死んで転生したあとのキス
日曜日。
待ちに待った温泉旅行の日だ。
「隆太郎ー! 準備できた?」
アリスが俺の部屋に入ってきた。
「ああ、もうすぐだ」
「早く早く! 百合子さん、もう玄関で待ってるよ!」
アリスが嬉しそうに俺の手を引っ張る。
その時、アリスがつまずいた。
「わっ!」
バランスを崩したアリスが、俺に倒れかかってきた。
俺は咄嗟にアリスを抱きとめた。
顔と顔が、すごく近い。
アリスの青い瞳が、俺を見つめている。
「あ、ありがとう……」
「お、おう……」
俺たちは、しばらくそのまま固まっていた。
「二人とも、何してるの? 早く来なさーい!」
母さんの声で、俺たちは我に返った。
「い、行こう!」
「あ、ああ!」
俺たちは慌てて離れた。
アリスの顔が真っ赤だった。
俺も、多分同じだろう。
※ ※ ※
母さんの運転する車で、俺たちは温泉に向かった。
「朝日ちゃん、顔赤いわよ? どうしたの?」
「え!? な、何でもないです!」
アリスが慌てて答えた。
「そう? 隆太郎も顔赤いけど」
「べ、別に!」
俺も慌てて否定した。
「ふーん」
母さんがニヤニヤしている。
絶対、何か察してる……。
後部座席で、俺とアリスは気まずそうに座っていた。
「ねぇ、せっかくの旅行なんだから、しりとりでもしましょう」
母さんが提案した。
「しりとり?」
「ええ。じゃあ、私から。『アクセ』」
「えっと……『センス』!」
アリスが答えた。
「『スイカ』」
俺が続けた。
「『カレー』」
母さんが答えた。
「『レモン』」
アリスが言った。
「『ん』がついた! アリスの負け!」
俺がツッコむと、アリスが頬を膨らませた。
「あら、まだまだね」
母さんがクスクス笑った。
「むー」
アリスが頬を膨らませている姿が可愛かった。
「はいはい」
こんな感じで、道中は意外と楽しかった。
※ ※ ※
二時間ほど車を走らせて、温泉旅館に到着した。
「わぁ! すごく立派な旅館!」
アリスが目を輝かせている。
「ここ、私の友達に教えてもらったの。評判いいのよ」
母さんが嬉しそうに言った。
俺たちはチェックインを済ませて、部屋に向かった。
「和室、二部屋取ってあるわ。隆太郎は一人部屋、私と朝日ちゃんが一緒ね」
「え、隆太郎と別なんですか?」
アリスが露骨にガッカリした顔をした。
「当たり前でしょ。何考えてるの」
母さんが呆れたように言った。
「だって……隆太郎と一緒に寝たかったのに……」
「ダメよ。まだ高校生なんだから」
「むー」
アリスが不満そうだ。
「じゃあ、せめて夜這い――」
「絶対ダメ」
母さんが即答した。
「ちぇー」
アリスが残念そうに言った。
夜這いって……お前、本気か?
※ ※ ※
荷物を置いて、早速温泉に向かうことになった。
「じゃあ、隆太郎は男湯ね。私たちは女湯に行くから」
「ああ」
「あ、隆太郎」
アリスが俺を呼び止めた。
「なんだ?」
「覗いちゃダメだからね?」
「覗くわけねぇだろ!」
「本当?」
「本当だよ!」
「じゃあ、約束」
アリスが小指を立てた。
「指きりか……」
「うん♡」
俺は仕方なく、アリスと指きりをした。
「よし、これで隆太郎は覗けないね♡」
「最初から覗く気ないから!」
俺がツッコむと、アリスはクスクス笑った。
※ ※ ※
男湯に入ると、先客がいた。
50代くらいの男性が二人、湯船に浸かっている。
「おお、若いの。こんにちは」
「こんにちは」
俺は挨拶して、体を洗った。
そして、湯船に浸かった。
「はぁ……」
気持ちいい。
「なぁ、若いの。彼女と来たのか?」
男性の一人が話しかけてきた。
「あ、はい。母と彼女と三人で」
「へぇ、いいねぇ。若いっていいなぁ」
「うちの嫁なんか、温泉来ても文句ばっかりだよ」
もう一人の男性が愚痴を言った。
「大変ですね……」
「お前んとこの彼女は、可愛いのか?」
「え? あ、はい……可愛いです」
俺が答えると、二人がニヤリと笑った。
「若いねぇ。顔赤くなってるぞ」
「惚気話、聞かせてくれよ」
「い、いや、そんな……」
俺は困った。
でも、二人のおじさんは楽しそうに俺の話を聞いてきた。
意外と、悪くない時間だった。
※ ※ ※
温泉から上がって、廊下で待っていると、女湯から母さんとアリスが出てきた。
浴衣姿のアリスが――
やばい。
めちゃくちゃ可愛い。
髪が少し濡れていて、頬が上気している。
「あ、隆太郎!」
アリスが駆け寄ってきた。
「温泉、気持ち良かった?」
「あ、ああ……」
俺は、アリスから目を逸らした。
「どうしたの?」
「いや……なんでもない」
「もしかして、照れてる?」
アリスがニヤニヤしている。
「照れてねぇよ!」
「嘘。顔、赤いよ♡」
アリスが俺の頬をつついた。
「あら、隆太郎。朝日ちゃんの浴衣姿、気に入った?」
母さんまで、からかってくる。
「べ、別に!」
「素直じゃないわね」
母さんとアリスが笑っている。
くそ、二人がかりか……。
※ ※ ※
夕食は、旅館の個室で食べることになった。
テーブルには、豪華な料理が並んでいる。
「わぁ! すごい! これ全部食べていいんですか?」
アリスが目を輝かせた。
「当たり前でしょ」
「やった!」
アリスが嬉しそうに箸を取った。
「いただきます」
「いただきます」
「いただきます」
三人で手を合わせた。
アリスが、刺身を一切れ取って、口に運んだ。
「美味しい!」
アリスの顔が、パッと明るくなった。
「隆太郎、これ食べて!」
アリスが刺身を俺の皿に置いた。
「おう、ありがとう」
俺が食べると、アリスが嬉しそうに笑った。
「ねぇ、隆太郎。あーんして?」
「は?」
「あーん♡」
アリスが焼き魚を箸で掴んで、俺の口元に持ってきた。
「お、おい……母さんがいるんだぞ……」
「いいじゃない。微笑ましいわよ」
母さんが笑っている。
「ほら、隆太郎。あーん♡」
「……あーん」
俺は仕方なく、口を開けた。
アリスが嬉しそうに、魚を俺の口に入れた。
「美味しい?」
「ああ、美味い」
「良かった♡」
アリスが満足そうに笑った。
「じゃあ、次は隆太郎が私にあーんして♡」
「マジか……」
「当たり前じゃん♡」
俺は煮物を取って、アリスの口元に持っていった。
「あーん」
「あーん♡」
アリスが嬉しそうに食べた。
「えへへ、幸せ♡」
母さんが、そんな俺たちを見て微笑んでいた。
「あら、私も混ぜて」
「え?」
「私にも、隆太郎があーんして」
母さんが冗談っぽく言った。
「か、母さん!?」
「冗談よ。でも、いいわね。若いって」
母さんがクスクス笑った。
この旅行、色々とカオスだな……。
※ ※ ※
夕食を食べ終わって、俺は自分の部屋に戻った。
布団が敷いてあって、すぐに寝られる状態だった。
俺は浴衣のまま、布団に横になった。
今日は、楽しかったな。
アリスの笑顔が、脳裏に浮かぶ。
浴衣姿のアリス……可愛かったな……。
そんなことを考えていると、ドアがノックされた。
「隆太郎、起きてる?」
アリスの声だった。
「ああ」
ドアが開いて、アリスが顔を出した。
「入っていい?」
「母さんは?」
「お風呂入ってるから、大丈夫♡」
アリスが部屋に入ってきた。
そして、俺の隣に座った。
「ねぇ、隆太郎」
「なんだ?」
「今日、すごく楽しかった」
「そうか」
「うん。隆太郎と百合子さんと、三人で旅行なんて……夢みたい」
アリスが俺の肩に頭を乗せてきた。
「私ね、一度死んで、もうこんな日は来ないと思ってた」
「朝日……」
「でも、神様が私にチャンスをくれた」
アリスが俺の手を握った。
「隆太郎と、もう一度一緒にいられる」
「ああ」
「本当に、幸せ」
その言葉に、俺の胸が熱くなった。
「俺も、お前がいてくれて幸せだよ」
「隆太郎……」
アリスが顔を上げて、俺を見つめた。
青い瞳が、俺を真っ直ぐ見ている。
そして――
アリスが、俺にキスをした。
唇に、柔らかい感触。
俺の頭が真っ白になった。
数秒後、アリスが離れた。
「ご、ごめん……我慢できなくて……」
アリスの顔が真っ赤だった。
「い、いや……」
俺も顔が真っ赤だった。
「怒った?」
「怒ってない……ただ、びっくりした……」
「そっか……良かった……」
アリスがホッとした顔をした。
その時、廊下から足音が聞こえた。
「やば! 百合子さんだ!」
アリスが慌てて立ち上がった。
「じゃ、じゃあ、おやすみ!」
「あ、ああ……」
アリスが慌てて部屋を出ていった。
俺は、一人残された。
ドキドキが、止まらない。
キス……アリスとキスした……。
俺は布団に潜り込んで、顔を手で覆った。
「やばい……眠れそうにない……」
※ ※ ※
翌朝。
俺は、ほとんど眠れないまま朝を迎えた。
昨日のキスが、頭から離れない。
フラフラしながら、朝風呂に向かった。
朝の温泉は、誰もいなかった。
俺は湯船に浸かって、ぼーっとしていた。
その時、壁の向こうから声が聞こえた。
「朝日ちゃん、昨日の夜、どこ行ってたの?」
母さんの声だ。
「え!? い、いえ! ちょっとトイレに……」
アリスの声が慌てている。
「ふーん。隆太郎の部屋には行ってないわよね?」
「い、行ってません!」
「本当? 顔赤いわよ?」
「え、えっと……」
アリスが言葉に詰まっている。
「まぁ、いいわ。でも、節度は守ってね」
「は、はい……」
俺は、壁越しの会話を聞いて、顔が赤くなった。
母さん、絶対気づいてる……。
※ ※ ※
朝風呂から上がって、朝食の時間。
俺とアリスは、顔を合わせられなかった。
「二人とも、どうしたの? 顔赤いわよ?」
母さんが聞いてきた。
「な、なんでもないです!」
アリスが慌てて答えた。
「そ、そうだよ!」
俺も慌てて否定した。
「ふーん」
母さんがニヤニヤしている。
絶対、楽しんでる……。
朝食を食べながら、俺とアリスは時々目が合った。
そして、すぐに目を逸らした。
また目が合った。
また逸らした。
「あのね、二人とも」
母さんが呆れたように言った。
「初々しいのはいいけど、ご飯食べなさい」
「は、はい!」
俺たちは慌てて、ご飯を食べ始めた。
※ ※ ※
チェックアウトの時間まで、俺たちは旅館の周辺を散歩した。
「空気が綺麗だね」
アリスが深呼吸をした。
「ああ」
俺も深呼吸をした。
母さんは、少し後ろを歩いていた。
「二人とも、ゆっくり話してきなさい」
「え?」
「私は売店見てくるから」
母さんがそう言って、旅館の方に戻っていった。
残されたのは、俺とアリスだけ。
「あ、あの……隆太郎……」
「ん?」
「昨日のこと……ごめんね……」
アリスが申し訳なさそうに言った。
「いや、謝ることないよ」
「でも……急にキスなんてして……」
「嫌じゃなかった」
俺がそう言うと、アリスの顔がパッと明るくなった。
「本当?」
「ああ」
「良かった……」
アリスがホッとした顔をした。
「あの……じゃあ……」
「ん?」
「もう一回、していい?」
アリスが上目遣いで俺を見た。
「え?」
「キス……」
その言葉に、俺の顔が真っ赤になった。
「お、おい……ここ、外だぞ……」
「誰もいないし……」
アリスが俺に近づいてきた。
「ダメ?」
「ダメじゃ……ないけど……」
俺がそう言うと、アリスが嬉しそうに笑った。
そして、爪先立ちになって――
俺にキスをした。
昨日より、少し長いキス。
俺の心臓が、バクバクと音を立てている。
やがて、アリスが離れた。
「えへへ♡」
アリスが満足そうに笑った。
「隆太郎、大好き♡」
「……ああ、俺も」
俺がそう答えると、アリスは嬉しそうに俺の腕を抱きしめた。
「これからも、ずっと一緒だよ?」
「ああ、約束する」
俺たちは、そのまま散歩道を歩いた。
手を繋いで。
※ ※ ※
チェックアウトをして、車に乗り込んだ。
「楽しかったわね」
母さんが言った。
「はい! 本当に楽しかったです!」
アリスが嬉しそうに答えた。
後部座席で、アリスは俺の肩に頭を乗せている。
「また来たいな」
「そうね。また来ましょう」
母さんが笑った。
「次は、隆太郎と朝日ちゃん、二人だけで来たら?」
「え!?」
俺とアリスが同時に声を上げた。
「あら、ダメ?」
「ダメじゃないけど……」
「じゃあ、決まりね」
母さんがニヤリと笑った。
アリスが、俺の手を握った。
「二人だけの旅行……楽しみだね♡」
「お、おう……」
俺は顔が赤くなった。
車の中に、幸せな空気が流れていた。
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