新たな人生
翌朝、俺は目を覚ました。
いつもなら、目覚まし時計の音で起きるのに、今日は何か違う感覚で目が覚めた。
寝ぼけた頭で、俺はリビングへと向かった。そこには――金髪の美少女が、エプロン姿で料理をしていた。
「あ、隆太郎! おはよう!」
太刀川が振り返って、満面の笑みで俺に手を振った。
「……夢じゃなかったのか」
俺は思わず呟いた。昨日のことが、あまりにも非現実的すぎて、夢だったんじゃないかと思っていた。
「夢じゃないよ! ほら、朝ごはん作ってるの!」
太刀川が嬉しそうに言った。キッチンからは、いい匂いが漂ってくる。
「お前……料理できるのか?」
「できるよ! 記憶は全部残ってるもん」
太刀川が胸を張った。
「それより、隆太郎。お母さんは?」
「母さんは出張中だよ。今週末まで帰ってこない」
「そっか、良かった」
太刀川がホッとした表情をした。確かに、母さんがいたら太刀川のことを説明するのが大変だっただろう。
「さ、座って! すぐできるから!」
太刀川に促されて、俺はダイニングテーブルに座った。
しばらくすると、太刀川が朝食を運んできた。ご飯、味噌汁、卵焼き、サラダ。完璧な朝食だった。
「いただきます」
俺は箸を取って、卵焼きを口に運んだ。
「……美味い」
「本当? 良かった!」
太刀川が嬉しそうに笑った。その笑顔は、確かに太刀川朝日のものだった。
「でも、不思議だな」
「何が?」
「見た目は全然違うのに、お前の作る料理の味は変わってない」
俺がそう言うと、太刀川は少し照れた顔をした。
「そりゃ、中身は同じだもん」
「そうだよな」
俺たちは、しばらく黙って朝食を食べた。
でも、その沈黙は居心地の悪いものではなく、むしろ心地よいものだった。
「なぁ、朝日」
「ん?」
「これから、どうするつもりなんだ?」
俺の質問に、太刀川は箸を置いた。
「それなんだけど……」
太刀川が困った顔をした。
「学校、行きたいんだよね」
「学校?」
「うん。隆太郎と一緒に、学校に行きたい」
太刀川の言葉に、俺は少し考えた。
「でも、お前――もう死んだことになってるんだぞ?」
「分かってる。だから、別人として学校に行くの」
「別人?」
「うん。転校生として」
太刀川が真剣な顔で言った。
「でも、そんなの可能なのか?」
「分からない。でも、やってみたい」
太刀川の目が、決意に満ちていた。
「隆太郎と一緒に学校に行って、隆太郎と一緒にお弁当食べて、隆太郎と一緒に帰りたいの」
その言葉に、俺の胸が熱くなった。
「分かった。俺も協力するよ」
「本当?」
「ああ。お前が望むなら、俺は全力で協力する」
俺がそう言うと、太刀川の顔がパッと明るくなった。
「ありがとう、隆太郎!」
太刀川が席を立って、俺に抱きついてきた。
「でも、まず名前を考えないとな」
「名前?」
「ああ。お前、太刀川朝日として学校に行くわけにはいかないだろ?」
「あ、そっか」
太刀川が少し考えた。
「じゃあ……アリス?」
「アリス?」
「うん。金髪で青い目だから、外国人っぽい名前がいいかなって」
「確かに。苗字は?」
「んー……」
太刀川が悩んでいると、俺がふと思いついた。
「白金は?」
「白金?」
「ああ。お前の金髪に合ってると思う」
「白金アリス……いいね!」
太刀川が嬉しそうに笑った。
「じゃあ、私は今日から白金アリスだね!」
「ああ。よろしくな、アリス」
俺がそう言うと、太刀川――いや、アリスは照れた顔をした。
「隆太郎に名前で呼ばれると、なんか新鮮だね」
「そうか?」
「うん。でも、二人きりの時は朝日って呼んで?」
「分かった」
※ ※ ※
朝食を終えて、俺たちはこれからのことについて話し合った。
「でも、転校生として学校に行くって言っても、どうやって手続きするんだ?」
俺の質問に、アリスは少し困った顔をした。
「それは……正直、分からない」
「戸籍とか、どうするんだ?」
「うーん……」
アリスが悩んでいると、俺は何か方法がないか考えた。
「とりあえず、明日から学校休むわ」
「え?」
「お前のこと、ちゃんと考えたいから。それに、今の俺に学校行く余裕ないし」
俺がそう言うと、アリスは申し訳なさそうな顔をした。
「ごめんね、隆太郎。私のせいで……」
「いや、お前のせいじゃない」
俺はアリスの頭を撫でた。
「それに、お前が生き返ってくれて、俺は本当に嬉しいんだ」
「隆太郎……」
「だから、これからどうするか、一緒に考えよう」
「うん!」
アリスが嬉しそうに笑った。
※ ※ ※
その日、俺たちは家でゆっくり過ごすことにした。
リビングのソファに座って、テレビを見ながら、これからのことについて話し合う。
「なぁ、朝日」
「ん?」
「お前、転生したって言ってたけど、本当に何も分からないのか?」
俺の質問に、アリスは少し考えてから答えた。
「うん。気づいたら、この姿になってたから」
「でも、『もう一度、チャンスをあげよう』って声が聞こえたんだろ?」
「うん」
「それって、誰の声だったんだ?」
「分からない……でも、すごく優しい声だった」
アリスが目を閉じて、その時のことを思い出そうとしている。
「男の人の声だったか? 女の人の声だったか?」
「どっちでもないような……性別がない感じの声だった」
「性別がない?」
「うん。すごく不思議な声だったの」
アリスの言葉に、俺は考え込んだ。
「もしかしたら、神様とか?」
「神様……かもしれないね」
アリスが苦笑した。
「でも、なんで私が選ばれたんだろう」
「それは……」
俺は言葉を詰まらせた。なぜ、太刀川が選ばれたのか。それは、俺にも分からない。
「多分、お前がまだやり残したことがあったからじゃないか?」
「やり残したこと?」
「ああ。お前、俺と付き合ってすぐに死んじゃったからな」
俺がそう言うと、アリスの顔が少し赤くなった。
「そうだね。隆太郎と、もっと一緒にいたかった」
「だから、神様がお前にもう一度チャンスをくれたんだよ」
「そっか……」
アリスが俺の肩に頭を乗せてきた。
「ありがとう、神様」
その言葉を、アリスは小さく呟いた。
※ ※ ※
昼過ぎ、俺たちは近所のスーパーに買い物に行くことにした。
「隆太郎、私ちゃんと外出できるかな」
アリスが不安そうに言った。
「大丈夫だよ。誰もお前が太刀川だなんて思わないから」
「そうだといいけど……」
アリスは帽子を被って、サングラスをかけた。
「お前、それ逆に目立つぞ」
「え、そう?」
「ああ。普通にしてた方がいい」
俺がそう言うと、アリスは帽子とサングラスを外した。
「じゃあ、行こっか」
「ああ」
俺たちは家を出て、近所のスーパーへと向かった。
歩いている途中、何人かの人がアリスを見て驚いていた。やはり、金髪で青い目の美少女は目立つらしい。
「隆太郎、みんな見てる……」
アリスが小声で言った。
「気にするな。お前が可愛いから見てるだけだ」
「もう、隆太郎ったら」
アリスが照れた顔をした。
スーパーに着くと、アリスは嬉しそうに買い物カゴを持った。
「何買う?」
「晩御飯の材料。あと、明日の朝ごはんの材料も」
「お前、料理するのが好きなんだな」
「うん! 隆太郎に美味しいもの食べさせたいの」
アリスの言葉に、俺の胸が温かくなった。
「ありがとう」
「ううん、私がしたいからしてるだけだよ」
アリスが笑顔で言った。
俺たちは、野菜や肉、魚などを買い物カゴに入れていった。
「あ、隆太郎! これ好きでしょ?」
アリスが俺の好きなお菓子を持ってきた。
「なんで知ってるんだ?」
「だって、隆太郎がいつも買ってるの見てたもん」
アリスが得意げに言った。
「そうか……」
俺は、太刀川が俺のことをよく見ていてくれたんだと、改めて実感した。
買い物を終えて、俺たちは家に帰った。
※ ※ ※
夕方、アリスが晩御飯を作ってくれた。
「今日はハンバーグだよ!」
アリスが嬉しそうに言った。テーブルには、ハンバーグとサラダ、スープが並んでいる。
「すごいな。本格的だ」
「えへへ、頑張ったの」
俺たちは席に着いて、晩御飯を食べ始めた。
「美味い!」
ハンバーグを一口食べて、俺は思わず声を上げた。
「本当? 良かった!」
アリスが嬉しそうに笑った。
「お前、料理上手いな」
「ありがとう。お母さんに教えてもらったの」
その言葉を聞いて、俺は少し胸が痛んだ。アリスは、もう家族に会えない。
「……大丈夫か?」
「え?」
「家族のこと」
俺の言葉に、アリスの表情が少し曇った。
「……寂しいよ。お母さんにも、お父さんにも会いたい」
アリスの目に、涙が浮かぶ。
「でも、今の私が会いに行っても、信じてもらえないよね」
「……ああ」
「だから……我慢する」
アリスが涙を拭った。
「隆太郎がいてくれるから、大丈夫」
その言葉に、俺はアリスの手を握った。
「俺が、お前の家族になる」
「え?」
「お前を、絶対に一人にしない。だから、安心しろ」
俺の言葉に、アリスの目から涙が溢れた。
「隆太郎……ありがとう」
アリスが俺の手を強く握り返した。
※ ※ ※
晩御飯を食べ終わって、俺たちはリビングでテレビを見ていた。
「なぁ、朝日」
「ん?」
「お前、今日はどこで寝るんだ?」
俺の質問に、アリスは少し考えた。
「……隆太郎の部屋じゃダメ?」
「え?」
「だって、私、一人で寝るの怖いもん」
アリスが上目遣いで俺を見つめる。
「で、でも……」
「ダメ?」
「いや、ダメじゃないけど……」
俺は顔が赤くなるのを感じた。
「じゃあ、決まり!」
アリスが嬉しそうに言った。
※ ※ ※
夜、俺の部屋。
俺はベッドに、アリスは床に布団を敷いて寝ることにした。
「おやすみ、隆太郎」
「ああ、おやすみ」
電気を消して、俺たちはそれぞれの寝床についた。
しばらくして、アリスの声が聞こえた。
「隆太郎……起きてる?」
「ああ」
「ねぇ、私ね……本当に幸せだよ」
「そうか」
「うん。死んで、また生き返って……隆太郎と一緒にいられて」
アリスの声が、少し震えていた。
「これが夢なら、ずっと覚めないでほしい」
「夢じゃないよ」
俺がそう言うと、アリスは少し笑った。
「そうだね。隆太郎がいるから、夢じゃないね」
「ああ」
「隆太郎、大好き」
「……俺も、お前のことが好きだ」
その言葉を言った後、しばらく沈黙が続いた。
やがて、アリスの寝息が聞こえてきた。
俺は天井を見つめながら、今日のことを考えた。
太刀川が、生き返った。
それも、全く違う姿で。
これから、どうなるのか分からない。
でも、一つだけ確かなことがある。
俺は、もう太刀川を失いたくない。
この小さな幸せを、守りたい。
そう思いながら、俺は眠りについた。
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