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二十二話 特訓みたいなのと曰く付きの訪問者

 ―海辺―(視点:ヴィレス)


 どうやら、皆はもう寝たみたい。

 家族のような温かさ、久しぶりに感じた。

 食事も美味しかったし、お風呂も気持ちよかった。

 羽根を伸ばすってこういう感覚なのね、初めて味わったわ。


 星空が透過して綺麗に見える広大な夜空、そこには無限の星が存在するだろう。

 自由に宙に漂って華麗に舞う。この役人たちと一緒で、なんだか羨ましいわ。

 どうしてこの人達を殺さないといけないんだろう、私の課された目的に疑問を感じた。

 私の母親は、何処に行ったかわからない。

 私の父親も何処に行ったかわからない。

 友達も親戚の人すらも居ない、居るのはリエナだけ。リエナだけが頼り。

 私の親友で、私の母的存在。

 私がそれを望んだから、リエナは母親っぽくなった。

 無理をさせているのは分かる⋯、でも誰も居ないときだけだから大丈夫。


 そんなリエナが好意を見せたのは、隆真という男。

 こっちをチラチラと見ていた、謎の多き男。

 信頼は置いてはいるものの、リエナがその男を気に入っているという点が気に入らない。

 正直あの笑いが高らかなボスの、隆真を憎んでいるその気持ちがわからなくもない。

 だけど、今の平穏かつ自由奔放で温かい雰囲気を成り立たせているのは、間違いなく彼のおかげ。

 そこに惹かれるのはまぁ、無理もないのかもしれない。


 けど言わせてもらう。

 リエナは私のものだから。

 誰にも奪わせないし、誰にも取られない。

 私が絶対に守るから。

 だから、そんな奴の背後に見惚れてないで私を見ていて。

 歪んだ愛かもしれないけど、私はリエナの恩人であり、リエナは私の母親みたいな存在だから。

 どんな厄災が降りかかろうとも、リエナは私が守ってみせる。それが私の使命だから。


 リエナのために死ねるなら、私は喜んで死ぬ。

 でもそんなの、リエナが許してくれるはずがない。

 いずれ成長していくにつれ、人間世界は辛くて、残酷なんだということが目に染みてわかるとも思う。

 そんな中で私を全力で守ってくれるリエナが、羨ましくあり、愛していたい存在なのは確か。なのだけど⋯。

 本当に彼女は優しすぎる⋯、誰に対しても、私に対しても。


 ♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦


 ―翌日 役所内―(視点:隆真)


 「ふぁ〜っ、」


 今日はいつもより早く起きてしまった。

 皆は勿論、ぐっすりと寝ている。何故か美浦の布団には誰も居なかったが⋯。

 昨日の夢のせいか、それともリエナのせいか。

 いや、普通は泣き疲れたらぐっすり寝るもんだろ⋯。 

 そう思いつつも、隈ができた痛いほど痒い目を数回こすり、深い欠伸あくびをしてから食事室に行こうとした。


 が、ふと後ろを振り向くと、俺の布団に一人のシルエットが浮かんで見えた。

 深い眠りに着いていたため、そんなことは当然一切気にしていなかったが⋯。

 俺の布団に潜ってる人となると、美浦か傘さんか、リエナかだろう。

 俺のことを溺愛しているって視線が、いつも近くにいると感じてくるんだよ。

 それと共に憎悪を向けてくる目線も気になるが⋯。


 でもまぁ、自分を守ってくれる仲間がそれだけいるってことに、誇りを持たなきゃな。

 周りは覆面の男みたいな、憎悪ばかり向けてくる人間しか居ないも同然。

 愛してくれている仲間が最も愛らしくて素晴らしくて、守ってあげたい存在だということも、目に染みてわかっている。

 そんな思いを抱きつつ、そっと布団を捲ると⋯。


 「ん、まだ―、まだ食べられますよ⋯、隆真さん――。」


 そこにはまだ俺がそこにいる気でいる、寝言をコソコソ奏でている茶髪の少女、美浦が寝転がっていた。

 まだ食べられますよなんて、なんともまぁ欲望的で幸せな夢を見ているな⋯、大人のような気分でそう感じた。


 「⋯あっ、すみませんっ、!わ、私⋯、自分用の布団があるっていうのに、貴方の布団で⋯。」


 目を開けて俺を見るやいなや、美浦は酷く驚いた表情を見せ、俺を怒らせたと思って弁明を図ろうとしていた。

 そんなに俺に怒られるのが嫌なのか?まぁ、俺は自分や他人を裏切るようなことをしない限りは怒らないんだけどな。


 「大丈夫だ。こちらこそ、起こして悪かった。まだ皆は寝てるからもうちょっと寝ててもいいぞ。」

 「わ、私は起きてます。隆真さんと二人きりの時間、最近少ないですから。」


 とか言ってるが、俺が闇に堕ちていた間は寂しくて、冷め切っていた俺をぎゅっと抱きしめていたらしい。

 本当の俺と会話を交わしたことは、外出した時以来だからな。

 殺人識別の任務中もずっと仕事に関することや現場の事情聴取に関すること、そんな堅いことばかりを話しているから、そう思うのも無理はない。


 「んじゃあ、先に食事室に行ってよっか。」

 「もし良ければ、私が朝御飯を作りましょうか?」

 「あぁ、頼む。」


 美浦の手作り料理か⋯。

 食べたことはないが、美浦のことだ。

 きっと真心を込めた上手い料理を作ってくれるはず!


 と、期待を込めたのも束の間。

 料理中の調理室から焦げた匂いが漂ってきた。


 「ゴホッゴホッ、ぐすん⋯、ゴホッゴホッ!」

 「だ、大丈夫か⋯?そんなに咳して⋯。」

 「大丈夫ですが⋯、グスンっ、料理焦がしちゃって、トーストと目玉焼き、ウィンナー、コンソメスープなんですけど⋯⋯。凄く台無しにしちゃって⋯、ケホッゴホッ⋯、でも煙は闘気で、ゴホッ⋯、なんとか、なります⋯!」


 絶対なんとかなってないやつじゃん⋯、すぐに駆け込んで回復魔法っぽい事をしてみた。

 だが、両手を広げても何も起こらない。やはり俺に魔法は使えないのか⋯。


 「有難う御座います⋯。でも良いんですよ、無理に私を回復しようとしなくても。貴方はそのままで良いんです。私は貴方を守っていたいんです。どうしても力が欲しいと言うなら、後で特訓しましょう。」

 「特訓か。それで強くなれるのならやろう。」

 「そう言ってくれると思ってましたっ!」

 「そ、それより⋯、その焦げたのはどうするの⋯?」

 「ど、どうしましょ⋯。」


 後先考えず行動するのが、美浦の悪いところだ。

 料理が下手というのも短所だろう。

 なんだか親近感や愛着が湧いてくる。


 「俺が食べるよ。」

 「え⋯?良いんですか⋯?焦げた料理ですよ⋯?」

 「美浦が作ってくれたことが一番嬉しいんだから、焦げなんて気にしないさ。」

 「はっ⋯///」


 それをしっかり受け止めてあげるのは、俺の一番の使命。

 そう思って、美浦の料理を食事室に持ってきて、机に優しく置いた。

 美浦には高速で作った同じ料理を食べるよう言った。

 凄く申し訳なく思っているみたいだが、俺は美浦の優しさを無駄にはしない。

 だから決して、嫌な顔一つせずに食べてやるさ。


 「まずはトーストから。」


 触った瞬間マグマのような熱さと、トーストを触ったとは思えないザラついた感触が襲った。

 だがその時でさえも、れっきとした笑顔で乗り切る。


 「⋯、美味しい!美味しいよ美浦!」

 「有難う⋯!」


 美浦の複雑な感情を振り解くために、美味しいことを強調した。

 美浦は俺の顔と食いっぷりを見て、引きつった顔をしている。

 だから俺は美味しそうに、美味い料理を満遍なく平らげる。

 でも普通に美味いな、焦げた感じもしないし。


 「トーストに目玉焼きを乗せて、あむっ―!」


 目玉焼き、凄く美味しいな⋯。

 黄身が綺麗にトーストに広がって、甘い風味で、黄身の香りで幸せを感じる。

 サクサクふわふわのトーストによくマッチしている。

 白身も香ばしくパリパリだ⋯、美味い、やっぱり美味いぞ!!


 「次はウインナー!」


 少し黒い滲みが付いたウインナーを、皿の目の前にあるフォークで全部豪快に刺して、派手に口に放り込む。

 黒胡椒やバターのパンチと甘さが感じられ、それらがウインナーを引き立たせ、食感もパリッとジューシーで美味しい。


 「最後はコンソメスープ、君だけだ―!」


 艶のあるスープ、どうも焦げているとは思えないが、最後だし汁物なので優雅に喉に流し込んだ。

 身体の芯からぽかぽかと温まって、味も美味しいから癒やされる⋯。


 どうやら美浦は勘違いをしていたらしい。

 実際は焦げなんて感じない、本当に美味しい朝食だった。

 最初から偽る必要なんてなかったんだ、美浦には悪いことをしたな。

 俺は綺麗に朝食を平らげた後、バチッと手を合わせ、初心に戻ったような元気な声でご馳走様を言った。


 「ご馳走様でしたっ!!」

 「さ、最終的な味は⋯、どうだった?」

 「さいっこうに美味かったよ!」

 「ほんと!?嬉しいっ!有難う!!」


 美浦の皿を見ると、いつの間にか綺麗に平らげていた。

 それほど俺の料理が美味しかったんだな、俺も俺で嬉しいや。


 そして、気付けば皆は匂いにつられ、食事室に来ていたみたいだ。


 「美浦が料理なんて珍しっ!」

 「私達の分はないの⋯?」

 「一応、作っておきましたよ!」

 「有難う!優しいのねっ!!」

 「当然ですって〜!」


 ―砂辺―


 皆が美浦の料理に食いついている間、俺は外へ出て自己流の特訓をしてみた。

 まずは過去に美浦が出した技、気迫押し。


 「確か、左の掌を前に出して⋯、高速で腰の位置に戻してから右の掌を前に突き出す、って感じだったよな⋯。」


 生まれつき動きを覚えることと料理を作ること、この二つは大の得意だと理解している。

 だが、動きを覚えられたとしても⋯。


 「気迫押しっ!!…あれ?気迫押し!!あれぇ⋯??気迫押しっ!気迫押しっ!!気迫押し気迫押し気迫押し気迫押し気迫押し気迫押し気迫押し気迫押し気迫押しぃぃっ!!!!」


 何度やっても無理だ。

 技をイメージしてもあの迫力のある技は、気迫押しは出せない⋯。

 美浦が打ってこその気迫押しだから、俺には打つことはできないのかな⋯。

 そうやって、朝日と対比するような悲しみに暮れ、一人嘆いていると。


 「私を、忘れないでくださ〜いっ!つれないじゃないですか〜っ!一緒に行きたかったのに〜っ!」


 置いてけぼりにされて涙を一粒流しながら走ってくる、薄手の白いシャツにチェック柄のミニスカ、赤色の上着をきちっと羽織った美浦の姿が見えた。

 俺はなんて奴だろう。美浦との特訓が待ち遠しくて先に特訓をしてしまったではないか。

 今更ながら悔しさに浸り落ち込む俺の背中を、美浦は艷やかな手でぽんと叩いた。


 「冗談ですよっ。ふふっ、私も一回こういうのやってみたかったんです。」

 「い、今の、わざとだったのか?」

 「先に行っちゃって悲しかったっていうのは本当ですが、なんとなく先に行くことはわかっていたので、まぁ許してやろうと思ったってだけです。」

 「そうか、先に行って本当にごめんな。」

 「良いですよっ!さ、特訓の続きしましょ!国の人達を、守ってあげるためにね!」


 美浦の一言で気合を入れ直し、再びさっきと同じ動きをしてみせた。

 風はまたしても起こせなくて、美浦に叱られるかと思いきや⋯。


 「気迫押しを発動させるときはですね、ただ腕に力を入れるだけじゃ風は起こせませんから、とにかく身体全体に力を入れるんです。そうすれば全身に闘気が纏われ、その勢いで掌を突き出せばその闘気が風圧となって放出されて気迫押しが出せる、というわけです。」


 つまり、死ぬほど体を鍛えないといけないというわけか⋯?

 今からじゃ国の危機までに間に合うかわからないっていうのに⋯。


 「本来なら、気迫押しという技を完全習得するまでには三ヶ月費やさなければなりません。完全でなくても一ヶ月、風が出るのは三週間ほどです。」


 一年かからないだけマシなのか⋯?

 淡々と気迫押しのことについて話す美浦をじっと見て、一人でツッコミを入れていた。


 「ですが、貴方は最初会ったときから少し身体能力が上がったように見えます。闘気が出せる域に達している気がします。その為、今から隆真さんに電流を流します。」

 「⋯え?」


 で、電流⋯!?身体能力が上がったって言っても実感が湧いてないし闘気を出せるような力を持った気もないし⋯。

 って、今はそんな事どうでもいい!電流って、俺に耐えられそうな響きのもんじゃないぞそれ!!

 そんな軽めに流すって言ってますけど!俺じゃまず耐えられないのよ!!

 身振り手振りでそのことを全力で必死に訴えた。口に出す一発パンチを食らいそうだから⋯。


 「隆真さんなら耐えることなんてお茶の子さいさい、きっとできます!できますともっ!」


 いや、「できます」をそんなに強調されても、出来んものは出来んのですよ!

 そもそも電流って人間に流すもんじゃないでしょ⋯、流されても気絶するだけで一切強くならんって!

 またもや俺は身振り手振りでそのことを全力で訴えた。


 「隆真さんなら耐えることなんてお茶の子さいさい、きっとできます!できますともっ!」


 二回目だ⋯、これ絶対承諾しないと先に進めないパターンか?

 そして遂に痺れを切らしたのか、美浦の上着のポケットからミニガンのような物が出てきた。


 本気でやるのか⋯、美浦⋯⋯。

 一瞬目を疑ったが、美浦は俺のことを思って行動してくれている。

 それを否定してはいけない!料理の時と一緒だっ!!

 

 「それじゃあ、撃ちますよ―。役人にしか得ることの出来ない「闘気」をすぐさま使うことができる、とっておきの強化電流のレーザー―。」

 「レーザー―、こ、来いッ!!」


 ミニガンから放たれたのは、細く激しく鋭い一つの電流。

 真っ直ぐで曲がりのない、俺だけに当たる一筋の電流。

 その速さは⋯、光の速さより早い⋯!!


 「ぐあっ――!?」


 本当は美浦は俺のことを殺そうとしてきてるんじゃないかと思うくらい、鋭い電流の痛みを感じる⋯。

 それと共に、身体が奮い立つような感覚が全身に走る。

 力が湧き上がるような、全身が電流によって湧き立つような⋯。

 通常の強化ドリンクでも強化しきれないような力の湧き方。

 痛みさえもすぐ忘れさせる、神経と鼓動の興奮。

 役人だけが闘気という力を得られるということにも特別感を抱いたし、それによってのあの迫力⋯、俺にも出せる気がする。

 この数秒間で本気でそう思った。


 「どうですか?これが闘気の力。闘気に目覚める瞬間ですよ。」

 「す⋯、凄い⋯!電流によって腕の力も脚の力も身体も何もかも速くなった感覚が凄いする!!」

 「でしょう?私も初めて役人という立場に付いて、力が欲しいって言って、「電流流すよ」って言われたとき、「は!?」って思いましたけど、いざその時になってみると身体が軽くなって力も湧き立って、どんな危険な外出依頼もすぐ熟せるようになりました。こういうのは騙されたと思って撃たれてみるもんですね〜!」


 急に怖いこと言い出したけど、実際美浦の言っていることは凄く分かる。

 撃たれる前と撃った後で身体の軽さ、力の差が天と地ほど違う。

 気持ちも変わるし、勇気も自信も上がった気がする。

 今なら打てなかった気迫押しも打てる気がする⋯!


 「打つ前に、三つほど忠告です。まず一つ目。

 闘気に関しては魔法と同じで魔力切れ的な身体の消耗が起こります。それを「闘力消耗」と言います。

 その限界値が来ているというのに、まだ闘気の技を打とうとすると、軽い闘力消耗の場合は吐き気や目眩、気絶を起こし、

 重い闘力消耗の場合だと、記憶喪失、腕や脚の破裂、脱臼、脳の破裂、最悪の場合だと死に陥ります。

 一発一発が物理的にも身体的にも強力なので、十五回攻撃をしたくらいでやめるようにして下さい。

 二つ目は、この電流を受けたことですぐさま超強力の技が打てるわけではありません。

 この電流は医療系で言う応急処置みたいなものなので、最初の内は気迫押しや他の打ち易い攻撃技、防御特化の技、使い易い回復技などに留めておきましょう。

 三つ目、一部の技は特殊効果、特殊防御を使う人間、魔物には効きません。無理にその技を出そうとしても無意味に等しいので辞めるように。以上です!」


 まとめると一つ目は、闘気を使った技を十五個以上使うと、闘力消耗という疑似魔力切れを起こすから使いまくるなということ。

 二つ目は、電流を受けたとて覆面の男のような強力なものは打てないということ。

 でも俺は基本的に、動きや技のことは棚にしまってあるみたいに覚えている。

 他人の動きも技もなんとなく特徴を理解しキャプチャーすれば、俺の場合だといける気がするんだよな。

 まぁ、そんなことは今気にすることじゃないか。

 三つ目は、気迫押しや他の攻撃技は、特殊効果と特殊防御を使う人と魔物には効かないから、そういうやつには使うなということ。

 判断が難しいが特殊なオーラ的なものを纏っていれば、そいつがそれらを使ってるのがわかりそうだ。

 取り敢えず、今は気迫押しを打つことに専念しよう。


 「美浦の忠告、把握した。気迫押し、打ってみるよ。」

 「頑張ってくださいっ!」


 俺は全身の闘気を腕に込めた。

 力を入れることの反動か、両腕と両足がブルブル震える。

 筋肉が締まって痛い⋯、けどそれと同時に大きな力を感じる。

 代償と報酬、等価交換ってやつなんだろうか⋯。

 国のことでしか使われないからあまり聞いたことがなかったが、力にも当てはめることができるな。

 その力を十分認識したら、左手を前に出し右手を引っ込める。

 そして―、高速で左の手を握って引っ込み、右手をぐっと突き出し打つ。


 「はぁっ!!」


 突き出したと同時に右の手のひらから「ブォン!」と暴風が巻き起こる。

 目の前の波が、奥の海が斜めに反り上がって水しぶきを上げる。

 それが奥の奥の奥の奥まで続いて、見えない海と広がる奥の空を貫通するように裂け目ができるんじゃないかってくらい威力が強い⋯。

 あの時はただ、魔力の気迫を抑えて消すための技とばかり思っていた。

 だがこの技は、生身の人間への攻撃に使える。

 これは、国王にも匹敵しそうな技だ⋯!


 「流石隆真さんッ!お見事です!!」

 「あ、有難う⋯。」


 さて、次の技⋯。

 と言おうとしたが、どうやら今の海と風の音を聞いた傘達が、気になってこっちに来たみたいだ。


 「隆真ちゃん、今のって⋯?」

 「俺の技だが、打っちゃまずかったか⋯?」

 「いや、まずいと言うよりなぁ⋯、」

 「隆真の力に驚いてんだよ、刺すぞゴラ」


 遊雅や露の言う通り、どうやら皆は起こってるんじゃなくただ純粋に驚いているだけだとわかった。

 皆豆鉄砲を食らったような顔をしている。

 それほど強力だったのか、さっきの気迫押し⋯。


 「ちょっと美浦ッ!あんたが吹き込んだわけ!?」

 「ふ、吹き込んだっていうか特訓のつもりで⋯」

 「それがあんたより強くなってんの!隆真ちゃんをあんたより強くさせてどうすんのよ!あんたここまで威力出せないでしょ!?あぁもう、力なんて持たない隆真ちゃんが台無しよ⋯。それでも好きだけど!!」


 傘がすかさず美浦の前に立って、怒りに任せ美浦のお腹をちょんちょんと突きまくっている。

 俺が美浦よりも強い気迫押しを出した⋯?そんなわけない!

 あの時の気迫押しは、俺の印象に深く残る程ド迫力だったんだぞ!?

 わけもわからずきょとんと棒立ちしている俺に、露がナイフの先で小突いた。


 「いたぁっ!?」

 「あんなぁ、美浦は海を一刀両断できるほどの気迫押しは打ったことないし、打てたとしてもそれはまぐれか少し盛ってるかのどちらかなんだよ!それに比べてお前の技は一切小細工無し。電流を受けたみたいだけど、それでもここまで飛ばせる役人なんて相当居ない⋯!美浦はただの知識不足で全部をわかってる気でいただけ、隆真は美浦を信じすぎた、それだけの話だよ!お前は強いって、自覚しろッ!」

 「はへ⋯?」

 「おいおいそんな事言うなよ露!隆真は十分強くなった、俺達でもなかなか耐えきれないような爆風を纏う気迫押しを出したんだぜ?な!夏恋!」

 「遊雅よりかは強くないと思うけどね。」

 「相変わらず辛辣だな夏恋⋯。」


 海を改めて見てみると、直線上に海に凹みが出来ている。

 上ら辺だけを見ていたせいか、下の地面が凹んでいたことに気づかなかった。


 「ここまで強力な技を出せるとは⋯、才能に満ち溢れている方なのですね⋯!」

 「これが果たして才能なのかどうか、甚だ疑問だけどねぇ〜、」

 「流石です⋯!隆真さん!」

 「な、なかなかやるのね⋯、隆真。」

 「なかなかやるなぁ、リーダーの俺が褒めるぐらいには凄いぜ。」


 網津さんに褒められてもなぁ、凄さがわかんないから嬉しいともなんとも思えない。

 非常に気まずくなる、気持ちが複雑だ。


 「まぁでも、強くなったのも成長の証か⋯。認めるしかないわね。

 一応私から闘気の補足をしておくと、人間が使うスキルの中で武力系に寄っているものを「闘気」というの。

 私や美浦、露ちゃん、遊雅くん、夏恋ちゃん、変態野郎―、コホン!網津が主に使ってる役人だけに使われるスキルよ。

 特徴としては、このスキルは打つ技、使用する技を自分で自由自在に変えられるということね。

 だから、闘気で風を起こしたいって言うんだったらさっきみたいに高速で腕を突き出せば風が出せたり起こせたりするし、剣を出したいって言うんだったら空中に剣が浮いていることをイメージすれば何本でも出せるし、シールドも出せると思えば出せるし、他人の技やスキルの疑似応用だって可能。

 例えば、狐族の嵐魔くんが使う「狐の魔法」や、元手術医の悠七ちゃんの「オペスキル」というスキル技を見れば、それっぽいことをイメージして動きを作ればそれらしいのが打てるし、自身の特有の技と他人の技を合体した合せ技だって作れる。

 露ちゃん特有の剣突きっていう技も、闘気を使うと覚えるのが早くなる。今の時点だと急にそれをするのは難しいけどね。

 オリジナリティーの技を生み出すのも難しいけど、何でもイメージすればなんとかなるものよ!

 あと、魔法と闘気はよく同じだって言われるけど、属性は風属性しかないから、他の属性が絡んでくる技はないわよ。把握しておくように。」

 「把握できた。説明ありがとう。」

 「どういたしまして。」


 念の為皆の技を見ておくために、戦ってみた。

 まず美浦。


 「気迫押しっ!」

 「⋯あんまり痛みを感じない。」

 「これも、闘気の特徴です。」

 「なるほどね」


 次は傘。


 「あんまり隆真ちゃんを攻撃したくないけど⋯、とっておきの行くわよ!⋯爪撓り(つましなり)!!」

 「ふっ!」

 「上手く避けれてるわね〜!」

 「電流を受けたからですかね。身体が非常に軽いので。」

 「そういうことで間違いなさそうね!」


 次は露。


 「さっき傘が言ってたが、剣を出したいなら死ぬまで剣のことをイメージしなよ!⋯剣突き!!」

 「うわぁっ!?わ、わかった⋯!」(指す前に剣先がしなった)

 「なんで傘のは避けれて僕のは避けれないんだ!本気で刺すぞ!!」

 「ごめんって⋯。」


 次は遊雅。


 「俺は特に攻撃技は出せねぇけど、せめてシールドのことを教えてやらねぇとな。闘気用語だと「守護」って言うが。」

 「わかった。」

 「闘気による守護は、魔法や物理といった特殊攻撃を一回限り無効にしてくれる。身体全身をシールドで包み込むから、飛んでいるときに発動することも出来るってわけだ!」

 「なるほど。」

 「飛んでる時って⋯、ちょっと語彙力が足りてないんじゃないの?」

 「仕方ないだろ!俺学校に通ってた時、日本語のテスト毎回0点だったんだから!」

 「あ、そっか。」

 「そっかじゃねぇ!軽く受け流すな夏恋!」


 次は夏恋。


 「私の技は拳術を使った技を得意とするスキルです。使わないかもしれませんが、覚えておいて損はないですよ。」

 「わかった。」

 「傘さんと同じくとっておきので行きます。スキル拳術、逆平手打ち!!」

 「痛っ!?」

 「平手打ちって言いながら爪で攻撃してんじゃねぇかよ夏恋〜!」

 「うるさい遊雅っ!」


 次は嵐魔さん。


 「傘さんの仰った通り、私は狐族特有のスキル魔法、「狐の魔法」を使えます。」

 「狐の魔法⋯、聞き慣れない魔法だ。」

 「それじゃあ私も技を出すとしましょう。狐の魔法、変化へんげの面!」

 「め、目の前にでっかい面!?」

 「これで敵の目を驚かせてから⋯、狐の魔法、錯乱の幻夢!!」

 「うあっ!?く、くらくらする〜っ!!!」

 「こういう技も出せるんです。」


 次は悠七。


 「私は一応オペスキル持ちで、身体回復、精神回復特化や攻撃特化、瀕死の時や死にそうな技が来るときに身体を守ってくれる「体内保護特化」の三種類が使えるわけよ。他の人はもっと特殊なの持ってそうだけど。

 それぞれ覚えるのは時間がかかりそうかもしれないから、体内保護特化の技の一つ、「観血的手術オープン・ザ・サージェリー」ってのだけ教えてあげるね。」

 「頼む。」

 「頼まれた!!まず、オープン・ザ・サージェリーは漢字で表すと観血的手術。

 やり方としてはメスで皮膚を切開し、患者を直視しながら行う出血を伴う外科手術。

 でもそれはあくまで患者を手術する手法。それ自体も雪崩でわかったやり方だし、これをやっても瞬時に体内を保護できるかって言われたら違うじゃん?

 だから、オペスキルでの観血的手術は、身体に手を当て魔法で包む。隆真さんの場合だと闘気かな。

 それで大体の攻撃は効かないようになる⋯、けど制限時間付きで使えるのは一日に一回きり。瞬時に体力を使い切っちゃうから諸刃の剣みたいなものだね。

 もし使う前になにか攻撃を食らっちゃったら、その当たった傷の箇所に手を当て、体内の痛みの侵食を魔法で抑える。

 回復と比べてこれは抑えるだけだし一時的だから、使うときを自分でしっかり見極めなきゃいけないよ〜!」

 「大体把握できた、有難う。」

 「いえいえ〜!」


 網津さんとメイド二人は、技を教えることを断った。

 網津さんはリーダー特権魔法を使ってるって聞いてたから納得だけど、メイド二人は何故だ?

 隠す程の知られてはいけないことが隠されているのか?ま、まぁいいけど。


 「あの〜、そこの役人の方〜。すまない!急ぎで頼みたいことがあるんだが!」


 後ろから男の声がした。

 そこに居たのは勇者のような装いの、背の高い人だ。


 「なんでしょうか?」

 「き、聞いてくださるのか!?」

 「は、はい⋯。」

 「ありがとう、実に有り難い、有り難いぞ⋯!」


 何故2回言った?

 思わず首を傾げた。


 「ここにいらっしゃるのは初めてですか?」

 「あぁ、初めてだ。初めてだとも。」


 毎回同じ言葉を2回繰り返すような人、初めて見た。

 予想以上に馬鹿な気がする。


 「それで、用というのは?」

 「用というのはな⋯、僕達の所属するダンジョンで魔物に殺されたわけじゃないのに、人の死骸が通路に置かれているんだ。置かれているとも。」


 ん?ここら辺にダンジョンなんてあったか?一瞬疑問が頭をよぎった。

 今の王が隠したのか?何のために⋯?あの玉座の血の匂いのことも相まって謎だ。


 そして、その人の話からして仲間を殺したと思われるそいつは、何のためにダンジョンで仲間を殺したんだ⋯?

 使えないから見捨てたとか?可哀想すぎるだろ。

 しかも通路に置かれてるなんて⋯、下見てなかったらきっとその死骸に足が引っかかって倒れること間違いなしだな。


 「片付けるとかはしたのですか?」

 「いいえ、忘れた。忘れたのだ⋯。」


 素直にとんでもないこと言いやがった⋯。

 放置するよりどかしておいたり、ダンジョン内に吸収してもらったりとかすればいいのに。

 とんでもないな⋯、今回来た客は⋯。


 「(後ろにいる髭を生やしている人、面影があの方と似ている⋯。偶然か⋯?)」

 「(この勇者、何処かで会ったような懐かしさがある⋯。もしや、前世の⋯?まぁ、どうせ気の所為か。初対面なんだからな。)」


 網津さんと訪問者である勇者が見つめ合っていた。

 まるで前にあったことがあると、互いに思っているかのように。

 でもそんな事気にしてたらダメだ。

 もしかしたら面倒なことに発展するかもしれないからな⋯。

 王のことが片付いたら、その事についても調べるか。


 一旦美浦達を離れさせて、メイド達と訪問者の用件を聞くことにした。


 つづく

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