。

 そう―、二人と男、国王の前に現れたのは⋯。


 「俺達が今、お前達を助けてやる!!」

 「や、役人の人⋯!!」

 「なんで⋯、俺を⋯?」

 「また、邪魔しにきやがってぇぇぇぇぇ!!!!!!」


 救世主という名の、様々な苦難を乗り越えた男。

 甲高隆真だった―。


 「おい、覆面の男!やっとお前の顔をしっかり拝めたぜ⋯!俺の読んだ通り、お前は偽の国王だったみたいだな!

 お前が何を企んでたか知らないが、それももう終わりだ!

 国の方は美浦に任せている。次期に街も元通りになるはず。そして、お前の味方をしていた二人も俺の味方についた!残ったのは、お前一人だけだ!

 よくもまぁこれだけ俺や周りの人間を振り回してくれたもんだ⋯。

 そのせいで俺、余計に熱くなってきちまったぜ!

 ダセェと思うならダセェと思え、勝手にしろ⋯、悪に染まりきったお前とは何もかもが違うわけだからな。

 俺はここでお前を倒して、全て終わりにさせる。新しい王も、独断だがもう既に決めている。

 お前の悪事を全て断ち切って終わらせるまで、俺はこの場を離れない―!覚悟しろよ覆面男!!」


 つづく

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