忘れられない人
翌朝、俺はいつもより早く目を覚ました。
今日は、アリスの学校初登校日だ。
「隆太郎ー! 起きてー!」
部屋のドアが勢いよく開いて、アリスが飛び込んできた。
「うわっ!」
「今日は私の学校デビューの日だよ! 早く起きて!」
アリスが俺のベッドに飛び乗ってきた。
「お、おい! まだ6時だぞ!」
「だって、楽しみで眠れなかったんだもん!」
アリスが俺の上に覆いかぶさってくる。
「お前、昨日あんなに早く寝たのに……」
「2時間くらいで目が覚めちゃった!」
「それ、全然寝てないじゃねぇか!」
俺がツッコむと、アリスはケロッとした顔で言った。
「大丈夫! 隆太郎と一緒に学校行けるって思ったら、元気100倍!」
「それ、完全にアンパ○マンだろ……」
※ ※ ※
朝食を食べ終わって、俺たちは学校に向かう準備をしていた。
「隆太郎、どう? この制服似合ってる?」
アリスが鏡の前でクルクル回っている。
昨日、急遽用意してもらった制服。金髪に紺色の制服が、妙に似合っている。
「ああ、似合ってるよ」
「本当? やった!」
アリスが嬉しそうに笑った。
「じゃあ、行こっか!」
「おう」
俺たちは家を出た。
※ ※ ※
学校への道を歩きながら、アリスはずっとソワソワしていた。
「隆太郎、私ちゃんとやっていけるかな……」
「大丈夫だよ。お前なら」
「でも、みんな私のこと、どう思うかな……」
アリスが不安そうに言った。
「金髪の外国人が突然転校してきたら、びっくりするよね……」
「まぁ、確かにな」
俺がそう答えると、アリスはますます不安そうな顔をした。
「でも、お前は明るいし、日本語も完璧だから大丈夫だろ」
「そうかな……」
「ああ。それに、俺がついてるから」
俺がそう言うと、アリスの顔がパッと明るくなった。
「本当? 隆太郎、ずっと一緒にいてくれる?」
「ああ、まぁ……同じクラスだしな」
「やった! じゃあ、お弁当も一緒に食べよう!」
「おう」
「放課後も一緒に帰ろう!」
「分かった」
「あ、朝も一緒に登校して、休み時間も一緒にいて、掃除も一緒にして――」
「お前、俺に24時間張り付く気か……」
俺がツッコむと、アリスはニッコリ笑った。
「当たり前じゃん! 隆太郎は私の彼氏なんだから♡」
その言葉に、俺は顔が赤くなるのを感じた。
※ ※ ※
学校に到着すると、予想通り、アリスに視線が集中した。
「うわ、マジで金髪だ……」
「超美人じゃん……」
「外国人?」
「新しい転校生らしいよ」
ヒソヒソと噂する声が聞こえる。
アリスが俺の腕を掴んだ。
「隆太郎……みんな見てる……」
「気にするな。すぐ慣れるから」
「うん……」
俺たちは教室へと向かった。
※ ※ ※
教室に入ると、すでに何人かの生徒が登校していた。
そして、俺たちが入った瞬間――教室が静まり返った。
「「「えええええ!?」」」
クラス全員が驚きの声を上げた。
「隆太郎、あの子誰!?」
「金髪美少女!?」
「なんで隆太郎と一緒なの!?」
質問が飛び交う。
その時、担任の田中先生が教室に入ってきた。
「おはよう、みんな。今日は紹介したい生徒がいる」
田中先生がアリスの方を見た。
「アリスさん、前に来て」
「はい」
アリスが教壇の前に立った。
「えー、今日から皆さんのクラスメイトになる、白金アリスさんです」
田中先生がそう言うと、教室がざわついた。
「白金……?」
「外国人だ……」
「めっちゃ可愛い……」
アリスが深呼吸をして、クラス全員を見渡した。
「初めまして、白金アリスです。アメリカから来ました」
流暢な日本語に、クラスメイトたちが驚く。
「日本語上手!」
「発音完璧じゃん……」
「よろしくお願いします!」
アリスが笑顔でお辞儀をした。
その笑顔に、教室中の男子が見とれている。
「可愛い……」
「天使か……」
「日本語ペラペラとか最高じゃん……」
そんな声が聞こえる。
ちょっと待て。お前ら、俺の彼女に何勝手に見とれてるんだ。
「それでは、席は……」
田中先生が教室を見渡した。
「隆太郎の隣の席が空いてるな。そこでいいか?」
「はい! お願いします!」
アリスが即答した。
俺の隣の席――それは、太刀川朝日の席だった。
アリスが席に座ると、周りの生徒たちがザワザワと話し始めた。
「隆太郎の隣って……」
「もしかして、付き合ってる?」
「え、マジ? 太刀川さんが亡くなったばっかりなのに?」
その噂話が、俺の耳に入った。
アリスも聞こえたらしく、少し寂しそうな顔をした。
※ ※ ※
ホームルームが終わり、一時間目の授業が始まる前。
俺の席の周りに、クラスメイトたちが集まってきた。
「ねぇねぇ、隆太郎! アリスちゃんと付き合ってるの?」
女子の一人が聞いてきた。
「あ、ああ……」
俺が答えると、周りがざわついた。
「マジで!?」
「いつから?」
「どこで知り合ったの?」
質問攻めにされる。
「えっと……」
俺が答えに困っていると、アリスが俺の腕にしがみついてきた。
「私と隆太郎は、運命の出会いをしたんです♡」
「運命の出会い!?」
「はい。一目惚れでした」
アリスが嬉しそうに言った。
「へぇー、隆太郎モテるんだね」
「でも、太刀川さんが亡くなったばっかりなのに……」
その言葉に、教室の空気が少し重くなった。
「あの……太刀川さんって、どんな人だったんですか?」
アリスが突然聞いた。
「え?」
「隆太郎から話は聞いたんですけど、皆さんから見て、どんな人だったのか知りたくて」
アリスの質問に、クラスメイトたちが答え始めた。
「太刀川さんは、明るくて優しい子だったよ」
「誰にでも分け隔てなく接してくれて」
「隆太郎とも仲良かったよね」
「うん、いつも一緒にいた」
その話を聞いて、アリスの目に涙が浮かんだ。
「そうなんですね……素敵な人だったんですね」
「うん……」
「きっと、太刀川さんも天国から隆太郎の幸せを願ってると思います」
アリスがそう言うと、クラスメイトたちが頷いた。
「そうだね」
「太刀川さん、優しかったから」
その言葉に、アリスは涙を拭った。
その時、アリスの唇が小さく動いた。声には出していないけど、何かを呟いているようだった。
多分、「ありがとう」って言ってるんだろうな。
※ ※ ※
一時間目の授業が始まった。
数学の授業。
先生が黒板に問題を書いて、「誰か解ける人?」と聞いた。
アリスが手を挙げた。
「はい、白金さん」
アリスが立ち上がって、黒板に向かった。
そして、スラスラと問題を解いていく。
「……正解です」
先生が驚いた顔で言った。
「白金さん、数学得意なんですか?」
「はい。数学は大好きです」
アリスが笑顔で答えた。
クラスメイトたちがザワザワと話し始めた。
「すごい……」
「美人で頭もいいとか……」
「完璧超人じゃん……」
その後も、アリスは授業でどんどん活躍していった。
英語の授業では、完璧な発音で英文を読み上げた。
「素晴らしい発音ですね、白金さん」
英語の先生が感心していた。
「ありがとうございます」
アリスがニッコリ笑った。
※ ※ ※
昼休み。
俺とアリスは、屋上でお弁当を食べることにした。
「ふぅ……やっと二人きりになれたね」
アリスが嬉しそうに言った。
「お前、午前中すごかったな」
「そう?」
「数学も英語も完璧だったじゃないか」
俺がそう言うと、アリスは照れた顔をした。
「えへへ、褒められちゃった♡」
「でも、目立ちすぎだろ」
「大丈夫だよ。これくらい普通だもん」
「いや、全然普通じゃないから……」
俺がツッコむと、アリスはお弁当箱を開けた。
「はい、隆太郎。あーん」
「は?」
「あーん、して?」
アリスが卵焼きを箸で掴んで、俺の口元に持ってきた。
「お、おい……」
「いいじゃん、誰も見てないし」
「でも……」
「早く、あーん♡」
アリスがニコニコしながら待っている。
仕方なく、俺は口を開けた。
「あーん……」
「はい、どうぞ♡」
アリスが卵焼きを俺の口に入れた。
「……美味い」
「本当? 良かった!」
アリスが嬉しそうに笑った。
「じゃあ、次は隆太郎が私にあーんして?」
「え……」
「ダメ?」
アリスが上目遣いで見つめてくる。
「……分かったよ」
俺は自分のお弁当から唐揚げを取って、アリスの口元に持っていった。
「あーん」
「あーん♡」
アリスが嬉しそうに唐揚げを食べた。
「美味しい! 隆太郎の唐揚げ、最高!」
「それ、母さんの作り置きのやつだけど……」
「でも、隆太郎が食べさせてくれたから、特別美味しいの♡」
アリスの言葉に、俺の顔が赤くなった。
※ ※ ※
昼休みが終わり、午後の授業が始まった。
体育の授業。
女子はバレーボール、男子はサッカーをすることになった。
俺はグラウンドでサッカーをしながら、時々体育館の方を見た。
アリスは、バレーボールをしている。
その姿が、妙に様になっている。
「おい、隆太郎! ボール来てるぞ!」
「あ、悪い!」
俺は慌ててボールを追いかけた。
でも、頭の中はアリスのことでいっぱいだった。
※ ※ ※
体育の授業が終わり、俺は体育館に向かった。
アリスを迎えに行くためだ。
体育館に入ると、女子たちがアリスを囲んでいた。
「アリスちゃん、バレー上手だね!」
「ありがとうございます」
「アメリカでもバレーやってたの?」
「いえ、日本で……」
アリスが答えかけて、言葉を止めた。
しまった、と思っているような顔をしている。
「日本で?」
「あ、いえ……日本のバレーボールが好きで、動画で勉強してたんです」
アリスが慌てて言い訳した。
「へぇー、そうなんだ」
女子たちが納得したようだった。
俺はアリスに歩み寄った。
「アリス、着替え終わったか?」
「あ、隆太郎! うん、終わったよ」
アリスが嬉しそうに俺の元に駆け寄ってきた。
「じゃあ、教室戻ろう」
「うん!」
俺たちが体育館を出ようとした時、女子の一人が言った。
「ねぇ、隆太郎くん」
「ん?」
「アリスちゃんのこと、大切にしてあげてね」
「あ、ああ……」
「太刀川さんの時みたいに、悲しませないでね」
その言葉に、俺は少し胸が痛んだ。
アリスが俺の手を握った。
「大丈夫です。隆太郎は、絶対に私を悲しませません」
アリスが自信満々に言った。
「だって、隆太郎は世界一優しい人ですから♡」
その言葉に、女子たちが「キャー!」と黄色い声を上げた。
「ラブラブ!」
「お似合い!」
「リア充爆発しろ!」
色々な声が飛び交う中、俺たちは教室へと戻った。
※ ※ ※
放課後。
俺とアリスは、一緒に帰ることにした。
「隆太郎、今日は楽しかったね!」
アリスが嬉しそうに言った。
「ああ、良かったな」
「みんな優しかったし、授業も楽しかったし」
「お前、本当に学校が好きなんだな」
「うん! だって、隆太郎と一緒にいられるもん」
アリスが俺の腕にしがみついてきた。
「それに、みんな私のこと……太刀川朝日のこと、覚えててくれてた」
アリスの声が、少し震えていた。
「ああ……」
「嬉しかった。忘れられてないんだって」
アリスの目に、涙が浮かんでいた。
「でも、寂しくもあった。みんなの前に出ていって、『私、太刀川朝日だよ!』って言いたかった」
「朝日……」
「でも、言えないよね。誰も信じてくれないもん」
アリスが涙を拭った。
「だから、白金アリスとして、精一杯生きる。そして、隆太郎を幸せにする」
アリスが俺を見つめた。
「それが、今の私の使命だから」
その言葉に、俺は胸が熱くなった。
「ありがとう、朝日」
「ううん、お礼を言うのは私の方だよ」
アリスが笑顔を浮かべた。
「隆太郎が信じてくれたから、私はここにいられるんだから」
俺たちは、そのまま手を繋いで家へと帰った。
※ ※ ※
家に着いて、アリスが晩御飯を作り始めた。
「今日は何作るんだ?」
「カレー! 隆太郎、カレー好きでしょ?」
「ああ、好きだ」
「じゃあ、頑張って作るね!」
アリスがエプロンを着けて、キッチンに立った。
その後ろ姿を見ながら、俺は思った。
アリスの学校初日は、無事に終わった。
これから、どんなことが起きるか分からない。
でも、アリスがいれば、きっと大丈夫だ。
俺たちは、一緒に乗り越えていける。
そう信じている。
「隆太郎ー! カレーできたよー!」
「おう、今行く」
俺は立ち上がって、ダイニングへと向かった。
アリスが笑顔で待っている。
この笑顔を、ずっと守りたい。
そう思いながら、俺は席についた。
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