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二十一話 リエナは大人な娘(こ)

 ―役所―


 王都に訪問してから2日が過ぎ、役所としての依頼も殺人識別としての依頼も増えてきた。

 ちゃんとやってんだ、あの王。まだ完全に信用はできないけど⋯。

 依頼内容としては、役所ではいつも通り冒険者のクエスト管理の受付、トラブルの対応、スキルに関する質問の応答、あとは種族に関する資料を受け取ったりした。

 種族のこともあまり良く知らないから、出来る限り知っておこうと思って、担当の人に頼んでおいた。


 「な、なんで僕の扱いはいっつも雑用なんだ〜!!(いつもの口調は封印)」


 友人よ、いつも有難うな。

 雑用ばっか任せてるけど、君の頑張りは俺が一番わかってるから、安心してくれ。


 そして、殺人識別課としては、密室殺人や自殺未遂、事故と思わしき事件を二十件程対応していた。

 どれも胸糞悪い事件で、被害者を憐れむ余裕すらなかった。

 でも、追悼の意を込めるのは大事だ。

 人の命は軽くはない、それなのに無慈悲に死んでった被害者は多くいる。

 奇しくも悠七の力では回復しきれなかった人ばかりだったからな⋯、誠に遺憾だった。

 どうか天国で、お幸せに。

 

 回復して生き返った人達には、とある建物を作る依頼を任せておいた。それは勿論、学校だ。

 というのも、王都に居た際に思いついた「学校を作る」というのを、網津さんが承諾してくれたのだ。

 勿論一発で!というわけではなかったのだが、しばらく熟慮した結果、「良いぞ」と許可をくれた。

 それと共に、条件が足された。


 「1つ目、子どもたちに魔法や別国語、礼儀作法などに関係ないことを教えないこと。

 2つ目、性格は全員誠実で謙虚で友好的にすること。

 3つ目、殺し合いをさせたり死人を出させないよう注意すること。

 4つ目、危険な行為をなるべくさせないこと。

 5つ目、卒業したら今のメンバーの方に追加しないこと。

 追加で6つ目、殺人識別だけではなく、卒業した生徒が入りやすいように他の課も増やして出来るだけ大人数で役割分担し、行動できるようにすること。いいな?」

 「はい!わかりましたっ!!」


 自分のメンバーとなると、本気になる網津さん。

 かっこいいけど、他の時でもその性格で突っ切って欲しい。


 そして、王都の方から二人のメイドさんが来てくれた。

 どうやら王から休暇命令が下され、しばらくここに留まることにしたそう。

 休暇って⋯、メイドもメイドで大変なんだな。すっごい他人事みたいだけど⋯。

 家を大きくしておいて本当に良かったと安堵する傘と、また人が増える影響で、犠牲が増えそうで、内心ヒヤヒヤしている網津さんの姿が、容易に想像できるな⋯。


 「今日から一週間、お世話になります。」

 「お、お世話になりましゅ⋯!!」

 「また噛んだな、あんまり無理して喋らない方が良いぞ」

 「は、はい⋯。ごめんなさい⋯⋯。でも、また会えて嬉しいです!」

 「あぁ、俺も嬉しい。」


 あの時は俺も正直、会えないと思っていた。

 嫌な予感が頭の中を過って、あまり眠れなかった程だ。

 でも、王の休暇を通して、ここに来てくれた。

 その感謝は、何にも代えがたい。


 ただ、この時点で少し気になったことが出来た。

 このいつも恥ずかしくしてる滑舌の悪いリエナは、去る前に名前を言ってくれた。

 そのお陰で、あの子は「リエナ」だったって、認識することが出来た。

 だがもう一人のメイドは、出会ってから一切名を名乗っていない。

 恥ずかしさを内に隠している?いや、それは違う。

 このメイドには、その風貌からは感じ取れない程の魔力量を感じる。

 それさえも言及するのを隠しているのだから、きっと何かあるに違いない⋯。

 こいつは、果たして味方なのか⋯?


 「考え込んでいるようですが⋯?なにか御座いましたか?隆真さん。」

 「あ、あぁ⋯、なんでもない。」

 「そうですか、これは失礼。」


 そう⋯、そうだよな⋯、あまり深く考えすぎたら敵の思う壺だ。

 今は味方として見ていよう。

 でも⋯、仲間やリエナに危害を加えるようなら、相手が女だろうが男だろうが関係ない。

 全力で倒すのみだ。なるべく、そうならないことを願いたいが⋯。

 俺はメイドの来訪を、快く歓迎できず、ただいつものように考え込んでいた。


 俺も少しは魔法の勉強をしてみようかな。

 仲間や自分自身を守るためには、強固な力が必要不可欠だ。

 スキル魔法、変化スキル魔法、心情スキル魔法、スキル拳術、オペスキル、そして役人特有の攻撃と防御。

 聞いただけでも途轍もない量の力を有してるものばかりだ。

 その力を使うことができれば、俺も少しは誰かを守れるのかな。

 気づけば夕暮れ。色々考えてる内に、また時間の流れを忘れていた。

 俺もちょっと、ここ最近の疲れが出てしまってるのかもしれないな。

 少し紅色に染まった海の波を横目に、俺は砂浜に膝を曲げて座った。


 「どうしたの⋯?そんなに落ち込んで、溜息ついて。」


 座った俺の顔を越して、ひょっこり顔を出したのはリエナだ。

 あの恥ずかしがってた時とは比べ物にならない様子に、少し目を疑った。


 「んあ?あぁ、リエナか。ごめんな、ちょっと考え事してて⋯。どうやら疲れてしまったみたいなんだよ。」

 「あたしもよくあるの。そういうこと。仕事で疲れて、どうしても寝てしまいそうな時が。こんな幼いあたしでもあるんだよ。」

 「お、幼い⋯?リエナ、お前⋯!生まれてきて間もないのにメイドをやらされてるのか⋯?」

 「聞こえが悪いこと言わないで、あの子が聞いてたらどうするの。」


 あの子?もう一人のメイドか⋯。

 その人に聞かれちゃまずい理由って、リエナのことか?

 少し首を傾げると、「そうだよ」と言わんばかりにリエナは頷いた。


 ってか、様子と共に口調や態度もいつの間に変わったぞ⋯?

 誰も居ないときは、緊張しないタイプなのか?

 俺がいると緊張する的なことは言ってたが⋯、あれは嘘なのか?ますます謎だ⋯。


 「あたしは親がいなくて、親がどういう存在かもわからない。一人で生きていたような存在。

 そこをあの子に拾ってもらって、あたしは今生きている。ここまで生きてこられたのは、あの子のおかげ。

 でもあたしが今強がった口調をしてるのは、あの子を守りたいから。

 君に対して弱気なのは、本気で君を愛しているから。

 あたしは正直、あたし自身でも自分が何かがわからない。何のために生きてるか、どうして生まれてきたのかってね。

 でもきっと、その答えは求めるべきではないと思う。

 今あたしは、正しいことができている気がするから。

 やりたいことができている気がするから。

 会いたい人に既に、会えた気がしてるから。

 だから毎日頑張るの、精一杯働くの。正直疲れるけどね⋯。」


 まるで俺のお母さんみたいに、心情を語ってくれるリエナ。

 あのメイドのために、親代わりに身体を張ってくれている強さ。

 俺のことを愛してるって、そんなにでっかい器じゃないのに、本気でそう思ってくれているような真剣さ。

 でも、最後まで優しさは消えない。

 さっきの「幼い」という発言について、もう一度質問したいぐらい、心が大人だった。

 捨てられて孤独で、心はズタズタで、きっと死にたかっただろうに。

 一人の人に助けられて変わる心、芯のある強さを身につけていることに、俺は気付いた。


 「君ももしかしたら、寂しかったんじゃない?過去のあたしと一緒で。なら、抱きしめてあげる。

 母代わりって言ったら聞こえが悪いかもだけど⋯、今は誰も居ないし、沢山泣いても良いよ。逆に泣いてもらわなきゃ困る気がする!その為にあたしはこの話をしたんだもの!」

 「本当に、良いのか⋯?」

 「良いよ。」


 涙も感情もこらえきれず、また母親のことが頭に浮かぶ。

 消そうとしても抵抗するから、もう涙と共に流してやる。

 大人のような子供メイドの腕にぎゅっと抱きしめられ、俺は自然と、息が焼き詰まるまで咽び泣いた。


 「落ち着いたみたいだね、あんまり深く考えすぎないようにね。」


 心も体も完全に泣き止み、全て乾くように静まり返ったあと、リエナはそう言った。


 「あぁ、色々有難うな。」

 「お礼は良いって。ささやかな気遣いみたいなものだから。」


 何処までも謙虚で優しいのは、両親の愛情とかじゃなくて、きっともう一人のメイドが与えてくれたものなんだろうな。

 やっぱり敵と見做すのは間違いだったか⋯、踏みとどまって良かった。心からそう思った。


 「なぁ、俺、少し嫌な予感がするんだが、話していいか?」

 「良いよ。」

 「何者かによって、王都がめちゃくちゃになるような気がするんだ。リエナでさえも、もう一人のメイドでさえも止められないような厄災が降り掛かってくるような⋯、そんな予感が⋯。」


 この言葉でリエナを傷つけてしまうかもしれない、俺は一瞬言うのを拒んだが、我慢出来なくなって口に出してしまった。

 だがリエナは、傷つくどころか笑っていた。

 開き直ったというのか?最悪な状況を聞いたっていうのに?


 「それは未来の話、気持ちが強ければあたしたちでさえ無事かもしれない。だから、あたし達なら大丈夫。もしあたし達がピンチになったら、君達が助けてくれるはずでしょっ?」


 なるほど、そうきたか。

 必ず生き残れるって気持ちが強ければ、打たれ強いメンタルがあれば、どんな危機だって乗り越えられる。

 それは誰かが助けてくれるから⋯、か。

 まったく、人任せにもほどがある。


 「そうだな、忘れてたよ。俺達は誰かを守る盾としての役割も果たせてるって⋯、今更気づいた。」

 「やるじゃん。忘れてたことを思い出せるだけですごいよ。」

 「そうか?⋯ふっ、そうかもな。」


 この仕事に誇りを持ったのは、これが初めてだ。

 殺人のことで人に感謝されることなんて殆どないとは思うが、リエナの言葉で殺人識別に実用性があるということも、再認識させられた。

 それから夕飯を食べ、温かい風呂に浸かり、布団に入り深い眠りについた。


 つづく

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