二十四話 ダンジョン潜入と悪夢の瞬き
―王都の門下―
別世界の転生者、ルジカの言うダンジョンは、王都の門下⋯、謂わば門の少し後ろに隠されている特殊なダンジョンらしい。
地面に片方の手をつけ、魔法陣を頭の中でなぞり描くと、自然とその形が腕や掌に伝わり、地面に紋章が付く。
そして暫くすると、下に続く階段と通路が見え始めた。
まるで一種のからくりだな。
それから前に進み、歴史を感じる石の綻び、左右の壁に綺麗に並べてある松明を見て、ロマンチックな心地に浸る。
やっぱり冒険っていうのは、男の好奇心を掻き立てるロマンだよなぁ。
こうでなくちゃ面白くないっていうか、こうじゃなきゃ冒険とは呼べないっていうか。
まぁ、メイドの二人は興味なさそうに平然と、通路を歩いてるけどな。
「耽っているところ申し訳ないが、まだまだ道は続くので、少しこのダンジョンの歴史を語ろうと思う。」
「有難う、助かるよ。」
歴史か⋯、王都が造られたのと同時期だったりするのか?
そんな安いもんじゃないってのは、雰囲気からして分かるんだが⋯。
「このダンジョンは五百年前、この国の初代国王によって造られた由緒正しき要塞で、他の要塞にはない魔物の強さ、自己防衛力の高さを誇っていたという。
造られた当初は沢山の挑戦者が足を運び、連日大賑わいで大繁盛。挑戦していない冒険者はいないと言われたほどの人気要塞だった、だったんだよ。
ダンジョン内の仕組みや構造は、魔法によって中心軸を回転させ、挑戦するダンジョン三十二箇所をランダムに挑戦できるといったものだった。
罠や魔物は多種多様。最初の階層でも厄介な罠が降り掛かってきたり、雑魚でも特殊攻撃を使ってきたりと、上級者向け。
やられたら全回復で地上に戻されるので、途中からなんてことは出来ない鬼畜仕様だったそうだ、そうなんだ。その構造ができ始めてから、百年以上はそのままで続けれていた。
だが、二代目の王が難しすぎると言い張り、このダンジョンの特徴である特殊構造、厄介な罠を撤廃。
大人数で挑戦できるようになり、休憩箇所が追加され、回復アイテムや強化アイテムなども使用出来るようになり、その状態で強敵に挑む。その形が継続されていくようになったんだ。
その影響か人が年々減少し、稼ぎも減っていった。
それを見込んだ今の国王は、およそ三百年越しにその構造を採用。
勿論大人数で挑戦できたり、休憩箇所やアイテムが使用できるという仕様も継続された。
そしてそこに追加で、人の死体は吸収されないという特殊設定が付けられた。
僕達はそのダンジョンがどういう難しさなのか、確かめるためにここへ来たということだ。」
「因みに王都が造られたのはいつだかわかるか?」
「六百年前だそうだ、だそうだよ。」
何百年も生きていないから実感が湧かないし、その時のダンジョンがどれだけ栄えていたかも、説明してくれないとわからない。
だけど当時の人達は、難しかったあの頃のダンジョンを、老いても尚死んでも尚、待ち望んでいたんだな。
そして今の王が、三百年ぶりに昔の構造を取り入れ、尚且つ誰でも挑戦しやすいように、前に進みやすいようにアイテム持ち込み可にしたと。
人の死体が吸収されないというのが少し気になるが、まぁそれは関係のないことだ、気にしなくてもいいだろう。
あの体たらくそうな王が、まさかそこまでの行動に出ていたとは⋯。とても想像がつかない。
どうやら照れてない方のメイドも、そう感じたみたいだ。
やはり予測通り、あの王は偽物だ⋯、あの紙を美浦に渡しておいて本当に良かった。
「ここだ、ここがダンジョンへの扉だよ。なるべく罠に気をつけてくれ、気をつけてくれよ」
「わかってるさ。」
威圧感のある薄めの白色の扉⋯、この先に事件が起こった現場が⋯。
気を引き締めていこう、どんな状態かわからないし、罠も敵も油断できないからな。
「⋯見た感じ、特に以上はなさそうですね。」
「いや、まだわからん。入ったばっかりだし⋯。」
「あ、すみません⋯。」
俺の前プラス人が多いとドジるのは、相変わらずだ。
赤く火照るリエナを見て、朗らかに笑った。
だが、その油断が隙を生んだ。
「わっ!?」
「りゅ、隆真さん!!」
「貴殿よぉっ!!」
あまり下を見ておらず、いきなり床が消えて落ちそうになった。
だが、ルジカが手を差し出してくれたお陰でなんとか助かった。
ちゃんと足元を確認しないとほんとに命を奪われかねないな⋯。心の中でぐんと身構えた。
「はぁ、良かった。」
「隆真さんが死んだら、あたし⋯。」
「そんなに自分を責めるな。ダンジョンへの道は始まったばっかだし、多少の罠なら避けられる。さっきみたいな罠だったら、協力すりゃ良い。何があったって皆で助け合う、それが大事だろ。」
「そう、ですね。有難う御座います⋯!」
と、リエナを元気づけたところで、俺達は本物の冒険者パーティーみたいにどんどん前へ進んだ。
階を重ねる毎に罠が凶悪なものになっていった。途中から、ということもあるが。
例えば⋯。
「ひやっ!?矢がああ!!」
「って、痛くない!?」
「あ、ほんとだ⋯。」
上から雨の如く降ってくる、痛くない弓の矢。
ルジカによると魔法で作れるゴム製の矢らしい。
痛くない矢なんて、今まで考えたことなかった⋯。
冒険者には直接的にダメージは来ないけど、騙すのには使えるし、めっちゃ画期的だな。
「おっと、火か⋯。大聖剣よ、我を導き給え―。創伸の盾!」
左右の壁から突然襲ってくる、横方向に吹く炎。
頭に少しでも当たったりしたら、たまったもんじゃないな。
「へぇ、剣って盾にもなるんだな。」
「そんなこと言ってる場合か!そっちにも来るぞ⋯!」
「え?⋯わっ!?ほんと」
「聖霊の守護!」
「あ、ありがとうリエナ⋯!」
「借りを返したってだけですよ!」
―――――――――――――――
「な、波!?」
「気をつけろ!それは自分の体力を削る罠だ!」
「さ、さきいってえ〜、」
普通のダンジョンでは見ないような特殊な波の接近。
これにも油断を取られ⋯。
「ごふぁっ!!」
「いやあっ!!」
「二人共、攻撃当たりすぎですよ。わぁっ!?」
「貴殿もだぞ。」
魔法を使った高威力のパンチングマシン、俺とメイド二人は全員飛ばされ、ルジカだけ無事。
やっぱり知り尽くしてるのかな?一回は通ってるから。
そして、ダンジョンでは欠かせないモンスターも、勿論登場。
ベロが生々しく出てくる蛇のようなコウモリ、「キメラコウモリ」。
「ぎゃあっ!!なにこれぇ!!」
「この世界のコウモリはっ、舌を出すような気持ちが悪い者が多いんだ。悪魔の象徴だって、はぁッ!言われてるくらいだから、くらいだからな⋯!」
「なるほど詳しい!」
大衆で毒を吐き、死骸を食い尽くす、「ヤブラノオオムカデ」。
「また気味悪いの来たぁ!しかも、沢山来たぁっ!?」
「俺に任せ、」
「我に任せよ!大聖剣よ、我を導き給え―。絶風集斬!!」
「す、すげぇ⋯、一気に倒した!」
可愛い顔して憑依してくるお化けのような猫、「ゴロニャーラ」。
「か、可愛い猫が⋯、愛くるしく浮いてる!?」
「リエナ、惑わされちゃダメだ⋯、」
「にゃ〜?」
「か、可愛いっ!!」
「貴殿まで惑わされてどうする!大聖剣よ、我を導き給え―。無空霊断の斬!!」
「シャー!!」
「た、倒した⋯?」
「いや、リエナが憑依されてるな、されてるんだな。」
「ま、マジか!?」
「大聖剣よ、我を導き給え―。憑依解放!」
「⋯、あ、うっかり操られてました。迂闊でした⋯。」
閲覧禁止級のゲテモノ虫、精神の奥までごそっと抉ってくる、触覚を見ただけでも汗が止まらない魔物⋯、「G」!!
「「「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!」」」
「も、もっと気持ち悪いの出た〜!!しかも動き早!!」
「あ、あぁ、気持ち悪すぎて⋯、吐きそうだあ゙⋯、」
「し、しっかりして下さい隆真さんっ!!」
「貴殿ら、少しは落ち着け⋯!我に任せれば大丈夫、大丈夫なのだよ⋯!!」
「身体ビクビクさせてる人がそんなこと言っても、説得力ないって!!うわぁっ!?」
「りゅ、隆真さん⋯!!ぎゃあっ⋯!!」
「やるしか、ないようですね⋯!!精霊魔術、汚穢祓除!!」
精霊魔術⋯?聞いたことのない技だ。
あの時の強大な魔力も気になったが、まさか特殊スキルの使い手だったとは⋯。
あの王と関係はあるんだろうか?疑問が頭の中に一層流れた。
「⋯!!全部消えた!やった〜!!」
「お、おい!大丈夫か!!」
「少し、体力を使いすぎたかもです⋯。少し、休ませて下さい⋯。」
「せめて我の方から、魔物から身を守る守護の魔法をかけておくぞ。」
「多少は使えるんだな」
「多少な、だがな。」
とまぁ、なんだかんだあって結構苦戦して。
攻撃も魔法もだいぶ使って、みんな息が上がりすぎている。
そしてやっと事件現場の目の前に立てた!と思ったら⋯!
目の前に現れたのは、古より魔王に仕えていたとされる龍の、羽が生えていて鱗も綺麗で、二足歩行のこれまたバケモンと呼ばれる形態の魔物、「龍」だ。
ドシーンとでっかい音と風圧をお見舞いしてくれて、お陰でこっちは戦意消失しかけちゃってるよ。
「でぇぇぇん!!あ〜っはっはっはっは!!どう?驚いた〜?驚いたっしょ〜!!急にでっかい魔物が目的地塞いでくるもんね〜っ!!
最高傑作!君達にとっては凶なる屈辱だろうけどあっしにとってはもうバクウケ!!
そこにいる君、残念だったね。君の仲間はあっしの腹の中で揺られて潰されてグースカグースカ眠っちゃってるよ!まったく呑気ったらありゃしない!!
あと、そこにいるお仲間さんたちも、無駄足無駄骨無意味⋯、だったね♪あはっ!!」
「お前、なんだな⋯?仲間を殺したのは⋯!!」
「だから、さっきそういったじゃん。耳遠い?聞こえない?んじゃあ爆音で言ってあげる。」
「そうじゃない⋯!お前が仲間に扮して、勇者を食ったんだろ⋯⋯!じゃなければ、こんなに血はお前の口に付いていない!!」
「だったらなんだよ、あっしを止めるとでも?殺すとでも??あっはははっ!!笑わせてくれるね君。雑魚な彼奴等よりかは戦い甲斐がありそうだっ♪」
「ふざけやがって⋯、」
高々と笑う高飛車女のような声が、目の前の龍から聞こえた。
え⋯?こいつ喋れるし女なの⋯?一瞬目を疑ったが、考えて見れば人間が喋れてるというのが一番の謎だ。
それと比べればまぁ、驚きは薄い。
でも、現場の状況から察するに、ルジカの仲間を一人残らず殺したのは、このダンジョンの恐らくボス級魔物。
悪辣で極悪非道、殺すことにしか目のない悪の中の悪。
しかも自我があり蘇生能力もあると見えるその姿⋯、威圧、オーラ⋯。
長年封印されて溜まってた全てを放出して、ここで暴れ出したって話らしい。
ふざけるな⋯、ルジカの気持ちを全部殺して、立ち塞がったことを⋯、俺もルジカも絶対に許さない!!
「あっし、名前あるんで一応名乗っとこ。」
「覚える気はないが、聞いてやってもいい。」
「つれないな〜、コホン!あっしの名前はこの階級のボスであり、特殊自我を持つ特別魔物。種族は龍、殺すの大好きなラベリア、ここに参上!!覚えておいてね〜っ!!」
誰がお前の名前なんて覚えるかよ!
すると、周囲の靄みたいなものが、龍の手に集まり、真っ黒な球体を作った。
それと同時に、胸の奥を抉るような嫌な予感がしてきた⋯。
今からこの龍、なにを始めようっていうんだよ!
「WINK☆」
あれ⋯?な、なんだか眠くなって⋯、虫も寄ってきた⋯!
逃げたいけど、身体が眠る快感を感じたように動かない⋯。
む、虫に足を⋯ッ゙!?
「ゔぁああああああ!!!!ぇ゛ぁ゛ゔっ⋯!!ぐぉぁぁぁぁっ⋯!!」
痛い痛い痛い!!!!
なんだこの痛感⋯!棘があちこちに刺さったように感じるが、毒の痛みの方が強くなっている⋯!
いや、そんなことより⋯、うご、
「ああああああああああああああああああ!!!!!!」
全身がねじりえぐられるように傷む、あちこちが虫に噛まれ視界も次第に薄くなる⋯。
そして、虫が閉じかけた俺の瞳を見た。
「なァ⋯、何だよお前ぇ⋯⋯!」
声も痛みが強すぎて殆ど出し切れていない⋯。
カッスカスの掠れた声だ⋯、こんな声じゃ、助けも呼べない⋯。
するとその虫は、瞳を無理矢理小さな手足でこじ開け、俺から目ん玉をもぎ取った。
「ぐぅわあああああああああああああああああ!!!!!!!」
泣き叫ぶほど痛い、これは夢か⋯?
何度もそれを神に問う、それほど痛い⋯。
当たり前のようにある目を失って、絶望を感じても、叫びと痛みは止まらない。
「か⋯ぇ゙、、、せ⋯⋯ぇ゙ぇ゙⋯!!」
気づけば俺の頬には、涙が流れていた。
カラカラに乾きそうな脆い涙が。
食われた箇所は小腸、腸、喉、脳髄と死んでもおかしくない程バクバクムシャムシャ食われている中、俺は目を返してほしいことしか頭に思い浮かばなかった。
だが、それさえ届かず、遂に心臓まで食われ、瞳孔を月のように丸く開いた状態で、俺は密かに息絶えた。
「―美浦⋯、ご、め、、ん、、、」
つ ・ づ ・ く




