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十三話 俺は何も信じない

 ―役所―(視点:隆真)


 ここは、何処だ⋯、役所か。

 なんで俺は目が覚めている?誰が覚ました?

 俺は頼んでいない。復活するなんてことは⋯。

 それなのに無責任に起きろなんて他人に言われて、こっちは迷惑だ。

 まぁ、やりたいことはやれるのだから、好都合だがな。

 ―――――――――――――――

 俺の視界が何も見えなくなった時、自問自答を繰り返した。

 何もわからないまま、何も信じきれず、何も信じられず、ただ息を呑むように言葉を吐き続けた。


 気づいたら身体の中には何もなくて、何も感じなくなった。

 ただ邪悪なものだけが広がっていた。

 何も信じず誰彼構わず痛め付ける、純粋の綿飴ぐらいの大きさの、生き物みたいなもの。

 そんな負の感情だけが集まっていた。


 俺を嘲笑うように周りを回り、「力が欲しいか」と訪ねてくる。

 俺は力なんぞいらない、何も信じたくないから全部壊してやると言った。

 負の感情は回るのをやめない⋯、俺を憐れんで楽しんでいるのだろう。

 なにがしたいと俺は聞いた。すると負の感情は「お前の助けになりたい」と言った。

 どうせ嘘だ、俺はわかっていた。覆面の男が負の感情だとしたら、絶対にそんな事は言わない。

 言ったとしても後に裏切ると、どうせこの負の感情は覆面の男の術によって作られた物体なんだろう。

 俺は負の感情とは別方向の道を歩いた。道と言えるものはないのだが⋯。

 すると負の感情は、瞬間移動をしたかのように目の前に現れた。

 なんなんだコイツは⋯、しつこいぞ!そう言って俺は負の感情を振り払った。

 勢い余って倒れそうになったが、片足でなんとか耐えた。

 これで完全に消えた⋯?と立ち上がった時、鼻スレスレの位置に負の感情が近づいた。


 「お前は何もかもが憎いはずだ、何もかもが嫌いなはずだ、信じられないはずだ。なら私達の力を使え。さすればお前は支配者になれる。」


 純白の姿からは想像できないような言葉を発する負の感情。

 そして、その提案に少し迷う俺。

 この瞬間にも、世界の時間は進んでいる。

 そう考えるとなんだか不思議だ。

 俺は答えを決めた、答えは⋯、


 「お前など信じない。」、だ。

 負の感情には申し訳ないが、それは俺の望むことじゃない。

 そう訴えた。

 ただ、仲間が信じられないのも、善の全てが信じきれないのも、変わらない。

 俺は心身共にズタズタに引き裂かれ、錯乱状態になり、どの方向へ進むべきかわからなかったのだ。

 そんな状態にしたのはきっと彼奴等に違いないのだ、そもそもあの女が来なければ俺は楽に死ねたんだ。

 それを邪魔されたことへの怒りも、友人を殺されたその現場を黙って見ていたことへの怒りも、仲間などいらないのに役人として誘い込んだことへの怒りも、忘れちゃいない。

 俺は力など使わずに、彼奴等を殺す。そう決めたのだ。

 恩返しも気遣いもいらない、もし解放されたなら、ただ邪魔なものを排除するのみ。

 願わくば⋯、あの覆面の男も⋯⋯!!

 ―――――――――――――――

 そうして今、何者かによって強制的に目を覚ます事になったのだ。

 しかもその者は、自身のことを「友人」と言っている。

 なんと馬鹿なことを抜かす馬鹿なんだろうか、友人は覆面の男に殺されたのだぞ?

 だとしたら、今この瞬間に生きているはずがない。

 俺は手に力を込め、怒りを力に変えるようにし、友人と名乗る「その人」に暴力を振るった。


 「⋯っ!?あっぶね!ちょ、急に何すんの隆真!!僕だよ僕!友人だよ!!恥ずかしくて名前は言えないけど〜!!」

 「そんな奴が友人だった覚えは、ない!!」

 「うわっ!?」


 顔も口調もあの友人とは全然違うのだ。

 でゅふでゅふ言うブサイクな顔をしたやつが、こんなシュッとしたイケメンみたいな口調の奴なわけが無い。

 こいつは間違いなく嘘をついている。

 俺は見境なしに暴れ始めた。


 「ちょっ⋯!?ここで暴れないでくれないかな!!隆真に何があったかわかんないけど、ここで暴れられちゃ建物が壊れる!!」

 「知らん!!」

 「ちぃっ、傘!あいつを止めて!!って、傘?」

 「あ⋯⋯ぁ、⋯あ、ぁ⋯⋯」

 「か、傘!?大丈夫!?」

 「隆真ちゃんが、暴走している⋯!!あの時の隆真ちゃんが⋯、」

 「そ、そんなことはどうだって良い!!隆真を元に戻せる余裕のある場所が必要だから、一旦止めようって言ってるの!!」

 「隆真さん!やめてっ!!目を覚まして!!」

 

 美浦か、俺の二番目に憎い相手。

 お前は絶対に殺すと、身体も俺に応えている。

 負の感情の強大な力無しで、お前を殺す!!


 「⋯!!気迫押し!!」

 「⋯。」

 「き、効かない⋯!?」


 役所の建物から海辺の方にぶおっと飛ばされた。

 だが、風が吹いただけの攻撃に、惑わされるわけがないだろう。

 怒りと冷静さに任せ、拳をドリルのように前に出す。


 「う、腕が⋯!これは速いッ⋯⋯!!」

 「フンッ、避けられたか。」

 「お願い、まだ操られているなら目を覚まして⋯!隆真さん!!」

 「さっき起こされたばかりだ、これが俺だ。昔の時の俺など忘れてしまえ!!」

 「あ、足蹴り⋯!?そして、拳⋯!!」

 「なるほど、強さはわかった。ここから本気だ。お前を絶対に殺す!!」

 「なっ⋯⋯!?」


 威力を上げれば多少は傷がつく。

 打撲、擦り傷、捻挫、骨折、脱臼、肉体破壊、捻り、刺し傷などなど。

 やれる殺し方は多種多様だ、お前を殺すにはうってつけだろう!!


 「⋯!!」

 「ぐっ⋯!!(肘で、腹部を⋯⋯!?)」

 「⋯!!⋯!!」

 「(拳の威力が上がってる⋯!しかも二撃⋯!!)」

 「これで音が上がるとは。美浦、お前も大した事ないな。もっと鍛えたらどうだ?」

 「⋯っ、何も知らない人が、そんなこと言わないでっ!!」

 「ふっ、掛かったな。⋯!!」

 「なっ⋯!?なにを⋯!!⋯!!!!あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」

 「美浦っ!!!!!」


 腕を持ち瞬間で捻って骨を折る、この時しか使えない特殊技だ。

 彼女は悲鳴を上げつつ俺を見ている。

 まだ俺が目を覚ましていないと勘違いしているような目だ。

 実に滑稽で根気強い奴だな。

 俺は愉悦な笑みを浮かべ、彼女の顔を見下ろした。

 それも、見下すような表情で。


 「隆真ちゃん、流石に私でも許さないわよ⋯⋯?大事な大事な部下と、大事な大事な建物を台無しにして⋯!!私、我慢の限界で手を出しちゃうわ!!」

 「次はお前か、ショタコン女。」

 「⋯!!黙らっしゃい!!!!」


 ⋯。

 ほう、風の流れに任せて相手を拳で討つ、か。

 荒業ながらもなかなか面白い。


 「よ、避けられた⋯!?」

 「⋯!!」

 「(う、腕⋯!速い⋯!!対応できない!!)あ゛ぁ゛ぁ゛っ⋯!!!!」

 「傘さんっ!!!!」

 「ふっ、腹を殴られただけでアウトか。美浦ほどにもならんな。」

 「なら、こいつはどうかな!!剣突き!!」


 念力で剣を生成?ほう、見たことのない技だ。

 まぁ俺は世間知らずだから、どれもこれも知らん技に過ぎんがな。

 俺は腕だけで防ぐことにした。


 「なっ⋯!?舐めやがってぇぇ!!はぁッ!!!!」

 「フンッ、防がれているではないか。馬鹿の一つ覚えと言うやつか?実に幼稚だ。笑える。」

 「この野郎ぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙!!!!!」


 突っ込むだけの技に俺がやられるわけがなかろう!

 ⋯!?な、なに!?剣が腹部に刺さった!?


 「脳に騙されたなぁ?これでお前も終わりだ。」

 「そうか。」

 「な、なんでそんな余裕そうなんだよ!!」


 網津と狐の族の者、白い衣服の女は気づいているようだが。

 幼稚さ故、馬鹿なんだなこいつも。


 「お前さえも脳に騙されているぞ?それは残像だ。刺される前に高速移動をしたのだ。だから目が追いつく速さが遅い露には遅く感じたんだよ。」

 「くっそぉぉぉっ、そんなのありかよぉぉぉぉぉっ!!!!」

 「待て隆真!!俺と網津さん、夏恋も混ぜてくれないか⋯?孤族の嵐魔も、悠七?さんも入れて、5対1で!」


 というと、孤の族の者は海から礼儀正しくこちら側に近づき、悠七という者はこちらを睨みつけながら近づいてくる。

 網津も遊雅も、真剣な構えをして本気度が伝わってくる。

 なるほど5対1か、受けてやろうじゃないか。


 「遊雅、良いぞ。その挑戦受けた!」

 「お前ならそう言うと思ってたぜ!」

 「隆真さん、初対面でこんなことをするのは無礼に当たりますが、敵対しているなら此方も本気を出しますよ。」

 「美浦をこんなボコボコにして、傘さんって人もボコボコにして、女にも容赦ないんだね。なら⋯私と夏恋さんって人の女二人組だけでも、あんたをぶちのめしてあげる。オペスキル持ちだけど、特殊な技も出せるからね!!」

 「これで目を覚ましてくれるなんて思っちゃいない。だが俺は、俺達はお前を絶対に救ってやる!そう心に決めてんだ!絶対に負けねぇぜ!!」

 「似たような拳術を持つ者同士、仲良くやり合いたいですね。絶対に負けません。そして、救ってみせます⋯!!」

 「二日酔い中だから、途中でダウンしちゃうかもだが、仲間を殺されるって悪い記憶を呼び起こした罪⋯、今ここで償ってもらう!!」

 ―――――――――――――――

 「ちょ、僕は⋯!僕はどうしたらいいのでゅふか〜!!(色んな物の下敷きに)」


 つづく

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