十五話 ここから始まる「殺人識別」
俺は弱い。結局彼奴等の術に惑わされ、気を失って倒れている。
俺は醜い。結局負の感情に触れ、力を使ってしまったというのに、自分の力だと過信し続けた。
俺はダサい。勝てるとカッコつけて、見栄まで張って、その結果こうなった。
覆われた黒の視界に、俺は言葉も出なくなった。
薬によって眠らされて、ここにまた戻ってきてしまったのだ。
俺は果たして、何をしていれば正解だったのだろうか。
美浦のことなど気にせず、自殺すれば良かったのか⋯。
別の場所に行って、働いていれば良かったのか⋯。
美浦の提案を断って、自分で何かを作り上げれば良かったのか⋯。
今更嘆いたとて何も変わらないのだが、俺には嘆きの言葉しか出てこないのだ。
仲間を殺したくない人間の心なんて、負の感情に飲み込まれて消え失せたし⋯。
最後に死にたくないと言って逃げようとした自分が居たことに、絶望したし⋯。
そんな自分が、この先生き永らえることを、神様は許してくれるのだろうか⋯?
聞かなくても分かることか⋯、人を殺すという考えに至ったことを神様は知っている。
きっと、神様は俺を許しちゃくれないだろう。
罪を犯そうとしたのだから。
人を殺そうとしたのだから。
俺は無力で、一瞬でも力に頼ろうとした愚か者だ。
そして、化け物だ。
そんな俺は一生嫌われる。
人間からも、動物からも、植物からも、天候からも、太陽からも、星からも、時間からも、大地からも、神様からも。
役所の人達にもきっと嫌われる。
きっと俺は一生恨まれる。
一生憎まれる。
一生避けられる。
一生、望まれない。
俺を助けてくれる人なんて誰も居ない。
そいつはただの暇人で愚か者で実に馬鹿なやつだ。
そして、もっとも気が狂っているやつだ。
俺はこの世界を変えたいと思っていたが、俺自身がその夢の邪魔をしていたんだろう。
自分の自我をただ暴走させ、思うがままに人に八つ当たり。
俺は嫌われて当然だ。
俺も自分を嫌っている。
嫌っていなければこんなに自分を追い詰めることはない。
俺は醜いまま死ぬ運命にあるのだろう。
どうせ、そうだ。
暗闇の中で置かれている状況は最悪だ。
平気で死体が辺りに捨てられ、泣き崩れる人の幻影を見たり。
家族が俺を散々貶している幻聴を聞かされ、絶望のドン底に突き落とされそうになったり。
友人に何度も殺される幻夢を見させられたり。
俺はもう、泣き叫ぶことすらできなくなった。
情けないようなカスカスな呻き声を、黒のドス黒さを消して、別の色に変えようとするように出しても、ペンキの色はすぐに黒色に染まった。
もう俺には希望がないのかもしれない。
もう俺には仲間という存在は居ないのかもしれない。
俺は馬鹿だ⋯、弱い⋯、アホだ⋯、雑魚だ⋯、間抜けなガキだ⋯、愚か者だ⋯、無知無能な低能人間だ⋯。
誰か俺を殺してくれ、跡形もなくなるほど刺しまくって殺してくれ。
そして俺という存在を忘れてくれ。
もう俺は、何も失いたくないんだ⋯。
俺を楽にさせろ⋯!殺せ⋯!ナイフでも堅くて長い棒でも拳でも脚でも火でも水でも溶岩でも稲光でも魔法でも物理的でもなんでも良い⋯!!
俺を天へ送ってくれ⋯⋯⋯。
「そんなこと、させませんよ。貴方はまだ若い。生きる義務がまだ残っている。」
聞き覚えのある凛々しい声が、暗闇の中で強く響いた。
誰だ⋯?また俺の邪魔をするのか⋯??
忘れたふりをして遠ざけようとした。
「忘れようとするなんて、酷いじゃないですか。私は貴方を、貴方を愛しているんです。」
「愛する⋯?そんな傲慢な行為、神が許すはずがない。」
「貴方が神を信じるような人だったでしょうか?」
「うるさい。」
「本当は助けて欲しいんでしょう?」
「うるさい⋯。」
「強がってるだけで、本当は生きたいと思っているんでしょう?」
「うるさい⋯⋯。」
「力なんていらないから、誰かを守りたいって、そう思ってるんでしょう?」
「うるさい⋯!」
「自分が救われたように、貴方も誰かを救いたいって思ってるんでしょう?」
「黙れ⋯⋯!!」
「困った時に私達を救いたいってまだ思ってるんでしょう?」
「黙れ⋯!!」
「大嫌いなんて思ってないんでしょう?」
「黙れ!」
「大好きなんでしょう!?」
「黙れ黙れ黙れ黙れ、だまれぇっ!!!!」
「黙らない!!私は黙りません!黙れと言われても絶対に黙りません!
私はあの時、貴方と戦った時、ささやかな優しさを感じました。
殺すとは言っていましたが、それで傷つきはしましたが、「もう少し鍛えたらどうだ」と言われて、最初は冷たく返しましたが、今考えてみると、それが貴方なりの優しさなんだということがしっかり伝わってきました。
最初会った時も、すっごく優しかったのを覚えてます。家族が殺されて間もないというのに、私達を仲間だと認識してくれた感じがして、嬉しかったんです。
網津さんが溺れかけていた時も、貴方は真っ先に駆けつけていました。正義感にあふれていてとても素晴らしい人なんだなと感じました。
自分のことにも他人のことにも厳しい、大人の鑑みたいな人とも捉えられました。
だからこそ、貴方のことが好きで、愛していて、助けたいんです。
傘さんだって同じです。出会って数秒で貴方の魅力に気づいて、助けてあげたい、守ってあげたい、大好きだって気持ちになったんです。
貴方の友人も、貴方を助けようと努力してくれました。私と露でも、遊雅さん、夏恋さん、嵐魔さんや悠七でも見つけられなかった精神治療法を見つけ、それを実行してくれました。
勿論遊雅さんだって貴方を愛してます。
夏恋さんだって愛してます。
露だって、網津さんだって、嵐魔さんだって、悠七だって、皆全力で助けようとするほど、貴方を好いていたんです。
貴方は愛されてるんです、皆に。だからって無理に元気になろうとするのは良くないです。疲れますからね。
でも、これだけは覚えていて下さい。貴方が困っているときは、いつでも私が居ます。そして皆が居ます。
辛いときは私達が支えます。傍に居ます。一緒に寝てあげたり、一緒に歌を歌ってあげたり、出来ることはいっぱいありますよ。
気分転換にお出掛けに行くとか、なにか食べに行くとか、そんな特別だけど些細な日常の日々でも、私達が華麗に楽しく彩ってみせます。
だから、私達を信じて霧を払ってみて。私達と人生を変えていこう。悩みも一緒に分かち合えるように、一歩ずつ足跡を深く刻んで、生きていこう。」
姿はフィルターが掛かっているようでしっかりは見えないが、美浦の芯のある言葉が、黒を白に塗り替えて、俺の深く重く閉ざされた心でさえも塗り替えた。
そうだ、俺には仲間がいる。頼られ愛される存在である、美浦達が。
俺はまた、勘違いをしていたのかもしれない。
誰も助けてくれないって、仲間なんてどうせ居ないって、全ての可能性を捨ててただ死にたいって気持ちを全面に押し出していたのかもしれない。
俺は相変わらず悩みがちだから、まだまだ助けてもらうことが多いかもしれないな。
だが、もうそれを恥だと決定付けたりしない。
俺は仲間と共に強く生きる。
たとえ強さがなかったとしても、自分なりに努力して強くなって、悪人を全員倒す。
どんな嘘も見透かして暴く、どんな悲しみも耐えて力に変える!
犯人を逃さない⋯、何処までも絶対に⋯!!
俺は暗闇から出たいと暗闇の中で叫び、途端に希望の光にざっと包まれる。
「隆真さん⋯!隆真さん⋯!!ちょっと悠七、変な薬とか付与してないよね!?」
「そんなことしないよ!私これでも手術成功率90%超えてるから〜!」
「ならなんで辞めたの?」
「面倒くさいから〜」
「だと思った」
「だと思ったって何よ〜!!」
空を仰ぎ見たまま、砂浜に横になっている俺。
昼の日差しに強く照らされ、日焼けするんじゃないか、熱中症ってやつになるんじゃないかってほど暑く感じる。
周りには人の足が俺を取り囲んでいた。
正直逃げ道がない。抱擁から逃れる隙はないようだ。
気付かれたら苦しいぐらいに抱きつかれる、寝たフリしとこ。
「なぁ、遊雅。」
「なんだ?露。」
「さっきこいつ、寝たフリしてなかった?」
「あぁ、してたな。」
げっ!?バレてる⋯!
俺はすかさず、目を瞑りながら人差し指を口に近付けた。
だが、その過程をしっかり、他の人に見られてしまった。
「隆真さん⋯?」
「隆真ちゃん⋯?」
俺のことを溺愛している二人は、涙を数粒頬に残している。
余程俺が居なかったのが寂しかったのか。
「目が⋯覚めたんですね⋯!!」
「隆真ちゃ〜ん!!!!」
その合図と共に、二人は飛びつきながら抱きついて、赤子のように泣き出した。
周りの目は唖然としている。こ、こっちを見るなばっかやろぉっ!!
「良かったわね、隆真。」
「仲良い奴と出会えたみたいで、本当に良かったぜ。」
「天国でちゃんと見守ってるから、しっかりやりなさい!」
「僕、応援してる。」
その声と共に見えたのは、家族の幻影だった。
俺に抱きついているようにも見えた。
弟はぐっすり寝ていて、姉はこっちをチラチラ見ながら寝ていて、お父さんはいびきをガーガーかいていておっさんみたい、お母さんは天使のような微笑みを浮かべ眠っていた。
あぁ、ありがとう皆。
俺は皆のお陰で、ここまで立てたんだよ。
本当に有難う、そしてどうか⋯、俺の活躍を空で見ていてくれ。
「貴方が、本当の隆真さんですか?凛々しくて厳ついですね、弟子にさせてもらっても宜しいでしょうか!」
「えっ!?な、何急に!まぁ、良いけど。」
「誠にありがたき幸せ⋯!!」
「嵐魔さん、その人さっきみたいな力はもう使えなくなってるから、師匠としたところで意味ないよ?」
「なんてこと言うの悠七!!」
「わかってます。だからこそ私は、隆真さんの弟子になったんです。」
「もうなったんだ、早いな。」
「隆真〜!俺を忘れるなこの野郎!!」
「お、お前!!⋯やっと外から出れたんだな!!」
「ずこ〜!!そこじゃないでしょおいっ!!」
「あ、生きていたんだ。」
「⋯、酷いぜこいつ⋯、闇落ちしたのは僕のせいだと思ってちょっと申し訳ないことしちゃったかなって思って復活してやれば急に追いかけ回されるし冷たい反応されるし無視されるしでもう耐えられないっていうかなんというか怖いっていうか悲しいっていうか⋯。」
「色々辛かったんだな友人も。」
「そうみたいね、遊雅。」
俺は今、一つ思いついたものがある。
それをわちゃわちゃしてるこの状態で、皆に発表しようかな。
「皆!急だがちょっと聞いてくれ!今回俺や嵐魔?さん、悠七が加入して、役所はだいぶ賑やかになった。でも、その状態で役職の名前が「役所」なだけなの、なんか味気なくないか?」
「おい、それはお前が決めることじゃない、リーダーである俺⋯」
「変態野郎は黙ってなさい!」
「コホン、だから⋯、この役所の名前を⋯、別世界の「警察」と準えて、「殺人識別」という名前にしようと思う!!」
「な、なんかかっこいいじゃんか!」
「センス良いな隆真!」
「私感激、私感激⋯!!」
「隆真さんに一生ついていきます!」
殺人だけ、って認識になっちゃうかもしれないから、一応役所という名義は取り消さない。
だが、役所なままだとすごく味気ないのは確かだから、考えを改めた記念として、「殺人識別」という名を考えた。
我乍ら完璧だな。
「よ〜し、今日は飲むぞ〜!!」
「網津さん、今朝の風格はどうしたんすか⋯。」
「海に捨てた」
「捨てれるんすかそういうのって!!」
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「スキル建築、洋風木造の建築!!」
その後俺達は友人も入れて、嵐魔さんの魔法で立て直した木造のお洒落な家で、どんちゃん騒ぎをした。
恋するものは戯れ、呑む人はじゃんじゃん酒盛りし、話したい者は話して、皆すっごく楽しそうにしていた。
まるで、お祭り。
そして俺は急に、美浦に「外へ行かない?」と言われ、夕日が綺麗に見える砂浜で美浦を待った。
すると美浦は、赤い顔で近付いてきた。
「ちゃんと、私の言葉、伝わったみたいで⋯、良かった!」
「あ、あぁ、あの時のは美浦の本当の言葉だったんだな。有難う。お陰で助かったぜ!」
「⋯//////」
すっごく赤い。
褒められたのが余程嬉しかったのか?
「あ、あの⋯!!明日の朝も、外に出ない⋯?」
「い、良いけど⋯。どしたの?」
「お気に入りのコーデ、隆真さんに見せたくて⋯。」
「お、コーデ、服装か。海辺だから夏っぽいのが似合いそうだが、大丈夫なのか?」
「全然、大丈夫っ⋯!!有難うっ⋯!!」
しどろもどろ状態だな、恋に落ちるものはこうなるのか。
「なぁ、そんなに肩の力を入れないほうが良いぞ?俺より美浦の方が強いんだから、あんま無理せずにな。」
「あ、ありがとう⋯。」
夕日の中、らしくないように手を繋いで、一時の一日を過ごした。
その後にちゃんと食事は摂って、お風呂入って、布団入ったぞ!変な妄想するなよな!
つづく




