一話 役所という助け舟
女性と出会って、俺は改心した。
前を向いて生きると決めた。
死にたいなんて所詮、我儘だしな。
そう思う方がおかしいんだ。
そう自分に言い聞かせ、今は女性に身を委ねている。
「本当はですね、最初から気づいてたんですよ。この人は死にたいのかもって。」
「なぜ?」
「声が震えてたんですよ。ご自身では気づかれなかったんですか?」
自分のことなど気にもとめなかった、などと言ったら、変に心配される。
気付かなかったってことを伝えよう。
ありのままといえばありのままだからな。
「あぁ、気付かなかった。自分のことを気にすることが、あまりないんでね。」
「そうですか⋯、あまり自分のことを責めるのは良くないですよ!そのせいで本当に死んじゃう人っているんですからね!まぁ、当然っちゃ当然ですけど。」
本当に、その通りだな。
俺は抜け目があまりにも多すぎた。
だから落ちるとこまで落ちてしまうんだ。
はぁ、情けないな。
「そういえば、どうしてここへ来たか聞いてなかったな。」
「ここへ来た理由は、この家が燃えているという目撃情報を聞いたので、義務感で誰か居ないかと駆けつけたってわけです!まぁ、だいぶ遅すぎましたが。」
「そうか⋯、」
「落ち込んでおられるみたいですが、何かあったんですか?」
「実は俺、ここに住んでいた者なんだ。」
「えぇーっ!?そうだったんですか!?」
「そうだ。」
「そんなことはつゆ知らず、私は⋯なんてことを⋯⋯」
「そ、そんな思い詰めなくてもいいんだ!俺が、悪いんだ。」
「貴方こそ、思い詰めちゃダメなんじゃないですか?」
「そ、そうだよな⋯。ありがとう。」
「礼なんて言ってたらなんとなく苦しいじゃないですか!一々言わなくていいですよ!」
「あ、あぁ。」
気軽でいいのか、でも言い方が少し癪に障るな。
いや、恩人にそんな態度を取ってはいけない。
その心根は隠しておこう。
♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦
その後女性は、俺の家から北西方向に歩き、浜辺の近くの建物に案内してくれた。
しかし、何故海が目の前にある場所に、建物を?
一度は訪れたことがあるが、遊ぶぐらいしか用途が無い。
あとは川から海に流れ出る時とかに使う、とか?
もしかしたら、本当に遊ぼうとしているのか⋯?
冬になったら凍ったり、凍らなかったとしても氷山の一角の如く寒かったり、痛い目を見る予感しか見えないんだが⋯⋯。
なんだか怖いな、どんな人がいるんだろう。
「お〜いそこの君ぃ!!」
海の方から声がした。
男性の声だ。
「なんだ?誰だ?何処にいる!」
「海の方だよ!」
「それは知ってる!」
「ナイスツッコミ!」
話が通じない。
海の何処らへんにいるかを聞きたいのに⋯。
でも、少なくとも海にいることは確かか。
少し潜ってみよう。
「ちょっと待っててくれ、今海の方に声が聞こえたから、誰か居ないか見てくる。」
「あ、え⋯?海の方に人?⋯⋯あのバカっ、!」
泳ぐのは大の得意だ。
そんなに速くは泳げないが、人並みには泳げる。
水が嫌いとか水に顔を付けられないとか、そういうのではないからな。
しばらく泳いでいると、深海に沈んでいく裸の男性を目撃した。
イカれているなと思いつつ、急いで水面まで連れてきた。
ここの場所はそんな人しか居ないのだろうか⋯、
「ぷはっ、あぁ!!空気ぃっ!!美味し美味しおすし美味しいいいいいい!!!!!」
「なっ!?」
急に飛びつき抱きつかれた。
取っ払おうとするもヒトデのようになって離れない。
俺を女だと勘違いしているのだろうか⋯、だったら人違いだよ。
再び水面に上げて空気を吸わせた。
正気に戻ったのか、男性はずぶ濡れの前髪を上げて俺の目を見た。
「ありがとうな、助かったわぁ⋯」
「なんで潜ったりしたんだ?」
「そんなの、なんとなくに決まってんだろ〜??」
「⋯そうか。」
「なんか文句でもあるのか??」
「いや、ない。」
一方的に締め上げられている感覚がして背筋が凍った。
この人とは完全に合わないな。
「そこの二人〜!!早く上がってきてください!!」
♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦
海へ上がったあとは、着替えを用意してもらい、それぞれの自己紹介をすることにした。
「私の名前は耶麻美浦です!今年で26歳になった、役所の役人です!」
「役所?役所がなんでこんなところにあるんだ?」
「それはですね⋯、間違いなく、この人のせいです。」
「へ?」
「な、なるほど理解した。」
自分の身勝手で海に役所の建物を作らせるなんて、何も知らない人からしたら迷惑極まりないだろうな⋯。
というか、今まで役所が何処にあるかわからなくて、辺りずっと探したんだがなかったぞ!
まぁ、そういうもんか。
♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦
(補足)役所とは⋯⋯住民の生活などのルールを、ちゃんと定めてちゃんと管理し、サポートするといった仕事をする機関。
異世界的には転移・転生者の登録、種族ごとの移住・身分管理、冒険者や特殊技能者のクエスト管理、鑑定義務を行うというもの。
種族が蔓延る中で、生活インフラ、権限付与、異世界特有の申請手続きを代行する施設となっている。
この世界では基本的に相談を受け付けて、軽い相談ならその場で終わらし、問題のある相談であれば国に伝え、判断してもらう、といった流れ。
殺人などの相談は受け付けていない。
♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦
「次はぁ、俺か。俺の名は与那川網津、二十代の若造で、役者のリーダー的ポジションに付いてるぜ!!はーっはっはっはっはっは!!!!」
「若造は嘘!嘘を付くなっ!!」
「イダァッ゙⋯⋯!!」
こんなリーダーは嫌だ。
美浦も大変なんだろうな。
「俺の名前は甲高隆真、20歳で、今の所無職だ。何もかも失って、そこに美浦が来て、んで、美浦に案内されたということだ。住む場所がないのでね。」
「そういうことです。」
「ふぅん、じゃあこの役所に入ればいんじゃね。住む場所も仕事もないんだったら。」
軽い⋯、こんな感じで決まって良いものなんだろうか。
国に相談するとかなんとか、そういうやり取りも必要なんじゃ⋯?
「実はですね、この国には「役人加入」に関するやり取りというのは必要ないんです。だから、役所の役人たちがその人を望めば、簡単に仲間になれるってわけです!そこに、貴方を参加させるためにここに案内しました!」
「勝手にか、美浦も美浦で身勝手すぎるぞ⋯。」
「俺は俺でわかってたさ、最初っからね。」
「嘘つけ!海に潜ってただけでしょうが!!しかも全裸で!!意味分かんないよもう、奇人だよ!!」
「ご、ごめんて⋯⋯」
というわけで、俺は役所の役人として働くことになったわけだ。
だが、役所の人数がやたらと少ないのと、役所にしては少し狭すぎないかというのが気になる。
五、六人ぐらいいるかと思ったが、そんなことはなかったみたいだ。
「ただいま〜」
「あ!お帰りなさい!!」
「⋯人が、増えたな。」
「あら、その人誰?」
「私が連れてきた、色々なものを失った悲しき少年です。」
そういうのは普通言わないだろ、空気の読めない人間だな美浦⋯。
でも、この人はなんか⋯、いや、この人もこの人で⋯⋯。
「あら、そうだったのねぇ〜、可哀想に⋯⋯。やったのはどいつよ?すぐに始末してあげる。」
「ままま、待ってくれ!確かに色々恨んじゃいるが、美浦と会ってからは考え方を変えたんだ!!」
「⋯美浦、貴女って子は〜っ!」
「ちょ、やめてよ傘さ〜ん!!」
色々と狂ってるな。
しかも傘さんって、ここら辺じゃ滅多に見れない高級品の名前を付けられてるじゃないか!
奴隷だったりしてないかおい⋯!!
「あ、紹介が遅れたわね。私の名前は白河傘、年齢は〜⋯ひ・み・つ!」
「秘密、じゃないよ!いつまで経っても本当の年齢を言ってくれないと困っちゃうじゃん!」
「貴女には教えたはずよ〜?私には隠す義務があるって!」
「その義務よりも、仕事の方の義務を優先したら良いんじゃないの?」
「も〜、釣れないわねぇ〜!」
この二人、めっちゃ仲良く話してるけど、どんな関係なんだ?
姉妹関係?家族関係?それとも⋯⋯。
いや、そんなこと考えてても意味がない!
俺に出来ることを見つけないと!
「ただいま戻ったよ、って誰!?その人!!」
「露ちゃんじゃないのぉ〜!!おかえりぃ!!久しぶりの仕事、どうだった〜?」
「もう疲れたよ⋯、ったく、なんで僕と傘が外で調べものしなくちゃなんなかったの〜!?しかもだいぶ大事の⋯洒落になんないっつ〜の!って、そんな話をしたいわけじゃないって!近くにいるその人!!見知らぬ人だね?怖いから刺して良い⋯⋯?」
「ダメよ。」
「うわあぁっ!?な、なんで傘怒ってんの!?」
「絶対にダメ。この子はいろんな物を失ったんだから。家も家族も何もかもね⋯⋯。」
「な、なら、仕方ないか⋯、さ、刺そうなんて言って、悪かったよっ!!」
「おいおいはえぇよ露、ん??」
「仕事がめんどいからって、張り切っちゃってますね。って、ん??」
「あんた、誰だ?」「貴方、誰ですか?」
めっちゃ増えた!?何人いんのこの役所!もう役所じゃないだろ!
しかも今更だけど、全員苗字も名前も日本語で、話す言葉も日本語だし!
別の世界で言う日本かここは!!
♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦
(補足)この異世界では別世界と同じ言葉が使われる。そのことを、「雪崩」という。
日本語が使える人がいるのも、文化などが一緒なのも、別世界から雪崩が起きたように伝わってきたからだと言われている。
♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦
「お、俺は今日からここに入ることになった、甲高隆真だ。知ってる人もいると思うが、家がなくて家族も居なくて、行く宛もほぼない。だからここに案内してもらって、仲間にしてもらった!迷惑かけるかもしれないが⋯ど、どうぞ宜しく!」
「あぁ、よろしくよ。」
「よろしくお願いしますねっ!」
「よろしくっ♪」
「ちょ、僕の方から自己紹介してないのに勝手に話進めないでくれないかな!!」
「俺もだ!」
「私もですとも。」
「あ、ごめん。」
人が増えるともうてんやわんや状態になるのか。
俺の婆ちゃん家に遊びに行ったときと同じくらいうるさいな⋯⋯。
「僕の名前は詩夜永露、年齢は15歳。怖がらせたらガチで刺す。よろしく。」
「ん゛?」
「すみませんでも怖いのは嫌なんですごめんなさい!!」
「俺は約代遊雅、年齢は19歳だ。こいつと違って、下手なことじゃ怒らないから。よろしくな。」
「んだとぉ!?」
「ふふふっ、私の名前は風姫夏恋、年齢は17。趣味は拳法習得です。」
「俺から言わせれば、こいつも怒らせたらヤバイ奴だからな!」
「何いってんのてめぇもだろ馬鹿ザル。」
「ご、ごめんなさい⋯。」
みんな怒らせると怖いのな。
覚えておこう。
慣れ親しんで忘れていく内に、ミスって殺される可能性があるからな。
「リーダーである俺は、お前の加入を歓迎している。さっきは無責任に言ったが、皆が揃ったなら話は別だ。これからは少し大袈裟な表現だが、家族として接していこう。」
この人、一瞬で人が変わったようになったな。
もしかして、周りに睨まれるのが嫌だったり?
既に複数人に睨まれてるし⋯、多分そうなんだろうな。
にしても家族か、本当の家族を亡くした俺にとっては、言い方は悪いが好都合だ。
だが、忘れ難いな⋯、あの絶望は⋯⋯、あの苦痛は⋯⋯、いや、その時の何もかもが。
「あの時は本当に心配した。ちょっとでも遅かったら、命を絶っていたんだから。でも、今こうして私達の前に経っているのは、貴方が頑張ったからなんですよっ!どんな時でも無理はせずに、でも真剣に全力で取り組んでくれると嬉しいですっ!!」
「色々抱えてさ、物に当たったりするかもしれない⋯。それは私にもわかるよ。失うものができたら自責の念なんてものを抱いちゃうからね⋯⋯。でも、私達はそれを受け止めつつ、隆真君に楽しんで過ごしてもらう為に努力したいの。辛いと思うからこそよ。だから、なにか困ったとこがあったら、私でもリーダーでも誰でも良いから、相談しなさいよ!じゃないと私、泣いちゃうわ⋯⋯!」
「ありがとう。わかった、困ったことがあったらすぐ相談するよ。」
「ぼ、僕もまぁ、協力してあげなくもなくもなくもなくもなくもない、かな⋯⋯!!!!」
「俺も協力するし、歓迎するぜ!」
「私もです。」
「皆、本当にありがとう!」
「礼なんて良いっての!」
頼もしい仲間が増えた。
これから楽しくなりそうだ。
父さん、母さん、姉ちゃん、弟⋯⋯、俺は今、元気にやってます。
これからも、この人達と共に頑張ります。
どうか上で見ていてくれ。
(ボコン!!)
付近ででかい音がした、ここから北東の場所でしたみたいだ。
北東⋯、誰か知り合いがいる気がする⋯⋯。
も、もしかして⋯⋯!
「何の音だ!?」
「爆発音でしょうか⋯?」
「仕事が増えるわねぇ〜、」
「また仕事ぉ〜?しかもさっき調べてたところじゃんか!最悪だもうやってらんね!」
「文句ばっか言ってる暇があったら、現場に向かうぞ!早くしねぇと、大事な証拠とかそういうもんがすべて焼けちまうからな!」
「そうですね⋯!速戦即決です!!」
急いで行かないと死んじまう⋯⋯!!
俺は真っ先に扉を出て、北東の方向へ向かった。
「ちょ、おい隆真!単独行動は危険だぞ〜!!って、聞いてねぇか。あれ、美浦と傘も居ない!!あぁもう勝手にしろっ!!」
「だりぃだりぃだりぃだりぃ、あ〜だりぃ!!けど、行くしかないから僕も⋯、行きますか⋯⋯。あぁヤダあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!
「はえぇな隆真も。」
「何かあるんでしょうね、あそこに。」
「だろうな、取り敢えず向かうぜ!」
「わかりましたっ!」
つづく




